英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 今回は、前回にて英人が園田通信派遣副隊長と通話し動画視聴していた時より、ある程度時間の経った頃の話になります。




第32話 愛宕と報道

 

  街中や黒檜山から突如出現したピラーとCEによって大打撃を受け、まだまだ1ヶ月前には遠く及ばないものの、人が戻って来て復興や経済活動も順調に進んでいる前橋市。

 其処の繁華街__といっても県庁所在地としては寂し過ぎる位、通行人も開いている店も少ないが、其処の付近の有料駐車場に車を停め、路地裏にある小さな扉を開けて、俺達は入店する。

 

「いらっしゃいませ。3名様で御予約の秋葉様でございますね。」

 

「嗚呼、3ヶ月ぶりだな。今日のお勧めは何かあるか?」

 

「旬の鰹を無事仕入れたんですよ。頂かれますか?」

 

「まぁ、席についてから考えるさ。座ろうぜ、2人共。」

 

「そうしよう。」

 

「はい。」

 

 そうしてカウンター席に、俺、色鐘、保科と並んで座り、各々料理や酒(俺はドライバーなのでウーロン茶)を選んで注文し、最初に色鐘が会話の口火を切る。

 

「2人共、お疲れ様。久々に、こうして新町で過ごしてきた面子で外食できるとはな。*1

 

「それもこれも、秋葉三佐がこの“愛宕(あたご)”を紹介してくれたからですね!」

 

「まぁな。まさか幼少期世話になったお人が、今の職場付近で店開いてたとは驚いたさ。」

 

「しかも前職が陸自(うち)の給養員だったとはな。おまけに、[機械仕掛けの英雄(ヘロス・エクス・マキナ)]に関しても知っていたのだから少し驚いた。」

 

 料亭愛宕(あたご)、俺が物心着いた時から実家付近に暮らしており良く面倒も見てもらっていた、朝霧駐屯地の給養員であった吉野葵さんが、辞職して此処前橋市にて開店した店だ。

 その前歴に加え、理由あってか特高の目的を知っている事、防音・防犯性の高い店舗で美味い飯や酒を提供している事から、今では特高職員、来訪してきた制服組及び背広組、また自治体や他省庁の役人に与党政治家等も利用する、ある種御用達じみた飲食店となっている。

 

「会員と推薦された者しか入れず、店内では[機械仕掛けの英雄]関連の話でさえ可能で口外もされない、か。」

 

「本当に、情報機密の安全性は防衛省お墨付きだと言われてますし、凄い店ですよね。」

 

「そうだな。此処も自衛隊も良くこんな方針でいられるものだ。」

 

 ……そして、迦具土神機関の保有する場所でもある。奴の話によると、元の職場を辞めた所に声を掛け、出資し経営方針を建てるのに助言して、開店後表向きは特高職員の憩いの場兼政府の密会場所としてやっていきながら、ずっと来店者や会話内容を保存し続けている。

 

「……だが、此処に来るのも後2、3ヶ月すれば難しくなるだろうな。」

 

「……そうね、何せ、天道寺英人の増大は順調、且つ著しいですから。」

 

 無論、話題に出されてくしゃみを誘発されたかもしれん当人が、今夜の分も盗み聞きできるように。

 

「一応、殲滅映像の記録や中央への報告である程度分かっているつもりだが、本当に長野ピラー打倒へ近付けているのか?」

 

「ええ、黒檜山のピラーを潰した際は、前回の1.2倍、4月末から3倍以上も上がっております。」

 

「元々、初披露の時点で影山の想定を上回る出力だったからな。匿名での宣伝工作や市民の自主的発信により、ネットでの拡散と信憑性の構築は滞りなく進んでいる。」

 

「そりゃあ何よりだ。」

 

 あくまでも今週月曜での本人談だが、発揮し得る最大出力はアレの倍以上らしい。まぁ環境被害の低減や、武士探しによる気力体力認識力の消耗、新技を用いたコアの獲得という事情があったんで、鵜呑みはしてないが取り敢えず納得している。

 

「それで、次回以降の出撃では、マスメディアにも宣伝させると決断した訳か。」

 

「はい。天道寺英人の強さが目標水準を越えて、期待を安定的に確実に集められる様になったから、ネットだけじゃなくもっと公な空間に露出させて、中高年層も取り込む手筈です。」

 

「はぁ~、マスコミなんぞに頼る等、業腹の極みだがな。全く奴等ときたら__」

 

「へい、お待ち!」

 

 と其処で、酒と茶とツマミが3人分来たので、一旦頂く事にする。

 

「前と変わらず、丁度いい塩っけのツマミですね。」

 

「嗚呼、俺は今日飲めないが、酒が進むってもんだ。……んで、何だっけ?」

 

「……いや、何でもない。酒を煽る前に愚痴を溢してしまうとはな。」

 

「仕方ない、誰にだってそういう時はあるさ。それに、色鐘の多忙も重責も特高に関わる者なら皆理解している。だよな、保科?」

 

「はい、先輩は毎日エース隊の指揮官として働き、日本の為国民の為人類の為……、そして刹那ちゃんの為に頑張っていますよ。」

 

「それはお前もだろ京子、それに秋葉さんも。……刹那の為、か。今の私に、そう誇る資格はないさ。」

 

「……罪深いのは、私の方ですよ。長野ピラーを倒す計画を影山先生と組み上げた際、英人君を幼稚な兵器に貶める方針に、異を唱えず協力したのですから。」

 

(「本人……いや()()()()()相手にヒトと呼ぶのは妙な気がするが、その御役目に抜擢されたお陰で、こっちが怯える程歓喜していたがな。」)

 

 其処で色鐘が地酒をグイッと飲んで、溜息を深く吐く。

 

「はぁ~っ、兎に角だ。マスコミであれ大衆であれ、使えるものは何だって使って、あの長野ピラーを打ち倒す。罰は幾らでも受けるが、それはCEとの戦いが終わってからだ。……そうだろう?秋葉さん。」

 

「……嗚呼、今更、報いの刃を受け入れようだなんて自己満足は無しだ。生半可な覚悟じゃ選べないよう、止めるなら殺してでも止めるべきだ。勝利に伴う犠牲だの罪に対する清算だのは、最小限で済ませねばならん。」

 

「……そう、ですよね。たとえ汚い大人達(私達)の都合に過ぎない、身勝手で無 責任な所業だとしても、[英雄]による、過度の被害を防ぐ為には……、仕方ない、判断です。」

 

 ……とんだ大嘘吐きの先輩がいたものだな。()()()の真相やその言い訳にしたって、奴の命に従って犯した事だというのに。当人が望んだ仕掛けを、2人が気に病む必要などないというのに。

 

「まぁ何にせよ、通信隊としては既に後戻り不可能だから、恥も悔いも無駄だろうよ。寧ろ確実に、日本の勝利を果たすなら邪魔になる。慙愧は全て終わった後で幾らでも懐けけばいい。」

 

「……あぁ、分かった。新町に配属されたばかりの頃から、本当に世話になります、秋葉さんには。」

 

「影山先生の助手として過ごしていた時も、色々と秋葉隊長達通信隊の皆に助けられていました。……態々、あの駐屯地から、知らなくていい、罪を背負わなくていい立場でいられた筈なのに、1人だけこんな所へ来て、共に担ってくれて、改めて感謝し申し上げます。」

 

「……気にするな、全部通信科の自衛官として当たり前の任務であり責務でしかない。かえって、こうして関われた偶然を有り難く思っている位だし、大体俺の方がキャリア長いんだから、お前達が気負い過ぎたら、此方の立つ瀬がないんだよ。」

 

「「……ありがとう、ございます。秋葉三佐。」」

 

(「……罪ならこちとら、お前達より先に、そして多く積み重ねてきた身なんだ、本来感謝される資格はないってのによ。」)

 

 後ろめたく感じながら、だが告白を許可されていない以上、結局後輩2人を欺き続けていると。

 

「はい、お待ち。」

 

「ありがとうございます。期間が空いていたというのに相変わらず美味しそうですね。」

 

「どうも。それより、墓場まで持っていかざるを得ない任務で大変なんだろうけど、食事の時くらい気にせず味わって、英気を養っておきなよ。誰かがやらなきゃいけない役目を、あんた等は自分の意思で志願して、我々市民の代わりに全うしてくれてんだ、その程度の甘やかしは許されたっていいだろう?」

 

「……では、お言葉に甘えさせていただきます。」

 

 そう言って俺達は、運ばれてきた夕食を堪能した。

 旬の食材、県内産の食材が使われた料理の数々は、対CE戦に携わる自衛官・役人・研究者達を支える為として開設された、対象者が国家公務員並びに準ずる役職の者へと限定されているクラウドファンディング(という名目で実施中の機関の援助)が無ければ、本来もっと高値が付くだろう、と思わせる贅沢な美食であった。

 さっき迄の空気を切り替える様に、俺達は黙々と食べてゆき。

 

「……ふぅ、美味しかったです。」

 

「もし何もかも終わったら、家族を誘いたいものだ。」

 

「その頃には流石に、出資が終わって値上げされ、我々佐官階級ですら容易に来れなくなっているかもな。仕方ない話だが、難しいだろう。」

 

「そうだった、久々に家族サービスしておきたかったけどな。」

 

(「尤も、迦具土神からの報酬が貯まっているし、同志特典で家族全員値段抑えてくれるから、店を閉じられない限り問題は無いが。」)

 

 さておき、一先ず完食してドリンクのみ残った所で。

 

「……そういえば、英雄関連の情報の流布は如何なってますか?」

 

「あぁ、順調だ。規制の一部解除を色鐘指揮官が指示してから、出版業界がざわめき出した。テレビ局や新聞にはその素振りなく、精々地元メディアや県内に置かれた面子が手探りし始めている位で、十分監視も制御もできている。」

 

「それは僥倖だな。週刊誌の類に限定して、天道寺英人に関する記事の掲載を許可すると関係各所に通達し、顔写真も幾らか流すようにしたが、大き過ぎず小さ過ぎずといった状態か。」

 

「嗚呼、今の所心配は要らない。中央からの報せも仔細問題なく進行中だ(機関も適切にコントロールできているし、マスコミ業界内の同志にも情報管理工作担ってくれているからな)。」

 

 既に一部のマイナー週刊誌が、政府からの圧力を無視し、機関の監視下で、前橋市のピラーとそれを破壊したエース隊員の事を、情報元がネットで拾った物だけと信憑性に欠け、話題にはなっていなかった。

 しかし、これからは大手の大衆紙もこぞって、天道寺英人の記事を上げる事になる。

 

「刹那ちゃん譲りの美貌ですし、きっと短期間でファンクラブなんかも生まれるでしょうね。」

 

(「それは既にで……、いや、どうなんだろうか。」)

 

 迦具土神機関が、“英雄・天道寺英人”のファンクラブと言えるかは怪しいものだ。一応、迦具土神に心酔する同志は校内外何方にもいるし、奴が作為的に仕立ててもきた訳だが。

 

「……実態を知る身としては、滑稽でもあるがな。」

 

「何しろ、対CE戦に於ける最初の英雄の弟、という最上の素材を素に、国家(俺達)が意図的に造り上げた偶像(アイドル)だ。」

 

「そして、過去が秘密のベールで包まれた美少年……アイドルとして見れば最高でしょうね。」

 

 「秘密のベール」……ね。確かにその中身が遠未来の人型兵器である話は、荒唐無稽極まりないのもあって、同志の中でも俺が把握する分だと朝日夫妻(仮)含めた数名しか聞かされていないが。

 

「天道寺家のあった○○市は、長野県松本市にピラーが出現してから△日後に攻め込まれ、両親は群馬県内の病院で6年間も昏睡状態、親戚は既に死亡した。今や、嘗ての天道寺英人を知る者は多くない。」

 

「それで、避難所から新町に移されて、5年前の3月には……、影山先生、と、私が……」

 

「散々苦労して苦悩してまで建ててくれた計画に則り、()()()()義理の両親役(公安の男女)に引き取らせた上で、学校に行かせず家に閉じ込め、美食を毎日3食与えて、娯楽を今の生活に酷似した内容の創作物だけ提供してきた。」

 

 いや正直、驚愕と畏怖で一杯だったな。機関創設から数日後には、もう矯正担当どころか、区域の監視兼警備担当も中央の連絡役も、全員余さず個人情報詳細に調べ尽くしやがったんだから。

 

「……おまけに、「お前は凄い子だ」「お姉さんのように英雄になれる」と、刹那まで持ち出されながら、耳障りの良い言葉だけを与えられて。まるで、フォアグラ用のガチョウを育てるように、自意識だけを肥え太らせてきた。……はっ、日本の為だ人類の為だと、刹那の気持ちを踏み躙ってでも、私は、それを容認した。」

 

 ……「天道寺刹那(お姉さん)のように()()に」、ねぇ。

 

「よって、マスコミが幾ら漁ろうとも、天道寺英人の過去を、英雄性を貶める傷を見つけられない。仮に機密が漏洩したところで、非難されるのは政府や俺達であり、天道寺英人の方は悲劇の英雄として同情を受け、さらなる脚光を浴びるだろう。そして、何方にせよ、日本という括りでは、長野ピラーを破壊するほどの力が手に入る。」

 

「これにて、〈機械仕掛けの英雄(ヘロス・エクス・マキナ)〉は誕生する、か。よく思い付いたものだな、影山は。」

 

 ……思えば、爆笑していた時の()()が、特にその名称へと反応していたのも、納得がいく。

 

「……ともあれ、我々は進むしかない。とっくに賽は振られたのだ。」

 

「全部6の目のイカサマダイス、ですけどね。」

 

(「まぁ奴は、……いいや機関(我々)は、6程度でで和了(上がり)を良しとせず、8を10を、可能なら100以上の目を求めてゆくが。」)

 

 と、自嘲する様な笑顔を、色鐘も保科も、恐らく俺も浮かべながら、会話が止んだ辺りで吉野店長が此方へ寄ってきた。

 

「追加のご注文はお有りですか?」

 

「お、そうですね……、俺はもう満腹です。2人はどうだ?」

 

「いえ、私も十分頂きました。」

 

「同じく。此処でお開きにします?」

 

「嗚呼。では、お会計お願いします。」

 

「はい、分かりました。……ところで。」

 

 ふと、吉野さんが態とらしく咳込んだので、俺達は何事かと見上げれば。

 

「これは独り言なのですがね。我々市井の間では、光を放ってCEもピラーも消し去り人々を救う救世主なるものが噂になっていましてな。」

 

「「「………」」」

 

「まぁ、此処とは別の地区であるものの、この前橋市の街中にピラーが現れCEに襲われていた人は、近くに居ますしその手の話も入って来るのですが。最近静岡の港から来た、50代位の業者さんが、この辺に天道寺刹那の弟が来たんだろ、と語られていましてね。」

 

「「「………」」」

 

「何でも、息子さんがネットの掲示板で見ただとか、雑誌編集の仕事に就いている親戚が顔写真を掴んだ、とか喋ってましたよ。その業者自身は、多少疑いながらも随分期待した様子でしたな。」

 

 其処で吉野さんが、話を中断する様に背伸びして、再び俺達へと視線を向けた。

 

「……おや、どうしましたか?お会計済ませるのですよね。」

 

「はい。支払いは此方のカードで、3名分纏めて一括でお願いします。」

 

「はい、分かりました。」

 

 そうして、吉野さんは[機械仕掛けの英雄]の進捗状況などというものは微塵も口にしていないかの如く進め、俺達の方も計画関係の「独り言」など全く聞いていない様な態度で待つ。

 

「はい、レシートです。」

 

「ご馳走様でした。今後とも宜しくお願いします。」

 

「此方こそ、ご贔屓にしてくれてありがとうございます。」

 

 そう、互いに礼をして店を出て、。

 

「支払ってくれてありがとうございます。此方、私が頼んだ分の金額です。」

 

「私からもこれを。」

 

「どれどれ……、よし、2人共丁度だな。」

 

 渡された現金を数えて確認し、財布へと仕舞う。

 

「今夜は2人共、こんなオジサンと一緒に食事してくれてありがとう。」

 

「礼を言うのは此方の方ですよ。久々にあの店で、数ヶ月間新町で過ごしてきた、そんな3人だけで食べて飲んで語り合うことができたので、本当に良かったです。」

 

「私もですよ通信隊隊長殿。……あぁ、安心してください。店内では盗撮盗聴など一切しておりませんし、愛妻家である事は私が配属された頃から当時の先輩方含めご存知ですから。」

 

「はははっ、余計な心配だよそんなもの(盗撮盗聴は我々の方なのだが)。」

 

 今や階級の並んだ後輩と、その後輩という美女2名を前に、一息吐いて切り返す。

 

「大体こっちだって、2人が何方も年下趣味な事位百も承知さ。不貞なんて万が一にも起こり得ないと信頼しての誘いだ。」

 

「その発言は撤回して下さい。綾子先輩と同類扱いされる謂れはありません。」

 

「何を言っているんだ?私と京子の差なんて10歳にも満たない程度だろう。……嗚呼、ひょっとして不安なのか?目の前の秋葉さんは、10歳以上も年上な女性と結婚して子どもが3人もいる位なんだ。流石に今は指揮官として、出来れば控えて欲しいが、全て終わってからなら問題なかろう。」

 

「ちょ、何言ってるんですか先輩!?」

 

「おい待て俺に飛び火させるな。」

 

 と、酒が抜けてないのもあってか和やかな空気ができてきた頃に。

 

「……ところで、その、保科主任が懇意にしているエース隊員の話だがな。」

 

「__な、何ですかいきなり?」

 

「1年D組所属の、空知宗次についてか。何か気になる事でも?」

 

「いや、ふと思ったんだがな。……計画に協力させる予定はあるのか、てな。」

 

「__っっ!?」

 

「……なるほど。」

 

 保科が驚愕を露わにする一方で、色鐘は動じていないのは、武士への拘りの有無だろう。

 

「何故そう考えた?」

 

「いや、通信隊として把握している限りだが、本人の実力や功績、天道寺刹那用に造ったっきりなベルト型の提供をはたらきかけるなんて優遇措置から、もしや一般生徒を引き込む算段立てているのかと訝しんでたもので。」

 

「ゆ、優遇措置って、単に彼の要望から腕輪型より有用な形に変えてエース隊全体の被害を減らそうと__」

 

「まぁ落ち着け京子。安心してくれ、計算では計画遂行に支障をきたす事じゃない。世間に於ける天道寺英人の絶対性は最早決して揺るがない。万が一、一般の隊員がエース隊内全員から信望を募ったとしても、人類の希望が流れる事態など起こり得ないし、メディア対策も十全だから注目を、聖剣使いの英雄以外に向けられる恐れも防げる。」

 

「へぇ、そうか。」

 

 尤も、武士のファン(迦具土神)が[宿敵戯曲]の為にと方針変えたらお釈迦になってしまうが。

 

「人手についても気にするな。確かに英国からの転入生を探るにはうってつけかもしれんが、機密漏洩のリスクを負ってでも勧誘する程には切羽詰まってないさ。」

 

「承知した。余計なお世話だったな。」

 

「……はい、それでいいんです、よ……」

 

 喜びと寂しさが混じり、それを精一杯秘めようとしている保科に関しては言及を避け、そろそろ終わりにしようと口を開く。

 

「おっと、もうこんな時間か。悪かったな、夕食後も仕事の話続けてしまって。」

 

「あ、そうだな。では帰るとしようか。」

 

「え、えぇ。では帰りの運転もお願いします。」

 

「了解。」

 

 そうして自動車を発進させ、数分掛けて特高に着き、各々の仮眠室へと別れていった。

 

(「……武士を協力者にする気はなし、と。迦具土神の見立て通り、昨夜行われた“千影沢”からの勧誘は、彼女自身の独断だった。」)

 

 思い起こすは、校舎裏に設置された機関専用の隠しカメラが捉えた会話内容だった。

 

(「アレによって、仮に保科が武士へ接触して引き込むよう決断したとしても、中央の同志達からの圧力で、「一般の生徒を[機械仕掛けの英雄]に関わらせるなど、本人の為にも機密保持の観点からも決して容認できない」と防ぐ方針になった。」)

 

 その機関の方は、開校から2年2ヶ月もの間、裏を知らぬエース隊員を同志に招き入れてきたのだから、ダブルスタンダード以上の詭弁に過ぎないが。

 

(「……まぁ、何より、あれだけ律儀な武士が、保科や、迦具土神に振り回されっぱなしで不憫な少女を……」)

 

 失望してほしくはないからな、と懸念が小さく零れた。

 

 

 

*1
特高職員は基本的に正月から大晦日まで決まった休みがない。CEの襲撃に備えるべく寝泊まりさえ特高内の仮眠室や敷地の宿舎で済ませ、休暇や外出許可を取りたければシフト調整を行い、俺達幹部は予め代理を立てて権限を委任しておく。因みに今夜、エース隊指揮官兼3期生A組担任、養護教諭兼幻想兵器管理主任、そして通信隊隊長たる俺の3名が揃って留守にできたのは、迦具土神が(本人曰く「疲労や不満を溜め込み過ぎぬように」として)手配したからだ。





 感想や質問に指摘等、何時でもお待ちしております。
 次回は、宗次視点の話をお届けします。

料亭愛宕(りょうていあたご)
 本作オリジナルの店舗。前橋市の繁華街、その隅っこの路地裏にひっそりと立つ料亭。会員若しくは会員から紹介された者のみが入店できる、というのが運営の建前であるが、正体は特高・防衛省・政府お墨付きの場所。本文で記されている様に、特高職員が許可を取って飲み食いしながら他所でも家族相手でも語れない仕事の愚痴を零す事も、また県内外の[機械仕掛けの英雄]に関わる要人が密会する事も可能。店側は一般非公開のクラウドファンディングによる資金を元手に、充実したセキュリティや安価な価格設定を行い、その裏で機密保持の義務を背負っている。
 然しその実態は、迦具土神機関が有するフロント法人の1つ。退職後の吉野葵に経営指針を提示して支援したのも、政府や当局に店の利用法を認めさせたのも機関によるもの。故に来訪する顧客の名前も、店内での会話も全て機関の知る所となる。
 名前の元ネタは、火之迦具土神を祭神として奉っている「愛宕神社」。尚吉野店長は、その名を冠する重巡洋艦が特に大好きで、船酔い体質さえなければ海上自衛隊に志願していた、との裏設定がある。

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