英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 副題の「R&R」とは、ネタ探しでWikipediaから見つけた、日本語に於ける「戦時休暇」にあたる軍事用語のスラングであるそうです。要するに今回(の前半)は、休みの時の話になります。
 後半は、昏式・高濱作品 @ ウィキ内のある用語を英訳した際の頭文字です。何の意味かと云うのは……ご想像にお任せします。

 因みに今更ですが、宗次のデート中やラブコメチックな場面では、新西暦サーガ第2部『シルヴァリオトリニティ』の〔天は全てを照覧す〕というBGMが流れているイメージで書き連ねております。この曲名の意味については、当該作品のネタバレになりますので、興味を示した方がいれば是非プレイしてみて下さい。



第32.5話 半端なR&Rと芽ぐむDoL

 

  土曜日の朝、6時丁度という普段より数分遅い頃に起きた俺は、学生食堂に来ていた。

 昨夜自室に戻って寝ていた間、シャロの歓迎会として徹夜でアニメ鑑賞会を開くと映助達が言っていた為か、ジャージや私服姿の生徒がまばらに居る食堂内には見当たらなかった。

 そんな中、鮭定食を頬張っていると、横から麗華先輩が座ってくる。

 

「おはよう、今日も早いね。」

 

「おはようございます。」

 

 口の中のご飯を呑み込んでから挨拶を返せば、先輩が笑顔を向けて、直後何故か周囲に目を配っていた。

 

(「……そういえば、1人で先輩と食事を共にするのは初めてだな。」)

 

 何せ平日は、英人との2戦目の夜に保健室で弁当を食べた時以外では、クラスメイトと一緒に毎食頂いているのだ。ただ今の様に土日だと、主に映助が夜更かしして寝坊し、他の皆も多少遅く部屋から出てくるので、朝食は毎回1人で済ましており、その間麗華先輩と会う事も今迄一度もなかったのだが、奇遇だな。

 

「ところで、今日は暇かな?」

 

「はい、特に用事はありませんが。まぁ普段通り槍術の訓練、それと勉強する位ですね。」

 

 偶然出会った先輩へと答えたら、嬉しそうな笑顔で聞いてくる。

 

「なら良かった。今日1日、ボクと付き合ってくれないかな?」

 

「付き合う、ですか?」

 

「あぁ、落ち込んでいた時に励ましてくれたお礼が、まだだったからね。街に出てランチでも奢らせてくれないかな。」

 

(「2年の草壁先輩が犠牲となった日の事か。励まし……てたか俺?」)

 

「それに、新しい剣の形をしたCEも出ただろう?あれがまた現れた時の対策も話しておきたいと思ってね。」

 

 なら、特に悩む事もないので頷き返す。

 

「分かりました、お願いします。」

 

「ありがとう。では2時間後に迎えに行くから、寮で待っていてくれるかな?」

 

「はい。」

 

「あと、この事は他の子には内緒で頼むよ。」

 

 態々内緒にする理由は知らないが、先輩はそう言ってウインクすると、急ぐ様に鮭定食を完食していった。

 

 そして俺も食べ終えて、槍術の鍛錬を普段より早めに切り上げて、普段着のジーンズとシャツに着替えて自室の階から降りる。既に起きていたクラスメイトが集うロビーに着いたのは、食堂で会った時から2時間数分だった、のだが。

 

「な、何よその恰好っ!?」

 

「す、素敵です……っ!」

 

(「皆、そんなに驚愕する程の事か……?」)

 

 玄関前にもう来ていた、黒いスリムなパンツにレザーのジャケットを着こなしている先輩に対し、陽向が嫌そうに顔を歪めていて、一方で神奈が黄色い歓声を上げながらスマホで写真を撮っていた。

 

「すみません、待たせましたか。」

 

「いや、今来た所だよ。」

 

「何や、そのデートの待ち合わせみたいな会話?」

 

「ま、まさかっ!?」

 

 すると先輩は、陽向の方を向いて微笑した__かと思えば、突然俺の腕に自分の腕を絡ませてくる。

 

「では、行こうか。」

 

「外出でありますか、行ってらっしゃいであります。」

 

「えっ、ちょっ、えええぇぇぇーーーっ!⁉︎?」

 

 シャロは軽く送り出してくれたのに、陽向が何故か喧しい悲鳴を上げてきて、そんな騒々しい12番寮棟を尻目に、先輩に引っ張られる形で校門を出た。そうしてバス停の前に立った所で、ふと辺りを見回す。

 

「今日は居ないな。」

 

「何がだい?」

 

「特高反対のデモです。」

 

 前に陽向達と出かけようとした時、デモ隊が来ていて寮長に一旦止められた事を語る。すると、先輩が珍しく嫌そうに顔を歪めた。

 

「あれか、今は転校生達が居るから、自粛するように上から言われたんじゃないかな。」

 

「転校生が?」

 

 シャロ達とデモ隊に一体何の関係が有るのだと、首を捻っていたら難しい表情で話し始めてくる。

 

「これはあくまでネット上から得た情報を元に、ボクが推理した事でしかなく、事実だという保証は全くないよ。」

 

 そう念を押した上で、声を潜めて告げてくるのは。

 

「特高反対のデモ隊は、外国からお金を貰った団体がやっているようなんだ。」

 

「外国が……」

 

 そこまで言われたら、俺にも察する事が出来た。

 幻想兵器というCEに対抗可能な武器、それを世界でどこよりも早く開発し、唯一保有していた日本への嫌がらせ。

 

「勿論、子供を戦わせるなんて反対だと、本当に親切心で行動している人もゼロではないと思うよ。けれど、戦争が6年も続いて困窮している中、態々デモなんてしている暇があるかと言うとね……」

 

 暗い表情で口を濁す先輩を見て、今の社会の困窮ぶりを感じ取れてしまう。

 

 俺の故郷は半分自給自足で暮してきたから、子供からの目ではあるが6年前とそれ以降の変化は全くなかった様に見えていた。

 だが、先輩やクラスの皆といった大多数のエース隊員は恐らく、多かれ少なかれ戦争の余波を体験していたのだろう。

 

「ボクの故郷は神奈川でね、直接CEに攻め込まれた事はないけれど、山梨県から沢山の人が避難してきて、今も結構な問題になっている*1んだよ。」

 

「………」

 

「だから国会議事堂の前でデモなら分かるけれども、CEに襲われるかもしれない最前線の前橋市に、しかも皆を守るために戦っているボクらに、態々文句を言いに来る暇なんて無いと思うのだけれどもね。」

 

 それでも特高反対のデモをするとしたら、やるだけの価値がある訳で、貧した人が動く理由と言えば金が第1候補だ。なら報酬を出してまでデモを起こし、特高の、ひいては日本の足を引っ張って得をする者が居るとすれば、やはり諸外国しかいないのだろう。

 

「CEという共通の敵が居るのに、人間同士で争うなんて馬鹿な真似をする筈がないと、信じたいのだけれどもね……」

 

「…………」

 

 国際情勢の闇と社会の苦しみを垣間見た様な気がして、冷や汗が流れるのを感じた。

 そんな時に、前橋市街地行きのバスが走って来る。

 

「さあ、乗ろうか。」

 

「はい。」

 

 こんな良い日に暗い話題は似合わないから空気を変えよう、との意図で笑ってくれた先輩へ、此方も笑顔で頷き返した。

 

「お昼まではまだ時間があるし、まずはボウリングにでも付き合ってくれるかな。」

 

「ボウリングですか?やった事がないのですが。」

 

「ボクが教えてあげるよ。この辺では他に遊ぶ所もないからね、クラスの皆とよく一緒に行っているから、結構上手いんだよ。」

 

(「CEの対策を話し合うのでは?……まぁ、息抜きで遊ぶのも兵士としての職務か。」)

 

 何時も世話になっている先輩の気が晴れるよう、喜んで遊びに付き合うことにする。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

「やれやれ、君がボウリングまで上手いとは思わなかったよ。」

 

 そうして、ボウリングを5ゲームずつやった後、カフェで一息つくことにした。

 

 結果としては、最初の2ゲームは負けて、それから3ゲームを俺が勝った、のだが、流石に初心者に負けてしまった所為か、先輩が少し不満そうに頬を膨らませつつ、アイスカフェラテを飲んでいる。

 

「同じ軌道で投げるだけですから、一度覚えればそこまで難しくはなかったです。」

 

 淡々と事実を告げつつ、アイスコーヒーに口をつける。

 

 武術とは肉体の反射を消し、自分の思うままにコントロールする術だ。

 その経験故か、ボウリングに於いても、1、2回投げてまた観察して、如何にストライクコースを狙えるか把握し、情報と感覚を基に腕から指先まで微調整して、勝ち越しできた。

 

「普通はそれが出来ないから、皆苦労するのだけどね。」

 

(「まぁ仕方ない、これが容易に為せる者なんて、同年代だと俺が知る限りでは英人位……、で……?」)

 

「全く、愛璃が聞いたら憤慨しそうだな。……どうしたんだい?」

 

「__あ、嗚呼いえ、特に何も。……生徒会長?」

 

 うっかり考え込んでいたらしく、「愛璃」の2文字が突然出てきた事に疑問を覚えた。

 

「そうだよ、彼女はああ見えて不器用だからね、体全体を使うスポーツならともかく、指先の繊細さが問われるような、例えば卓球やダーツなんかは全く駄目なんだ。」

 

「そ、そうだったのですか、意外ですね。何でも優雅にこなしそうでしたが。」

 

「そう見えるよね?けれど、正体はもっと可愛らしい子なんだよ。」

 

 幸いにも、先輩は気付いていない様子で、また笑いながら会長の話を続けてくる。

 

「例えば、愛璃達の分隊が何番か覚えているかな。」

 

「第0分隊ですね。」

 

「それだよ、1番からではなくゼロからなんて、変だと思わなかったかい?」

 

「言われてみれば、確かに。」

 

 分隊の番号は3年A組が0、1、2、B組が3、4、5と順番に割り振られている。初陣の少し前に先輩から聞かされた通り独立部隊として運用されている1年A組(英人のクラス)だけが例外としてα、β、γとアルファベットを使っており、1年D組(俺のクラス)の30、31、32分隊で終わりとなっている。

 

 本来であれば、特攻に来てから知った自衛隊式の、1番から分隊番号を振る法則に合わせるのが普通なのだが、会長がこれに絡んでいるのか?

 

「担任に0番からが良いと言ったんだけどね、その理由が傑作なんだよ。」

 

「というと?」

 

「なんと「その方が格好良いですわ」って言ったのさ。」

 

「……えっ?」

 

 思い出して腹を抱えて笑う麗華を前に、呆気に取られてしまった。

 分隊員で噂好きな豊生曰く、気品溢れるお嬢様風の外見と、大人っぽい色気で、1年の同輩や2年の先輩の男子達から絶大な支持を得ているという、そんな会長とは思えぬ発言だ。

 

「愛璃は本当に良い所のお嬢様で、立ち振る舞いが美しいから誤解されがちだけどね、中身は夢見る少女というか中二病というか、結構可愛いところがあるんだよ。」

 

「そうなんですか?」

 

「うん、例えば天道寺刹那さんの大ファンでね、押入れの奥に自作の大型ポスターを張っていたりとか。」

 

(「生徒会長が、英人の姉のファンだったのか。そういえば御代田町で英人が上空を通り過ぎて行った後、「刹那様の弟君とはいえ」と不満述べてたな。」)

 

「それは凄いですね。」

 

「あと、授業で刹那さんの戦闘記録を見せて貰った時なんて、感動して泣き出したんだよ。」

 

「そんな事もあったのですか。」

 

(「英人にも、生徒会長の様に本心からファンになってくれる人が付くのだろうな。)」

 

 それからも先輩は、特高入学以来の親友の事を喜々として語り続けて、そんな先輩が微笑ましく感じて、俺も口元が緩んできた__その最中に。

 

「君達、特高の子だよね。」

 

 突然横から声を掛けてきて振り向けば、妙に胡散臭い笑みを浮かべる20代後半位のスーツを来た男性が其処に居た。

 

「どなたですか?」

 

「あぁ、ごめんごめん、僕はこういう者さ。」

 

 男がそう言って、胸元から名刺を出して渡してきたので見れば、[週刊クリエイト・記者・金木義男(かねきよしお)]と書かれていた。

 

「雑誌の記者さんが、ボク達に何のご用でしょう。」

 

(「いきなり先輩、機嫌悪くなった様な……。まぁ休日に羽根を伸ばして、大切な親友を楽しげに語っている所を邪魔されたら仕方ないか。相手側もこれが仕事だろうとはいえ。」)

 

 それでも先輩が礼儀正しく聞き返せば、金木は俺達の隣へ勝手に座ってきた。

 

「是非、天道寺英人君の話を聞かせてくれいないかな!」

 

「あっ、……天道寺英人の?」

 

「あぁ、今ネットじゃ話題沸騰の若き勇者、聖剣エクスカリバーでピラーを破壊し、この前橋市を救った英雄の事だよっ!」

 

「そっ、そうですか……」

 

(「まさか外では、そんなに凄く盛り上がっているのか⁉︎「ネットじゃ」って事は……くっ、不慣れだの興味ないだのと手を付けなかったのが悔やまれるぞ、というか特高で先生から外部の英人の評判は一度も聞かされなかったが何故だ?エース隊の誇る英雄の人気を校内に知らしめれば「人類の勝利が迫っている」「他の隊員も彼の様に戦果挙げて栄誉を得られるだろう」と煽って士気高揚に繋げられ……いや、極めて残念で悲しい話だが俺の把握する限りで大勢の隊員が英人をよく思っていないから、取り上げた所で妬みや諦めを増幅させマイナスになってしまうか全くなんて__」)

 

「そ、宗次君?どうしたんのさ、苦虫を噛み潰したような顔になって。」

 

「あー、大丈夫か君?何か思い出していたのかい?」

 

「……い、いえ、すみません。問題ないから気にしないで下さい先輩。それで、ええと、金木さん、でしたっけ。話を続けてくれて構いません。」

 

 うっかり考え事に耽って話を中断させてしまったので、取り敢えず金木記者に用件の説明を終わらせようと促せば、手帳とペンを出して迫ってくる。

 

「いやね、特高に行っても入れてくれなくてさ、困ってたんだよ。彼の好きな物とか、付き合っている彼女はいるのかとか、何でもいいから教えてくれない?」

 

「__っ!………どう、します?」

 

(「落ち着け俺!先輩の休息を此処で拘束する訳にはいかないし、不用心に語って機密を漏らす事も許されないし、何より英人に迷惑を掛けてしまう!」)

 

 湧き上がる衝動を懸命に、それでいて表に出さぬよう抑え込みながら、先輩に判断を委ねた。

 すると、先輩が任せてくれと言わんばかりに頷きながら、俺の肩に手を回した。

 

「悪いけど、今デート中なんだ、邪魔をしないでくれないかな。」

 

 笑顔を作り、「デート」という建前を翳して拒絶した先輩に対し、金木記者はなおも食い下がる様に笑って__

 

「そう言わずにさ、君らだって男同士でデートをしているなんて、言いふらされたくないでしょ?」

 

「あっ……」

 

(「なんて事を言ってしまうんだこの記者は⁉︎確かに先輩は、一見すれば美男子でも通じるだろうが、女性が男性と見間違えられて機嫌を悪くしない筈が……⁉︎」

 

 兎に角、恐る恐る隣を窺えば、其処には出逢って2ヶ月に迫ろうというのに一度も見た事のない、全ての感情が消え失せて能面の如く変貌した先輩がいた。

 

「……宗次君、ボクは今日初めて、本当の殺意というものを知ったよ。」

 

「麗華先輩、落ち着いてください!」

 

「えっ、まさか女の子っ!?」

 

 既に手遅れかもしれないが、金木記者が弁解の言葉を考え伝えようとしているのか慌てふためいている、その時。

 

ビィーーッ‼︎ビィーーッ‼︎

 

「「んなっ‼︎??」」

 

「えぇっ⁉︎何この音!2人のスマホから同時だよね⁉︎」

 

 特高から支給されていた俺達のスマホから、電話やメールの着信音とは全く違う、低く不気味で鳴り止まないアラーム音が発生し、緊急事態だと悟る。

 

「先輩。」

 

「急ごう!」

 

「えっ、ちょっと、どうしたのっ!?」

 

 呼び止める金木記者を無視して、レジへ飲み物代として2千円を置き、おつりもレシートも受け取ることなく店を飛び出して、駅前へと走る。

 今もスマホから鳴り続けているアラーム音が、CE襲撃の脅威の報せなのだから。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 斯くして、運良く駅前で直ぐにタクシーを捕まえられ、料金を気にする余裕もなく急ぎ特高へと送ってもらい到着したが、その時点でどうやら寮に残っていたクラスメイトは全員、既に装甲車で此処を発ち軽井沢方面へ向かっているらしかった。

 ただ、俺達以外にも外出していた生徒が数名おり、その者達を後から運ぶべく、数台の装甲車がグラウンドで待っていた。

 その1台に飛び乗ってみれば、中に居た先客の姿を見て僅かに目が見開かれた。

 

「生徒会長?」

 

「今日は残念でしたわね。」

 

「まったくだよ、無粋にも程がある。」

 

 神近生徒会長が俺に軽く会釈をしつつ、背後から前方へ乗り出してきた、先程よりずっと不機嫌顔の先輩を見て、揶揄う様に苦笑した。

 

「君もお出かけの邪魔をされて、おかんむりのようだね。」

 

「えぇ、今日は名犬牧場でワンコ達と戯れようと思っておりましたのに、無念ですわ。」

 

 優雅にドリル状の黒髪を弄りながら、犬をワンコと呼ぶ。そんな先輩の親友が見せた、容姿と台詞の噛み合わない、若干シュールながらも微笑ましい様子を、対面席に座りながら眺めていると、ふと気付く。

 

「生徒会長。」

 

「何ですの?」

 

「靴下、裏表が逆です。」

 

「……失礼致しましたわ。」

 

 会長が羞恥で頬を染めつつ、靴下を脱いで履き直した。だがその際、ロングスカートの合間から白い太股が突然露出してしまい、咄嗟に顔を逸らした直後、同乗している男子かららしき歓声が耳に入ってきた。

 

「愛璃、君は時々サービスのしすぎだね。」

 

「何がですの?」

 

 麗華先輩に注意されても気付かず、小首を傾げるその姿は、初見の時に抱いた大人っぽい女性という印象とは真逆であった。

 然し、此方の方が親しみやすく、つい笑みが溢れてしまった。

 

「確かに、生徒会長は可愛らしい人ですね。」

 

「お褒めに預かり恐縮ですけれども、私が親友に刺されかねない発言は、慎んで頂けますかしら。」

 

「……?」

 

 会長がまた頬を染めながら、親友が座っている俺の隣に目線が一瞬移ったと思えば、何故か笑顔を強張らせてきた。

 

 そんな雑談をしている間に、満員となった装甲車は軽井沢方面へと発車した。

 

「ところで先輩、あの記者ですが。」

 

「少なくとも、ボクがインタビューを受けたのは初めてだね。これでも2年間、この前橋市で暮してきたからね、街の人に興味本位で声をかけられた事はあるけれど、今日の様に雑誌記者に取材を受けた事はなかったよ。」

 

「記者に会ったんですの?」

 

 麗華先輩が難しい顔で話していると、会長や他の先輩方も皆驚いた様子で顔を見合わせた。

 

「そういえば、テレビの取材とか来たことねぇよな。」

 

「ちょっとくらい、私達の頑張りを報道してくれてもいいのにね。」

 

「そのままアイドルデビューとか……流石にないか。」

 

「いや、マスコミとか来ても邪魔なだけだろ。」

 

 全員が、マスコミの取材には会った事がないと口々に話していたが、有無。

 

(「政府が取材を規制していたとか、そういう事か?」)

 

 幻想兵器という国家機密を扱うエース隊員に関して、機密保持の観点から報道機関に規制をかけていたとしても、当然の対応であろう。

 では、どうして今まで抑えられてきた雑誌記者が、今日に限って取材をしてきたのか。

 

(「単純にあの男が暴走しただけか?」)

 

 政府や会社の意向を無視して、スクープ目当てで先走った、それが最もん無難な回答であろう。

 ただ、記者が求めたのが、英人の__「前橋市を救った英雄」の話というのがどうにも引っ掛かる。

 

 此処は俺1人だけで下手に考えるよりも、と判断し、ヘッドセットを被り通信機のスイッチを入れる。

 

「京子先生、聞こえてますか?」

 

「えぇ、大丈夫よ。」

 

「実は~~」

 

 外出先で雑誌記者から取材を受けた事を語ると、沈黙が少々続き。

 

「分かったわ、こちらから雑誌社に抗議しておくから、後でその名刺を提出してくれるかしら。」

 

「了解しました。」

 

 先生との通信を切ったが、内心未だ納得していない。何故なら__

 

(「話を聞いても、驚きも呆れもしなかった……想定済みだったのか?」)

 

 エース隊員が取材されるような事態を、京子先生達特高職員は事前に知っていた、又は許可を出していたと見るべきだろう。

 然し、何のためにそんな事をしたのか、其処までは考えが及ばず。

 

(「……やめよう、槍が鈍る。」)

 

 英人絡みなのもあり、胸に引っ掛かってはいるものの、これから向かう戦場では不要だと、余計な詮索をやめ、静かに集中力の刃を研いでゆくことにする。

 

 そうしている内に、装甲車が戦い慣れた長野県御代田町へと辿り着いた。

 

「宗次君、無事だったのね!」

 

 装甲車から降りた途端、まるでソワソワと落ち着かない様子の陽向が、急ぎ足で駆けつけてくる。

 

「大丈夫だよね!? 食べられてないよね!?」

 

「別に何ともないが……」

 

「子猫ちゃん、人を肉食獣扱いするのはやめてくれないかな?」

 

 戸惑っていると、麗華先輩が苦笑を浮かべながら後ろから降りてきた。

 

「けれど、君に食べられる覚悟ならいつでも出来ているよ。」

 

「はい?」

 

「寝言は寝て言えっ!」

 

 先輩がよく分からない事を言いながら流し目を送ってくるので首を傾げている一方で、やはり相性が悪いのか陽向は猫の様に威嚇する素振りを出しつつ、俺の腕を掴んで32分隊の方へと引っ張っていった。

 

 そうして分隊の仲間達の下へ合流し、遅れた事を詫びつつ、黒馬に乗ったシャロへ声を掛ける。

 

「緊張してないか?」

 

「大丈夫であります。大英帝国の名に恥じぬよう、一生懸命戦うでありますよ!」

 

「あぁ、頑張ってくれ。」

 

 グルファクシスに跨った足は少しだけ震えていたが、気付かないふりをして声援を送り、改めて辺りを見回し__あれ?

 

「1年A組の姿が見えないが、来ていないのか?」

 

「おらんで、校舎待機*2やと。」

 

 小首を傾げながら映助に聞くと、呆れた口調で答えてくれて、弓月分隊長が溜息1つ吐いて口を開く。

 

「今回は1年のA組とB組、2年B組が留守を預かっているんだ。多分教室内で、直ぐにでも出動できるよう待機させられている筈さ。」

 

「……そうか。」

 

 あくまでも何となくでしかないが__その方針自体に対して、分隊メンバーも先輩方も、この場の隊員皆、不満を向けてはいないのだろう。

 だが、英人が__一騎当千・当万の最強戦力が戦場に出てこない事について、不満と疑問を抱かぬ者もいないようだ。

 

「あのスケコマシ一人で、パーっと片付ければええやん。そしたらワテら遊んでられたのに。」

 

「正直、僕もそう思ってしまいます。貸出期限間近な本、未だ読み切っていませんでしたし。」

 

「………」

 

 愚痴交じりの冗談だと分かっているから、真面目に叱る事も、況してや英人に関する文句についても言わないでおく。

 おくが然し、この状況にはどうしても不安を覚えてしまう。

 

(「英人が居れば、俺達は不要……確かに、戦力だけを考えればその通りだ」)

 

 CEの大軍であろうと小型ピラーであろうと、上空から聖剣の光で薙ぎ払う英雄の力(戦術兵器)が、エース隊員全員(歩兵部隊)よりも上回っている事は、どう言いつくろっても事実であり、だからこそ。

 

(「英人が戦えなくなった時、いったいどうなる?」)

 

 今まで通り、一般のエース隊員だけで戦い続けても、直ぐに負ける事はないだろう。

 然し、CEは正二十面体、両刃剣型と短期間で劇的な進化を遂げてきた。それがこのまま続くのならば、いずれエース隊員では太刀打ちできない、真の化け物が出現するのかもしれない。

 

「我々は勝ち続けているのに敗北に向かっている。」

 

 入学当初、大河原先生から告げた戦況が、今になって悪寒と共に実感され……同時に。

 

(「……ならばこそ、英人がいなくても勝利を果たせる位に努力せねばならない。唯一無二の英雄に人類全ての命運を依存し押し付けるなんて危険で恥知らずな対応を取る程、人間(俺達)は愚かじゃないと、英人に示さなければいけない。」)

 

 思い起こすのは、5月8日に英人が特高の上空を飛び去り、余程の緊急事態だったのか音姫が罵りながら制止を電話越しに叫んで指示していた晩。そしてそれから1週間__正二十面体も混ざった群勢との戦いで意識不明者1名出してしまう事態もあった中で少しも姿を確認できなかった時の事だった。

 

(「忘れちゃいけない、英人も人間なんだ。戦えない日があったって何らおかしくない。第一頼ってばかりで練度も戦意も誇りさえ錆び付き堕落するような無様晒す位なら、死の危険を覚悟してたとえ実際に__」)

 

「どしたんや兄弟?いきなり恐い顔して。」

 

「__……そうだったか?いや何でもない。ただ、また新型CEなり小型ピラーなりがでなければいいのだが、と思ってな。」

 

「確かに、それは不安ですね。」

 

「取り敢えずみんな、CEが迫ってきたら、何が起こっても動じないで迎え撃とう!」

 

 分隊長からの注意喚起に、その場の全員が頷き、俺も気を引き締める様に拳を握り締める、と同時に。

 

(「……さっきまで何考えてたんだっけ?思い出せない、がまぁいい。今は接敵に備えよう。」)

 

 何故か良くないものが湧いてきた様な気がするものの、覚えていないならその程度だと忘れ去って、昨日編み出した戦法をシャロと少々復習し、また精神統一に努める事にする。

 

 

*1
後日調べてみれば、6年前、長野ピラーから溢れ出た大量のCEが、山梨県甲府市の方面にも殺到したという。一応富士駐屯地や首都近郊の部隊が多数駆けつけ、甲府市に入る前に撃退できたが、その後も度重なる襲撃が続き、武器弾薬が持たないという理由から、政府は甲府市からの撤退を決定したそうだ。 それに伴い、CEが東側の群馬方面か、西南側の名古屋方面にしか行かないよう、山梨県在住者全員を、他県へと避難させたという。また同様の理由により、長野の北側にあたる富山県、新潟県の南部からも人々を強制避難させていた。そうして家も仕事も失って避難民となった人々の内、どうやら若い世代は新しい土地・仕事に直ぐ順応したが、年配の方々は仕事が見つからず、政府からの支援金で細々と暮している模様だ。然し、それに元からの住民達が生活苦の状況下に於ける彼等の支援金の税負担に反発しており、住民と避難民との確執が今も続いているらしい。

*2
授業によれば元々、CEは長野ピラーだけから基本定期的且つ1つの群れに纏まって出現、侵攻してきていた。故にエース隊に予備戦力を用意する必要性がなく、確実に殲滅すべく訓練の不十分な新入生クラスを除き全員が出撃する方針であったそうだ。然し先月から、前橋市街地や黒檜山に別の小型ピラーが発生してきた。両個体とも英人が浄滅してみせたとはいえ、その対策として今後も別の地点に新たな小型ピラーが出現する懸念に備えて、特高には最低でも3クラス分の部隊を残す事になったらしい。





感想や質問に指摘等、何時でもお待ちしております。

 作中にて、金木から質問された際、宗次の心の声が普段の調子と異なっております。これは、入学以降殆ど聞こえてこなかったライバルに対する賞賛・感謝の意見を、それも外部の人間から知らせてくれた為、かなり喜び誇らしく感じる一方で、英人との約束や麗華への配慮から、本音本心を抑えねばならないのだとして、欲求と理性の板挟みになった影響です。

本作品に触れる前に、原作となるネット小説は読んだことあるか

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