英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 今話は、原作92話、過去編たる『追憶』の2話目に当たります。今後は暫く、その過去編を辿ってゆきます。


第5話 運命の起動と1つの決断

 

 

  8月のある日、未だ蒸し暑い曇天下、何時ものように己は早起き、大人の手伝い、そして子供たちと体力・精神力の維持を兼ねて運動するのだが、この日は自衛隊が、詳細は不明だが何らかの検査に校庭を使用しており、側の公園で遊んでいた。然し__

 

「__すまない、今日は少し疲れているようなので、離れるが皆は気にせず遊んでいてくれ。」

 

 何やらあの検査が気掛かりで、遊びに集中できない。これはまるで、“聖戦”への駆動に向けた進展や異変に感じた胸騒ぎのようだ。

 __星辰体運用技術の人体改造に向けた応用、星辰体感応奏者(エスペラント)の素質検査を想起させる。よもやそれと同じことが、21世紀前半の大和で起きようというのか?

 その疑念を胸に、校庭に侵入し、気付かれぬよう設営されたテントに寄ってみれば__

 

「これ、腕を入れればいいんですよね?」

 

「は、はい!」

 

 姉と上擦る女の声が聞こえてきた。その後には年配の男性、若い男性に大人の女性と検査を受ける様子を暫く聞いて、近寄ってきた自衛隊員に何の検査かと尋ねれば__

 

「悪いけど、秘密だから言えないなぁ、近くの公園で他の子たちが遊んでるから行ってきたら?」

 

 と返されたが、どうもこの兵士__ではなく隊員も詳細は知らされていないようだ。そこで己は引き、公園に再度復帰した。

 その日の晩、食事を共にする姉に聞いたが、やはり受検者にも知らされていないか。

 

 

 そして2日後、健康診断の件とのことで校庭内に停められた人員輸送車に刹那が入ってから、己は子供らにサッカーをやらせ、1人聞き耳立てていた。すると

 

「……ピラーを滅ぼし日本を救う、英雄になってくれるね?」

 

「何?」

 

 姉がピラーを滅ぼす?英雄?身体能力と優しさと料理だけが取り柄の一般市民の女子高校生に過ぎない刹那がそれを為す__ならばもしや、まさか__

 

「…英人を安全な所に連れていって下さい。」

 

「姉上?」

 

 急に子供が入り込み驚く大人たちと姉。

 

「嗚呼すまない、己は天道寺英人、ここに居る女子高校生、刹那の弟だ。心配で気になって盗み聞きしてしまい、うっかり入ってしまった。」

 

「……君が、天道寺英人君かい?」

 

 最初に声を掛けたのは、三十代中頃の二枚目、白衣の下に筋肉の見える、刹那と向かい合わせだった男であった。

 

「あ、英人……勝手に入っちゃダメでしょ!」

 

「その通りだが、姉上がピラーを滅ぼすだの己を連れて行くだの聞こえてな。」

 

「そうか、君が弟君か。彼女には、実は国を救える英雄の資格があるんだ。それで、協力してほしいと頼んでいるところなんだ。」

 

「そうなのか?姉上。」

 

「う、うん……英人。私…これからあのCEと、詳しくは分からないけど戦うの。それで、生活に困らず平和に過ごしてほしいから……。」

 

「理解した。__だが、それなら()()()()()()()()()()。」

 

「っえッ!?」

 

 驚く刹那に訝しむ男、戸惑う周囲の大人達。

 

「確かに、一緒に住まわせる家の用意は可能だが……」

 

「英人君、どうしてだい?」

 

 何故、か。1つは星辰体運用技術をヴァルゼライドに提供した際の、1つはヴァルゼライドが彼のスラムから共に駆け上がってきた盟友を、友情と合理性からとはいえ2度も運命から追放した際の感覚を、相手側として感じたことが動機だが、根拠になりえぬし第一前世の経験などこんなところで明かすものではない。故に語るは3点目の理由__

 

「純粋に、姉上が心配だからです。姉上は__刹那は、人前で明かす話ではありませんが、繊細で間が抜けてて頼りない。何処にでもいる優しく真っ直ぐな人間で、あのCEに立ち向かうのを黙って見送るなど不安なのだ。」

 

「……あ、ははは……」

 

「……すまない、恥かかせてしまった。」

 

 うっかり普段の態度が出てしまい、落ち込んだ様子で苦笑いする姉。対して周囲は、割れなが小学生とは思えぬ発言と態度に驚きと感心を滲ませ、そして__

 

「……分かった。一緒に行かせることはできるか?」

 

「あ、ああ。外出は自由にできないし小学校もオンラインだけとなるが、それなら大丈夫だ。」

 

「なるほど、刹那君は如何かい?弟君は君のためについて行くつもりだけど。」

 

「……わかりました。でも英人は必ず、危険に晒さないと約束してください。」

 

 斯くして、己の要望が通り、新町駐屯地の寮に出発することが決定した。

 

 

 翌日、その旨が学校の皆に伝えられ、涙を流す者も現れたが、

 

「なに、また逢えるさ。それに皆、己がいなくても頑張っていける、頑張ることができるようになったと己は思っているし信じている。希望はあるのだ、体も心もお互い大事にしよう。」

 

 そう告げて、お別れ会を開き、年下も老人も、同年代も先生も皆寂しがりつつ心配し合い励まし合いながら終えて、夕方出発した。

 

「……大丈夫?英人、暮らしはよくなるかもしれないけど、友達と離れ離れになって。」

 

「これが今生の別れになるわけでもなし。彼等も逞しく明日を過ごしてみせるだろうよ。」

 

「そう、ならいいけど。でも大人に迷惑を…英人だったら問題ないか。……本当に、側にいてくれてありがとう。」

 

「礼には及ばん。それに、詳細は不明だが姉上は()()()()()()()となれる__し、何より“()()()()()”なのだからな」

 

 

__新町駐屯地へと車は進む。車輪を回して__

 

 

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