英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 2025年、あけましておめでとうございます。
 今年も、本作の執筆活動を頑張ってゆきますので、何卒お付き合い、それと応援宜しくお願い致します。

 その新年最初の話は、前回投稿した回の前半となる6月2日の、英人視聴していた盗撮盗聴映像の中身その1になります。その2は次回投稿致します。



第34.5話上 認識力と幻変

 

  6月最初の月曜日、その1時間目から訓練が予定されていたので、何時も通りジャージに着替えグラウンドに向かっていると。

 

「空知、保科先生がお前を呼んでいたぞ。訓練はいいから地下に向かってくれ。」

 

「京子先生が?(一体何の……嗚呼、あれか。)」

 

 大河原先生から呼び止められ、その内容に一瞬首を捻りはしたが、直ぐに思い至って頷いた。

 

「何や、兄弟だけ京子先生とハチミツ授業なんて許さへんでっ!」

 

「お前は大人しく、グラウンドを百周していろ。」

 

 また懲りずに首を絞められている映助の事は気にせず、入学式以来となる校舎の地下に向かった。

 コンクリート壁の威圧感がある廊下に並ぶ、金属製の厚い扉。地上の学校部分と異なる研究所らしい通路に入ればその一角で、京子先生がタブレットPCを手に待っていた。

 

「ごめんなさいね、授業があるのに呼び出して。」

 

 先生はそう謝りながら、背後の扉を開いて中に誘ってくる。

 

「いえ、構いません。」

 

 促されるまま入ってみれば、幻想変換器を受け渡された時と同じ部屋だった。

 何か事故があっても問題ないようにする為か、周囲が分厚いコンクリート壁で囲まれているが、壁の一面だけが硝子張り(恐らく強化硝子だろう)になっており、無数の装置が並ぶ研究室から窺えるようになっている。視線をその奥に向けるが、今は授業中だからか、隣の部屋には誰も居ない。

 そう見回していると、先生が金属製のアタッシュケースを差し出してくる。

 

「これが、前に話していた?」

 

「えぇ、ベルト状の幻想変換器。」

 

 先生が頷いて、開けるように視線で促してくるので、素直にケースを受け取り、ゆっくりと蓋を開ければ。

 

「これが……」

 

 中から現れたのは、機械的なパーツが付いた太いベルト。

 見た所、昔連れて行ってもらった玩具屋で見かけた子供用の変身ヒーロー玩具を、幾分スマートにした様な感じである。

 

「着けても構いませんか?」

 

「えぇ、大丈夫よ。」

 

 許可を得たのでベルトを腰に装着し、その場で身体を動かしてみる。

 玩具の変身ベルトと違い、前面には普通の止め金具しかないので、屈んだりしても動きの邪魔にはならない。その代わり、腰の左右には黒色の箱とスイッチがついていた。

 

「基本的には腕輪のパーツを腰に移しただけで、使い方は全く同じよ。」

 

「成程。」

 

 頷きながら、腰のスイッチを左手で3度押してみた。

 

 「武装化(アームド)」と言わずに押したので槍が手元に出てこないが、これ迄両手が塞がっていた幻想兵器を消す動作が、片手で済ませられるのを感じた。

 

 何より、右腕に偏っていた重心が、左右均等にバランス良くなったのだ。

 これだけでも武器として満足なのだが。

 

「確か、追加機能があるとか?」

 

「えぇ、そのテストに付き合って欲しくて呼んだのよ。」

 

 そう告げてきた先生の顔には、苦い笑みが浮かんでいた。

 追加機能とやらがあくまでテスト段階、完成していないという事か。

 

「分かりました。それで、どんな機能なんですか。」

 

二重武装(ダブルアーム)、2つの幻想兵器を生み出せるようにするのよ。」

 

「幻想兵器を2つ……」

 

 一瞬驚いて目を見開いたが、滞空しながら黄金光を放っていた動画を連想して首を捻る。

 

「それは、天道寺英人と同じ事ができるようになると?」

 

「う~ん、あれとはちょっと違うんだけどね……」

 

(「曖昧な返答だな、機密事項という事か?なら踏み込まないでおこう。」)

 

「そのベルトにはね、腕輪型に組み込まれている装置が、左右に1つずつ搭載されているの。それを使い分けて2つの幻想兵器を生み出す仕組みなのよ。」

 

「成程。」

 

「本当は2つの変換器を同調させて、より強力な幻想兵器を生み出せるようにする予定だったのだけれど、そちらは上手くいかなくてね。」

 

(「ほぅ、そっちも気になるが……今は「2つの幻想兵器を生み出す」方を考えよう。」)

 

 実際に使える幻想兵器の増加は有難い。片方の武器を落としたり弾き飛ばされても、もう片方を呼び出せば隙を消せるのだ。

 それに幻想兵器が持つ固有の特殊能力、それが1つ増えるのが大きい筈だ。

 

(「俺自身はあまり馴染みのない利点となるが、幻想兵器其々に宿る特殊能力を複数扱えるのは、上位クラスの面々にとって便利な話だろう。」)

 

 仮に能力が弱くても、或いは蜻蛉切の様に能力を有さずとも、例えば片手剣と盾の両立が可能となれば、大きな戦力増強に繋がる筈だ。

 然し、そんなメリットだらけのベルト型が、特高開校3年目になって漸くエース隊員(ユーザー)の目前に提示されたという事は。

 

「どんなデメリットが?」

 

「流石、鋭いわね。」

 

「世の中に美味い話はないと、婆ちゃんに言い聞かされてますから。」

 

「しっかりとしたお祖母さまね。」

 

(「そうだな。俺の両親が亡くなってから、ずっと確り育ててくれたし、爺ちゃんも支えていた。改めて感謝している。」)

 

 先生が微笑しつつ、話を戻してくる。

 

「自分1人の防衛本能によって形成される幻子装甲と違って、幻想兵器は人々の思念、幻想を集めて武器にしていると教えたわよね。」

 

「はい。」

 

「だから、自分の精神力、幻子干渉能力はあまり使わずに生み出せるのよ。けれど、それは武器の威力に反してローコストという意味で、消費がゼロという訳ではないの。特に固有能力を発動させたりすればね。」

 

「つまり、2つ武器を出すと、それだけ負担が増えると?」

 

「そういう事ね。」

 

 確かに、生徒会長のレーヴァテインなんかは、一度放てば目眩で膝をつくほど消耗するらしい程だ。

 

 よって、2本に増やしたからといって、火力が単純に2倍となる訳ではない。

 

「君の様に能力を使わず戦うなら、影響は少ないと思うけれど、それでも幻子装甲が僅かに薄くなると思うわ。六角柱型CEの光線に換算すれば、約1発程度の差の差が出るわね。」

 

「迷い所ですね。」

 

 たかが1発と言えど、命の守りである幻子装甲を脆弱にしてまで、2つ目の武器を用意する必要があるかどうか。

 

(「もっと、幻子干渉能力の燃費を抑えられたらいいのだが。」)

 

「それと、もう1つ問題があってね。」

 

「何でしょうか?」

 

「う~ん、実際に見て貰った方が早いかしら。」

 

 先生はそう言って、俺から10歩分距離を取る。

 

「先ずは普通に幻想兵器を呼び出してくれるかしら。キーワードは今までと同じに設定してあるわ。」

 

「はい、武装化(アームド)。」

 

 言い慣れた合言葉を口にすると、ベルトから7色の光が迸り、それが右手の中で1本の大身槍(おおみやり)*1、天下三名槍の1つ蜻蛉切と化す。

 

「続いて2つ目、キーワードは「二重化(ダブル)よ。」

 

「はい、二重化。」

 

 言われた通りの単語を口にすると、再びベルトから光が迸り、それが左手の中で形を成す。

 

 右手に持った物と1㎜の差もない、2本目の蜻蛉切に。

 

「ひょっとして。」

 

「そう、同じ幻想兵器しか生み出せないのよ……」

 

 先生がやっぱり失敗かと言わんばかりに頭を抱えた。

 

 全く同じ武器でも、短剣や片手剣ならば二刀流が可能で、使い道もあるだろう。だが、俺の蜻蛉切は両手持ちの槍、2本あっても邪魔なだけになる。

 

「別の幻想兵器が呼び出せないか、調整しているんだけどね……」

 

(「大変そうですね……別の幻想兵器か。……ってそうだ、入学して2日目に此処で尋ねたものの、断られた疑問があったな。改めて気になってくるし、今ならひょっとしたら話してもらえるかもしれない。」)

 

 そう思うが早いか、頭を悩ませている先生へとぶつけてみる。

 

「幻想兵器は、どういった基準で選ばれるのですか?」

 

 人々の精神や想像に印象を幻子が反映して幻想兵器を形成している事は初日に、幻子装甲が使用者自身だけの防御本能から展開されている事はこの質問の前に語ってくれた。だが、基準については「ベッドの上でも教えられない」と断られ、授業でも大河原先生から一言も話されていないのだ。

 

 今回も教えられやしないかも、と思ってはいたが、また難しい表情を浮かべながら今度は答えようとしている風に見えた。

 

「自分と、そして周りからの認識によって決まると、先生は言っていたわ。」

 

「認識ですか。」

 

「あっ……」

 

 先生が、しまったと口を押さえたのだが……敢えて突っ込んでみる。

 

「京子先生?」

 

「……はぁ、君にならいいか。」

 

 先生は暫し考え込み、やがて口を開く。

 

「……此処から先は、他言無用よ。」

 

「分かりました。」

 

「幻想兵器や幻子装甲を生み出す元である幻子、それは人の精神に影響を受けてエネルギーを生み出す、そう教えたわよね。」

 

「はい。ですが違うと?」

 

 表情からそう見抜いた尋ねれば、また苦笑しつつ頷いた。

 

「より正確に言うとね、幻子はエネルギーを運ぶ仲介役でしかないの。エネルギーの元は人の認識。私達が幻子干渉能力なんて仰々しい名前をつけて、貴方達や世間を誤魔化しているけれど、本当は認識力(テオリア)と呼ぶべき力なのよ。」

 

「認識力ですか。」

 

 恐らくそれは、見聞きした物を理解するという、脳の判断力を差しているのではない。

 

 人が認識する事によつて、物理的なエネルギーが発生すると、先生は述べているのだ。

 

「そう、人の認識には力があり、認識によってこの世界は構成されている……何を馬鹿な事を言っているんだ、と思うでしょ?実際にこの説を提出した時、先生は学会から袋叩きにあったそうよ。」

 

「はぁ。」

 

「けれど、その後にCEが出現して、幻想兵器が実用化されて、認識には力があると証明されてしまったのだけどね。」

 

 先生が口を手で押さえながら笑い、話を続ける。

 

「人の認識が世界を造る。まるでお伽話のようだけれど、案外納得のいく話でもあるのよ。例えば、人類が今も絶滅せずに生きている事とかね。」

 

 疫病、気候の変動、巨大地震、隕石の落下、そして核戦争。人類が滅びるような危機は、いくらでも起こる可能性はあった。だが、どれも結局は現実とならなかった。

 それは偶然によるものではなく、人々の願いが起こした必然だったのではないか、という理屈か。

 

「巨大隕石なんて落ちてこない、核戦争なんて起きる筈がない、そんな無意識の願望、思い込みが見えない力となって、世界を変えてきたのではないかとね。」

 

 それはまるで、神の見えざる手。人々の「かくあれかし(アーメン)という祈りが、巨大なエネルギーとなって世界を生み出してきた事になる。

 

「その割には、世界が平和になっていないと思いますが?」

 

「別に矛盾は無いわよ。平和を望む人と同じだけ、戦争を望む人が居るというだけでしょ。」

 

「成程。」

 

 そもそも理想とする“平和”の形とて、人によりけりなのだ。平等に仲良く握手し合える世界、逆に他の存在と隔離され争う以前に接触のない世界、自分のいる勢力が頂点となり安定された世界。何れも個々人が願うだけで全て余さず叶うとしたら、明晰夢に挑む以外あり得ない。

 青臭い事を言ったと内省していると、先生が語り続ける。

 

「相反する意思がある程度存在すれば、認識力は相殺し合って現実に影響を及ぼさない。逆に言うと、少数派と圧倒的な差があれば、認識の力は世界を変えられる。」

 

 それこそ、世界中の人間が心の奥底で“当然”と思い込んでいる事は、現実と化すのだろう。

 

「例えば魔法や超能力、宇宙人や異世界人なんて“非科学的なモノ”が存在しないのも、人々がそう世界を認識していたからだ、と言っていたわ。」

 

 即ち、その理論が正しければ、幻子や認識力なんて非科学的な物は存在しない、という認識こそが力となって、それ自体を封じ込めてきた。魔法を魔法で封じるような皮肉によって、21世紀の世界は“科学的”という“当然”によって支配されていた。そういう話となるが。

 

「では、科学が発達する前、認識されていた魔法は有ったと?」

 

「無い、というのが先生の持論だったし、私もそう思うわ。」

 

 初試合後の保健室で、〈聖剣エクスカリバー〉なんて実在しなかったと断言した時と同様の態度で、先生が否定を返してきた。

 

「何故なら、人類の認識が確固たる力を手にしたのは、ここ200年程度だからよ。」

 

「200年……人口ですか。」

 

「ふふっ、優秀な生徒を持つと、先生は楽できて助かるわ。」

 

 確か、現在の人類・ホモサピエンスが誕生したのは十数万年前と言われているが、2千年前の西暦元年でも世界総人口は3億に満たなかったと言われている。それが、産業革命が始まった18世紀の後半から急激に増え、CEが出現する直前の2025年には80億を超えていた。

 単純計算でも人口、つまり人の認識力は2千年前より25倍以上も増えた事になる。

 

「加えて、新聞、ラジオ、テレビ、そしてネットの誕生によって、人が認識する世界(じょうほう)も爆発的に広がったわ。」

 

 俺の学んだ歴史の知識に於いて、例えば200年前だと、日本は未だ江戸時代であり、ネットもラジオも電話もなく、全国紙の新聞すら存在せず、人々の情報は噂話と瓦版位であった。その頃の人類にとって、世界とは自分の見る範囲、村や町内という狭い地域でしかなかった筈だ。

 だが今はどうか。地球の裏側で起きた事さえ1秒のタイムラグもなく知れ渡り、何億光年という途方もない遠くの星さえ見る事ができる。

 

「人の認識はその数も質も、この200年で異常なほどに高まり、だからこそ「核戦争なんて起きない」「魔法なんて存在しない」という人々の認識を、現実と化すほどの巨大なエネルギーとなった。この解釈で宜しいですか?」

 

「正解よ。科学の力で人口が増え、膨大な情報が広まる事で、世界を造る認識力は高まった。けれど、そのせいで”非科学的なモノは存在しない”と認識力が自身を封じる事になったのは皮肉よね。」

 

 俺が小学3年だった頃迄の世界は、オカルトなんて非常識を、オカルトその物が蓋をしていた時代の中にあった。だが、2031年現在、世界には幻想兵器という、6年前までは非科学的だった物が確かに存在している。

 その原因を作ったのも、まるでオカルトのような存在。つまり__

 

「CEが、この世界を変えた?」

 

「それしかないでしょうね。」

 

 驚く俺に対し、先生が重々しく頷いた。

 2025年、突如世界中に現れた巨大結晶柱・ピラーと、そこから生み出された謎の結晶体・CrystalEnemy(クリスタル・エネミー)

 きっと、その襲撃を受けて、全人類が痛みと共に思い知り、認識を改めたのだ。この世には人の思いもよらない事が、科学なんてモノでは計り知れない事が起きうるのだと。

 そうして、科学全盛の時代は終わりを告げ、人は幻想の世界へと足を踏み入れた、と。

 

「CEが出現した事で世界が変わり、そのために幻想兵器を生み出す事が可能になり、CEを倒す力となった。これもまた盛大な皮肉よね。」

 

「…………」

 

 苦笑する先生を目の前に、俺は何を言えず俯いた。

 

 話が壮大すぎるとか、嘘くさくて信じられないとか、そんな理由ではない。ある1つの懸念が頭を過ぎったからである。

 

(「2025年以前、人が”無い”と思い込んでいた力により、オカルト的なモノは存在を許されなかった。」)

 

 それが事実だとすれば、人類の与り知らぬ所で、人類の生み出した認識のエネルギーは、非科学的なモノを駆逐していたのではないか。

 例えば、地中で静かに眠っていた、結晶生命体なんて有り得ないモノを__

 

(「……英人は、この疑問に辿り着いているのだろうか。そして、推理が本当だったとして、俺は__」)

 

「空知君、どうかしたの?」

 

「いえ、何でもありません。」

 

 変なタイミングで黙り込んでしまった所為か、先生が訝しんできたので否定する。

 

「兎に角、人の認識には力があるのよ。本人、そして他人が“私は、彼はこういう人物だ”という認識から、本人に合う最適の物が幻想兵器として選ばれるのよ。」

 

「そう幻想変換器にプログラムされているから、俺には槍の蜻蛉切、剣道経験者の陽向さんには日本刀の村雨と。」

 

「ええ、そんな具合に、本人の体格や技術、性格まで考慮した上で最適な武具が生み出されるの。」

 

 そう思えば、あの黄金の腕輪についても類似の仕様なのだろう。お陰でシャロが、グルファクシスという動物型幻想兵器に選ばれて、乗馬技術を対CE戦に活かせた。

 

「ただ、そのプログラムを組んだ人が天才、いえ異才と言った方が正しいわね。兎に角異常すぎる凄い人だったから、独特すぎて上手く弄れないのよ。」

 

「そうだったのですか、てっきり先生が開発者だと思っていたのですが。」

 

「まさか、私は既存の成果を引き継いだだけよ。その人のの名前や所在等は言えないけどね。まぁ何にせよ結局、私は最適から少しズレても構わないから、別の幻想兵器も使えるようにしようって二重武装計画に取り組んでいるんだけど、難航しているのが現状なのよね。」

 

「お疲れ様です。」

 

 先生の技術者としての苦労を偲びつつ、ふと考える。

 

「だが、認識か……」

 

 そうして、ある事を思い付き、出したままになっていた、2本の蜻蛉切から手を放す。そして、ベルトのスイッチを押して一度消すと、目を閉じて静かに集中し始めてみる。

 

(「俺に1番合う槍は蜻蛉切だ。だが、今は忘れろ。」)

 

 呼吸と共に己の“我”を消して、目を閉じながら一度”(から)”にする。

 

「___」

 

 その上で、1つのイメージを鮮明に抱いた状態で、幻想の兵器を召喚する。

 

「__二重化(ダブル)。」

 

 下腹部から、瞼を経ても尚眩く感じ、俺の両手の中で物が現れつつある感触、その実体を微動だにせぬまま確認してみる。

 

 其処で気付いた。これは蜻蛉切ではない。もっと長く、重たく、太い棒状の物体だ。

 

「__嘘でしょ……」

 

 愕然とする声に釣られて開眼すれば、目当ての槍が手元にあった。

 

 長さだけでなく、今迄扱ってきたどの槍よりも巨大な穂先は、まるで斬馬刀に近くも見える。

 

 幻子干渉能力__否、認識力により再現された、天下三名槍の1つと呼ばれる大身槍、御手杵(おてぎね)*2を、写真でなく(本物でもないが)直接拝み、そして握り締めるという博物館では決して体験できない行為をやり遂げたのだ。

 それに加えて、俺の本来の幻想兵器以外を形成できた事に__新たな領域へ足を踏み入れた事に、感動を噛み締めて__

 

 その瞬間に集中が切れて、御手杵が風に吹かれた砂の如く、幻子の光へと戻って、ガッチリとした手触りや重さと共に消えてしまった。

 

「……やはり、無理か。」

 

 予想はしていたものの、集中を持続させる為の()()()()()が不足していたのだろう、という推測を胸に刻みながら、淡々と呟いた__直後、先生が目を見開いて両肩を掴んでくる。

 

「空知君、今のどうやったのっ!?」

 

「単純に、御手杵が自分に相応しいと強く念じながら、呼んでみただけですが。」

 

「そんな簡単に……修行僧でもあるまいし……」

 

「座禅はよく組んでいましたが。」

 

「……そうね、君は普通じゃなかったわね。」

 

 爺ちゃんから叩き込まれた精神鍛錬、何事にも動じない心を作り保つのも、武術の基本である。

 何より、空壱流槍術の奥義は己の意識を“(から)”に近づける事にあるので、意識のコントロールはお手の物なのだ。

 

「ですが、現状だと実戦では使えませんね。」

 

 極度の精神集中が必要で、少しでも気を抜けば消えてしまう。

 

(「それでも鍛錬と挑戦を重ねてゆけば、実用に漕ぎ着けられるだろうが……あまり活用法が想像できんな。」)

 

 長槍の二槍流に価値を見出せないでいる、と。

 

「空知君、詳しいデータを取るから、今のもう一度同じ事をしてくれる!」

 

「あっ、はい、構いませんが……」

 

 先生が瞳に炎が宿っているかの様な態度で迫ってきて、勢いに押されて頷けば、急いで隣の研究室へと走って行った。

 

「脳波と幻子の計測器を……手が足りない、木村先生、ちょっとこっちに来て下さい!」

 

 機材をあれこれ掻き回したり、電話で応援を頼んだりと、急に忙しく動き出しているのを硝子越しに眺め、呆気に取られながら呟く。

 

「ベルトだけでいいんだが……」

 

 二重武装は別に不要だと、とても言い出せる雰囲気ではなかった。仕方ないと軽く溜息を吐いて、次は日本号*3でも試してみるかと、集中力を研ぎ澄ましておく事にしよう。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 斯くして、元々の予想としては、ベルト型幻想変換器を受け取るのみで短く済むだろう、なんて考えていた俺だったが。

 

 その後、計測器を身に付けたり蜻蛉切以外の幻想兵器を形成しようとしたり感想を伝えたり、と彼此1時間程付き合い、結局ベルト型幻想変換器の使用はお預けとなってしまうのであった。

 

 

*1
穂の長さが1尺、即ち約30cm以上も長い槍の事を指す。

*2
曰く、室町時代にて下総国の大名結城晴朝が愛用し、されど最終的に東京大空襲で焼失した業物。名前の由来は確か、彼が槍に首級を刺して帰還する途中に1つ落とした際、その槍の外見が手杵に似ている様に見えたから、手杵型の鞘を専用に作らせまた名称に用いた、だったか。

*3
天下三名槍の1つで、御手杵同様に室町時代に作られた大身槍。元々皇室の所有物だったが、足利義昭に下賜され、その後織田信長から豊臣秀吉に、其処で名付けられ、福島から母里に、そして持主が何度か変わった末現在は福岡の博物館に保管されている、らしい。





 感想や質問に指摘等、今年もお待ちしております。

 因みに、宗次の幻想兵器適性は原作より益々差を引き離しており、この時点の状態で入学すればB組に配属されていたでしょう。

本作品に触れる前に、原作となるネット小説は読んだことあるか

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