英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 前回の投稿日より5週間以上も遅れてしまい、申し訳ございませんでした。

 今回は原作の76話目、の前半に当たります。後半については、凡そ3、4話後の時に描写する予定です。



第34.5話下 波及と汚染

 

  6月3日、火曜日。常と変わらず登校して先ず学生食堂に訪れた、のだが。

 

(「……あれ、何だ?」)

 

 何やら食堂内の雰囲気に違和感を感じ取り、俺を含めて最前列にいるクラスメイトの殆どの足が止まった。

 

「どないしたんや?」

 

「いや、何かあったかと思ってな。」

 

 取り敢えず、何時もの場所から料理を受け取って、何時もの場所に着いて、改めて違和感の正体を探ってみる。

 聴覚で把握する分には、仲間内でお喋りをしながら食事をしている普段通りの状況であった、が。

 

(「同輩も2年3年の先輩方も皆、眼前のテーブルや同席者以外の方向に、チラチラと窺っているな。一体何処を……」)

 

 彼等がバラバラながらも方角だけは一様であった注目の先に目を遣れば、其処には畳座敷があった。

 

(「英人か。……今になってやっと気付けたが、一見傍の食事やクラスメイトだけ意識している様に振る舞ってはいるが、その実此方側にも注意が向かっているな。……それを皆も察したのか?」)

 

「はぁ、また何かやらかしたんやろ。」

 

「何だ、知らねえのか?」

 

 興味無さ気に味噌汁を飲んでいる映助へ豊生が話し掛け、共に遅れてやってきた剛史が、スマホを見せてくる。

 

「それがな、あの野郎が色んな雑誌に載ったんだとよ。」

 

「何やてっ!?」

 

(「__っっっ‼︎??」)

 

 叫声を喉の奥で咄嗟に且つ必死に止めつつ、剛史が提示しているニュースまとめサイトを伺えば__

 

(「んなっ、英人の写真っ⁉︎しかもどの項目も英人一色⁉︎」)

 

 更にその内の1つを剛史が開けば、「昨日発売された漫画雑誌以外で全ての週刊誌が、表紙に英人の写真を載せて、彼が小型ピラーを破壊して前橋市を救った救世主だと喧伝していた」と記載されているではないか!

 

「何やこれ……刹那ちゃんの写真も載ってるやん、買わなっ!」

 

「落ち着けっ、授業前に雑誌購入目的で外出するなど認められない、構内の購買を当たってみるか放課後申請すればいいっ!」

 

「いや、宗次君も落ち着きなよ。」

 

 ……いきなり立ち上がり、コンビニへ駆け込まんとしたのだろう映助を慌てて止めると、優太から肩を叩かれた。

 

「……一先ず、座って朝食を食べ終えよう、な。」

 

「そうですよ、映助さん。」

 

「むぅ……しゃあない、兄弟と一樹たんに免じて、我慢したるわ。」

 

 何とか映助が冷静に戻って着席したので、俺も再度座る。

 

「まるでアイドル扱いね、こんなの売れるの?」

 

(「……アイドルか、確かにぱっと見ではそんな扱われ方しているな。」)

 

「それが結構売れているみたいだよ,」

 

 豊生が陽向に返答して、スマホで通販サイトを幾つか見せてくれたが、成程、何処も品切れや残り僅かと表示されている。

 

「顔だけはいいからな、馬鹿な女がコロッと騙されてんだろ。」

 

「あ~、それ差別発言ですよ~っ!」

 

「………」

 

 嫌そうに吐き捨てた剛史に、心々杏が怒って頬を膨らませているが、論調の否定はされなかった。

 

「実体を知らなければ、見惚れてしまう美男子ですもんね。」

 

「い、一樹君の方が需要は有りますよ……っ!」

 

「それ、腐った薄い本の要員としてって意味ですよね?」

 

(「「腐った薄い本」が何かは知らんが……はぁ。」)

 

 神奈が鼻息を荒くし、一樹が凄く嫌そうな顔をしているが、2人とも……否、恐らく周囲の皆が全員等しく同じ印象を抱いている風に思えてしまうのは、俺が酷くネガティヴ思考なだけ……と、思いたい。

 

(「……金木記者に世間に於ける英人の評判を教えられたから、その日の晩に自室で調べてみた所だと……」)

 

 今は亡き最初の幻想兵器使い、天道寺刹那の後を継いでエース隊へ入り、CEに蹂躙された前橋市を聖剣エクスカリバーの光で解放し、何万人もの命を救った、人類の救世主。

 読んだ数多の意見を纏めれば、大体その様に見做されているらしい。

 

(「……一部、違和感を覚える点はあったがな。それにしてもこれは……」)

 

「こんなまとめサイト、スケコマシの悪口書きまくって炎上させたれっ!」

 

「おい止めろ、自分のでやれっ!」

 

 大声で思考が中断されると、剛史が映助から慌ててスマホを取り返していた。

 

「というか、大声出すなって。またあのヒステリー女に絡まれたら堪んねえよ。」

 

「せ、せやな。」

 

「………」

 

 剛史が英人の方へ指差せば、音姫が何やら嫉妬している風に騒いでいて、それで映助も大人しく頷いた。

 

「しかし、あのスケコマシはどうでもええけど、刹那ちゃんの写真は欲しいな……」

 

「まだ言うか。」

 

「せやけど、この表紙に使われとるのとか、ネットじゃ出回ってなかった物なんやで?ひょっとしたら、刹那ちゃんの水着グラビアとかあるかもしれんやんっ!」

 

「__っ!?」

 

ガタッ!

 

「愛璃、落ち着きたまえ。」

 

(「何だ今の声と音は?……嗚呼、そう言えば神近生徒会長は、天道寺刹那のファンだったって、麗華が話してたな。」)

 

 他所の席は兎も角、傍にいる映助は朝食に手を付けず、自分のスマホを取り出して、英人の姉(天道寺刹那)の写真を見せてくる。

 

「な?兄弟かて、刹那ちゃんの水着姿とか見たいやろっ!?」

 

「ふむ……」

 

 ふと、顎に手を当てて考える。

 

(「そうだ、映助に同調しておけば、英人関連の記事にありつけやすいかもな。まぁそれはさておき。」)

 

 思い出すのは、神近生徒会長について麗華が語ってくれた中のある情報だ。

 

(「確か、刹那さんの戦闘記録があると言っていたな。」)

 

 麗華達が、未だ1年生の頃に見せて貰ったという、5、6年前に撮られた映像の話は、2ヶ月近く経つのに大河原先生から一言も聞いていなかった。

 申請すれば直ぐに視聴させてもらえるかは不明だが、その天道寺刹那がどんな戦闘をしていたのか、それは英人のライバルとしても武術家としても、強く興味を引かれる話だ。

 

「まぁ、見てみたいな。」

 

「「__っ!⁉︎?」」

 

ガタッ!!

 

「陽向ちゃん、落ち着いて。」

 

「麗華、貴方こそ落ち着きなさい。」

 

「……?」

 

 近くでも遠くでも、誰かの立ち上がる音がして、訝しんだ直後。

 

「ふぁ~、みなさんおはようでありますっ!」

 

(「シャロか。そういえば昨夜、アニメを徹夜で鑑賞すると話していたな。」)

 

 その後、彼女が元気な挨拶と共に食堂へ遅れてやってきたお陰か、クラスのみならず畳座敷を除いて食堂内が普段の平和で賑やかな空気に戻り、何事もなく俺達は朝食を食べ終えた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

 それから2日目、4限の英語の授業の後半にて。

 

ウゥーッ、ウゥーッ!

 

 突如、CE出現のサイレンが鳴り響き、他学年他クラスの騒がしい足音が教室外から聞こえてきて__俺達1年D組は誰1人扉を開ける事なく、窓際の列のクラスメイトだけが外を窺っている。

 

(「ホームルームで、今日は1年D組とC組、2年C組が留守担当だと言われていたしな。」)

 

 という訳で、戦場を彼等に任せて勉強へと専念しようと座り直せば。

 

「いやー、久しぶりに楽できるわ。」

 

「心配であります……」

 

 皆の反応に注目してみると、例えば映助は喜んでいた一方で、シャロが決まり悪そうな表情を浮かべていた。

 

「気を抜きすぎるのも問題だが、気に病みすぎても疲れるだけだぞ。」

 

 彼女の声で此方へ振り向いた先生が、皆へアドバイスして、授業を再開していく。

 

「みんな無事だといいのですが……」

 

「どうせスケコマシがあっさり片付けるやろ。」

 

 シャロ同様不安気な一樹の呟きに、映助が励ます様に軽く告げた、その言葉を聞いて考える。

 

(「……教室内の皆の表情を見渡す限り、シャロ以外のクラスメイトも先生も、英人なら容易く片付けてくれる、と思っていそうだな。」)

 

 先生の抱く印象は知らないが、シャロ以外のクラスメイト達にとって英人は……

 

(「エース隊員としては危険極まりなく、1年A組全員から持て囃される不快な男、されど対CE・ピラーに於いては一応瞬く間に消し去ってくれる、最強にして無敗の戦力……だったか。」)

 

 即ち、嫌悪する面子でさえ、聖剣の破壊力と英人の勝利を、当然のものだと認識している事だと言える。

 

(「……“無敵の英雄”だと認識している、か。だとしたら……)

 

 昨日、京子先生が教えてくださった、幻想兵器どころか世界の状況すら支えている、「認識力(テオリア)」なる力。それが真実だと仮定すれば……

 

「空知、この英文の訳を答えてくれ。」

 

「あっはい、ええと、~~」

 

「正解だ、だが授業には集中しておけよ。CEが心配なのは分かるが、留守担当として勉学に向き合う事も、エース隊員の業務でありメリハリの付け方でもあるからな。」

 

「分かりました。」

 

 物思い途中に指名されて咄嗟に立ち上がり、何とか答えられたので着席した。

 

(「今は勉強に集中しなければ。考察はまた今度にしよう。」)

 

 そう判断し、教科書と黒板を見つめる事にする。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 そうして午前の授業が終わり、昼食を済ませ、5限と6限の間の休み時間を迎えた頃。

 

「おい、窓見てみろよ、帰って来たようだぜ。」

 

「無事に終わったのかしらね。」

 

 その声で俺も窓の方へ向かうと、確かに何台もの装甲車がグラウンドに停まっており、其処から続々と隊員が降りて来ていた。

 

「ちょっと迎えに行ってくるであります!」

 

「私も同行するわ。」

 

 シャロや陽向達が外へ向かうのを見て、俺も後をついて行く事にする。

 

(「また巨大コア型なり擬態CEなりが現れていなければいいが……英人だけなら問題なくとも、他の皆が心配だ。」)

 

 不安を胸に秘めつつ、表に出てみれば。

 

「「「………」」」

 

(「……無事、といえば無事らしそうだが……前にもこんな雰囲気に接した事あったな。」)

 

 程度の差こそあれど、彼等の大勢が、如何にも安堵と退屈と諦観の入り混じった様子であった。

 ……まるで、先月6日の、昼頃の食堂みたいに、静かで澱んだ空気が目の前に漂っている。

 

「「「………」」」

 

 俺より先に出て来た最前列のシャロは呆然としており、陽向達や同様に校舎からから迎えに出てきた他クラスの人達は「またか」と言わんばかりの表情を浮かべていた。

 

(「……英人が単身で全て片付けた、という感じだな。」)

 

 装甲車も隊員も、傷どころか汚れすら見当たらない。へばっている者もいない。幾ら簡単な勝利だったといえど動いた形跡さえ無いのであれば、そう推察するのが妥当だろう。

 

「「………あ。」」

 

 とぼとぼ歩いている隊員達の中から、麗華と生徒会長の視線が1年D組(此方側)へ向けられた。

 

「……お帰りなさいであります。」

 

「……ただいま。みんな、ちゃんと無事に帰って来たよ。」

 

「ええ。ですからそんな暗い顔しないでくださいまし。」

 

 そう俺達に告げて、止まっていた2人の足が、再び校舎へと戻りゆく隊員達の流れに紛れ込んでいった。

 

「「「………」」」

 

 そんな先輩方を見送りながら思うのだ、嗚呼全くもって不甲斐ない__

 

パシィッ!

 

「「「えっっ‼︎⁉︎??」」」

 

(「糞っ、何様のつもりで、無礼で無茶苦茶な事考えているんだ俺はっ⁉︎」)

 

 頬を叩き、湧き上がった邪念を収めると__

 

「「「………」」」

 

「どうした?」

 

 手前のクラスメイトも、麗華含め歩いていた先輩方の幾らかも、キョトンとした顔で俺を見つめている。

 

「いや、どうしたっていうか……」

 

「大丈夫でありますか?」

 

「嗚呼、俺は平気だから気にする事はない。」

 

 首を横に振って宥めていたら、ふと英人や音姫達1年A組の姿が目に映った。

 

(「……やはり、英人も皆の心情に気付いているか。目や表情の微細な変化で分かるようになるとは、俺も鋭くなったものだ。隠しているのは、自分が気に掛けても無駄だと判断してる?それとも……、あれ?」)

 

 ふと、他クラスの面々に注意を向ければ、妙な違和感を感じた。

 

(「……浮かない空気の中で、所々薄い、というか演技臭い人がいる様な……気の所為か?」)

 

 仮に、その直感が正解だったとしてだ。同調しているかの如き態度を取る理由として、思い浮かぶのは異端と見做され嫌われたくないから周囲に合わせている、だろうか。

 

(「だとすれば、俺も気持ちは理解できなくもない。尊敬や感謝の念が本物であれば、本音本心を本気で貫いているならば、周囲の否定や嫌悪如き恐るに足らんし、逆に説き伏せ誘い込んだり、想いを秘めている面子を勇気付けて共に分かち合える仲間となれるのだ……などと断じるのは簡単だが、実際にはそう決意するのも実行するのも達成するのも難しかろう。第一、そうやって傲慢に非難する資格は、ずっと隠し通している俺にある筈ないのだから。」)

 

 尤も、俺の勘違い、ないし只の願望であるかもしれないが。

 

「さっ、もう直ぐ次の授業だから戻るぞみんな。」

 

「もうそんな頃か。承知しました。」

 

 優太の掛け声で次の授業が迫っているのに気付き、踵を返した。

 

「……そうね、戻りましょ。」

 

「……はいであります。」

 

 シャロ達も、気持ちを切り替えようと言わんばかりに校舎の方へ向かってくる中、歩きつつも静かに息を吐いて、今の心境を憂える。

 

(「……はぁ、こんな印象抱く俺が、人として間違っているだけなんだろうがなぁ。」)

 

 __窺っている限り、彼等の多くに、「我こそが英雄にならん」という熱意が見受けられなかった。

 

 はなからご大層なもの目指していないのなら構わない。“英雄”としてでなく“兵士”として全うする気概なら尊敬する。

 けれど、そうでなく……“英雄”らしい活躍や称賛を望んでいながら、英人の存在で諦めている人達については……正直、落胆している。

 

 だってそうだろう?幻想兵器は素の肉体や既存の武器兵器よりも、直接的に心の有り様を反映させられる画期的な軍事技術だ。それなのに英人が戦い始める迄、たかが六角柱数百体程度の群れを、4〜8クラス分もの部隊で迎撃し続けるだけに留まり、新型の対処で新兵()如きに遅れをとってばかりなのは何故だ?如何して先月中旬での戦闘で、2年の、それもA組という幻想兵器性能最上位層から意識不明者が出ているんだ?CEの大群も小型ピラーも一瞬で浄滅する英人の輝きを見て、「自分もあの領域(英雄)を目指そう」と奮起せず、「自分はこの程度(一般兵)止まりでしかない」と絶望する様は、あまりにも理解に苦しむ。

 

「__ボク達は英雄に成れない。」

 

 入学2日目の昼食時、麗華からA組以外の1年全員へ向けられた忠告。当時は現実的な兵士たれ、と期待値の抑制も兼ねた戒めに感じられた。英雄になれると思い上がって自信過剰・慢心・独断専行へ陥る兵士など、落第なのは言うまでもない。

 ……だが、あれが本当は、2・3年生(自分達)に対する慰めの言葉ではないか?英人以外のエース隊員は皆須く、幻想兵器の適性があるのみで、“英雄”たり得る資格はないのだと。そう、“厳しい現実や限界”を意識させて、英雄になれないのだから、理想も努力も成長も覚醒も無為で無駄で無謀故に必要ないと、一般兵の立場に甘んじてよいと惰性に耽る言い訳でもあり……

 

(「__なんて不満が湧き上がる時点で、俺はまだまだ英人に届き得ないよな。所詮挫折・停滞・諦念に囚われて落ち込んでいる位の事態で、彼奴が軽蔑するものか。」)

 

 それに、クラスメイト達や麗華達先輩方、爺ちゃん婆ちゃんら故郷の皆に悟られては拙い様な愚考など、時間と思考力の無駄遣いだ、と諌めるように、自らに向けて鼻で笑ってやった。

 

(「さっ、気を取り直しで次の授業に集中しよう。」)

 

 1年D組の教室に戻って着席し、先生の話と黒板と教科書へと視線を集中させる事にする。

 

 





 感想や質問に指摘等、何時でもお待ちしております。

 因みに本作宗次は、前回の頃から徐々に、『シルヴァリオトリニティ』のBGMである「光の殉教者」が似合う男になりつつあります。果たしてそれが良い事かどうかは、読者の皆様に判断を委ねます。

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