英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

78 / 82

 長らくお待たせして、申し訳ございませんでした。
 本来なら5月中に更新するつもりでしたが、間に合わず又途中で切ろうにも半端な形になりそうだと判断した為、1ヶ月越えて12000以上の文字で投稿する羽目になってしまいました。

 因みに原作読者であれば出だしから分かる様に、今回の前半は原作113話目に記述されている展開を持ってきております。




第35.5話 猿真似と各所感

 

  土曜の朝、俺とシャロは私服で外出して、光と騒音に包まれたアミューズメント施設、所謂ゲームセンター*1へ、2人でやって来ている。

 

「初めて来たが、凄い所だな。」

 

「明るくて賑やかで楽しそうであります!」

 

 俺は驚き感心し、シャロは興味津々といった風にはしゃいでいる。

 

「長谷川さんが勧めてくれたんだったか。」

 

「はい!今日の事を相談したら、この店の面白さや、道のりなどを色々教えてもらったのであります。」

 

 そんな会話を入口付近で済ませて、俺達は店内を巡って行く。

 

「おっ、あったであります!」

 

 シャロが早速指をさして駆けてゆく先には、人が入れるほど巨大なドーム型の筐体があった。

 

「春香殿が言うには、まるで本物のようなコクピットで楽しめる、ロボット対戦ゲームだそうであります。」

 

「ロボット対戦か。」

 

「しかも、根強いファンのお陰で20年以上も生き残り、最近は簡単な脳波コントローラーさえ追加される程の人気を誇っている、と話してたであります。」

 

「長谷川さんはそんな事迄知ってるのか。」

 

「私も、軍曹さんのアニメで知って、一度は絶対にやりたかったのであります。」

 

「そうか。」

 

 シャロが筐体に入っていくのを見送ってから数分経過すると、満足そうに鼻息を荒くして筐体から出てきた。

 

「どうだった?」

 

「楽しかったであります!」

 

「勝てたか?」

 

「負けたであります!でも最高だったでありますよ!」

 

「それは良かった。」

 

「これが実現された暁には、CEなどあっという間に叩いてやるでありますっ!」

 

「それは無理じゃないか?」

 

 残念ながら、2031年現在、二足歩行の戦闘ロボットは実現していないのだ。

 その後もクレーンゲームでヌイグルミが取れずに悔しがったり、空中に浮かぶ立体映像に触れていく音楽ゲームを夢中でプレイしたりと、元気に駆けまわるシャロを、保護者のような気分で見守り続けている、と。

 

「宗次殿は遊ばないでありますか?」

 

「いや、遊び方が分からなくてな。」

 

 俺だって、故郷の遊び友達の家で、テレビゲーム位は触れた事がある。ただ、ゲームセンターにある物は見るのも初めてで、中々に手が出し辛いのだ。

 

「む~……では、あれを一緒に撮るでありますっ!」

 

 そう言ってシャロが指さしたのは、店舗の1/3を占めるプリントシールの撮影機コーナーだった。

 

「祖国では、日本の高校生は皆、あれで写真を撮ると聞いたであります。でも春香殿は誰でも撮る訳じゃないと言っていたのでありますが、そうなのでありますか?」

 

「さぁな。さっきも言った通りゲームセンターに来るのは初めてだ。役場や駅前の写真機なら利用した事はあるが、これは知らない。」

 

 兎も角、シャロに手を引かれて筐体の中に入り、そして写真を撮った、のだが。

 

「あははっ、目がデカすぎて気持ち悪いでありますっ!」

 

 元より肌が白くて瞳の大きなシャロの顔が、加工されたせいで真っ白い宇宙人の様になっていた。一方で俺はというと、美白されてナヨナヨと軟弱化しており、気持ち悪いというか何というかな仕上がりだった。

 

「これはちょっと、な……。やはり、普通に撮った方がいいんじゃないか?」

 

「そうでありますな。」

 

 それから、ネタで弄りまくった物を撮影した後、加工を省いた普通の写真を撮り、ペンで落書きをする段になると、シャロが急に俺の背中を押してくる。

 

「宗次殿、少し外で待っていて欲しいであります。」

 

「うん?構わないが。」

 

 首を傾げつつ筐体の外に出て、待つこと2分。遅れて出てきたシャロは、何故か頬を赤くしながら俺の手を引いてコーナーから離れてゆく。

 

「さあ、次に行くでありますっ!」

 

「あぁ、分かった。」

 

 写真に一体何を書いたのか気になるが、聞かせまいと引っ張るシャロを見ていると、尋ねないでおこうと苦笑しながらついていく。

 その次にシャロが向かったのは、綺麗に手入れされてはいるものの、椅子の前の画面には俺の故郷でやっていた(即ち世間的には旧型であろう)ゲームと同程度のグラフィックな機械である。

 

「これは?」

 

「春香殿は、レトロチックで、操作し易く、初心者からプロゲーマーまで楽しめる格闘ゲーム、と語っていたであります。その春香殿を誘った先輩も大ファンらしいであります。」

 

「……格闘ゲーム、か。」

 

「おおっ!宗次殿もやりたいでありますか⁉︎流石サムライであります!」

 

「……先ずはシャロがやってくれていいぞ。俺は見てるだけでいいから、満足するまで好きなだけ遊んでくれ。」

 

「ムゥ……結局遊ばないのでありますか?折角なら宗次殿も……」

 

「いや、シャロの後に挑むつもりだ。さっきも言った通り、あまりゲームには詳しくないし、観察しつつ方法を理解したいんだ。」

 

「……ならいいのでありますが。」

 

 シャロは、納得し切れていない様子でゲームを始めた。

 初めは最も易しい難易度設定で開始した彼女の背後から、黙って観察してゆく。

 

(「……成程、こういうものか。だとしたら参考にすべきは、空壱流でなく対CE戦でもなく……」)

 

 すると、シャロが4戦目を終えて、椅子から立ち上がった。

 

「満足したか?」

 

「はい!ですから次は宗次殿の番であります!」

 

「嗚呼、遠慮なく代わらせてもらうぞ。」

 

 そして、先程迄彼女の座っていた席へ腰を下ろして、最高難度を選び、操作キャラを決めて試合開始に移行する。

 

「……大丈夫でありますか?」

 

「大丈夫だ、問題ない。」

 

(「初戦は負けるだろうが。」)

 

 そうして開始されたのだが、流石に初めて扱う操作盤、相手CPの猛攻、その最中で如何にか実戦に慣れながら此方の攻撃・防御・回避への対応を確認しながら、そうしてHPが0となり敗北した。

 

「……宗次殿が、負けたであります……」

 

「__ふぅ、よし。」

 

「……?負けたのに凄く静かでありますね?」

 

「まぁな。2回目やってもいいか?」

 

「リベンジでありますな!次は勝てると信じてるであります!」

 

 斜め後ろから、まるでキラキラと輝いている様な眼差しを向けてくるシャロへ振り向かず、俺は再び同じ操作キャラを選択して、同じ対戦キャラへ、同じステージで再戦を挑む。

 

(「さて、想像通り上手くいくか。否、必ず勝ってみせる。何故なら__」)

 

 機体にのみ意識を注ぎ、試合開始となる。

 

(「操作キャラと相手の性能、CPUのパターンと乱数の程度は何とか把握した。」)

 

 レバーやボタンの最適な力具合を、自然に心掛ける。

 画面の中の動きを一挙手一投足見逃さず、次の次の次を予測し、最低限のタイムラグで操作へ反映させる。

 

(「運の要素はできる限り抑え、自分も相手も想定内に収めて闘い、そして__」)

 

 __YOU WIN!!

 

「__え?」

 

「__勝っ、た、のか……」

 

 緊張が一気に解けて脱力し、我ながらだらしないと思える格好で休んでいる、と。

 

「……あ、Amazing!凄いであります宗次殿!」

 

「……そうか。」

 

「宗次殿は、ゲームも強いのでありますね!ゲームセンターが初めてってことは、宗次殿はゲームセンターの天才でありますよっ!」

 

「……そんな御大層なものじゃない。ただの、人真似だ。」

 

 と、休憩を終えて格闘ゲームから離れ、ガンシューティングを。

 

(「銃の性能を、敵の挙動を、迅速に把握し計算して……」)

 

「宗次殿!ランキング上位に乗ってるでありますよ!」

 

 レーシングゲームを。

 

(「車の速度や運転性能、操作と反映のズレを……」)

 

「1位獲ったでありますよ!」

 

 ……とまぁ色々なゲームに挑戦して、シャロが満足して俺がクタクタになった頃に、ゲームセンターを出た。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 そうして俺達は、ゲームセンターからバス乗り場へ向かっていたら、偶々デパートが通りがかりにあったので訪れる事にした。

 

「今日はホントに楽しかったであります!」

 

「それは良かった。中々良い経験になったが、お互いした初めてだったんだよな。」

 

「……私と、宗次殿が、は、初めて……!?」

 

(「ただ、英人の模倣は至極疲れた……挑戦する甲斐はあったが、今の俺(凡人)が倣うには難しい。奴ならずっと迅速に、正確に、効率的に完遂してみせたろうが、実戦に於いては無理に頼り切らないで、対策への参考程度で済ませるべきだ。勝利を目指す上で、憧れや拘りを合理より優先させるなど愚の骨頂だしな。」)

 

「……あ、そ、宗次殿……!」

 

「……?油の匂いがするな。……ってどうしたシャロ、熱でもあるのか?」

 

 ふと声のする方を見たら、シャロの頬がほんのり赤みがかっていた。少し不安になり、入店時に横目で確認したフロアマップの記憶から、診療施設又は医務室が無かったかどうか思い出そうとしている、と。

 

「の、No problemでありますっ!……油の匂い?」

 

「嗚呼、あっちからするな。まぁデパートだから食料品店か惣菜屋か飲食店だろうけど。」

 

 指を刺しながらシャロの様子を窺えば……

 

(「ふむ、よく見ると陽向や麗華も似た様な状態になっていた時があったけど、結局体調不良にまで陥った事はなかったし、問題はない、のか?」)

 

「取り敢えず行ってみるか。」

 

「はい!」

 

 という訳で匂いのする方向へ足を運んでゆくと……

 

「英国からの物産展か。」

 

「う〜ん、美味しそうで懐かしい香りもするであります。」

 

「良かったな。それじゃあ何か買っていく……ん?あれは……」

 

 遠目から店を眺めていると、見知った顔の女性を見つけた。

 

「あっ、京子先生。」

 

「え、あら空知君。それと、クロムウェルさんね。」

 

「10日前の入学手続き以来でありますな。」

 

「先生は此方に買い物ですか?」

 

「ええ。欲しい物は既に買い終えて、偶々見掛けて寄った所よ。良かったら何か奢るわ。」

 

「いや、それは流石に悪いですよ。俺もシャロもお金なら十分持っていますし。」

 

 そう返答したら、何故か京子先生の表情が、訝しんでいる様にも不機嫌になった様にも変化してくる。

 

「……そうなの。でも気にしないで。こういうのは、素直に受け取る方がいい時もあるのよ。その代わり、この後少し付き合ってもらえないかしら。」

 

「それは、有り難いですし、俺は構いませんが……どうする?」

 

「……私……も、大丈夫であります。」

 

「なら決まりね。2人共、どれが食べたい?」

 

 シャロが何故か、あまり嬉しそうには感じられないのに対し、先生は気分の良さそうな笑顔を浮かべてきたのに困惑しつつ、売り物を見繕う。

 

「でしたら、……フィッシュ&チップスをお願いします。」

 

「私も宗次殿と一緒にするであります!久々に食べたいであります。」

 

「分かったわ。じゃあ私もそれにしましょう。」

 

 という訳で、先生に3人分奢ってもらい、またクラスの皆(と先生が同僚用)の土産も幾らか購入し、一緒にデパートを出て近くの公園に訪れた。

 

「キレイな公園でありますな。」

 

「嗚呼。」

 

「彼処のベンチで食べましょう。」

 

 そう言って先生が指差した、人の少ない奥側のベンチへと向かい腰掛ける、のだが。

 

「……何で2人共、真ん中を空けて座っているのですか?」

 

「この位置が落ち着くからであります!」

 

「今は別に敬語使わなくていいわよ、空知君。」

 

 先生もシャロも、ベンチの両端へ荷物を置いて態々俺1人分だけ挟まって座れる間を作った様な形で着いているのだ。

 

「……端から順に座っていくものかと。」

 

「だったら、決めなきゃいけないわね?」

 

「宗次殿は、隣はどっちがいいでありますか?」

 

(「……何故だろう、たかが座る位置如きで、この上なく面倒な選択を迫られている気がする。」)

 

「なら向かい側のこの椅子に座り__」

 

「「ここに座って(座るであります)!!」」

 

「……はい、では。」

 

 俺だけ別の椅子にした方が、その分ベンチに余裕ができてゆったり使えそうだし、男が傍にいるのは気分良くならないだろう、として出した提案が、揃って認められなかったので、止むを得ず間に入らせてもらう事とする。

 ……した、のだが。

 

「……何か、その、近くないですか?」

 

「「気の所為でしょ(であります)。」」

 

 左右何方からも、矢鱈と密着されており、座る前より少々狭くなって……否、2人の言う通り気の所為だ気の所為。肩や脚に胸迄触れている様な気になっているのは、俺が煩悩に囚われる程度に未熟なだけだ。

 

(「英人なら出来たぞ英人なら出来たぞ英人なら出来たぞ……」)

 

「それじゃあ頂きましょうか。」

 

「ハイ!」

 

「ええ。」

 

 兎に角、先生の合図で俺達は、袋からを取り出し、フィッシュ&チップスを頬張った。

 その感想は……うん、美味い。揚げ立ての状態で受け取ってから少し時間が経ったお陰で、熱すぎない程度に温かくて食べ易い。それにサクッとした衣の食感も、白身魚や芋の味も中々いける。

 

「おぉ、日本のフィッシュ&チップスもなかなか美味しいでありますなっ!」

 

「そうだな。」

 

「………」

 

 右側に座っているシャロの感想に俺は頷いたが、左側の先生は何故か微妙な顔をしていた。

 

「どうせならウナギゼリーも食べたかったでありますな」

 

「「………」」

 

 英国について調べていた最中、偶々目に入った写真を思い出し、そうでなくとも名前の組み合わせから、絶対に不味いだろう、との印象であるが、此処では反論しないでおこう。

 

「はぁー、美味しかったでありますな。」

 

 そうして全員食べ切った辺りでシャロが呟くと、先生が身を乗り出してきた。

 

「そうそうクロムウェルさん、特高での生活とか勉強とか訓練とか、色々やっていけてるかしら?」

 

「はい!授業は分かり易いでありますし、訓練は分隊や3年の先輩達と上手くできているのであります。それに、クラスのみんなは賑やかで優しくて、食事は美味しくて、毎日が楽しいであります。」

 

「俺の把握する限りでは、シャロの様子に何ら問題はありませんし、学校や寮の環境にも十分馴染んでおりました。クラスメイトからの印象も皆良好です。」

 

(「結局、これといって不審な点は1つも見つけられなかったしな。」)

 

「それは安心したわ。」

 

 そう言って微笑んだ先生を見て、俺は尋ねてみる事にする。

 

「シャロには、先月末の戦場でも本当に助けられました。彼女と馬が居てくれなければ、一体どうなっていたことやら。」」

 

「アレは元々の作戦や、みんなの成果でありますよ。」

 

「へぇ、そんなに凄かったのね。貴女が特高へ来てくれて助かったわ。」

 

「えっ、そ、いやそんな……」

 

「シャロ、こういう時は、称賛への否定は最初の一度だけで済まして、それでも褒められた場合なら素直に受け取るべきだ。それが相手の面子を立てる事に繋がるし、称賛内容はグルファクシスにとっても誇らしいものなんだから。」

 

 英人や優太との遣り取りを思い出しながら、照れ隠

しと謙遜で首を横に振っていたシャロを諭した。

 

「そっ、そうでありますか、なら……エヘヘッ!」   

 

 素直に照れ笑いするシャロを見て、微笑ましく感じながらも俺は、もっと踏み込もうとする。

 

「嗚呼、何せグルファクシスが居てくれなければ、あの戦いはもっと長く、そして犠牲者すら出しかねない程厳しくなっていた筈だ。」

 

「私も映像で見てたけど、確かにあの幻想兵器は凄かったわ。人をもう1人乗せても変わらない速度と安定性、装甲車に穴を開ける光線を受けても減衰させて後方に被害を出さなかった程の耐久性、抜群の性能よね。」

 

「あ、ありがとうであります!」

 

「礼を言うのは俺からの方さ。余程幻想兵器使いとしての才能に恵まれているんだろう、と思うぞ。」

 

「そ、そんなに宗次殿が褒めてくれるなんて……!」

 

 益々嬉し恥ずかしい風に口元の緩んでゆくシャロに対して、先生は……

 

「……そんなに強い、のね。」

 

 何かを怪しんでいるのか、生徒には知られていない情報でも掴んでいるのか、笑みが薄まっている様に思われる。

 

「黄金の腕輪も、特別な、優れている、って感じがして、シャロのブロンドヘアとお似合いだ。」

 

「__……ッッ!?……え、いや、そ……」

 

 格段に顔を赤くしながら慌てふためくシャロへ、隙が出来たと判断し、()()()()()を__

 

「ところで空知君、どうしてクロムウェルさんと一緒に外出してるの?」

 

「__えっ?(今それ聞くか?俺に?)」

 

「__あっ、じ、実は……」

 

「い、いや、俺が説明するよ。」

 

 折角偶然にも動揺してくれたシャロが、調子を取り戻してしまったので、止むを得ず一昨日の夕方の話をする。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 CEを撃退した英人達が戻ってきて、普段通り授業を全て終えて夕食を済ませ寮に帰っていた頃。

 

「シャロちゃん、調子悪そうだけど大丈夫?」

 

「……問題ないであります。」

 

「やっぱり昼間のアレです〜?」

 

「た、確かに私達もあんな光景最初に見た時は……」

 

「まぁショックはあったわね。格好良くて頼もしい上級生達の、意気消沈している姿なんて。」

 

「……けど、誰も犠牲にならなかったので、安心もしました……」

 

「誰も、犠牲に……」

 

「兎に角もう慣れるしかありませんわ。曲がりなりにもアレがいれば、お姉様達みんなも、その家族もCEに脅かされる恐れも減りますし……」

 

「……アレがいれば、ねぇ。」

 

「……さっ、こんな暗い話は終わりです~!」

 

「そうですね。……それと真由里ちゃん、腕輪の充電、忘れないようにしてください。」

 

「はっ、はい、すみません。」

 

 廊下で会話を止めて、各々の自室へ戻ってゆき、最後にシャロが部屋の扉を開けている時に。

 

「あっ、宗次殿。どうしたのであります?」

 

「いや、ふと寮棟内をぶらつきたくなっていたんだが、奇遇だなシャロ。」

 

 そうして俺と挨拶して。

 

「嗚呼そうだ、午前の特訓で変換器の充電不足だって前田さんが叱られていたが、お互い気を付けないとな。」

 

「はい。」

 

「まぁ、コンセントに充電プラグを差し込めば済む話だけどな。」

 

「……そうで、ありますね。」

 

「どうした?何か充電で困り事でもあるのか?」

 

「あっ、いえ大丈夫であります。」

 

「……そういえば、何か気分が少し下がり気味だな。良かったら相談に乗ってやるぞ。」

 

「ほ、本当でありますか?」

 

「大袈裟だな。俺達はクラスメイトで、第32分隊の仲間だろう。」

 

「だ、だったら部屋に来てくれないでありますか?」 

 

「分かった。」

 

 という訳で部屋に入って。

 

「ど、どうでありますか?私の部屋は……」

 

「嗚呼、シャロらしく楽しげでいいんじゃないか?……ところで、そのノートパソコンは?」

 

「あ、それはテレビと接続させてダウンロードした昔のアニメを流したり、アニメとか日本の事とかを調べたりするのに使っているのであります。」

 

「そうなのか。……なぁシャロ、この繋がっているコードは?」

 

「えっ、それは……」

 

「……ひょっとして、これでシャロの腕輪を充電しているのか?」

 

「あっ……」

 

「成程、日本と英国で、電気に関して全く同じって事じゃないし、専用のパソコンでも介さなければ変換器としての機能に支障が出かねないよな。」

 

「……そうであります!多少の面倒は仕方ないのでありますよ!」

 

「そうか。……あっ。」

 

バシャッ!

 

「……えっ?」

 

「なっ、す、済まないシャロ、本当に申し訳ない!」

 

 手持ちのボトル飲料内の水を零してしまい。

 

「そんな……!」

 

「い、今直ぐ校舎へ行って、パソコンの点検修理に出してくる!大丈夫、シャロは其処でゆっくりしておいていいから!」

 

「あ、いえそこまでは……」

 

「俺の過失だ、シャロが悪く思う必要はない!行ってくる!」

 

「いえ、私も一緒に行くであります!」

 

 

――――――――――――――――――

 

 

「~~と、修理に出して、結局昨日時点で無事直りましたし、雨天で体育館内の特訓な為どの道シャロのグルファクシスはお休みだったのですが、迷惑を掛けた詫びとして、許可が得られたなら2人で遊びに行こうとなりました。」

 

「その件は、私も気にしていないので、先生は心配する事ないでありますよ。」

 

「………」

 

 と、経緯を伝えた所先生は、途轍もない程複雑な感じの表情を浮かべている。

 

(「……まぁ、どうやら単にシャロにも巣鴨三尉にも迷惑を掛けただけだったようだがな。」)

 

 実際は、シャロ(ないしその裏側)について俺なりに探ろうとしたが故の行為だった。

 予め天気予報で昨日が1日中雨である事を確認しておき、電子機器の整備担当の下へ密かに訪ねて彼女の身の回りの物で調べようと相談し考え込み、そしてストーキングしつつ何かしらの手掛かりがないか耳目に意識を張って、その内変換器の充電で何やら違いがある事、ノートパソコンを持ち込み使用している事を知って、一昨日に封の開いた飲料を携えながら彼女とさり気なく接触し部屋へ侵入、そうして充電に用いられているというアレに水を掛けて、早急に対処をと言って彼の所へ持ってゆき、内部で不審な点がないか見てもらったのだ。

 尤も、スマホに届いた検査結果は「異常無し」であり、これと言った直接的な成果はなく、約束を結ぶ事になったのだが。

 

(「何とか此処で、先生が色々尋ねて探ってくれたらいいのだが……」)

 

「……そう、だったの、ね。」

 

「「……先生?」」

 

「……クロムウェルさん。そのノートパソコンは本国政府からの支給品?」

 

「はい。私も良くは知らないのでありますが、家で使っている物より高性能で助かっているであります。必ずアレで充電しなきゃいけないのが、少し面倒でありますが。」

 

「そうなの。そういえば、貴女の変換器を開発した人って、誰だか分かるかしら?」

 

「……博士であります。」

 

「「“博士”??」」

 

「本名は聞いた事がなくて、何時も誰にでもそう名乗っていたのでありますが、とっても優しくて頼もしい感じだったのであります。」

 

「そうだったの。何処から来たかも聞いてない?」

 

「はい。何にもであります。」

 

 そう返された先生は、困った様に溜息を深く吐いて。

 

「……教えてくれてありがとう。……それと。」

 

「何でありますか?」

 

「……何で、空知君を部屋に連れ込んだの?」

 

「__えっ、あ、それは……!?」

 

「単なるお悩み相談ですよ。パソコンに零した後は直ぐに部屋を出て、預けてからは何事もなく別れて其々の自室に戻りました。」

 

 シャロに(ついでに俺にも)変な疑いを持たれないよう返答すると、先生は訝しんでくる。

 

(「俺の真の目的や、最悪巣鴨三尉との共謀迄この場で探られる訳にいかない。」)

 

「ふ〜ん、どんな悩みなのかしら?生徒の心の不安や苦しみの解決を手伝うのも、保健教諭の仕事だから気兼ねなく話してくれていいわよ。」

 

(「それは俺も気掛かりだったな。一体どうしたんだ?」)

 

「……実は……」

 

 シャロが一度俯き、顔を再び上げて、口を開く。

 

「……一昨日の、戦場から帰って来た先輩達の姿が、今も引っ掛かっているのであります……」

 

「……そう、だったのね。」

 

「………」

 

 シャロの苦悩の原因とは、間違いなくあの上級生達の()()()()()()()()()()()()()()()()()__

 

(「否、仕方のない、順応するのも容易じゃなかろう悲痛な凱旋か。確かに5月でアレを初めて眺める事になったクラスの皆も、尾を引いていたからな。」)

 

「……でも、クラスメイト達が「慣れるしかないよ」「私達も同じ気持ちです」と、慰めて励ましてくれたのであります。それに、先山先輩も、神近お姉様も、心配は要らないと胸を張って告げてくれたから、大丈夫だと信じているのであります。」

 

「……そうなのね。」

 

「……強いのでしょうね、先輩達は。」

 

「だから、今でも尊敬しているのであります。」

 

「成程な。」

 

「その気持ちは、貴女が立派な証よ。」

 

 そうして、その場が静まっていると。

 

「あ〜!、ボール待て〜!」

 

 幼い声の先に意識を向けると、赤いサッカーボールが転がって来たので、立ち上がってボールを優しく蹴り返せば、走って来ていた腕白そうな男の子が受け止めた。

 

「あ、ありがとう!」

 

「気にする事はない。」

 

「お〜い何やってんだ〜!……あっ、すみません。」

 

「気にしないで下さい。」

 

 男の子と、後ろから駆け付けてきたその父親らしき若い男性に、挨拶を返した。

 

「こんにちは。」

 

「こんにちはであります。」

 

「「……こ、こんにちは……」」

 

 両隣の2人も起立して挨拶すると、何故か男の子の方は俺の右側へ、大人の方は左側へ視線を向けて、何方も頰を仄かに赤らめている。

 

「この辺の住人ですか?」

 

「……え、えぇ、はい。」

 

「最近引っ越して来たんだ!」

 

「戻って、ですか?」

 

 すると大人の笑顔に、何処か陰の差してきた。

 

「……実は、昔は高崎市に住んでいたのですが……CEに、妻が殺されまして。」

 

「「……それは、お気の毒様で……」」

 

「………」

 

「彼女の亡骸も喪われて、仕事もこの辺りでは無くなったので、他所へ避難する様に引っ越して暮らしていたのです。」

 

「……なら、どうして最近になって、この街で住んでいるのでありますか?」

 

 シャロが、気遣う風の声色と表情で尋ねると、男の子が嬉しそうに燥いでくる。

 

「聖剣使いの英雄のお陰だよ!」

 

(「英人か!!?」)

 

「……“聖剣使いの英雄”、でありますか?」

 

「………」

 

「うん!天道寺英人って人がそう呼ばれてるんだよ!沢山のCEとか小さいピラーとかを倒して、みんなを守ってくれてるんだ!」

 

「すみませんね、息子は彼の大ファンでして。」

 

(「やっぱり外だと英人は人気者なんだな!」)

 

「「………」」

 

「英雄さんがCEを、ビームで一気に消し去ったとこがカッコいいし、このまちもピラーから助けてくれたから、前住んでたまちの近くに戻って来れたんだ!」

 

「はは、この通りすっかり元気を取り戻してくれたんですよ。それに、ここいら群馬西部が安全になって、遠からずあの特高もある高崎市も、やがては長野県さえ復興して人も金も集まってくるだろうって、今勤めてる会社が進出を決めて、地縁のある私を任命してくれたんですよ。」

 

(「成程、思い起こせばあのデパートは、以前訪れた所に比べて活気も店揃えも品揃えも人も良かったみたいだが、流石英人、経済効果も齎してみせるとは。英国からの物産展もそのお陰かもな。」)

 

「「………」」

 

「妻を喪い、更地と化した高崎も、エース隊を有する特高ができて、そして聖剣使いの英雄の誕生ですよ。本当に、感謝してもし切れません。」

 

「「………」」

 

「まぁ、彼も、エース隊全員も子供な事や、彼が家族を奪われた身で在りながら、亡き両親や戦ってきた姉の無念を背負い頑張っている、彼に任せてしまっている事には不甲斐なく感じておりますが……」

 

「「………」」

 

(「……いや、どうだろうかそれは?」)

 

「その上で、私達も、天道寺英人に救われているのですよ。……すみません、見ず知らずの貴女方へ長々と話し込んでしまいまして。」

 

「あ、いえ私は構いませんよ、色々知る機会にもなりましたし。」

 

「……は、はい。私は先月末にイギリスから来たばかりで、この辺の状況とか教えてもらって、お礼を言いたい位であります。」

 

「え、へへ。このまちも楽しいし、友達だって新しくできたり再会したりしたんだよ。」

 

「それでは、此処で失礼しました。聞いてくださりありがとうございました。」

 

「またね、お兄ちゃん、お姉ちゃんたち!バイバ〜イ!」

 

 俺達は笑顔で手を振りながら、親子を見送った。

 

「まぁ、特高内でずっと過ごしていては、どうしても外の環境を知るのに限界があるからな。景気なり民衆の感情なりを聞けて良かったんじゃないか?」

 

「……そうでありますね!」

 

「……ええ、そう、よね。」

 

(「それにしても、民間人の子供にさえ英人の活躍が知れ渡って敬われているのは、大変誇らしいぞ。コレだけでも外出した甲斐があったものだ。」)

 

 そして、俺はシャロともこの気持ちを、英人の素晴らしさ格好良さを分かち合えるのでは、との期待が昂ってくるのを実感している。

 

(「……ただ、個人の性格や功績はさておいても、シャロは()()()だからな。もしかしたら、彼奴を恐れている可能性だって否定できない。」)

 

 それでも尋ねてみたくなる。たとえ彼女にとっては、祖国の脅威に成りかねない存在に思われていても、それは納得できる必然の結論故に。

 

「なぁ、シャロ。」

 

「何でありますか?宗次殿。」

 

「……さっき語られていたけれど、“聖剣使いの英雄”、だったか。」

 

「__ッッ!?」

 

「……天道寺、英人の事でありますか?」

 

「嗚呼。……正直言って、その……」

 

「……好きに、なれないであります。」

 

「そうか(まぁ、仕方ないよな)。」

 

「……だって、酷い話ばかりしかないでありますよ。」

 

「……酷い、話?」

 

「………」

 

「入学日の試合や2回目の闘いで、どっちも一度負けた様な状態になってから勝手に続けて、それで宗次殿もクラスのみんなも危険に巻き込もうとしてきたそうあります。」

 

「………」

 

「それに、普段は贅沢な食事や温い遊びだらけなのに1人だけ目立って活躍して先輩達のプライドが傷付けられているのは辛いでありますし、みんなが作戦立てて頑張って新型を迎え撃っていた後に遅れてやって来たって話が、情けなく感じてしまったのであります。」

 

「……そう、か……(シャロは何も悪くない、クラスメイトの知り得る限りの情報・側面に於いてのみ聞かされた以上、その印象になるのは止むを得ないんだ……)」

 

「………」

 

「……せ、先生?どうしたのでありますか?」

 

「……あ、な、何でもないわよ別に。ううん、気にしないで。」

 

「そうで、ありますか。」

 

(「……絶対何か知っているな。特高の幻想兵器を取り纏める立場だから裏側の関与は間違いなかろうが……」)

 

「さぁ、私はそろそろ帰るけれど、2人はどうする?」

 

「……なら、俺達も特高へもう帰ろうか。」

 

「……了解であります。」

 

 と言って、公園の一角、人気のない中で俺達は立ち上がった。

 

 

――――――――――――――――――

 

 

 その後、3人で公園を出て特高行きのバスに乗り到着し、偶々校門付近に居た陽向と麗華に驚かれ騒がれて、シャロも京子先生何やら揉め事も辞さない雰囲気になったので、有耶無耶な感じでその場をどうにか収めて、3-A宛の土産を渡して麗華と、それに先生とも別れて、寮に帰ればまた映助達に騒がれて、土産を渡して自室へ1人戻った。

 

「……取り敢えず、今日の経験として、英人のやり口を少しは理解できた、か?」

 

 自分と相手と環境の性質を、須らく迅速に計測し、目的達成に向けた最適な動作・戦法を算出し、実施しながらもリアルタイムで計測・演算・構築を行い未知の事態・領域や乱数にも対応する、それが奴だ。

 しかもそれだけに及ばず、無類の胆力と意志に基づく爆発力、莫大な認識力とそれを無駄無く制御する技能。再々戦を()()()()()()()()()()()様な好機が叶うのなら、果たして何処まで太刀打ちできるか。

 

(「2度の試合で俺を助けてくれた優位も、何れは通じなくなるだろう。」)

 

 それでも、その程度で勝利を諦める理由にならないのだから。

 

「……勝つのは、俺だ。」

 

 

 

*1
尚、後程調べてみた所、此処に限らずゲームセンターはアミューズメント業界という枠諸共、CEが齎す犠牲や不況の所為で大打撃を受けているそうだ。それ故この店の機器についても、本来なら更新・交換すべき時期を越している様な旧式の物ばかりで、今も営業を続けられているのが半分奇跡みたいというのが現状らしい。






 感想や指摘に質問等、何時でもお待ちしております。

 原作では人物紹介にて「わりと普通な今時のJK」と説明されていた長谷川春香ですが、本作だと特高入学後、仲良くなった先輩からの誘いを切っ掛けとしてゲームセンターにハマっている、という設定を追加しました。
 因みに、その先輩は迦具土神機関同志であり、彼女との交流は迦具土神から、武士の近辺調査兼第32分隊のメンタル保全目的での指示に従い行なわれております。

本作品に触れる前に、原作となるネット小説は読んだことあるか

  • はい
  • いいえ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。