英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》 作:MOGOLOVONIO
段々と蒸し暑くなってきておりますが、読者の皆様も体調には気をつけてください。
今回は、(肉体年齢に於ける)大人3名の視点でお送りします。
因みに本日、『シルヴァリオ・トリニティ&ラグナロク』の原画担当を務められた、六時という方が制作した、2018年8月14日発行の二次イラスト集『GENESIS/Recordare』を購入いたしました。
『シルヴァリオ・ヴェンデッタ』のアベンドシナリオ『英雄譚/Titanomachy』に関する(作者曰く)「映像作品だった場合の静止画シーン集」をコンセプトとして描かれた迫力満点なクリストファー・ヴァルゼライド中心のイラスト集、トリニティ主人公・ヒロイン・黒幕の1枚絵、ヴァルゼライド閣下のポーズ集、『シルヴァリオ・ヴェンデッタ』劇場版ポスター風イラスト、ゼファー&ヴェンデッタの1枚絵、ヴェンデッタが(ヴェンデッタのまま)成長した場合のIF絵。以上の構成に基づく同人誌でした。
pixivに載せられた絵もそうでない絵も含めて、私としては満足するクオリティでしたので、もし探して在庫が発見できた方は、是非購入してみてください。
6月13日、土曜の深夜4時。特高の地下2階にある指揮所は昨日一昨日と変わらず、照明が点けられており、俺が来た時には数名の教員達が欠伸を噛み殺しながらモニターを眺めている。
「失礼する、皆お疲れ様。」
「「「はっ、秋葉三佐もお疲れ様です。」」」
本日通信室当直の俺は、労い兼暇潰し兼
「”聖剣使いの英雄“の拡散は順調か?」
「はい、現時点での再生数は、既に500万回を越しました。」
「日本のこの夜中に限った範囲でも着実に視聴者を増やしており、益々増加が見込まれます。」
「そうなって貰わないと困るよな(機関の計測通りだ)。」
俺達は、先週木曜に撮られた、あの映像が映されている画面を見ながら笑い合った。
元々情報工作担当部門の
エース隊の活躍について、広報担当とは別に水面下で、政府の手の者だと気付かれぬよう、そして志願者の確保・“ヘーロス”入学に向けての準備・自国民の士気高揚・他国の注意の誘導を目指し、それでいて入学前から期待され過ぎて“ヘーロス”の認識力集中を阻害しない程度に、隊の評判を調整する事。
エース隊や[機械仕掛けの英雄]にとって不都合な物事__隊員の個人情報や幻想兵器の公開範囲外情報、
NPやCE、その周辺の状態・動向、加えてCE教団や外国からの密偵を監視する事。
そして、今年4月以降から開始された本命の任務、”ヘーロス“の人気と知名度の向上や、その際に邪魔となる意見の排除だ。例えば入学日の試合で発動された〈エクスカリバー〉の光線について匿名で動画サイトへ投稿し、ある時にはエース隊員による掲示板サイトでの批判的投稿へ、非難を浴びせて利用者へ負の認識が築かれないようにしてきた。
然し今や、“聖剣使いの英雄”に関する動画再生数の水増しは疎か、サイバー空間での情報拡散すらとっくにやらなくなった。
何しろ、政府や自衛隊とは何ら無関係で、機関とも縁のない極普通の市民が、自分達で情報を集め、勝手に拡散しているのが現状だ。その証拠に、動画のコメント欄には外国人からの書き込みも増え、件の動画を無断転載して広めたり、エース隊員や幻想兵器を紹介する外国語の動画なんかも作られて、世界中にその認識を広めてくれている。
(「現代の幻想、希望の光、聖剣エクスカリバーを手にした英雄、”天道寺英人“こそがCEを滅ぼす救世主だと……な。」)
最早之だけ広がれば、良くも悪くも数名の技術者に過ぎない特高の教員に、噂を止めたり改変する余地は残っていない。
CEの出現による騒乱で2割は減ったと言われるものの、いまだ60億以上を誇る世界人口。その膨大な数の制御不能な混沌の情報量エントロピーが、“英雄”を勝手に作り上げる……と、いうのが影山の筋書きだ。
(「尤も、今の奴なら、そんなものに負けるとは考え難いが。……と、そろそろだな。」)
「__うん?これは……」
衛星が捉えた長野ピラー周辺の映像の中、夜の闇に動く光が入り込んできた。
「どうした?」
「いや、また“羊”が来たみたいだ。」
呆れた声色の返答に、その場の全員の表情が辟易したものに変わる。
「なんだ、またか……」
手元のパソコンから、画面に映る闇の中を走る光が拡大されると、其処には荒れ果てた道路を疾走する1台の自動車がある。
推定、CE教徒。
「そんなに死にたければ、家で首でも吊ればいいものを。」
人類全ての敵であるCEに、進んで殺されに行く愚かな羊。そう認識しているだろう一般職員達の目は冷え切っている。
何せ、戦争開始から6年、特高設立から数えても2年、既に何百、何千人という自殺者を見送っていれば、感傷の起こる余地は無くなり、代わりに怒りや憎しみを抱くのが普通だろう。
「敵に餌を与えるなど迷惑だ。」
世間一般に於いて、CEが人の精神を奪い取っているのは食事の様なエネルギー補給の為、であるのが世界的に有力な学説だ。
その説に従えば、CEを信奉して自ら精神を捧げるCE教徒は、全人類への裏切り者とさえ言える。
(「……まぁ、英人の調査だけでなく、P研*1の解析でも、基本的には情報収集のみを目的としている事が確定されたがな。期間としては、元々その可能性を想定して同志を最前線から遠ざけていたが、結果的に臆病だの身内贔屓だのと非難される様な采配じゃあないって保証された訳だ。」)
特高から(恐らく肉体的な)死出の旅を見送られていようとは知らずに、長野ピラーに向かって突き進んだ自動車が、その周囲を固める何千という六角柱型のCEから光線を受けて、運転手も乗員も全て、望み通り精神をピラーの下へ召し上げられていった。
そして車はそのまま前方に走り続け、1体のCEに衝突して爆発炎上、火葬されて肉体が無事あの世に旅立った。
(「……さて、迦具土神には「無事回収されたし」と伝えたものの、上手くいってくれるといいが。」)
彼等の素性を知る者は、この場に限ってだと俺1人しか居ない。
某国出身の元犯罪グループ。日本に飛び込んでは不況に喘ぐ一般市民を対象に、強殺すら含まれる闇バイトだの、海外にも販路を置いての人身売買だの、と散々やらかしてくれた。然しそいつらも、迦具土神が捕捉しCE教へ誘った。CE教団には幾らか存在する、捨て駒・汚れ仕事用に確保された悪党達。その内の一部として
無論、“淤能碁呂征典”とやらで結晶塔から解放される日が来ても、帰る肉の器がもう現世にない未来を定めた、のだと自覚した上で。
(「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……、悪人正機説とやらは、俺を対象に入れてくれるのだろうか。」)
「__ん?」
とその時、スマホの振動を感じて取り出し、画面を見ると__
(「__「
直ぐにモニターへ首を回し、また迦具土神のスマホへ通信を繋げつつ不測の事態への心構えを改める。
「__待て、これは何だっ!?」
数秒も無く、職員の発した大声で、指揮所の全員が一斉にモニターへ目を移せば、其処には……
(「……おいおい、何だありゃ?」)
それは、CEという謎の物体を見慣れている立場としても、あまりにも異常な光景。
虹色に輝く長野ピラーの中から、結晶体が滑るように這い出ている。それだけなら、新たなCEが生み出される見飽きた絵面でしかない。
問題は、現れたそのCEが、衛星からの荒い映像でも明瞭に姿形が分かるほど、巨大な物である事だ。
……そう、荒く映っている筈なのに、最早球体と見分けがつかない程、何百もの面が組み合わさっていると視認できる、直径30m超えの巨大結晶体が其処に居た。
「色鐘指揮官へ連絡を!私は通信室へ戻り備える!各員監視しつつ指揮官の指示を待て!」
「「「はっ!!!」」」
(「迦具土神は
__斯くして、後に
>―――――――――――――――――――――<
「色鐘三佐!」
「状況は。」
「それが、巨大CEは千体近くの六角柱型を引き連れて、北に移動しています。」
「北だとっ?」
連絡を受けて飛び起き、指揮所に駆け込んで直ぐ尋ねて返ってきた、オペレーターの恐怖と困惑の混じった声色での報告。
モニターに映る巨大な姿にも驚いたが、それ以上の戸惑いが湧いた。
「馬鹿な、今更北に向かった所で、人っ子1人いないのだぞ*2?何処かの馬鹿共が怪しい集会でもしているのか?」
「いえ、その様子はありません。」
長野ピラーから南側、山梨方面はそのまま東京へ繋がるため、今も自衛隊が厳しい警戒線を敷いているが、北側は手を回す余裕がなく放置されている。
それ故、CE教徒共や命知らずの馬鹿、スクープ狙いの記者等が、政府の忠告も無視してピラーに向かう道として、よく多用されているので、今回そちらに人が集まっていて引きつけられたのか、と思ったのだがどうやら違うらしい。
(「さて、どうするか……」)
初めて現れた巨大CEが、本来ならば有り得ない北側へ移動している。そんな2つ重なった異常を前に、対処法と動機を思案する。
(「ミサイルや大砲といった通常の火器で粉砕する、という手は、あの巨大な結晶相手に通じる見込みが怪しく、ただ兵器の浪費に終わると断じてよかろう。であれば結局、小型ピラーさえ破壊できる
然し、敵の目論みも読めぬ内に、無暗に突撃させる愚を犯したくはない。
(「先日の協力するタイプや正二十面体型から考えて、このデカ物も強力な狙撃を行えると見るべきだろうな。」)
CEが宙を舞う聖剣使いの英雄、己の天敵を倒すために進化しているのだとしたら、それが最も効果的な攻撃方法なのだ。
ただ、先日迄の戦闘で得られたデータから推測して、巨大CEの射程が3㎞を超えようと、或いは奴の傍でステルス狙撃手が潜んでいようと、今の天道寺英人ならばその遥か先から聖剣の光を放ち、破壊する事が可能であろう。
(「雑誌でさらに認知が広まったお陰で、”英雄“の力がまた爆発的に増大したからな。」)
入学当初より既に百倍近く跳ね上がったエネルギーは、昨日広まった新たな写真や動画の効果で、今もリアルタイムで増えている筈。
長野ピラーの破壊が本格的に視野に入った現状、この巨大CEは英雄の力を世間に示す、良い引き立て役にしかなるまい。
そしてCEの擬態にしたって、最新の探知システムが確実に発見してくれるのだ。
(「そして今北へ侵攻しているうちで、巨大CE1体を除けば1個体たりとも存在しない。流石影山准教授の同期、九条博士だ。」)
あの色素が薄い長髪の、矢鱈若々しいCE研究の大物を脳裏に浮かべつつ、好機だと頬が緩み……
「……だが、北か……」
されど、何かが胸に引っ掛かるので、手元のパソコンを操作し、地図とCEの予測進路を表示する。
巨大CEも他の小型と変わらず、移動速度は人の歩行より少し早い程度である。このまま7時間程北へ直進すれば、日本海に面した新潟県
「待て、糸魚川だとっ!?」
恐れ慄く心のままに、地図を更に拡大表示する。
新潟県糸魚川市、其処には2025年のCE出現に対する警戒、そして避難区域指定によって、稼働されず停止したまま施錠され放置されている、無人の糸魚川原子力発電所が残っている。
「まさか、原発を狙う気か……っ!?」
糸魚川原子力発電所は破棄されて既に6年が経過しており、現在稼働している他の原子炉と違ってメルトダウンが起きる危険性はない。
だが、CEとの戦争で手が回らず、今も燃料のウランが残ったままになっていた。これを炉心から取り出し撒き散らされたら、深刻な放射能汚染が引き起こされる。メルトダウンと違って爆発で広がらない分、その被害は狭く済むであろうが、それでも糸魚川を中心とした半径20㎞程度は、永久に人が足を踏み込めない汚染された大地と化す。
いや、それならばまだマシかもしれない。
もしも、原子炉から奪い取った核燃料を、長野ピラーの周辺に配置されたら。
英雄とはいえ所詮は人間にすぎない聖剣使いは、最早ピラーに近付けなくなる。正確に言えば近付く事は可能である、その半年後には確実に死ぬだろうが。
人が生み出した最強のエネルギーである核、その燃料である猛毒をもって、たとえ相打ちになろうとも英雄を殺す。
「CEに、そんな作戦を練る知能など……」
無い、と言い切れない事こそが恐ろしい。
前橋市に小型ピラーを出現させての挟撃、同じく小型ピラーを黒檜山の谷底に擬態して隠していた件、正二十面体型、両刃剣型、そして協力しての長距離狙撃と、英雄に対抗した急激な進化。
それらを鑑みれば、CEが、その本体であるピラーが、知能を獲得していたとして何の不思議があろうか。
(「原子炉の情報なら、恐らく6年前から持っていただろうからな。」)
CEは赤い光線で人の精神を、意思を奪って廃人と化す。
では、人を人たらしめる精神とは何か?
明確な答えは無いが、その重大な要素の一つが“記憶”であろう。赤ん坊として生まれた時から、いや母親の胎内で生命を得たその時から、見聞きし触れた情報の全てが積み重なり、人の性格を作り“個”を確立する。
CEは間違いなくそれを奪っている。
襲われて二度と目覚めぬ昏睡状態に陥った者達が、まるでHDを真っ白に消されたパソコンのように、体は生きていて何も出来ない置物と化す事から、その連想は容易い。
CEは人の記憶を奪っている。その発想は京子や九条博士、そして世界中のどの学者・研究機関も証拠を発見できていない為、口に出す気はないが、真実だろうと確信している。そして同様の考えなら私に限らず、誰であれ1度は思い浮かんだ経験がある筈だ。
ただ、奪った記憶や精神エネルギーというモノを、何かに使っている様子が全く窺えなかったのと、仮に分かった所で対策も立てられない故、頭の隅に追いやっていた、のだが。
(「今になって、その後回しにしていた問題のツケが、牙を剥いてきたんだろう。」)
「生徒達を全員叩き起こせ……いや、起こすのは1時間後でいい。その前に相馬原駐屯地に連絡して兵員輸送ヘリチヌークの準備を要請。総理や幕僚長への連絡も忘れるな!」
後悔はひとまず後にして、指揮官として最悪の事態を防ぐべく動き出した。
__だから、幾度となく味わってきた後悔の念を、数時間後にまた苛まれてしまったのだろう。
巨大CEと原子力発電所への襲撃という、驚愕の事態が2つも重なったから、それで終わりだと、3つ目はないと心のどこかで油断していた自分の浅はかさを。
>―――――――――――――――――――――<
日の出前の緊急招集の報せで目覚めた俺は、指揮所にて巨大CEの出現とその想定進路、今後の対応について伝えられた。そうして驚愕と不安を胸の奥底に秘めながら、1-Dの教室にて説明の用意をしつつ待機していると、午前5時時点で予定通り、CE襲来のアラームと「全隊員は教室へ集まるように」との放送が高々と鳴り始めた。
「……済まんな、皆。」
グラウンドに到着している2台の大型輸送ヘリ・CH-47 Jチヌークを眺めつつ、生徒達の集合を待つ。
そうして、最初に空知と弓月、10分後には1-D全員が揃ってから、プロジェクターで黒板に映像を映して説明を始める。
「今から約1時間前、長野県松本市のピラーから大型のCEが出現した。」
「うげっ、何やこれっ!?」
投影された30m超えの結晶球に、殆どの席から驚きの声が漏れ出ていた。
「この大型CEは約千体の六角柱型を連れて北上中だ。目標は新潟県糸魚川市にある停止中の原子力発電所だと思われる。」
「そんな、CEが原発を狙うなんて……」
有り得ないと再び驚愕する生徒達を、一旦手を叩いて静める。
「あくまで予想だ。仮にCEの北上が気紛れや、何か別の目的だったとしても、原子力発電所を守るという想定の元に作戦を進める。」
今回の迎撃に於ける最優先目的は、施設内部に残っているウランを撒かれ、放射能汚染を起こされるという最悪の事態の回避にあるのだ。
「あまりピラーに近すぎる場所で戦闘を行うと、下手に刺激する事になって何が起こるか分からん。そこで、巨大CEを白馬村まで引き付けてから撃退する。」
長野オリンピックの会場となった、八方尾根スキー場がある事でも有名な白馬村。ここも6年前から廃墟となっており、ピラーからは30㎞以上も離れた山中である。
山を遮蔽物にして隠れる事も可能であり、巨大CEと戦うには丁度良い舞台であった。
「巨大CEの相手は、天道寺英人にしてもらう。」
そう告げた途端、やっぱりな、という空気が教室内を満たしてきている様に感じられた。
(「……まぁ、当然の反応だろう。」)
今回の敵は、今年度に入って3度現れた小型ピラーよりも巨大な、まるで特撮怪獣の如き存在だ。そんな物、例え幻想兵器を持っていても、ただの人間が敵うはずもない。
怪物を倒すのは常に、人間を超えた英雄の仕事なのだから。
(「……態度が異なるのは、3人か。」)
「……?」
1人はクロムウェル。クラスメイトから天道寺英人と1-Dとの接点を伝えられていた為、彼女も好意的には感じていないだろうが、直にエクスカリバーを見ていない分、諦念迄は共有しておらず、ただ単に「ならどうして自分達も集められたのか」と困惑している様子だ。
「…………」
1人は弓月委員長。彼も同じく自分達が呼ばれた理由を気にしているみたいだが、クロムウェルよりも険しい表情だ。恐らくその理由を、1-Dに課せられる任務を想像しまた覚悟しながら、私の次の発言を待っているのだろう。先月から、委員長として積極的に助けてくれる上に、クラス一同の状態把握や統率に励み、また勉強や射撃系幻想兵器の指導にも熱心に取り組んでいる。本人の成績も益々向上し、素行も入学2日目の覗き未遂以降問題無し。最も信頼できる生徒だと評価している。
「………」
(「……そして、空知宗次。」)
学業も運動も戦果も抜群で、幻想兵器の適性さえ前代未聞の上昇を成し遂げているも、数々の危険な独断行動や訓練中の幻子装甲消失、そしてあの日の事から、最も心配な生徒は今、悔しそうに口元を小さく歪めながら沈黙している。
「……ただ、山中を通過する為、六角柱型を何体か討ち漏らす可能性はある。それに、糸魚川市に突如小型ピラーが出現しないという保証もない。」
都合3本を破壊されて懲りたのか、最近は小型ピラーが出現していないものの、可能性は常に考慮せねばならないのだ。
「また、巨大CEは囮であり、この前橋市や他の場所に小型ピラーが現れる可能性も否定できない。」
CEにとって最大の敵、天道寺英人を糸魚川方面に誘導し、その間に他の場所で無防備な市民を襲う。原子力発電所を襲うという知能があるなら、この程度の囮作戦は当然思いつくであろう。
「そこで、今回は部隊を3つに分ける。」
巨大CEの相手をする天道寺英人の他、特高で有事に備える留守番と、討ち漏らしから原発を守る守備隊にだ。
「そして、諸君ら1年D組は原子力発電所の守備に回って貰う。」
「何やってっ!?」
遠藤を筆頭に、皆から驚きと非難の声が上がった。
現在は停止中でメルトダウンの危険性が無いとはいえ、原子力発電所の近くに行くのは、被爆しそうで怖いと思うのは当然だ。
然し、申し訳ないが守備隊は彼等が適任なのである。
「3年A組、特に生徒会長の神近愛璃率いる第〇分隊の面々は、幻想兵器の能力が強すぎて危険なのだ。それこそ、間違って原発に当たればウランが漏れ出しかねん。」
「うぐっ……」
「その点、諸君らは幻想兵器の能力こそ派手さに欠けるが、白兵戦能力ならば上級生にも劣らないと確信している。周りに被害を出さず戦う守備役は、諸君らにしか任せられん。」
「まぁ、そこまで言われたらしゃあないな。」
先ず正論を、続けて賞賛を伝えたお陰で、遠藤が満更でもない顔で頷き、皆も同調してくれた。
「とはいえ、原発の守備に向かうのは諸君らだけではない。3年D組、2年D組、あと天道寺英人を除いた1年A組も加わって貰う。」
「うげっ、あいつらも?」
[機械仕掛けの英雄]完遂の為止むを得なかった、という裏事情があったのだが、4月中何度も向こうから喧嘩や罵倒等を受け、また日常的に天道寺英人と共にする形で依怙贔屓を見せつけられてきたのだ、当然ながら平坂達数人が、露骨に嫌悪感を発してきた。
……何故か、一番に彼と彼女達から迷惑を被られている空知は、首を傾げる以外の反応を示さなかったが。
(「今回、彼女達は足手まといにしかならない故、天道寺英人と完全に別行動を取らせる事になった。」)
元々初陣の時を除いて、出撃に於いて1-A全体で纏まって進むのは、CEの群れから数百〜千m以上離れた地点迄だ。其処から天道寺英人が飛び立ち、他全員がその場で待機しながら、彼がCEを一掃して帰ってくるのを待つだけである。
特に今回の相手は見た目からして強力で頑丈だと思われる巨大CE、普段の数だけ多い六角柱型や動かない小型ピラーと違い、英雄とて周りを気にする余裕はあるまい。
(「それに、彼女達の中にA相当の幻想兵器使いは、
第3期生のA組は、幻想兵器のランクで振り分けられている第1・第2期や同期の他クラスと異なり、天道寺英人と、彼の親衛隊として教育された工作員だけで構成されるようにしている。
(「それ故、幻想兵器の適性検査でA組相当だと判定された者達は、誰一人として実際のレベルを教えられずにB組へ配属された。……欺瞞に満ちているな。」)
その上で彼女達は、英雄の護衛の為に体術を仕込まれ、ある方法で幻想兵器使いにあるまじき且つ工作員たり得る程の冷徹な判断力を有している。任務と命じられた以上他クラスの面々へ喧嘩を吹っ掛ける事はなかろうし、原発の守備隊としては適任な筈だ。
(「一方で米露中の3名だが、それも色鐘指揮官は支障なしと言い切っておられた。」)
今回1-Aは、原発施設の敷地の出入口である正面ゲート付近に配置される。最終防衛ラインとして設定される位置に、他国の工作員を置くのは危うい話だが、親衛隊員はCEの警備・迎撃に加えて3名の監視と万が一の拘束を担ってくれている。また彼女達の変換器はクロムウェルの金の腕輪と違い、特高の備品として与えられた
(「その旨は当然、
尤も、その愚行は、如何に大国といえど決して日本の抗議を無視できぬ程の弱みとなる事。聖剣使いの英雄に気に入られて自国の救援を優先してもらうという彼女達の使命に反する事。たとえ幻想兵器を扱える状態で潜入できた所で、もし放射性物質に接近してしまえば幻子装甲では阻まれず人も機械も汚染されてしまう事*3。其れ等を鑑みれば、態々原発潜入に及ぶとは考え難い。
「何、取り越し苦労で終わる可能性も十分ある、そう気負わず任務に当たってくれ。では、グラウンドに集合!」
話を締めくくり両手を叩いて、皆が一斉に教室を駆け出ていくのを見送るのであった。
感想や質問に指摘等、何時でもお待ちしております。
因みに本文の色鐘視点で述べられた「糸魚川市原子力発電所」に関して、原作にて記載されていた当該原発について調べた所、新潟県内の原発は「柏崎刈羽原子力発電所」という柏崎市と刈羽郡刈羽村にまたがる施設だけであったのですが、本作では原作記述に合わせて糸魚川市内に原発が存在する、との設定で進めさせていただきますのでご理解ください。
□CE教:光線で意識を収奪してくるCEに対し、自ら自身の魂を差し出してピラーに飲まれ、そうして“楽園”と呼べる様な境地へ旅立とう、と唱えるカルト宗教。信者達の知り得る情報ではないが、原作のあとがきに拠れば、「無数の意識が混じったピラーの中は、まるで天国のように気持ち良いらしく、出てこない人の方が多いです」との事であり、吸収された者達にとっては強ち間違いではない。また、原作コメント欄の返信に於いて、「CE教は国家の意思とは無関係に自然発生した宗教団体で、~〈中略〉~アメリカや西欧の方が手を焼いている」と説明されている。
尚本作だと2026年から6年の間、元々目を付けていた迦具土神が信者達に接触し、邪教として取り締まってくる現地警察の情報を漏洩したり資金提供を行なったり自殺用のルートを用意したり等で手懐け、やがて裏で組織体制を構築し、世界中(特に裏社会)にアングラ的ネットワークを拡大するに至った。一方でその過程に於いて、同志や実利で買収された俗物を上層部に据え、またそれ迄の民間信仰形式から、ピラミッド型の教団に既存の信者を取り込み、信者候補を誘い同志にも加入させ、信仰の在り方さえ徐々に変質させていった。それ故2031年時点だと、迦具土神機関について微塵も知らぬままピラーを崇拝し、CEに魂を捧げる事を上層部から許可してもらわんと指令に応じる末端、敬遠な信徒を装って彼等を騙し管理し動かす売国奴や機関同志達教団幹部、という構造に成り果てている。
本作品に触れる前に、原作となるネット小説は読んだことあるか
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はい
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いいえ