英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 本作はフィクションであり、また私は自衛隊にも駐屯地生活にも詳しくありません。もし気になる箇所があれば、遠慮なく指摘や教授をお願いします。


第6話 初起動と初戦闘

 

  我ら天道寺姉弟は群馬県新町駐屯地に到着し、そこで先ず新たな住まいとして寮に案内された。

 ベッド、ロッカー、机や椅子に、テレビや冷蔵庫が揃った質素で綺麗な部屋が2人の住まいとなる。荷物を降ろして兵器の実験までは一息つくことにした。

 

「……今更だけど、付いてきてよかったの?英人、頼めばもっといいトコに住めるし、戦いにひょっとしたら巻き込まれるかもしれないんだよ?」

 

「長野からより離れた地に移されたとて、CEが飛び越えて襲ってくる恐れは十分あるのだ。日本軍__いや自衛隊の拠点の方が安心できる。それに車内で述べた通り、姉上を身近で支えられる場に居らねば不安なのだよ。」

 

「あ、はは……でもありがとう。本当のこと言うと、心細かったんだ。とりあえず時間になったら私行くけど、ゆっくり休んでね。」

 

 その後一先ず食堂にて食事を摂り、時間になったので付き添いの女性自衛官色鐘綾子(いろがねあやこ)、大学から来た兵器開発関係者保科京子(ほしなきょうこ)と共に施設外の倉庫へと向かった。一方で己は、刹那が受けた検査を簡単に行った後、極秘技術中枢であった前世と違い、単なる重要人物の家族たる小学生に過ぎないので、子守役となった自衛隊員のもと、図書コーナーにて待機していた。

 

「大丈夫かい?お父さんもお母さんも目を覚まさず、お姉さんも離れたけど……寂しかったら私達大人を頼ってよ?」

 

「心配してくれて有難う。しかし問題ない、寧ろだからこそしっかり頑張ってゆく気概だ。ところで個人的なものでよいのだが、何か悩みはないか?避難所ではちょっとしたお悩み相談を受け付けていてな、流石に本業には敵わぬが、愚痴聞きであれ何であれ、少しでも貴方がたの心の助けになりたいのだ。」

 

「言葉遣いも頑張りも立派だね。それじゃあお言葉に甘えて……実は最近彼女に振られたんだ。」

 

「__そうか、それは残念であったな。恋については経験がないのだが、どういった理由なのだ?」

 

「それが、忙しくて付き合いが合わなくなっちゃったからなんだ。元々自衛官に務めてるとその辺のズレが起こりやすいのは私も彼女も承知してたんだけど…ここ数ヶ月で急激に忙しくなって、会う時間も取れなくなったから……」

 

「そうであったか。大変であるな。」

 

「その上向こうも転勤するってことで、これを機に別れましょうその方がお互い心配抱えないですむから、なんて言われて…確かに浮気しないか気にされてもおかしくないし私だって同じだけど、だからといってねぇ?」

 

「なるほどさぞかし辛かったであろうな、まぁ目一杯悲しんで前を向こうではないか。姉上は人類の希望になれるとのことであるのだ、その内自由で不安なく恋愛できる相手と時代が再び訪れるのだから。」

 

 そうして失恋話を受け、落ち着いてからは情けない気持ちにでもなったのか売店で玩具や菓子を奢って頂けるとのことで、2人で食べられる氷菓を選び、購入してもらった後窓の景色を見ながら分け合って食べ終えると__

 

「ほう、姉上ではないか。此方に向かっているということは、実験は終わったようだな。」

 

「そうだね、折角だから迎えに行こうか。君のお姉さんにも興味あるし。」

 

 会話を区切り、降りて刹那と色鐘三等陸尉が来た玄関に向かう。何やら刹那は興奮、色鐘は驚愕の光景を今しがた見たかのような素振りであったが__

 

「姉上、どうであった?機嫌も体調も良好のは何よりだが」

 

「大丈夫だよ!それでね、……言っちゃダメ?英人にアレの凄いとこ聞かせたいけど……

 

「そう…だな、遅かれ早かれ公表するとも基地内なら機密の管理も可能だとも伝えられたが…構わないぞ。但し個室内で弟のみだ。他言無用も約束して徹底させておけよ。」

 

ありがとう!凄かったんだ〜!後で教えてあげるよ!」

 

「了解した。姉上、それに色鐘陸尉、教えて頂き感謝する。」

 

「あ、あぁ。どう致しまして。お姉さんのお陰だ。」

 

「二人ともお疲れ様でした。刹那さん、英人君、とりあえず個室に向かおうか。夕食の時間になったら呼ぶからそれまでゆっくりしていってね。」

 

 このやり取りの後、自室に戻った己と姉上は、新兵器について聞かされた。

 

 __曰く、腕輪から形成される光の大剣であると。羽のように軽い重量ながら、一振りでワゴン車を横一文字に両断すると。起動にはボタンを押すだけなのが味気なく、掛け声を用いた機構に改良してもらえると。現在はまだ無銘であるが、把握していないだけで本来神話や伝説に歴史上の武器が再現された兵器であると。

 

「成程な、大変興味深い。加えてそれだけの破壊力と機動性ならば、CEに対抗しうる希望との触れ込みも伊達ではなさそうだ。」

 

「うん!使いやすかったしカッコよかったよ。後は影山さん*1が変えてくれるし、保科さんが本当の名前を探してくれるって。ところで、何かピッタリな掛け声ないかな?」

 

詠唱(掛け声)か__ならば、特に由来はないが之は如何かな?」

 

「__天昇せよ、我が守護星 鋼の恒星(ほむら)を掲げるがため」

 

「……何かカッコいいけど、ちょっとピンとこないかなぁ。難しそうだし、“星”ってのも合わないような…ごめんね。」

 

「……構わん。姉上の話からすると、その男達の方がより適した掛け声を創って頂けるであろう。のんびり待てばよい筈だ。」

 

 __その後、食堂にて夕食を心ゆくまで頂き、久々の快適な入浴も済ませ、疲れたのか姉上は早めに就寝、己も眠ることにした。

 

 

 翌日、姉上は兵器の使用訓練、己は図書コーナーでの読書や施設の見回りに基地の人々との交流を、昼食を挟みながら過ごした。隊員や滞在する科学者の様子を覗けば会議や調整を行っており、近々CE相手の実戦が予想される。

 

 

 そして翌朝__自衛隊が姉上と同伴で出陣した。

当然己は変わらず基地内に待機し、昨日と同じ行動をしながら、知識の蓄積や人間関係の把握・構築を小学生ながらに行っていれば、夕暮れ時に部隊が帰還してきた。

 

「あの様子だと__弾薬消費はしたが人員に損害は発生せず、民間の高校生である姉上も恐らく無事であろう。」

 

 ならば直接的な被害が生じる前に撤退したか、初の大勝ということになるが、どうやら__

 

「英人君!軽井沢にいたCEは無事倒されたよ!お姉さんは大活躍だったんだ!」

 

「それは真か!?であるならばめでたい話だ、貴方方もさぞ奮闘してくれてのであろう、感謝しよう。」

 

 と初日の子守役を務めていた自衛官から勝利の報せを聞き、遅れて到着する刹那の凱旋を出迎えるべく、小遣いで彼女の好みの物を購入し、張り切って待ち望んでいた。

 

 ところが、保科と色鐘を伴い車から降りた刹那は___

 

「あ、英人……!私…、あのCEを、やっつけたよ…!凄く活躍したんだから……!」

 

 気丈に振る舞おうと震えて弱った声で、青褪めた顔に笑みを張り付け、心配を小学生の弟に悟られぬようにする態度の2人に支えられつつ拳を掲げてきた。

 

「__お疲れ様だ、よく頑張った。今夜は己のことなど気にせずゆっくり休んでくれ。」

 

「__う、うん…!ありがとう、でも大丈夫だよ……!」

 

 彼女らと同伴して建物内に向かう刹那。後に今回の祝いと反省の為姉弟の部屋に戻らないと告げられたが、姿に汚れや傷が見られない、即ち戦闘自体は問題なく終えたのであるならば__矢張りな。

 

「姉上は、天道寺刹那の精神は“英雄”の器に非ず。」

 

 ()()とは、如何なる困難も不条理も踏破し、恐怖と絶望を識りながら克服し、孤独や敵意に置かれても決意を滾らせ続ける、傑物も怪物も超越した存在である。

 

 この定義は、あくまでも人類の最高値(ヴァルゼライド)を指し示す高難度極まりない条件ではあるが、少なくとも客観的に鑑みて、彼女の心は英雄たり得ない。

 

 何故なら刹那は、家族と友達を愛する優しい()()の只人に過ぎない。選ばれし力と恵まれた武才故に英雄の資格と責務を有し、そこから怪物に立ち向かってゆけるだけの勇気はあるが、仮に日本国内のCEとピラーを絶滅に到らせるのは不可能だと予想される。その精神を踏まえれば、新兵器の適性も天賦の肉体もかえって不幸であろう。

 

 __されど、往けるものは征くべきなのだ。たとえ本質が何であれ、現時点では刹那こそ恐らく唯一にして最大の希望であるのも事実。彼女にその資格がある以上、責務は何としても全うしてもらう必要がある。無論、彼女は日本と世界を救う為の()()ではなく、1人の()()なのだ。戦うことが姉の役割なれば、心の支えを全力で遂行するのが弟の役割。此処の人々との協力や情報収集も同時並行し、必ず大和を煌めく明日に導いてゆこう。

 

 

 結局、夕食も就寝も姉と一緒に行わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

*1
例の新兵器を開発した、前話での「三十代中頃の二枚目、白衣の下に筋肉の見える、刹那と向かい合わせだった男」の苗字




 英人(カグツチ)の話し方が難しいです。ショタジジイの丁寧と尊大が両立した言葉遣いってこれで良かったのでしょうか。
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