英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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 今回の文章は、普段と比べて短めです。



第36.5話 熱狂と悪鬼

 

  午前5時半、輸送ヘリ内。通常の分隊より1名多く乗り込んでいるものの、特に窮屈さを感じない状況下で、皆は。

 

「巨大CEが北へ向かっているのでありますよね……」

 

「シャロちゃん、心配しなくても大丈夫よ。どうせあの“聖剣使いの英雄”サマが片付けるんだから。」

 

「あんな野郎でも、破壊力の1点だけは、任せていいものですからね〜」

 

「……だから、一緒の方面へ行けと言われなくて安心しました……」

 

「何度も注意した通り、アイツは巻き添えなんて欠片も考えないからな。」

 

「あんなスケコマシの話題は止めぃや!それより一昨日の深夜__」

 

「1時放送のアレですか?その気なら私が口を無理矢理にでも抑えます。お姉様の耳を汚させはしません。」

 

(「……まぁ、皆、相変わらずだ。」)

 

 ……巨大CEや原発守備の話を聞かされた当初は不安や緊張に溢れていたものの、先生のフォローや出撃への慣れもあってか、今は日常的な会話を楽しんでいる。

 

(「放射線も幻子装甲で防げるのか……試したいけど、その為に役目は放棄できない。……にしても英人か、彼奴メディアへの露出も増えてきたよな……」)

 

 ふと、気分転換がてら今週月曜を振り返ってゆく。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

「おい、これ見たかよ!」

 

 その日の昼休み、学生食堂でカツ丼定食を食べていた俺達の元に、剛史と豊生がまたスマホ片手に駆け寄ってきた。

 

「何や、もうスケコマシの写真なんぞ見とうないで。」

 

(「俺は無茶苦茶見たいが。」)

 

「俺だって見たくねえけど、大ニュースなんだよ!」

 

 剛史がそう言って見せてきたのは、今日動画サイトにアップされたばかりの映像だった、のだが。

 

(「__んなぁっ!?嘘だろ……!?」)

 

 流されているのは、英人がタケコプターで宙に浮き、エクスカリバーの光でCEの群れを消し飛ばす、まるで幻想のような現実の光景だったのだ。

 

「何やこれ、誰が撮ったんやっ!?」

 

「どうも雑誌記者らしいよ。」

 

 驚く映助に、今度は豊生がスマホでニュースサイトを見せてきた。

 そこには当日朝発売されたばかりの雑誌・週刊クリエイトで、英人が実際に戦っている写真が幾つも掲載されており、それが合成ではない証拠として、先程の動画が紹介されていたのだ。

 

(「週刊クリエイト……先月末、麗華に付き合って出掛けている最中で接触してきた金木記者の所か。」)

 

「本物のようだな。」

 

「ですね~、この前の木曜日にでも盗撮したんですかね~」

 

 動画内に映る英人以外の人物は、顔にモザイクをかけて隠されていたが、その服装や隊列、背後に見える御代田町の荒れ果てた風景等、どれも俺達の記憶と寸分違いなく、とても伝聞で偽造できるような合成映像には見えなかった。

 

「凄いですね、もう再生数が20万回を超えてますよ。」

 

「今日中に百万回突破しそうな勢いやな。どんだけ儲かるんやろ。」

 

 周囲の皆が話しながら食事を再開し、俺も箸を再び動かして、然し深刻な問題だと1人沈黙しながら考えていた。

 

(「……これは、大丈夫なのか?」)

 

 入学したその日、映助に見せて貰った動画の様に、エース隊員を撮った映像は既に幾つかネットに出回っており、幻想兵器の存在は秘密でも何でもない。

 ただ、普通のエース隊員はあくまで人間の延長線上、CEに対抗できる装甲と武器を持っている特殊な兵士に過ぎない存在だ。

 

 されど、英人の幻想兵器は、そんな範疇に収まるレベルではない。一撃の元にCEを薙ぎ払い、遥か先の地平線まで大地を抉り取る聖剣の光は、最早戦術兵器の規模である。

 明らかに入学当初より増しているその力が、敵ではなく自分達に向いたら、人々がその恐怖を“認識”してしまったら。

 

(「……いいや、否。英人なら、大衆の無意識(そんな物)に負けはしない。祖国に切っ先を向けるなんて事、万が一にも有り得ない。それに、英人の自我が、外部からの認識力に押し潰されるかも、と不安を抱くだけで、英人の敗北を後押ししてしまうから……死んでも御免だ、それだけは。」)

 

 内心で、更に決意を固めつつ、カツ丼を平らげた。

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

「……宗次君、どうした?」

 

「__あ、いえ、問題ありません、弓月分隊長。昨日出された課題について考えていただけです。」

 

「そうか、ならいいけど。」

 

 分隊長から心配されて、咄嗟に誤魔化した。

 

(「まぁ然し、都合が良いと言うべきなのだろうか、動画に付いたコメントも、SNSでの評判も、毎晩凡そ確認しているが、「CEを滅ぼして人類を救う英雄」「姉の想いを継いで天を舞う美少年」だのと、外国語の投稿も含めて絶賛の嵐が続いている。仮にあれらの肯定的評価が、世界規模での人々の認識の縮図だとすれば、成長は順調といった所か。」)

 

 故郷でも、さぞ英人の話題で賑わっているのだろう、と思いたいが。

 

(「生憎村での情報媒体と言えば、ラジオ・新聞・テレビで、インターネット環境は整っていたかどうか……それに、CEからの直接の脅威はおろか、経済被害でも子供の感覚でしかないが大して波及していなかった位だ。俺も「天道寺」の名は記憶にさえ残っていないし……よし、もし帰る機会が訪れたら、英人関連のアレコレも色々買っておいて土産にして知ってもらおう。」)

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

 とまぁ考えたり話したりしているうちに、 原子力発電所の東側へ到着して陣取り待機し、気付けば午前7時を迎えた。

 

「暇やなー、スマホ持ってくればよかったわ。」

 

「怒られるぞ。」

 

 退屈だと芝生の上に寝転ぶ映助に、苦笑して軽く注意する。

 戦闘中に着信音が鳴ったりすれば気が散るし、連絡はヘッドセットの通信機で行える故、当然ながらスマホの持ち込みは禁止である。

 そんな状況で暇を潰す唯一の手段、という訳で、クラス内の仲の良い者達で集まって、呑気にお喋りをしているのが現状だ。

 

「それが酷いでありますよ、あのジャパニーズ・クノイチ。お陰で宗次殿の前で赤っ恥をかかされたでありますっ!」

 

「シャ、シャロちゃん、クノイチも好きなんだ……」

 

「いや、問題はそこじゃなくてですね~」

 

「……待って、あの性悪ピンクツインテール、宗次君に粉をかけようとしていたの?」

 

 ふと耳に入ってきた陽向達の会話が、何やら拙い方向に行っているのを感じ、少し離れながら原子力発電所を改めて眺めてみる。

 

「………」

 

 其れは、もう6年も放置されていた施設だが、流石に危険な放射性物質を扱うだけあり、ヒビ割れなどは全く見当たらない。

 ただ、役目をまっとうする事なく朽ち果てていく、物悲しさだけが漂っていた。

 

(「__「所詮はただの人殺しの術、太平の世では害でしかない」……か。」)

 

 師匠である祖父直々に、そんな表現で無価値と断言された空壱流槍術が、この21世紀で、CEを相手に振るえる機会を、社会的な役割を得られたのは、犠牲者の事を思うと不謹慎ではあるが、やはり幸福な事だったのだろう。

 

(「だが、それも何時まで続くか。」)

 

 約450名のエース隊員全てよりも、いや自衛隊の全戦力さえ超える破壊力を獲得せし天道寺英人(俺のライバル)。彼奴がこのまま成長を続ければ、長野ピラーを消滅させ、日本を長い戦争から解放する日もそう遠くはない筈だ。

 勿論、外国にはまだ沢山のピラーが残っており、国外の数多の人々が救いを求めている、のであろうが。

 

(「英人は、果たして彼等も__他国も救おうとするのだろうか。」)

 

 今でも彼奴の言葉は、耳から詰め込める限り一語一句零さず覚えている。

 __その中に、ピラーへの敵意も、人類全体への救済も、語られてはいなかった。

 

(「英人は、徹頭徹尾日本と日本国民の為に剣を取る男だ。たとえ海外からの認識力(救いの声)が迫ろうと、跳ね除けてしまえる程の自我と意志の持ち主だ。」)

 

 無論、救援に赴く可能性があるかといえば、否定はしない。他国の土地に根差すピラーを討伐する事が、日本の国益に適うのならば、或いは日本政府の指令や国民の無意識の願望さえあれば。

 

(「……俺は、爺ちゃん婆ちゃん達、故郷の皆を守れるならとエース隊に入った。入隊後は新たに、英人の為に、クラスの仲間達や先輩方、先生達出会った親切な大人の方々の為にと戦いたくて……シャロは?」)

 

 彼女は特高内で4人だけの、俺が出会ってきた中で1人だけの()()()だ。英国が、英人の救済の対象外として外され__最悪、日本の利に反するからと刃を向けられたら。

 そして、身近な人々毎自国が助かるなら兎も角、大切な友達・後輩であるシャロの祖国も家族も、日本の国益・日本国民の総意という大義の下で犠牲になるとして、その結果を仲間達が、俺が、容認できるかというと……

 

(「……思えば彼奴は、やれ宿敵だ好敵手だと、前々から自身に対峙する強者を欲していた様であったが……否、楽観が過ぎるな。何れにせよ今の俺としては、仲間や市民を守り、任務を全うし、如何なる敵も撃破して、英人に並び立てる位強くなる、しかない。」)

 

 その先で、もしも英人と、仲間達との利害が衝突する事態が生じるとすれば__

 

(「……?何やら足音が近付いてきて__」)

 

「宗次君、夜中に千影沢音姫と決闘してたって本当なのっ!」

 

「何?」

 

 シャロが俺と音姫との遣り取りについて喋っていたのは知っているが、何故に「決闘」の2文字が出てきたのか、戸惑って返事に窮してしまう。

 大体この様に、口止め願いさえ済ましていないシャロから、第三者へ彼女の振る舞いを漏らされる可能性は十分想定可能な筈なのに、あんな風に本性を晒した音姫には、今更ながら呆れてしまう。

 

(「どうにも考え無しな所があるからな……」)

 

 思慮が浅いのではない。危険を分かっていてその上で踊る、破滅願望を孕んでいるのだ。何のメリットも無いのに、政府の工作員らしき正体を俺に明かした事からして、悪手としか言いようがないのだから。

 それはさておき、変な誤解をしている陽向に、真相を伏せたままどう言い訳しようものか__

 

「__っ!?今、戦いの音がした。」

 

「えっ?」

 

 直ぐ様、西南の方向を睨む。

 此処からは直接見えないが、500mほど先の正面ゲート付近に、1年A組の女子達が居た筈で、その方角から、武器をぶつける甲高い音が響いてきた気がした。

 

「まさか、本当に敵がっ!?」

 

「皆、正面ゲートに向かって、早くっ!」

 

 陽向の発言直後に、ヘッドセットから京子先生の悲鳴じみた指示が飛んで来た。

 

「何やっ!?」

 

「えっ、CEが出たんですかっ!?」

 

「32分隊全員急げっ!30・31分隊背後を注視しながら遅れて続けっ!」

 

 弓月分隊長の指示を背に、先んじて駆け出し__1分後には。

 

「くうっ、こんな時に、腕が……」

 

「立ち上がらなきゃ、抑えなきゃ……っ!」

 

 __到着したその場で、1年A組の女子達が、血反吐を撒き散らし、手足をあらぬ方向に曲げ、苦悶の呻きを上げながら踏ん張ろうと藻掻きながら、20人以上も倒れていた。

 無事なのは正面ゲート付近にいる、音姫ら8人と、その背後に隠れた外国人転校生3名のみ。

 

 そんな、地面に転がっている彼女達の傍に立つ其れが、返り血で赤く染まった透明の体を、ゆっくりと俺達の方に向けてくる。

 

 指も手首もない棒のような腕、同じようにに指の無い棒のような足。内臓が不要なせいか腰が妙に細く歪で、面はのっぺらぼうのように凹凸が無い。

 ただ、CEの象徴たる球体のコアが、胸の中心で赤い輝きを放っている。

 

 それは一昔前の3DCGを思わせる、角ばって生物らしい丸みには遠くありながら、4肢を添え2本の足で直立する、俺達とよく似た形状のモノ。

 

 

 __人間型(タイプ・ヒューマノイド)、後にそう名付けられる事となる、人の形をした悪鬼羅刹が、血に染まった腕をゆっくりと持ち上げ構えた時から、エース隊一般部隊としての対CE戦は、残り3戦へと差し迫ってくるのであった。

 

 





 感想や質問に指摘等、何時でもお待ちしております。

 因みに、以前述べた様に、本作は原作に比べてCEの数や質が増したハードモード仕様となっておりますが、その分出撃間隔が延びております。例えば今回のCE発生は、相当する原作に於いて前回から6日間空けて行われていましたが、本作だと8日間空いております。
 また、エース隊の質が高い分、長野ピラーは群馬県方面を更に警戒し力を込める様にしている為、名古屋方面へのCE進軍は、原作世界よりも数・頻度共に減少し、6月突入以降は出撃されなくなりました。此れにより、自衛隊の負担や危険も軽減されております。

本作品に触れる前に、原作となるネット小説は読んだことあるか

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