英雄《しゅやく》になれぬ筈の槍使いと英雄《しゅやく》に至りし太陽《くろまく》   作:MOGOLOVONIO

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第7話 日常化と幻想兵器

 

  初陣から数日が経った。

 

 あの日の心的負担に苛まれていた刹那だが、流石は軍隊組織。自衛隊所属のカウンセラーと保科、色鐘の二人が特に親身になって接してくれたお陰で、顔色は晴れ食事も量と回数共に取れるようになり、体調不良も見られなくなりつつある。また、恐らく弱った姿を見せ不安がらせたくなかったのかあの日より避けていた己との接触も戻り、今夜は共に眠りたい、と告げていた。

 

「__それで、ね。また少ししたら、CEが活発になるそう、だからその日にもう一度、戦うんだ。」

 

「なるほど、では新兵器__幻想兵器とやらの性能分析や実戦における運用方法も固まりつつあるのだろう。どの程度の出撃頻度になるかは不明だが、どれ位の時間と範囲と敵について兵器と姉上に頼るかが確定すれば、姉上の役割も変わってくるのかもしれんぞ。」

 

「う、うん…そうなんだね。それで、今度もすんごく、活躍して無事で、帰ってくるからその日は、留守になるけど大丈夫だよ。」

 

 然し心は完治できていないのか、はたまた別の理由か、辿々しい口調である。それと“大丈夫”とは何方に宣しているのか。だが大人たちの世話もあるから信じておこう。

 

「承知した。それにしてもここの食事はやはり栄養も、味も食べごたえもあって中々良いものだ。」

 

「ホントだね。この魚のソテーも美味しいし食べやすいよ。…ところで、暫く一緒に居られなかったけど、寂しくなかった?」

 

「問題ない。此処の方々とも仲良くやっている。それに離れていたのも検査や訓練に会議への参加と多忙な上に万が一の副作用や姉上と己の安全性を考慮してのもの*1であろう。己のことなど気にせず、姉上は姉上の役目を生きて果たせばよい。」

 

「___………ありがとう、励みになるよ。」

 

 昼食を済ませた後、刹那は幻想兵器運用の練習と会議に、己は日課となった読書と交流と外部情報の入手に動き、夕食も就寝も共にした。その後数日間はそうやって過ごし__

 

「英人、行ってきます。最初のときと同じで無事に帰ってくるから安心してね!」

 

「油断はするなよ姉上。武運を祈る。」

 

 朝方から姉上は再び部隊を伴い出陣。見送った後は不安を懐きつつも前回と同じく好むものを購入しながら交流と情報収集をしている内に、夕方帰還。今回も損害は被っていないようだが果たして__

 

「ただいま。また大活躍だったよ。」

 

 疲労こそ見られるが、身体のみならず態度も一見問題なさそうであった。

 

「おかえり姉上。今夜もゆっくり休んでくれ。__それと自衛隊の方々、姉上を支えてくれて感謝する。」

 

 御辞儀をすれば彼らも感謝と会釈で返してもらった。その後、今夜は独りで食事を__

 

「おーい、刹那姉さんがいないならお兄さんたちと一緒にまた食べようぜ!」

 

「また誘っていただき感謝する。では共に夕食を頂こうか。」

 

 刹那初出陣の日から彼女を伴わない食事は、気遣いや外部の子どもへの好奇心から、隊員の誘いがくるようになった。

 

 そういった日々を過ごす内に、9月が訪れた。この頃になれば、流石の刹那も戦闘に慣れ、精神状態の回復を待つ必要も薄れてきた。

 そんな基地環境にも兵器運用にも慣れてきたことから我ら姉弟は、それぞれ数ヶ月ぶりに学校で本来習うべき範囲の勉強を、あくまで機密保持と安全のため基地内の者のみではあるが大人に教えてもらうことに決まった。

 

「は〜〜あぁ、まさか今年も毎年みたく勉強始まるのかぁ。嫌だなぁ。」

 

「仕方ないさ姉上。幾ら自衛隊と日本の“英雄”だとて、戦う役目が終われば()()()。基礎学力と礼儀と勤労意欲が生きてゆく上で求められるのは当然の理だ。姉上とて将来「昔は戦って日本を救った英雄ですが今は無職です」など真っ平御免であろう。」

 

「……いや、確かにニートもホームレスにもなりたくないし、何より頑張っていく中で京子ちゃんや綾子ちゃんに隊員のみんなが一生懸命働いて感謝しきれない位に支えてくれたから、()()でなくなったってちゃんと立派な大人になりたいけどさ……」

 

「なに今はそこまで深刻に深慮する必要はない。勉強という嘗てと同じ日常の一行程が入れる程に姉上は適応できた証明であり、戦闘などの使命と責任の重い仕事の息抜きとでも思っておけばよかろう。尤も今の姉上の精神と頭脳ならば、勉強の方が過酷な()()になるであろうな。」

 

「……励ましに喜べばいいのか姉への悪口に怒ればいいのか分からないけど、とりあえず頑張るよ。でもそういう英人はどうなの?」

 

「己は仔細問題ない。勉強は元々好きなのだ。それに姉上不在の時も常に予習復習は重ねてきた。」

 

「あ〜〜、うん、そっか。…英人、賢いし真面目だもんね。」

 

「己はまだ小学生だが、何れ大人に成れば日本の復興に貢献する所存だ。何より他の児童より遥かに恵まれた環境にあるのだ、努力せねばCEの被害に苦しむ者たちに顔向けできん。」

 

「__……そうだね。戦うのは大変だけど、英人と一緒に美味しいご飯と個室を与えられて、大人たちに支えてもらって、本当に恵まれてる。なら頑張らないと。私たちを支えてくれるここの人たちのためにも、CEに怯えてつらい思いをしているみんなのためにも!」

 

「その意気だ姉上。己も弟として、何であれ支える腹積もりである。」

 

 数日後、刹那の日々は勉強と鍛錬と兵器運用訓練、その合間に休憩が挟まれ、CE襲撃や遠征を時折実施することになった。

 

 刹那はといえば、観察する範囲において鍛錬では流石の体力と運動感覚でもって活き活きと熟しており、兵器運用にて楽しげに未知へと触れ合っていた一方で、勉強となるとやはり能力面でも性格面でも相当苦戦している模様*2である。

 実戦については当然同行できぬ上、聞こうにも唯の少年に過ぎぬ己には限られた情報しか提供してくれぬがしかし、その情報に加えて帰還する部隊と姉上の様子を覗えば今のところ自衛隊の被害も姉上の不調も見られることはない。

 

 よって己は、次第に薄まる面倒(メンタルケア)の必要性と時間の代わりに、勉強*3と運動、読書に交流を更に増していった。 

 

 

 その平穏な日々を過ごす内に、幻想兵器の運用と対応に変化か生じていた。

 

 例えば平和な時の、昨日予習として言い渡された因数分解に保科の下悪戦苦闘しているであろう日には――

 

「英人!今日ね、必殺技発明したし、学校もできるって言ってたし、戦ってるとこネットに載せるんだって!」

 

「__それはそれは。興味深い話が山盛りであるな。」

 

 曰く、幻子装甲*4を拳に集めて車を殴り飛ばす“集中幻子拳(ピンポイントファントムパンチ)”を編み出したと。

 曰く、幻想兵器使いを養成、増員する計画とその為の()()を思案していると。

 曰く、市民の幻想兵器使いに対する認知を生むべく戦闘動画のネット公開を予定していると。

 

 この話の内、第一を除けば影山の考えであり、既に防衛大臣の許可も承諾済みらしい。実際、昨日から東京へと外出中であるのは基地内で廻って聞いた隊員の話から把握していたが__

 

「姉上、戦闘動画の撮影であろうが先ず我が身と効率が第一と心得ておけ。パフォーマンスは英雄の仕事の内だが、カメラ映りに気を取られ無様を晒すのも怪我を負うのも論外だ。死ねば人生も戦いもそれまで、作戦遂行は戦士の責務。そうでなくとも失敗で民衆に笑われる英雄など希望を踏みにじるだけだ。」

 

「……来たばかりの頃は優しかったのに段々厳しくなってない?それに折角ワクワクしてたのに…。でもまぁ忠告してくれてありがとう。」

 

「礼には及ばぬ、姉上が失態を犯すのも傷つくのも日本の大損害__で何より弟として不安である故。何息抜きも大事だが、実戦では勝って兜の尾を締めよだ。」

 

 その日の晩に刹那は、勉強に頭を抱えた結果か、嬉しいこと続きに思えたからか普段より早めに就寝した。

 

 

(「幻想、精神力__刹那は以前、自身の兵器はケルト神話に登場する光る剣であったと述べていたが__。」)

 

 心は直接的にも物理的な力となり得る。それはこの旧西暦21世紀において本来出鱈目、唱える者は詐欺か妄想の類と扱われるものだ。

 されど新西暦においては異なる。少なくとも己が開発した星辰奏者の身体能力と星辰光は、精神力に応じてある程度変動し、人造惑星に至っては躯が生前懐いた衝動によって活動する。己など気合と根性と宿敵との誓いあればこそ、損壊した身体の復活も本来の性能評価の超越も成し得なかった。

 

 無論、星辰体と幻子が同一であると現状確認できぬ以上、性質の同一視をする気はないが、少なくとも刹那の私的な兵器運用報告によると精神状態が性能に響いている模様であった。

 

(「幻想兵器の理屈は解らぬが、気になるのは態々戦闘動画をインターネット媒体に載せる点だ。」)

 

 確かに今の日本政府は、WEB上でも動画発信しており、動画にてCE襲撃時の避難対応普及や政府の生活面等の支援宣伝といった情報を伝えるようになった。CE反撃の糸口となり得る幻想兵器の扱いが、軍事機密から士気高揚の旗となり、国内外の政治にとっても追い風になると判断されたなら間違いではなかろう。そして刹那が赴く戦場が撮影の余裕を確保できるのであらば、さぞ安全で爽快な活劇を民草も外国も視聴する、というのが影山と政府の望む対CE戦の新展開であると想像される。だが然し__

 

「__もう寝ようか、己が創ったのでも観測するでも活用するのでもないのだ。小学生の立場と肉体では埒が明かぬし喫緊の考察でもなかろう。」

 

 

 既に寝静まった刹那の隣でそう独り言を呟き、運命の部外者は瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

*1
という建前で説明されたが刹那と弟の精神状態への懸念も本当は含まれると予想される

*2
尤も教育担当の保科は、大学院生に過ぎず未成年の劣等生への対応に不慣れであろうことも一因だが

*3
尚社会・算数・理科・家庭・保健は元々同年代以上に進めてきた故、縁の浅い芸術系と人心理解の一環でもある児童用文学に集中されていた

*4
幻想兵器を形成する、精神に呼応する謎の物質“幻子”の力により作られる装甲。刹那と複数隊員の話によると精神力のエネルギーが生み出すバリアらしい。

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