ツナの過去編を待っていた方はごめんなさい。
~2017年9月~
暗い嵐の夜、とある輸送列車のあとを空を覆い隠すほどのノイズの群れが追っていた。
輸送列車は防衛システムを発動させ弾幕を張り、ノイズを追い払おうとするが、弾丸はノイズ達をすり抜けるだけで効果が見られない。
そして鳥型が形を変化させ車両の一つに特効を仕掛け、爆発が起こる。
「きゃっ!」
「大丈夫ですか!?」
その爆発によって生じた振動に、友里が足をとられ倒れこみ、そんな彼女を、白衣を着て眼鏡をかけた男性─ジョン・ウェイン・ウェルキンゲトリクス(通称:ウェル博士)が、輸送ケースを大事そうに抱えながら心配する。
「平気です!それよりウェル博士はもっと前方の車両に避難してください!」
「大変です!すごい数のノイズが追ってきます!」
友里がウェルに避難を促していると、二人がいた車両に奏者である響とクリスが駆け込んできた。
「連中、明らかにこっちを獲物と定めていやがる!まるで、何者かに操られてるみたいだ…!」
「急ぎましょう!」
友里はウェルと響達を連れて前方の車両に避難を開始した。
「そういえば沢田くんは?」
「ツナならもうすでに、『俺ならどれだけ車両から離れてもすぐに追い付けるから』といって、ノイズの対処に向かいました!」
友里が避難しながらツナのことを聞くと、響はツナがすでに戦場に出ていることを伝える。
「第71チェックポイントの通過を確認!岩国の米軍基地への到着まではもうまもなく─ですが!」
「こちらとの距離がのびきった瞬間を狙い撃たれたか…」
響達が乗る輸送列車が襲われていた頃、弦十郎が指揮を執っている指令室は慌ただしくしていた。
「指令、やはりこれは…!」
「あぁ…何者かが、『ソロモンの杖』強奪を目論んでいるとみて間違いない」
弦十郎は真剣な面持ちでそう言いきった。
「はい…はい─多数のノイズに混じって高速で移動する反応パターン?」
「三ヶ月前、世界中に衝撃を与えた『ルナアタック』を契機に、日本政府より開示された櫻井理論─そのほとんどが、未だ謎に包まれたままとなっていますが、回収されたこのアークセプター─『ソロモンの杖』を解析し、世界を脅かす、認定特異災害『ノイズ』に対抗しうる、新たな可能性を模索することができれば…!」
友里達が最前列の車両まで避難しおえ、ウェルがノイズへの対抗策についてのべていると、クリスが立ち止まる。
「─そいつは…『ソロモンの杖』は、簡単に扱っていいもんじゃねぇよ」
「クリスちゃん…」
「最も、あたしにとやかく言える資格はねぇんだけどな…」
バツの悪そうな顔でクリスが呟く。すると直後、響が彼女の手を両手で握った。
「なっ…ば、バカ!お前こんなときに!」
「大丈夫だよ!」
「─っ!お前、本当のバカ!」
クリスがそっぽを向く。
「─了解しました!迎え撃ちます!」
「出番なんだよな!」
クリスの言葉に友里がうなずく。その直後、響達がいる車両の天井にノイズが突き刺さる。
それに驚いたウェルは悲鳴をあげながら尻餅をつき、友里は拳銃で応戦する。
「いきます!」
《Balwisyall Nescell gungnir tron…》
《Killiter Ichaival tron…》
響の体にシンフォギアが纏われる。響の纏ったシンフォギアは、エクスドライブモードに一度覚醒したことによってギア自体の性能が上昇すると共に当初のカラーリングから変化しており、黒の面積が減る代わりに白と橙の面積が広がり、マフラー状のパーツなど、いくつかのパーツが追加されている。
響はシンフォギアを纏うと、クリスと共に天井を突き抜け外に出る。
「群れスズメ共がうじゃうじゃと!」
「どんな敵がどれだけこようと、今日まで訓練してきたあのコンビネーションがあれば!」
「あれはまだ未完成だろ?実戦でいきなりぶっこもうなんて、おかしなこと考えてんじゃねぇぞ?」
クリスが響に注意を促す。そんな彼女の纏うシンフォギアも当初の外観とは少し違い、ヘッドパーツや腕パーツ、腰パーツの形状とカラーリングが変化していた。
「とっておきたい、とっておきだもんね!」
「フン、わかってるなら言わせんな」
そう呟き、クリスがアームドギアを弓状に変化させる。
「背中は預けたからな!」
「まかせて!」
響とクリスは互いに背を向けながら戦闘態勢にはいる。
「ぎゅっと握った拳 1000%のThunder」
そして、響が歌を紡ぎ始めたと同時に、クリスが矢を乱射し空中のノイズを蹴散らしていく。
「解放全快…3,2,1,ゼロッ!」
それに合わせ響が飛び上がると、クリスの攻撃から逃れたノイズを空中でうまくバランスをとりながら倒していく。
すると三体のノイズがクリスの背後に襲いかかるが、一瞬にして移動した響がパンチで二体倒し、残りの一体をサマーソルトキックで倒す。
「なぜ私でなくちゃならないのか? 道なき道…答えはない」
その間にクリスは、大型化させた両手のクロスボウに2連装する赤紫色のクリスタル状の矢を上空に向けて左右に放つ。
すると、射線上の敵を穿ちつつ一定の高度まで到達した矢は割れるように分裂し、無数の小片があたり一面に降り注ぎ、広範囲の敵を一気に殲滅していく。
『GIGA ZEPPELIN』
クリスの大技によって大量のノイズを殲滅される。その直後、爆炎をかわしながら高速で移動する個体が現れた。
「あいつが取り巻きを率いてやがるのか!」
『MEGA DETH PARTY』
新たな個体を見つけ、クリスが放った大量のミサイルが、群れを率いているノイズ─翼獣型に襲いかかる。しかし、翼獣型はすべてのミサイルをスピードで上回り回避した。
「だったらぁぁ!」
『BILLION MAIDEN』
今度はガトリングで狙うが、相手の移動速度が早すぎてまともに狙うことが出来ていない。
すると、今度は翼獣型が突貫してくる。クリスはそれを撃ち落とそうとするが、翼獣型が展開した装甲によって弾丸がすべて弾かれてしまう。
「っ…!」
「クリスちゃん!」
響はハンマーパーツを引き絞ると、突貫してくるノイズにむかっていく。そして拳を当てることには成功するが、倒すどころか装甲に傷を入れることすらできなかった。
ノイズはそのままクリスめがけて突っ込んでいく…
「ハアァ!」
しかし、高速で移動してきた人物が装甲を横から全力で殴り飛ばして方向転換させ、クリスも輸送列車も無傷ですんだ。
「大丈夫か!」
「ツナ!」
「ったく、来んのが遅ぇんだよ!」
ツナはクリスの隣に降り立つと、二人の無事を確認する。
彼をみた響は顔に笑顔を浮かべ、クリスも文句を言いながらも、どこか安心した様子が受け取れる。
(ノイズとは、ただ人を殺すことに終始する単調な行動パターンが原則のはず…だが、あの動きは─目的を遂行すべく制御されたもの…『ソロモンの杖』以外にそんなことが…!)
指令室で響達の戦闘をみていた弦十郎は、ノイズの動きから相手が何者かに調教されたものだと考えていた。
「あん時みたく空を飛べるエクスドライブモードなら、こんな奴にいちいちおだつくことなんてねぇのに!」
クリスが翼獣型をガトリングで狙いながら、苦言を述べる。
「─!?つ、ツナ!クリスちゃん!!」
「?」
「あぁ?」
そんななか、後ろをみた響が慌ててツナとクリスに呼び掛ける。
それに疑問を抱いたツナとクリスが後ろを振り向くと─トンネルの入り口がすぐそこまで迫っていたのだ。
「「う、うわぁぁ!」」
「響!」
ツナが声をかけると、響はすぐに自分の足元を殴って穴を開けるとすぐに中に避難する。
そしてツナも、一瞬でクリスを抱き寄せると、響が作った穴から列車の中に避難する。
「ギリギリセーフ…!」
「わりぃ、助かっ─!!?」
クリスがツナにお礼を言おうとしたが─直後、自分がツナにお姫様だっこされていることに気づき顔を真っ赤にする。
「ちょっ、早くおろしやがれ!」
「あ、あぁ…」
焦るクリスにそう言われ、ツナは戸惑いながらも優しく彼女をおろす。そんな二人を、響がすぐ近くでジト目でみていた。
「たく…それにしても、クソッ!攻めあぐねるとはこういうことか!」
「─そうだ!」
「何か閃いたのか?」
おろされたクリスが不満を述べた直後、彼女の言葉から何やら作戦を思い付く響。そんな彼女が提案したのは─
「師匠の戦術マニュアルで見たことがある!こういうときは、列車の連結部を壊してぶつければいいって!」
─なんとも常識外れな作戦だった。
「ハァ…おっさんのマニュアルってば面白映画だろ?そんなのが役に立つものか!だいたい、ノイズに車両をぶつけたって、あいつらは通り抜けてくるだけだろ?」
「─なるほど、そう言うことか!」
響の考えを聞いたクリスが異議を唱えるが、ツナは響がやらんとしていることに気づく。
「お!ツナは私の考えわかっちゃった?」
「あぁ…それならオレも協力するぜ」
「?」
二人の話に追い付けないクリスが首をかしげる。しかし、三人が話をしている間にも、ノイズ達は列車のあとを追ってきているのだ。
「急いで!トンネルを抜ける前に!」
響達が列車の最前列と二両目の連結部付近まで来ると、クリスが連結部を撃ち抜いて破壊する。
「サンキュー、クリスちゃん!」
「本当にこんなんでいいのかよ?」
「あとは、これで…!」
クリスに感謝を伝えた響は車両同士の隙間に入り込むと、足に力を込めて切り離された車両を押しだす。
切り離された車両はそのまま減速していき、ノイズに衝突しかけるが─ノイズ達はクリスの言った通り、車両をすり抜けていく。
しかしトンネルの出口では、響は巨大化させた右腕のアームドギアを構え、ツナはナッツを『
「君だけを(守りたい)だから(強く)飛べ」
車両から翼獣型の先端が見え始めた直後、二人が同時に動く。
響はアームドギアの肘部後方に噴射口を設ける2基のバーニアをふかせ接近し、ナックルガードを展開すると内臓式のスクリューのような軸回転機構が稼働する。
そしてツナはガントレットに炎を収束させながら左手から炎を噴射しノイズに急接近する。
「響け響け(ハートよ) 熱く歌う(ハートよ)」
「バーニングアクセル!」
二人の拳が翼獣型の装甲の先端に突き刺さる。
「へいき(へっちゃら) 覚悟したから」
響のアームドギアのスクリューがさらに回転速度をあげ、ハンマーパーツが打ち込まれる。そして─
響のアームドギアとツナの炎によって、翼獣型ノイズは装甲を破壊されながら爆発し、その爆風が後方から接近していた残りの鳥型達をすべて飲み込んでいった。
(閉鎖空間で、相手の機動力を封じた上、遮蔽物の向こうから重い一撃…あいつ、どこまで…!)
車両端からその光景をみていたクリスは、響の成長に驚いていた…
「これで、搬送任務は終了となります。ご苦労様でした」
「ありがとうございます!」
その後は岩国の米軍基地までの道のりでノイズに襲われることはなく、無事に任務は終了した。
「ハァ…疲れたー…」
「確かめさせてもらいましたよ─皆さんが、『ルナアタックの英雄』と呼ばれることが、伊達ではないとね」
「英雄!?私達が!?」
ウェル博士はツナ達に近づくと、称賛の意を述べる。
「いやぁ!普段誰も誉めてくれないので、もっと遠慮なく誉めてくださいよ~!むっしろ、誉めちぎってくださ─アイタ!」
「このバカ!そういうところが誉められないんだよ!」
ウェルに誉められ調子に乗る響をクリスが叩く。
「痛いよ~クリスちゃ~ん…」
「アハハ…」
そんな二人のやり取りを、苦笑いしながら見ていたツナ。そんな彼に、ウェルが視線を向ける。
「君の戦いも、少しだけですが見させてもらいました─正直、シンフォギア以外にもノイズを倒す力を持つものがいたとは信じられませんでした…ですがあの戦いをみて、君も『ルナアタックの英雄』であるということを納得できました」
ツナにそう話すウェル。しかし、当のツナは眉間にシワを寄せ、首を横に振った。
「別に、そこまで称賛されるようなことはしてませんよ。俺はただ、響達や二課の─俺の大切な人達を守るためにしただけですから…それに─俺には英雄なんて言葉、似合いませんから…」
ツナは暗い表情でウェル博士にそう話した。
「─君に何があったのかは知りませんが、世界がこんな状況だからこそ、僕たちは英雄を求めている!そう!誰からも信奉される、偉大なる英雄の姿を!!」
「アハハ!それほどでも~!」
響はウェルの言葉に喜んでいたが、ツナは彼の発言及び表情から異様な狂気を感じ取っていた。
(なんだろう…この人、英雄に固執しすぎている気がする…)
「皆さんが守ってくれたものは、僕が必ず役立ててみせますよ」
「ふつつかなソロモンの杖ですが、よろしくお願いします!」
「頼んだからな!」
会話が終わると、米軍基地の兵士がソロモンの杖が入ったケースを持ち、ウェルの後ろを歩いていく。そんなウェルの後ろ姿を見ていたツナはとてつもなく嫌な予感を覚える。
(このままあの人を行かせてしまったら、いつか後悔することになる…そんな気がする…なんでだ…?)
「無事に任務も完了だ!そして…」
「うん!この時間なら、翼さんのステージにも間に合いそうだ!」
ツナが不安を覚えるなか、任務が早めに終わったことで数時間後に予定されている翼のライブに行けるかもしれないと喜ぶ響。そんな彼女に友里がいい情報を伝えた。
「皆が頑張ってくれたから、指令が東京までヘリを出してくれるみたいよ!」
「マジっすか!?」
「─そういえば友里さん…さっきの戦いでなくなった人達は、どのくらいいたんですか?」
友里の話を聞き響が喜んでいると─ツナは思い出したように友里に質問する。
「─最後列の車両の防衛システムを制御していた三人の職員だけ…綱吉くんがすぐにノイズの対処を始めてくれたお陰で、被害は最小限に留めることが出来たのよ」
「そう…ですか…」
「ツナ…」
友里の答えを聞いたツナは、安心したような─それでもどこか苦しそうな表情を浮かべる。
「やっぱり、誰かが死ぬのは嫌?」
「はい…たとえ、多くの人が助かったとしても、やっぱり誰かが─仲間が死ぬのは、とても辛いです…」
眉をひそめ、そうこぼすツナ。
「…死んでいった職員達は、君みたいな優しい子に仲間だと思ってもらえて、天国で喜んでいると思うわよ」
そんなツナに友里がそう言って微笑みかける─その直後、米軍基地で大爆発が起こる。そして、爆炎の中から大型のノイズが姿を現した。
「基地が!」
「マジすか…!?」
「マジだな!」
その光景を見たツナ達は、ノイズの侵攻を止めるため、米軍基地に走っていった…
その頃、とあるライブ会場では、一人の女性が観客席から、真剣な面持ちで準備風景を眺めながら鼻唄を歌っていた。
すると、女性の携帯が鳴り出し、電話に出る。
『こちらの準備は完了。サクリストSが到着次第、始められる手はずです』
「─グズグズしてる暇は無いわけね…OKマム、世界最後のステージの幕を開けましょう!」
女性─マリア・カデンツァヴナ・イヴは、席から立ち上がると電話の相手にそう宣言した…
『はい…既に事態は収拾。ですが行方不明者の中にウェル博士の名前があります…そして、ソロモンの杖もまた…』
「そうか…わかった!急ぎこちらに帰投してくれ!」
『わかりました…』
特異災害対策機動部二課─特機部二の指令室にて、友里の報告を聞き遂げた弦十郎は、モニターに写し出された襲撃現場の写真に向き合う。
「今回の襲撃、やはり何者かの手引きによるものなんでしょうか?」
藤尭がそう問いかけると、弦十郎は黙りこんでしまう。
「それにしても、かなり手のこんだ襲撃だったな」
そんなとき、やはり大人だらけの場には似つかない子供の声が響く。
「リボーンくん!」
弦十郎が振り返ると、部屋の角で、椅子に座りながら、優雅にコーヒーを飲んでいるリボーンがいた。
リボーンはコーヒーを飲みながら語り始める。
「輸送時と輸送後の二つの襲撃…しかも輸送後に関しては装者やツナが任務を終えて油断してるタイミングで起こりやがった…相手は相当な数の情報網を持っているか、それとも二課内か米軍内のどちらかに裏切り者かがいるか…もしくは…」
『もしくは?』
弦十郎と藤尭がリボーンに注目する─
「ま、あとはお前達で考えることだな」
そう言われ、二人は椅子に座った状態でずっこける。
「ちょっ、リボーンさん!そこまで言ったなら勿体ぶらず教えてくださいよ!」
「自分で考えることも時には必要だぞ?それに、オレは家庭教師だからな。ヒントはやっても答えまでは言わねえぞ─それじゃあオレは、この後用事があるから帰らせてもらうな」
リボーンはそう言うとコーヒーを飲み干し、部屋を出ていった…
『この盛り上がりは皆さんに届いていますでしょうか!世界の主要都市に生中継されている、トップアーティスト二人による夢の祭典!今も《世界の歌姫》マリアによるスペシャルステージに、オーディエンスの盛り上がりも最高潮です!』
「さすがはセレナチャンのお姉さんだ!とっても歌がうまいね♪」
「はい!私の自慢の姉さんですから!」
「チャオっす、今帰ったぞ─お、もう始まってるようだな」
「お帰りなさい、リボーンおじさま」
特機部二を後にしたリボーンが家に帰りつくと、リビングでマリアのライブに熱中しているセレナと、そんな彼女を楽しそうに眺める白蘭の姿があった。
「─どうしたユニ?調子が悪いのか?」
そんななか、リボーンはユニがいつもと少し違うことに気づく。
「やっぱり、リボーンおじさまに隠し事はできませんね…」
「─こないだの『予言』と何か関係があるのか?」
「はい…」
「そうか…」
彼女が暗い理由に気づいたリボーンは、それ以上なにも聞かず、テレビに写し出されているライブの鑑賞を始めた…
「状況はわかりました!それでは翼さんを…」
『無用だ。ノイズの襲撃と聞けば、今日のステージを放り出しかねない』
「そうですね…では、そちらにお任せします」
リボーンがライブ中継に意識を向けたちょうどその頃─ライブ会場の裏にて、緒川が弦十郎との通話を終わらせる。そんな彼に、歌手としてライブ会場に来ていた翼が問いかけた。
「指令からはいったい何を?」
「今日のステージをまっとうしてほしいと」
緒川が─眼鏡をつけながらそう答えると、翼はため息をつき、椅子から立ち上がり緒川に近づく。
「眼鏡をはずしたということは、マネージャーモードの緒川さんではないということです!自分の癖ぐらい覚えておかないと、敵に足元を掬われ「お時間そろそろでーす!お願いしまーす!」はい!今行きます!」
緒川に詰め寄っていた翼だったが、ライブのスタッフに呼ばれ、問い詰めるのを断念しステージへと向かう。
「傷ついた人の心を癒すのも、風鳴翼の大切なつとめです─頑張ってください!」
「…不承不承ながら、了承しましょう。詳しいことは、後で聞かせてもらいます」
「はい─それともうひとつ、奏さんから伝言を預かってきました」
スタッフの後を追っていた翼は、奏からの伝言があると聞き歩みを止める。
「奏から?」
「はい─『今日のライブ、精一杯楽しんでこいよ!』とのことです」
驚く翼に緒川が伝言を伝えると─翼は笑みを浮かべた。
「そう…ありがとう、奏」
そして、翼はそう呟くとステージに足を向けた。
その頃、ライブ会場から少し離れたところで、簡易的な制御室のような施設で、マリアのライブを眺める老女性がいた。
すると、近くのモニターに文字が写し出される。
《
「ようやくのご到着…ずいぶんと待ちくたびれましたよ…」
老女性─ナスターシャ・セルゲイヴナ・トルスタヤ(通称:ナスターシャ)は、モニターに写し出された、ラテン語で警告の意味を持つ文字をみて、そう呟いた…
一方ライブ会場では、会場内をマリアコールが埋め尽くしていた。
「おぉ!さっすがマリア・カデンツァヴナ・イヴ!生の迫力は違うねー!」
「全米チャートに登場してからまだ数ヶ月なのに、この貫禄はナイスです!」
「今度の学祭の参考になればと思ったけど、さっすがに真似できないわ~!」
「それは始めっから無理ですよ、板場さん?」
会場に来ていた板場と寺島がその光景に盛り上がるなか、一緒に来ていた未来は腕につけた時計で時間を確認する。
そんな彼女の内心を察した安藤が問いかける。
「まだビッキーやツナから連絡こないの?メインイベントが始まっちゃうよ?」
「うん…」
「せっかく風鳴さんが招待してくれたのに、今夜限りの特別ユニットを見逃すなんて…」
「期待を裏切らないわねぇ、あの子達ったら!」
「それにセレナさん達も、会場ではなくテレビの中継で鑑賞することを選ぶなんて…」
「あれだよあれ!拗らせファンって奴だよ、たぶん!」
そんなことを話す寺島と安藤。その直後、会場内が暗転し歓声と共に、会場の奥からステージに向けて、流れるようにペンライトが照らされる。
そしてメインステージ中央に二人の影が現れ、スクリーンに《Maria × Tubasa》という文字が写し出された。
「見せてもらうわよ、戦場に冴える抜き身のあなたを!」
マリアと翼がスポットライトに照らされ、二人のライブが始まった…
「翼さんのライブ始まっちゃったよ~!」
「ま、しょうがねぇわな…」
ライブ会場に向かうヘリの中では、搭載されていた小型モニターに翼達のライブ映像が写し出されていた。
映像をみて響とクリスがそれぞれの反応を示すなか、ツナは翼のライブを見ながら、ユニの話していたことを思い出していた。
それは、今から一週間ほど前のこと…
「沢田さん…」
「どうしたのユニ?」
いつものようにツナが洗濯物を干していると、唐突にユニが話しかけてきた。そして─
「─近い日に、また事件が起こります。それも、ルナアタックと同等の規模の事件が…」
ユニは予言で見た内容を伝えた。
「えっ!?あれと同じ規模の事件がまた…!?誰がそんなことを!?」
「それは…「はーい、そこまで♪」白蘭?」
ツナが事件の詳細について聞こうとすると、白蘭がユニの話を区切る。
「それは、起こってからのお楽しみ♪サプライズって奴だよ♪それじゃあユニチャン、一緒に買い物に行こうか♪」
「ちょっ、待てよ白蘭!」
そう言って白蘭は、ユニをつれて買い物に出掛けていったのだった…
(あの日以降、何度もユニに聞こうとしたけど、毎回はぐらかされて聞けなかった…もしさっきの二つのノイズ襲撃が、ユニが言っていた事件の予兆だとしたら…)
ツナはそんなことを考えながら、翼達の歌を聞いていた…
「ありがとう、皆!」
会場の方では、歌が終わり翼が前に出ると歓声が響き渡る。
「私は、いつも皆からたくさんの勇気を分けてもらっている!だから今日は、私の歌を聞いてくれる人たちに、少しでも勇気を分けてあげられたらと思っている!」
「私の歌を全部、世界中にくれてあげる!振り返らない、全力疾走だ!ついてこれる奴だけついてこい!」
翼の言葉に会場内が色めき立ち、マリアの言葉で世界中の人々が歓喜を露にする。
「今日のライブに参加できたことを感謝している!そしてこの大舞台に、日本のトップアーティスト─風鳴翼とユニットを組み歌えたことを!」
「私も、素晴らしいアーティストと巡り会えたことを、光栄に思う!」
そう言って互いに握手すると、再び歓声が沸き起こった。
「あなたのパートナー─天羽奏のことも聞いているわ。二年前のライブ会場での悲劇以降、ずっと昏睡状態だった彼女が三ヶ月ほど前に目を覚まし、現在肉体の状態を戻すためリハビリ中という話をね…両翼揃ったツヴァイウィングの復活も近いという噂も耳にしているわ」
「そうか…私も、また奏と共に歌を歌えることを楽しみにしているところだ」
奏と共にステージに立つ未来を思い浮かべ、微笑みを浮かべる翼。
「私達は世界に伝えていかなきゃね…歌には力があるってことを」
「それは、世界を変えていける力だ!」
翼がそう答えると、マリアが翼に背を向けて少し距離をとる。
「─そして、もうひとつ」
そう言って、マリアがロングスカートをなびかせながら観客の方を向いた直後─会場のいたるところにノイズが現れた。
それにより、会場内は悲鳴に満ち溢れ逃げ出す人でごった返してしまう。
「うろたえるな!」
だが、マリアの一声で会場内は静まり返った。
「ノイズの出現反応多数!場所はクイーン・オブ・ミュージックの会場!」
「なんだと!?」
ノイズの反応を探知した二課の指令室では、弦十郎が出現場所を聞いて驚きを露にする。
「遅かりし…ですが、ようやく計画を始められます」
ライブ会場の映像をみたナスターシャはそう呟くと、謎の物体が写し出された機械をいじり始めた…
その頃、ライブ会場の人達はいきなり現れたノイズに怯えていた。
「ア、アニメじゃないのよ!?」
「なんでまたこんなことに…!」
「─響、ツナ…」
そんな中、未来は未だに来ない二人の親友の顔を思い浮かべた…
「了解です!装者二名と綱吉くんをつれて状況介入まで40分を予定、事態の収拾にあたります!」
友里は通話を切ると、後ろに乗っている三人に顔を向ける。
「聞いての通りよ…疲労を抜かずの三連戦になるけど、お願い…」
友里の頼みに三人が無言で頷く。
「またしても操られたノイズ…」
「詳細はまだわからないわ…だけど…」
「だけど?」
「─ソロモンの杖を狙った襲撃と、ライブ会場のノイズが無関係とは思えない…ですか?」
今度はツナの質問に友里が無言で頷く。
(ライブ会場のノイズ…あれはおそらく、行方不明になったソロモンの杖で操られているノイズで間違いない筈…俺達が米軍基地で戦っている間に移動すれば、間に合わなくもない…ただその場合、ソロモンの杖の輸送中のノイズの襲撃は─まさか!?)
一人考え込んでいたツナは超直感を用いて、あるひとつの可能性を導きだした…
一方ライブ会場のステージでは、翼が首にかけたペンダントを露にし、いつでも戦える用意をしていた。
「怖い子ね?この状況にあっても私に飛びかかる機を伺っているなんて…でも逸らないの。オーディエンス達が、ノイズからの攻撃を防げると思って?」
「クッ…!」
「それに…」
マリアは会場内にあるモニターに目を向ける。
「ライブの模様は世界中に中継されているのよ?日本政府はシンフォギアについての概要を公開しても、その装者については秘匿したままじゃなかったかしら?ねぇ、風鳴翼さん?」
彼女のいう通り、ライブ会場にはいくつものカメラが設置されており、特にステージの映像は死角なく写されていた。
「甘くみないで貰いたい!そうとでも言えば、私が鞘走ることを躊躇うとでも思ったか!」
そのような状況でも、翼は戦う意思を見せる。
「フフっ、あなたのそういうところ、嫌いじゃないわ…あなたのような誰もが誰かを守るために戦えたら─世界は、もう少しまともだったかも知れないわね…」
「なん…だと?」
そんな翼を見て、一人呟くマリア。
「マリア・カデンツァヴナ・イヴ…貴様はいったい…」
「そうね…そろそろ頃合いかしら!」
そう言うとマリアはマイクを回転させ構え直し─覚悟を決め口を開いた。
「私達は、ノイズを操る力をもってして、この星の全ての国家に要求する!」
マリアの声が、世界中の国に響き渡る。
「世界を敵に回しての交渉…!?これはまるで─」
「戦線─布告!」
会場裏を走っていた緒川が、翼の言葉の続きを呟く。
「そして!」
マリアはマイクを空高く放り投げる。そして─
《Granzizel bilfen gungnir zizzl…》
翼も聞き覚えのある─それでいて自分の知るものとは少し異なる聖詠を歌い、光がマリアを包み込む。
「まさか…」
「この波形パターン…まさかこれは!?」
指令室のメインモニターに、聖遺物の名前が表示される。その名前は…
「ガングニールだと!?」
響が持っているシンフォギアと同じ、
マリアを包んでいた光が消え去るとそこには、響のシンフォギアと酷似した形状をしているが、配色は黒と赤が基調となり、黒いマントが追加されたギアをまとったマリアが立っていた。
「黒い、ガングニール…!?」
ヘリの中でその光景をみていた響は絶句する。
(ガングニールが二つ!?いや、それよりも─マリアさん…あなたはなぜこんなことを…!)
そしてツナは、マリアの行動を理解できずにいた。
「姉、さん…?」
そして─その光景を映像越しで見ていたセレナも、言葉をなくしてしまう。
「あれが、お前の見た予言なのか、ユニ?」
「はい…」
「でも、あれはまだ序章さ♪─ユニチャンが予言した物語は、ここから始まるんだよ」
セレナがショックを受けるなか、リボーン達はこれから起こるであろう出来事に、真剣な表情を浮かべていた…
「─私達はフィーネ!そう…終わりの名を持つものだ!」
様々な人物に衝撃を残し─マリアは高らかに、世界中にそう宣言した…
ツナの過去編(十年後編)は2期が終わる前までには全部作ろうと思ってます。