クラン結成編1
「ねえ、加古。ねえ、加古ってば」
「んぁー……ぅぅん……」
「起きて。ねえ、加古って」
「うあー……」
いくら揺すっても加古は起きてくれそうにありません。そろそろ動かなくちゃいけないんですけれど、毛布のミノムシになってしまったら加古はそうそう起きてくれないんです。
「古鷹ぁー……あと5分でいいから寝かせてぇ……」
「それさっきも言ってたでしょ! ほら、早く起きて!」
ちょっとキツめに言うとようやくミノムシさんはサナギを破って出てきてくれました。相変わらず眠たそうに目を擦っていますけど、しばらくするとしゃんとしてくれるはずです。
「で、なにするんだっけ?」
「もう!
ならどういう違いがあるのかというと、他のゲーム用語で説明する「チーム」と「ギルド」のような感覚です。
チームはあくまでもその場で組んで一緒に海域を攻略する、いわば即席艦隊です。ログイン中だけその関係は継続されて、ログアウトすると解消されます。対してギルドは加盟したら脱退するかギルドマスターからの除名処分を受けない限り、永続に名前はギルドの名簿に刻まれ続けます。もちろんこれらの例外として
あれ、説明が長くなっちゃいました。加古にもよく言われるんです。古鷹は説明が長いって。でもきちんと説明しようと思ったら長くなっちゃうのは仕方ないと思うんです。加古はもう少し、しっかりと……
いけない、いけない。また話がへんな方向に行ってしまいました。とにかく、私たちは今からギルド……つまり自分たちの
野良の加古鷹ペアとして活動していくことも楽しいんですけれど、人手がたくさんいるイベントなどに参加しようとすると、野良ではイベントに参加する前に一緒に戦ってくれる
「おおーい、古鷹ぁー。早くやろうぜー」
「あ、待ってよ加古。任務を受注しなきゃ」
いつものようにメニュー画面を開くと任務欄にある『沖ノ島戦闘哨戒! 艦隊を編成せよ!』という任務にチェックマークを入れます。
「終わった?」
「うん、受注完了したよ」
「じゃあ行こっか」
出撃です。とりあえず私のマイルームから一緒に出ると、舞鶴サーバーの出撃ドックに移動します。
「本当に2人だけで行くの?」
「んー……まあ、とりあえずやってみて難しそうなら協力を他の無所属艦娘とかあがってる知り合いに頼めばいいよ。威力偵察ってやつ。もしかしたら任務を受けることで敵艦隊の編成が変わってるかもしれないし」
ぐいーっと伸びながら加古が艤装を展開させた。同じように私も古鷹の艤装を展開します。ちゃんと意識が覚醒していればこんなふうに冷静な判断が加古はできるんだから、いつもこうしていれないいのになって思います。しゃんとしていればかっこいいのに。
「よい、しょっと」
艤装をきちんと装着できているかざっと確認。もちろん、ゲームですから装着がうまくできていないということはありません。ただ服を着たときに衣擦れがないかどうかを確認するのと同じ感覚です。深い意味はありません。ちょっとした様式美です。
でもせっかくロールプレイを楽しむゲームなんです。これくらいの遊び心というゆとりがあってもいいと思うんです。
「んじゃあ、今回は偵察。あわよくば撃破して任務達成するって方向で」
「うん、わかった」
旗艦である加古がいつものようにゆるーく方針を発表します。私と加古はいつも一緒に出撃するんですけど、いつも旗艦は加古なんです。もちろん、野良で活動する過程で相手方が旗艦をする場合は譲りましたけど。
「加古、偵察機を飛ばそうか?」
「ん? あー、いいんじゃない? 方向は古鷹に任せる。っていうかあたしも飛ばすか」
揃ってカタパルトに偵察機をセット。心の中でスリーカウントをした後に私は零式観測機を飛ばしました。ほぼ同じタイミングで加古からも観測機が飛び立ちます。
すると私の視界の右下に小さな丸が表示されました。丸のなかにはコミカルに描かれた観測機のマーク。
これをちょん、とタップするとウィンドウが開いて私の飛ばした観測機が見ている映像が流れます。せっかく飛ばしたのに見ないのではなんのためかわからなくなってしまうので、もちろんタップ。
「うーん、いないなぁ……」
「こっちもいないよー」
残念ながら観測機から送られてくる映像は蒼い海と白い波ばかり。深海棲艦の影も形も移しません。
「あー、あたしヒット……でもだめだ。これ
道中に余分な戦闘をしないように加古が進路を変えたので、私も僚艦としてその指示に従います。少し速度はあげて急ぎ足。
それにしてもいいお天気です。波もそれほど高くないし、雲もそこまで多くありません。あんまり雲が出てると敵の艦載機を発見できなくなるのであんまり好きじゃないです。
「ふわぁぁぁ……」
「加古、だめだからね?」
「あ、あくびしただけじゃんか……」
加古がちょっと傷ついた顔をします。でも日頃の行動が悪いんです。いつも何かにつけてごろごろとしてばっかりだから私もこういう風に言わなきゃいけないんですっ!
「古鷹が信用してくれないー」
「棒読みで言ってもだめだからねっ」
「だいじょうぶだって。ほら……さっ!」
加古の主砲が火を吹いて奇襲をしかけようとしていた深海棲艦の艦隊に刺さります。ああ、やっぱり気づいていたんだ。
「加古、偵察に出してた観測機、戻すね」
「りょーかい。周囲の哨戒させといて」
加古がぐるぐると首を回しながら回避行動を取ります。これはあんまり時間はかからずに済みそう。どうやら見つかったのは本隊ではないみたいなので加古がほとんど片付けてくれるはず。見たところによると戦艦などもいないようですし。
その間に私は観測機に帰還の指示を出します。そろそろ観測機の燃料について考え始めていた頃ですし、ちょうどいいです。
さて、あんまり加古を放置しておくのもよくないですし、ちょっとくらい援護をしましょう。
「それっ」
狙い澄ました砲弾が加古と交戦している深海棲艦に当たって弾けます。これ以上は手を出さなくてもいいでしょう。
あとは加古がやってくれるから。
「てやぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
加古が重巡リ級の口に砲塔をねじ込んで吹き飛ばしました。やっぱり加古はとても攻撃的だなあ、といつも思います。私はあそこまで接近するのは苦手なのでとてもとても真似できません。
「古鷹! さっさと本隊、落とすよ!」
「えっ? あ、うん……」
偵察のはず、なんだけどなあ……
どうも、こんにちは。古鷹です。先ほどの出撃から無傷とはいえないまでも帰ってきた古鷹です。現在はサービスシーン、もとい入渠中です。もちろん加古と2人だけですよ?
ちなみに具体的な損傷具合は中破です。加古も中破です。でもそんなことは問題じゃないんです。いえ、別に大きな問題ではないんですけど、問題なんです。
「いやー、結構ギリギリだったけどいけるもんだねえ!」
加古が豪快に湯船に浸かりながら笑います。私も控えめにちょっと笑いながらお湯の中に顔を沈めてぶくぶくと泡を生産。
まさかたった2人で勝っちゃうなんて……
偵察して、もしもいけたら攻略。確かにそうしようと話し合った上で私たちは出撃しました。でも敵艦隊の数は6。しかも連戦になることが前提です。一方で私たちは2人から数が増えることはありません。正直に言って難しいだろうな、と私は思っていました。
ええ、加古が大暴れして旗艦を真っ先に沈めてしまうまでは。
えい、ままよ! と私も加古の援護に入り、加古を狙った深海棲艦を攻撃してヘイト値を稼ぎ、私に
そのサイクルを繰り返した結果、2人で沖ノ島海域をクリアしてしまい、結果として
「これであたしらも
「いや、早いよ!? 2人だけで勝っちゃうなんて前代未聞だよ!?」
「でも古鷹だって後半はノリノリだったじゃん。観測機を敵の鼻先に急降下させて視界を奪う、なんてむちゃくちゃやったりしてさ」
……それを言われるとちょっぴり痛いところです。
認めましょう。私も「あっ、勝てそう」って思った時からはアグレッシブになっていました。
しかしあの時はテンションが上がっていたんです。テンションアゲアゲです。多少、ネジが飛んでしまったとしても仕方ないと思うんです。
冷静になってみると、「あれ、これってすごいことしちゃったんじゃ……」ってじわじわと気づいてきたんです。
確かに敵艦隊に空母はいません。だから制空権を気にしなくてもいいぶんだけ、重巡洋艦にとっては楽ではあるでしょう。
でも相手に戦艦はいるんですよ? 普通は偵察だけで終わると思うじゃないですか。
「うぅ……絶対、噂になるよ……」
「まー、いいんじゃない? クランの加入希望が増えるかもしんないじゃん」
「それを処理するのって私なんだけど……」
そう。なぜか
いえ、当然といえば当然です。だって任務を受注したのは私なんですから。
絶対に加古はわかっていて何も言わなかったような気がするんですけど、証拠はないので黙っておきます。
それに加古に任せたらとんでもないことになりそうなのはちょっと思っていたことでもあるので。
「記念すべき第一号は誰だろうねえ」
「もう! 加入するか判断するのは加古も手伝ってよ!」
「わかってるってば」
カラカラと加古が笑います。うん、そう悲観的になるのもよくないかな。少しは私も加古を見習ってケ・セラ・セラ的に考えてみることにしましょう。
さあっ! 加入希望者さん、いらっしゃーい!
……なんかやけっぱちっぽいですね、これ。
「ねー、ねー。このニュース、知ってる?」
きゃいきゃいとはしゃぐ相棒が何かを見せてきた。いわゆるビラのようなもので、それ自体はいたって不思議のないもの。とりあえず私は気になってビラに目を通す。
「なにそれ? 新規クランの結成とメンバー募集? 何もニュースってほどじゃないじゃん」
「それがそれがなんと! たった2人で攻略しちゃったんだって!」
「2人? 何かの冗談じゃなくって?」
「本当だって。ほら、ワタシウソツカナイ」
「うわー、うさんくさい……」
相棒が急にロボ声を作り始めたものだから嘘くささがマシマシになった。けれど、ビラに書いてある
「ねえ、見てみなよ。この2人、『双撃の加古鷹』じゃない?」
「えっ? ああ、確かに。そっかー、なるほどなるほど。あの野良組が……」
「いろんなクランからの引く手あまただろうに、まったくクランに所属する気配がないもんだから変だと思ってたらまさか作るとは」
さっぱりと言っているけれど、私は結構な衝撃を受けていた。2人でクラン解放任務をクリアした、ということは沖ノ島を2人で突破したということだ。あの海域は空母がボスにいないため、空母なしの艦隊でクリアしたという話は日常的に聞く。でも2人だけでクリアした、なんて話はなかなか聞いたことがない。重巡洋艦だけ、というケースは初めてだ。
「ねぇ、ねぇ! せっかくだし、ちょっと見に行ってみない?」
「煽りで行くのは失礼じゃない?」
「ちょっと見に行くだけ! それだけだから!」
お願い! と相棒が手を合わせてきたらもう私は陥落。やれやれと呆れつつも、方針は決定している。
「明日ね。明日、行こっか」
「さっすが!」
わかってるぅー、と相棒が私に飛びかかる。暑苦しいから離れて、と邪険に扱えば「ひどい!」と芝居がかった動きで泣き真似を。はたから見たらうざいことこの上ないんだろうけど、こんなのは定型文みたいなもの。私も別に慣れたものだ。
「じゃっ、明日いつもの時間にね!」
「はいはい、遅れないでよね」
相棒の姿がヒュン、と消える。
相棒も帰ってしまったところで私も帰ろうと、メニュー画面を立ち上げてログアウトボタンをタップする。世界から私の体が消えていく中でぼんやり考えていたことがひとつ。
今のクランに馴染みきってるわけでもなし、新たな巣を探してみるのも悪くないかもしれない。
満を持しての投稿になります。
しかし、VR艦これ。ぜひともプレイしてみたくないですか? いろんな楽しみ方がありそうですよね。それこそ戦闘はせずにコスプレ的に艦娘になって他のプレイヤーとの交流を楽しんでもいいですし、バチバチの武闘派として艦隊を組んで深海棲艦と戦ったり、他のプレイヤーと演習したりするのもいい。
本作はそんな想像を働かせた結果の作品となります。楽しんでいただけたなら幸いです。