加古鷹おんらいん!   作:プレリュード

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閑話休題編
閑話休題1


 

 VR艦これ、というゲームがある。フルダイブ型のVRゲームで、プレイヤーは艦娘になって海を駆ける海戦ゲームだ。

 

 もちろん、ただ戦うだけじゃない。艦娘になりきってみるもよし、個性的な面を伸ばして演じるもよし。楽しみ方はいろいろあるけれど、ひとつだけ共通していることがある。

 

 それは艦娘を演じているプレイヤーそれぞれの現実がある、ということ。

 

 勇猛果敢に戦う駆逐艦の子にも、正確無比に遠方の深海棲艦を狙い撃つ戦艦にも、百戦錬磨の艦載機たちで空を支配する空母も。それぞれにそれぞれの現実(リアル)が存在している。

 

 それは他ならぬ古鷹(わたし)も同じこと。

 

 起きたら朝食を作って、お洗濯やお掃除。手早くお昼ご飯を済ませたらお買い物に行ってきて、お洗濯ものを取り込んだら畳む。夕ご飯を食べ終わったらお風呂にお湯を張る準備をして、それから洗い物。お風呂に入ったら、やっと手に入った自由時間を楽しんで、時間になったら就寝する。

 

 そんなどこにでもある、ありふれた平日を私は過ごしている。土日や祝日みたいな休日になると、たまにだけれど仲のいい友達と一緒にランチやディナーに行ったりしてみたりもする、どこにでもいるただの一般人だ。

 

 でもそんな私も、ベッドに転がり、フルダイブ型VRヘッドセットを装着してひとたびVR艦これにログインすれば、あっという間に『双撃』の加古鷹と呼ばれるペアの片割れ、古鷹に変貌する。

 

 みんながそれぞれ付けたいように自分の仮面を付けて、自分のやりたいようにキャラクターを演じる。そんな中にいつもとは違う自分が混ざっていく感覚。

 

 ログインしてしまえば、そこはもう秩序のないマスカレードパーティー。非日常をもっと彩ってくれるスパイスはそこらじゅうで弾け飛んでいる。みんなが主役で、みんなが名脇役。あまりの混沌にくらくらしてしまいそう。けれどそんな混沌に身を浸していることが堪らなく私は楽しいのだ。

 

 だから私はお風呂を上がったらドライヤーで髪を乾かして、あったかいけれどラフな格好に着替えて、VRヘッドセットを装着したらこう叫ぶ。

 

「リンクスタートっ!」

 

 さあ、今日はどんなパーティーだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嫌な予感がする。

 漠然とした、というわけじゃない。ほぼ確実にめんどくさい事態になっていると思う。そんな予感があった。

 

 あー、やれやれ。でも放置しておくわけにもいかないんだよなぁ。

 

 ベッドに体を横たえて、ヘッドセットを装着したら起動の言葉を。

 

「リンクスタートーっと」

 

 途端に意識は切り替わっていく。現実世界からVR艦これの世界へと。『加古』のアバターを選択すると、俺の体は加古に変化する。閉じていた目を開けると、そこら中に艦娘が歩き回る世界が飛び込んできた。

 フルダイブ型のVRすべてに言える話だが、脳からの神経信号をヘッドセットが読み取って、アバターを動かしたり映像や音声などの外部から受ける刺激を伝達している。つまりVRワールドでアバターが感じたことを伝達するのは神経細胞であり、そしてそれを刺激として脳が受け取るのだ。

 

 まあ、早い話だ。すべては脳に依存しているのであって、なら仮に脳に異常を来していたらそれはVRのアバターにも影響が出てくるのである。

 

 そして今回、嫌な予感を()()()が感じた理由は今までうだうだと説明してきたことと決して無関係ではない。

 

 そう、人は生活している際に脳に異常を来すことがある。こんな風に言うとひどく大袈裟な言い方に聞こえるかもしれないが、そんなに難しい話じゃない。誰だって簡単に脳に異常を来すことができる。

 

 具体的には酒で。

 

 アルコールを摂取すると、脳が麻痺して大脳の動きが抑制される。それが所謂「酔った」という状態であり、開放的になったり、陽気になったりする。

 

 ここまで説明すれば察しのいい人は気づいたのではないだろうか。

 

 ずばり、古鷹が酔ったままログインしていったのだ。

 

 ログインする前に話したところ、明らかに古鷹が酔っ払っていた。本人は、「私は酔ってなんかないよぉ?」と言っていたが、語尾が怪しくなっているあたり、完全に酩酊状態だった。そんな状態でログインしていったから不安になってあたしも後を追いかけるようにしてログインした、というわけだ。

 

「古鷹は……クランルームか」

 

 フレンドリストから古鷹の現在位置を確認。どうやら他のクランメンバーもクランルームに集結しているようだ。ひとまずはクランルームへと移動した方がよさそうだ。さくっと移動先にクランルームを選択して、さっさとワープした。

 

 そこは、カオスだった。

 

「やーん、ヒトミちゃんかわいいー!」

 

「や、やめ……やめるんだ……」

 

 古鷹に抱き着かれて撫でまわされているヒトミ(スーツスタイルスク水)と、その様子を激写しまくる愉悦部(Верный)。止める気は一切ないらしく、完全に悪ふざけでキャーキャー黄色い悲鳴を上げている二航戦ズ。キマシタワー、じゃねえよ。止めろよ。ヒトミもがいてるだろうが。ハードボイルドで通ってるヒトミサーティーンが虫の息なんだぞ。もはやハードボイルドの「ハ」の文字もねえぞ、あれ。

 

「おい、そこのダブルドラゴンズ。古鷹を引っぺがせ。あたしはヒトミを救出するから」

 

「えー、面白いじゃん。それに実害はないし、もうちょっと見てても……」

 

「そうか、そうか。蒼龍、酔ってない時の古鷹に蒼龍がクラン演習増やしてほしいって言ってたって伝えとくわ。『We have control』の調整がしたいから名前の通ってる空母とやり合いたいって。それとも潜水艦だけの編成との演習を組んでもらおうか?」

 

 それを言って顔を青くしたのは飛龍だった。飛龍としてはとんだとばっちりだろう。ただでさえ疲れるものを連続でやらされるなんてたまったものではないにちがいない。

 

「さあ、蒼龍働こう! すぐにヒトミちゃんを救出するんだ!」

 

「アイマム!」

 

 追い立てたダブルドラゴンズが古鷹を抑え込めば、その隙にヒトミを救出。荒い息を吐きながら呼吸を整えているヒトミをひとまずあたしの後ろに庇うような形で匿う。

 

「大丈夫か?」

 

「……助かった」

 

「悪いな。あれ酔ってるんだ。後はあたしに任せてくれ」

 

「任せた……」

 

 あー、うん。ヒトミすげえお疲れっぽい。いや古鷹の相方として本当に悪かったと思う。どうも古鷹が迷惑かけましてすみませんでした。

 

「あー、加古さーん。そろそろヘルプ。私は大丈夫だけど今度は蒼龍がやばい」

 

 一難去ってまた一難。酔っ払った古鷹は留まるところを知らない。まあ、それを知ってるからあたしはログインしたんだけれども。

 

 ああ、回想は入らないよ。入ると古鷹もあたしもいろいろと顔を覆いたくなる事実が白日の下に晒されるからね。ちょっとごめん被りたい。

 

 とかなんとかいろいろふざけてみたところで、さすがにそろそろ蒼龍を助けてやろう。引っぺがしてからどんな行程を辿ったのかは知らないが、押し倒された蒼龍のお腹を枕にして古鷹が顔を埋めてぐりぐりしている。うーん。それあたし以外にもするのかー。いや、気を許してるって証拠なんだけどね? クランメンバーにさえ気を許せないってのはクランとして居心地悪いことこの上ないからいいことなんだろうけども。

 

「古鷹さんってこんなキャラだっけ?」

 

「飛龍、これが酒の力だ」

 

「……私、一生飲まないでおこう」

 

 飛龍が慄きながらぼそりと呟く。程度と量さえ弁えてりゃ、別に悪いもんじゃないんだがなあ。

 

「個人差があるし、酔い方も人それぞれだから、そこまで気にするこっちゃねえけどな。ちなみに見てわかる話だろうが、古鷹は抱き付き魔だ」

 

「うん。それはわかる」

 

「ちなみにあたしは酔うとすぐに寝るタイプ」

 

「うん、見たことないけどそれもなんとなくわかる……でもその情報、今いる?」

 

「いんや、いらないね」

 

「おふたりさーん。そろそろ見てないで助けてくれなーい? いや、まじでお願いします」

 

 おっとと、悠長に話しすぎたか。古鷹がすることなんてせいぜいが抱き付くところまでで、それ以上は絶対にしないから大丈夫だとほっといたが、そろそろ蒼龍を助けてやろう。蒼龍がどうすればいいのかわからずに、おろおろしてるし。

 

 だがその前に。

 

「おい、ヴェル公。そのスクリーンショット、どうするつもりだ?」

 

 無言でひょいひょいとそこらを駆け回っては無表情でメニュータブを眺めてどこか満足げに頷いているヴェルを捕まえる。写真を撮りまくっていたのはわかっている。そしてその写真の利用方法もおそらくは。

 

「クランの運営の一助とするつもりだよ」

 

「売り捌くって言え。ちゃんと消しとけよ。変な噂を立てられてヘコむ古鷹を持ち上げるのは大変なんだよ」

 

「妻の面倒は旦那が見るものじゃないのかい?」

 

「人をおちょくる暇あるなら消しとけよー」

 

 ヴェルを帽子の上からぐしゃっと撫でてやると、あたしは戦場へ。酔いどれお姫様をそろそろ鎮めなければ。いつまで蒼龍に抱きついているつもりなのか。

 

「古鷹ぁー。そろそろ離れてやれ。蒼龍が困ってるだろ」

 

「うん、わかったー」

 

 とててー、っとやって来た古鷹は案の定、抱きついてきた。まあいつものことだし、そのままにしておく。どうせあと30分もすれば酔いも醒めるだろうし、しばらく静かなところに運ぼう。

 

「あー、とりあえず今日はあたしが古鷹を引き取っとくわ。迷惑かけたし、すまんかった」

 

「いや、私らは別に大丈夫だからいいけど……古鷹さん、大丈夫なの?」

 

「後から恥ずかしさのあまりにしばらく引きこもって、何度も壁に頭をぶつけることを除けば大丈夫だ」

 

 それ本当に大丈夫なの? と聞いてくる飛龍に対して適当にひらひらと手を振り返す。ここまで古鷹が酔っ払うのはなかなかにレアケースだが、見たことがないわけじゃない。面倒を見たことはあるから、さほど心配はしていなかった。

 

「ほら、古鷹。あたしのマイルームに行くぞ? ほらメニュー開けー」

 

「ふえ? うん、わかった!」

 

 よーし、いい子だ。こういう時は静かなところへ連れていくに限る。本当は酔ってる古鷹を出撃させると面白いんだけど、今日はやめておこう。今日は甘えたがりモードみたいだし。

 

 念のため言っとくが、連れ込んだわけじゃないからな?

 





 あけましておめでとうございます。新年になってからすでに6日ほど経過していますが、寝正月していて投稿のことをすっかり忘れておりました。

 というわけで二航戦編も終わり、新章突入! と言いたいところですが少し加古と古鷹の両名の話をちらりと挟みたいと思います。

 そしてここでちょいと告知をば。

 近々、本家大元である帝都造営先生の翔鶴ねえ☆オンライン!(https://syosetu.org/novel/112894/)とのコラボ編をこちらで投稿します! 原稿は着々と完成しているので乞うご期待あれ!
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