コラボ企画:クラン対抗戦編1
「大変申し訳ありませんでした……っ!」
こんにちは、古鷹です。いえ、正しくは土下座古鷹、略して土下鷹です。ゴロは最悪ですね。でもそんなことはどうでもいいんです。
簡潔に言わせていただくと、私は酔いが覚めた後にも記憶が残るタイプなんですよ。
つまり先日に私がやらかした所業はすべて綺麗に記憶しているわけで、それはもう顔から火が出るどころかバルカン半島に火が回ったレベルなんですけれど。恥じているより先に迷惑をかけてしまった謝罪はしなくてはなりません。
加古曰く「フォローはしといた」とのことですが、だからといって流していいことではありません。
「特にヒトミさん。ほんっっっっとうにご迷惑を……」
まともに顔を見れません。もう床に額を押し付けるどころか、そのまま床下まで埋まっていく勢いです。穴掘って埋まっていたい気分って、まさしくこういう状況なんだと思います。
今後金輪際、お酒を飲んでからVRに潜るのはやめましょう。そう強く誓いました。周囲に迷惑をかけるだけじゃなくて、『イーリス・アイリス』の名前まで落とすことになりそうです。そしたら、落ちる名前は私だけじゃなくてクランメンバーたち全体です。クランマスターがお酒に酔って大暴走、なんて。そんな悪評は広まってほしくありません。
「すみません、すみません、すみません……」
「わ、私は気にしていま……いない。だからそこまで気に病まないでいい」
今、ヒトミさんの素が出たような。いや、気にしないでおきましょう。ロールプレイ中の人にリアルを持ち出すのは無粋というものです。
それに今は私の全力謝罪タイムです。変な茶々を入れるなんてもっての外です。
「加古じいさんや、どうにかできないのかいあれは?」
「どうにもできないよ、蒼龍ばあさん。落ち込み古鷹のクセってやつじゃ。というかだな。聞きたいんだけどこれ、なに?」
蒼龍さんの不思議老夫婦ムーブにはきっちりと付き合ってから、加古はクランルームの壁の一角を指さしました。私も気になっていたところなんですよね、あれ。
「私らに聞いてもわかんないからね。蒼龍とクランルームに来た時にはもうあったんだから」
二航戦のおふたりと加古が言ってる「これ」というのの正体はわかっています。
正直ちょっと、いいえだいぶ目を逸らしたいんですが。クランルームの壁にでかでかと私の画像が貼ってありました。私が先日、酔っぱらった挙句にヒトミさんに抱き着いてる写真が。
私が酔って痴態を晒している画像、いつスクリーンショットを取ったのでしょうか。わざわざ引き延ばし拡大してクランルームに盛大に貼り付けてあるんですが。
っていうか、これやった犯人ひとりしかいないですよね。
「ヴェルちゃん?」
さっきからずっと写真の前でケラケラ笑ってる真っ白な駆逐艦。その人しか。
「いやはや、本当におもしろかったからね。こんなおもしろいこと、クランの歴史に刻まないでなにをするって感じじゃないか。クランマスター、潜水艦娘に抱きつく。スク水趣味露呈する、とか。そんな見出しはどうだい?」
「刻まないでください! 負の遺産ですからぁ!」
あと勝手に私の性癖を歪めないでください。別にそっちの趣味はありません。スク水なんて最後に着たのはいったいいつだったことでしょう。あまりに昔のことで、忘却の彼方です。そして、おそらく二度と着るような機会はないでしょう。
まあ、いいです。消す方法はあるので。
メニュー画面を開いて、クランルームの編集へ。設置されている家具一覧から、私の引き延ばされた画像を削除します。なるほど、壁紙の上からポスターとして設置していたんですね。おそらく、というか確実にお手製でしょう。
クランルームの編集権限を私はクランメンバー全員に解放しています。つまり、いちクランメンバーのヴェルちゃんにも好きにクランルームを編集できるということ。
ただ、逆に言えば私もクランメンバーです。クランルームの編集をすることはできます。
とりあえず、私怨でヴェルちゃんのクランルーム編集権を一日だけ凍結しておきましょう。
笑っていたヴェルちゃんの顔が一瞬だけ、おどろいたように目が見開かれました。気づきましたね。すぐに新しいのを張ろうとしてひそかにメニューを操作していたのにできなければ、気づくでしょうけど。
クランマスターをいじるからです。私的な制裁ですが、まあこれくらいなら許されるラインでしょう。
っとと、話がものすごく逸れました。そろそろ元に戻しましょう。
「今回集まってもらったのは、他クランとの演習があるため、事前のブリーフィングを開くためです」
「謝罪のためじゃなくて?」
「それも、ですっ!」
ヴェルちゃんのいじりがノンストップです。もちろん、ついでなんかじゃないですよ? 迷惑かけたのは本当ですし、ヒトミさんや蒼龍さんたちには申し訳ない気持ちでいっぱいです。
「して、お相手はどこだい?」
「『秘密の花園』というクランなんですが、みなさんご存知ですか?」
ヴェルちゃんの疑問に答えます。聞いた瞬間、うへえと言わんばかりのリアクションをしたのは蒼龍さんです。
「『秘密の花園』っていうと、『純白』のいるとこかぁ……」
蒼龍さんの言う通りです。『秘密の花園』には『純白』と呼ばれる五航戦姉妹がいます。
先日、二航戦称号戦の会場で姉の翔鶴さんには会いました。その時、演習の申し込みをする、とは告げられていましたが、ずっと話が来なかったので忘れちゃったのかな、と思っていました。
そうしたら先日、ようやく演習のお話が来たのです。きちんとクランマスターから送られてきた正式なものです。
当然の話ではありますが、そもそも翔鶴さんは『秘密の花園』クランマスターではありません。そのため、クランマスターの説得が必要だったのかもしれません。あくまで私の勝手な想像ですけど。
「さて、と。そんなわけで演習に向けてブリーフィングといきましょう!」
「とはいえねえ。どうせあたしらは6人しかいないし、選出は固定じゃん」
「うん。だから相手の選出予想と、基本戦術の組み立てをしとこうと思って」
加古の指摘通り、私たち『イーリス・アイリス』はクランメンバーが6人の小規模クランです。演習の形式は12人編成の連合艦隊式ではなくて、通常艦隊式の6人編成しかできません。そして通常艦隊式の演習だったとしても、6人しかいないのでメンバーは固定です。
「どなたか『秘密の花園』のメンバーについての情報や選出してきそうな人の情報はあったりしませんか?」
「うーん……」
みなさんが持っている情報をいただいて。私は演習に向けて作戦を練ります。
クランマスターですから、旗艦を任されるのは私です。ある程度はブリーフィングで共有したとはいえ、その場の即興で対処をする必要にも迫られるでしょう。そうなったときに慌ててなんの指示も出せないようでは負けてしまいます。
「考えてるな、古鷹」
「あ、加古」
「演習の戦略でも練ってるんだろ。付き合うよ」
「うん、ありがとう」
ふたりっきりになったクランルーム。ヒトミさん謹製のテーブルを加古とふたりで囲みます。
このテーブル、便利なことに艦種ごとにコマが備え付けられているんです。海域図を貼り付ければ、あっという間に作戦会議室のテーブルに様変わりします。
「こっちの選出は決まってるんだし、問題は相手の選出だよな」
「そうだね。構成メンバーが割れてないから、憶測しかできないけど……」
そう言いつつ、私は相手側に戦艦のコマをひとつと空母のコマをふたつ置きます。
「クランマスターの榛名さん、あと『純白』の五航戦は確実に出てくると思う」
「だな。『秘密の花園』の主力だ。出てこないわけがない」
「となると、あとの3人なんだけど……」
「良くも悪くもあそこは榛名と『純白』の3人が目立ちすぎるからな。他はどうとも言えないな」
「だよねぇ……」
クランマスターの榛名さん、そして『純白』の五航戦。ここのウワサはいろんなものを聞きます。少なくとも実力のない人たちではありません。
そんな人たちがいるクランです。残りのメンバーも素人じゃないでしょう。
「ま、構成的には空母の護衛艦がいるのを想定すべきだろうな。おそらく駆逐艦はいるはずだ」
「問題は防空駆逐艦の時だよね。こっちの航空戦力が戦いにくくなるから」
「そうだよなぁ。生憎と砲撃戦では射程でも火力でもうちのメンツで戦艦には敵わない。そうなると頼みの綱は空なんだが……」
「仮にただの駆逐艦でも防空に振られると厳しいよね。ただでさえ、『純白』と戦えば削られるのに」
いくら『比翼』の名を持つおふたりとて、『純白』と航空戦をしながら防空駆逐艦にまで気を割くのは難しいでしょう。
かといって、射程で負ける重巡洋艦では戦艦と撃ち合えば不利です。加古が近接戦に持ち込むのも難しいでしょう。
さてさて。どうしたものでしょうか。判明している相手のメンバーだけでもすでにこちらが不利です。どうやってこれを覆しましょう。
私と加古の作戦会議はまだまだ続きます。
「さあ、やってまいりました。『イーリス・アイリス』対策会議!」
我らがクランマスターこと榛名さんがそう高らかに宣言すると、まばらながらに「おー」という声があがります。
「メンツはこの6人! 以上! 解散! 閉廷!」
「もう少しくらい真面目にやったらどうなんです?」
ブリーフィング、と言われてクランルームに来てみればこの有様です。それはブリーフィングとは言わないでしょう。
私と瑞鶴が一緒にいられる貴重な時間を取ってまで開いたのです。内容のあるものにしてもらわないとやっていられません。
そもそもメンバーの選出もなにもあったものではないでしょう。我々『秘密の花園』はクランマスターの榛名さん、そして瑞鶴と私の五航戦、青葉さん、北上さん、そして時津風さんの合計6人が所属するクランです。通常艦隊による演習の定数が6人である以上、全員が出るのは確定です。
「めんどくさいです!」
「わー、はっきり言い切った……」
ほら、瑞鶴呆れちゃったじゃないですか。
「そもそもこの話を持ってきたのは翔鶴さん、あなたでしょう。ならあなたが仕切ったらいいじゃないですか」
「ええ……」
それでいいんですか。クランマスターとしての仕事を放棄していいんですか。
まあ、それを言い出すとそもそもこの人はそういうヒト、というだけの結論に落ち着きます。実際、『イーリス・アイリス』と演習をやりたいと言い出したのは私ですし、おとなしく言われたとおり仕切るとしましょう。
「ではクランマスターから拝命したので、仕切らせて頂きます。まず、相手の選出ですが、青葉さん、『イーリス・アイリス』のクランメンバーの情報は?」
「うぇえ? 私ですかぁ?」
「そうです、あなたですよ」
そういう細かい情報収集をしているのはあなたでしょう。餅は餅屋、です。
それに、わざとらしく驚いた演技をしているのは知っていますよ。「よくぞ聞いてくれました」って言わんばかりの顔じゃないですか。
「そうですね。まず『双撃』の古鷹さんと加古さん、あとは『比翼の二航戦』の蒼龍さん飛龍さん。この4人があのクランには所属していますよ」
ふむ。聞いたことのある名前です。
2-5をペアだけで攻略した『双撃』の加古鷹。二航戦称号戦で二航戦の称号を勝ち得た『比翼』の蒼龍と飛龍。
あの称号戦は私も見ていました。『双撃』の実力は不明ですが、『比翼』の実力は半端じゃありません。
二航戦称号戦の決勝戦で見せた艦載機操作権の完全共有をされたら、私と瑞鶴で正面切って勝つのは難しいでしょう。認めるのは癪ですが。
「あとはそうですねぇ。裏付けのない情報ですが、駆逐艦が1人加入したってウワサですよ。他にはヒトミサーティーンが加入してるって話もあります。まあ、こっちは不確定情報ですけど」
「ヒトミサーティーン……というとあの伊号潜水艦ですか」
「ですです。こんな特徴的な人、彼女以外にはないでしょう」
青葉さんはなんでもないことのように肯定。しかしこれは些かよろしくない状況です。
こちらの艦隊には対潜攻撃のできる人は、北上さんと時津風のみ。ヒトミサーティーンが出てきたなら、2人にどうにかしてもらうしかありません。
しかし、少し見えてきました。
空母2隻。重巡洋艦2隻。駆逐艦1隻に潜水艦1隻。この合計6隻が現状で『イーリス・アイリス』が選出してくる可能性の高い編成ということです。
航空戦は厳しいものがあるのは認めざるを得ません。しかし、あちらには戦艦級がいません。射程ではこちらが勝ります。
これならば勝機ありです。
「榛名さんの射程を活かして遠距離で仕留めましょう。青葉さんと北上さん、そして時津風さんは接近する敵艦を足止めしてください。そこを榛名さんと連携で撃破します」
「精度の高い砲撃が求められる作戦ですね」
榛名さんの言葉には、言外に弾着観測射撃が必須になりますよ、という意味合いが含まれているのでしょう。ええ、重々承知です。観測機をあげたとしても、制空権を取られては落とされてしまいますから。
つまりこの作戦の要となるのは。
「瑞鶴」
「えぇ? わ、私?」
「そうよ。私たちで『比翼』を押さえるの」
私たちがどれだけ『比翼』に食い下がれるか。この一点にかかってきます。
コラボ企画です。本家大本の帝都造営先生の翔鶴ねえ☆オンライン!(https://syosetu.org/novel/112894/)のキャラクターにも登場していただきました。もちろん、許可をいただいております。
次回あたりから本格的に演習をやっていくつもりです。更新は不定ですが、どうぞお楽しみに。