バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい 作:麦わらぼうし
あっ、今回で最終話です。
目を覚まして最初に目に入ってきたの光景は、自身の知らない天井だった。
自分は身体をベッドに寝かされている状態であり、上から白い毛布が掛けられている。とりあえず上半身を起こして周りに視線を向けた。
どうやら此処は個室のようで、周りに自分以外の人間が居ない。なのでベッドの上についているナースコールのボタンを押す。
するとボタンの近くにあるスピーカーから人の声が聞こえてきた。とりあえず目を覚ましたと自己申告すると、すぐに医師とナースの人が病室にやってきて、体調を確認してくる。
そしてこちらに異常が見れないことが分かると、大事を取るために数日経過観察することをこちらに伝えて、両親にも自分が目を覚ましたことを教えると言われ、病室から出て行った。
とりあえず体に異常が無いことが分かって一安心したことで身体をベッドに沈めると、改めて自分の現状を確認する。
「流石アルセウス……世界さえ見つければ、本当にどの時間軸にでも帰れるんだ……」
そう言って、ポケモンの世界から、こちらの世界に戻してくれたアルセウスの力の強大さに、もはや感嘆の声しか出ない。
先程の医師の診断通り、身体の何処にも異常は見られない。
だが、それはアルセウスが、こちらの世界に戻すときに、時間を巻き戻してから送ってくれたことで、倒れてから入院した1日後の時間に目を覚ますようにしてくれていたからだ。
ポケモン世界からは、魂の繋がりを辿って『俺』と『私』が、こちらの様子を見てくれていた。
あの夢の中での幻覚による両親とのやり取り、ダークライが見せる悪夢の前に見せていた、シロを心配する光景。アレはこちらの世界でシロが目を覚まさないまま数年が経ったら実際に起きていたことだ。決して作り話ではない。
だから本来は、すでに数年経過しており、点滴による肉体の維持も限界でロクに動ける筈じゃないのだ。しかし今、自分の腕を見ても健康なままで、そもそも点滴を打たれた後すらない。
現在は、倒れてから1日経っただけであり、魂が砕けて昏睡状態になっているなど、現代の医学で分かる訳ないのだから、原因不明の状態でも、すぐに点滴を打つ必要が無かったのだろう。おかげで肉体がとても軽い。
「それにしても……いくら規格外でもプレイヤーからの干渉を切断するなんて……」
そんな言葉が、呆れるような声音と共につい口に出てしまった。
あの規格外すぎる初代主人公の行動によって、ジラーチの願いが叶えようとしたシナリオが破綻した。
ソレが分かった途端『俺』と『私』が、すぐに肉体に組み込まれた発狂する仕掛けを解除し、もはやバトルをする必要が無くなってしまったのだ。
いやホント、あの人なんなの?
いくら主人公だからって言っても、そんなことは絶対できない筈なんだけど?
いや、確かめたわけじゃなかったけどさ……。
アルセウスと同等の力を持っている『俺』と『私』が、制限なく力を使えてもプレイヤーには干渉できないって言っていたんだもん。だったらいくら初代主人公でも、どうにかできるとは思わないじゃん。こう考えた『僕』の思考は変じゃないと思うんだけど……。
いや、実際に出来ちゃった以上、どういう原理でそんなことが出来たのか予想することは出来るよ? 答え合わせが出来ないから、断言は無理だけど。
たぶん……プレイヤーの方が、レッドに手を貸したんだと思う。
そもそもプレイヤーって、ゲームで遊んでいる人間の位置にいる存在な訳じゃん?
存在の位置で言えば、アルセウスよりも上位に居るんだよ。
当たり前だよね?
だってゲームで言えば、アルセウスはプレイヤーと同じ位置に居るゲームの製作者たちが、創造神という設定でゲームに組み込んでいる存在な訳なんだから。
そんな位置に居る存在から干渉されていれば、その主人公はプレイヤーの望む存在にされてしまう。
なんせ主人公はプレイヤーの分身とされているからね、操り人形としてプレイヤーの望む状態でなければ楽しめない。
そして初代主人公のことをプレイヤーは、こう思っていたんじゃないかな?
『レッドだったら、何が出来ても不思議じゃない』
『レッドだったら、どんな規格外の力を持っていても不思議じゃない』
『レッドだったら、その気になれば遊んでいるプレイヤーにすら手を届かせることすらできる』
『レッドだったら……』『レッドだったら……』『レッドだったら……』
とか、そんな感じのことをプレイヤーは思っていたんじゃないのかな?
主人公はプレイヤーの操り人形だ。操り人形である以上、プレイヤーが望む形に存在が上書きされてしまう。それこそ『いや、レッドだったらプレイヤーでなくても最強だ』とか思っているかもしれない……。
もし、この考えが正しかったとしたら……………正直恐いよ。
これってさ……神様に対する信仰と同じじゃん? それも狂信者の
『レッドはすごい人物だ』ってことをプレイヤーは、一切疑ってないってことなんだから。
だったとしたら、そりゃ別世界のレッドを取り込んでいた『俺』だって怒るよ……。
『お前らの自分勝手な理想を押し付けんなッ!』ってさ……『私』だって似たようなモノだしね。
あぁ、駄目だ……あの初代主人公のことをまともに考えることがそもそも間違いなんだろう。もうこの話は終了ッ!
そんなことよりも……………。
「まったく……なんでシロじゃなくて『僕』がこっちに帰ることになるんだよ……」
ベッドの上で、ため息交じりにそんなことを言う。
そう……『僕』はシロじゃない……クロと呼ばれていた方の人格だ。
発狂の心配がなくなり、シロがもとの世界に帰ることが出来るようになったことで、『僕』たちはアルセウスのいる場所に向かった。
未だに戦闘をしていたが、『僕』が来たことで、彼らとアルセウスは戦闘を止めた。
当然だろう……アルセウスと戦ってくれていたポケモンたちは……実は、並行世界で『俺』と『私』が仲間としてゲットしていたポケモンたちなのだ。
『俺』と『私』は、並行世界の主人公たちの成れの果てだ。あの世界では選ばれなかったとしても、並行世界では選ばれて実際に物語を歩んでいた主人公も『俺』と『私』には混ざっている。
そんなカレラの手持ちになっていた『準伝説』『伝説』『幻』は、野生化せずにシロの中でずっと離れようとしなかったのだ。
だから、大量発生した『準伝説』『伝説』『幻』は『俺』と『私』が出会わなかったポケモンたちであり、アルセウスと戦っていた伝説たちとは別個体なのである。
そして、だからこそ彼らはあそこまでアルセウスに怒っていたのだ。伝説のポケモンたちは総じてプライドが高い、そんな伝説たちが並行世界では「おや」と慕うほど仲の良かったカレラを『災厄』の材料にされてしまう。そんなことになるルールを創ったことに対して、彼らは怒っていた。
アルセウスが世界を滅びないようにルールを創っていたことは彼らも知っているが、だからと言って自分たちの「おや」をそんな理由で悪者にされたら、理解は出来ても納得はできないだろう。
だから、彼らは怒りをアルセウスにぶつけるしかなかったのだ。まだ『俺』と『私』が生き返る可能性のある世界を滅ぼさせるわけにはいかないし、だからと言って何もしないのは腹の虫が収まらない。
怒りの矛先を決めないと、世界を簡単に滅ぼしてしまう力を持っていることを理解しているから、彼らは絶対に自分たちを倒してくれるアルセウスに怒りを向けていたのだ。どれだけ自分たちが怒りに飲まれて暴走しても、アルセウスなら止めてくれると分かっているから。
そんな彼らの前に『僕』たちが現れたことで、事態が終息したのを理解したのだろう。
そして『僕』は、アルセウスに改めて事情を説明しようとしたのだけれど、アルセウスの方は最初からこうなることを分かっていたらしい。創造神の力すごい……。
なのでそのままシロを、もとの世界に帰すよう頼もうとしたのだけど。
ここでまさかの誤算が発生した。
なんとシロが、もとの世界に帰らない。もとの世界に帰らせるのは、クロの方――つまり『僕』にして欲しいと言ってきたのだ。
正直、何言ってんだコイツ……と思った。
何のために、ここまでずっと頑張ってきたと思っているんだ。
その頑張ってきたのは『僕』たちのこと、ではなく―――シロの方に対してだ。
シロが今まで生きて来れたのは『僕』たちが色々精神を弄ったことによるものもあるけど、その
シロの肉体は、精神も肉体も両方を蝕み疲弊させていく。それこそ、いつ壊れてもおかしくないほど毎日が苦痛と絶望の日々だった筈だ。だと言うのにシロは、その強靭な意思によって苦痛を飲み込み続けてきたのだ。それこそ、ずっと弱い吐き気が続いているなんて
だというのに、もとの世界に戻るのを拒否して『僕』を帰らせる?
本当に何を言っているんだ……。
シロと違って『僕』は、ポケモン世界で生まれた存在だ。確かに、シロから生まれた同一の存在であるから両親のことは『僕』も記録している。
だがそれは、あくまで記録だ。そこで共に過ごしてきた時の感情は、ソレが必要だったシロの方にしか存在しない。両親のことを大切な存在であると認識しているが、それだけだ。
だから『僕』が両親のもとに帰ったところで意味が無い。彼らが待っているのはシロの方であり、もとの世界に帰りたいという想いもシロの方が強いのだから。
そんなことを説明したら―――
「ふんッ!」
シロから ずつき を喰らった。
あまりの勢いにより頭から血が出たよ―――シロの頭から。
「お父さんとお母さんが待っているのは、どっちかじゃなくて
クロに帰るように言っているくせに、って思うかもしれないけど。そもそもどっちかだけが帰る、って考え自体が間違ってるッ!」
そんなことを、血塗れの顔で言われてしまった。
「それでもッ! 僕は思い出したんだよッ!
この世界に来たのは、誰でもない僕が選んで決めたことなんだッ!
死んで魂だけの状態だったけど、僕は自分の意思でこっちの世界に来たんだよッ!」
いや、そもそもシロが死んだ原因は、こっちの世界で創られたルールの欠陥の所為なんだけど? というか魂の時の記憶を思い出す、ってどういう原理?
そんな疑問が浮かんだけど、ポケモン世界ではそういう不思議なことは起きてもおかしくないので、言うだけ無駄だろう。
「今まで散々、帰りたい帰りたい、って思っていたから説得力なんてないけど。それでも僕は、自分でこの世界に来ることを選んだのッ!
僕にはまだ、やることが残っているんだよッ! だから僕は帰らないッ! クロだけ帰ってッ!」
その勝手な言い分を聞いて「君が帰らないと、両親が悲しむ、って分からないの?」と思わず聞き返した。すると―――
「分かってるよッ! それでも僕は帰れないのッ! 約束したから、ソレを終わらせるまでは絶対に帰らないッ!」
そう、言われてしまった……。
シロが言っている約束とは、ポケモンの世界に来た時に残量思念の『俺』と『私』にした、一緒に居てあげる、ってあの約束のことだった。
正直、その約束は両親を心配させてまで守る必要があるのか? と思ったりもしたが、シロと同一の存在である『僕』には、シロの放っておけないという気持ちも分かってしまって―――
『分かったよもう。はぁ……』
と、ため息交じりに応えてしまった。
そもそもな話、シロが帰るために必要だった元の世界との繋がりは、もともとの肉体が長期間の昏睡状態によって死ぬことで切れてしまうから問題だったのだ。『僕』だけが帰って肉体を死なせないようにしていれば、いつでも戻ってくることが出来る。
もちろん、アルセウスの協力が必要だが―――その辺はシロがアルセウスに交渉して約束を取り付けた。コミュ
そうして『僕』だけが、この身体に帰ってきたのである。
「にしても『僕』たちに起きた出来事を全部、両親に説明して置いて、って本当に大丈夫なのか?」
ぼやくように『僕』は呟いた
いざ元の世界に帰るためにシロと別れる際、そんなことを頼まれたのだ。アルセウスのおかげで入院していたのは1日だけで、あの夢で見せていたような幻覚ほど、今の両親は衰弱していない。あの状態になるには、もっと時間が掛かってからだったからな……。
それでも、短い間とはいえ両親を心配させたというのは変えようのない事実だった。
だから、いずれシロがこちらに帰ってきたときに謝らないといけない。その為の説明を、こちらに丸投げしてきたのだ。
「なんて考え方は、流石に薄情か……」
そう言いながら、同一存在である『僕』はシロが考えていたであろうことを予想する。
アルセウスが協力してくれるのなら、『僕』が来たことで肉体は回復していく。そして『僕』が死ぬまでの間にシロが頼めば今すぐにシロがこちらにやって来る筈だ。
だと言うのに、
シロが約束を終えるまでに、この肉体が事故などで死亡するか。
もしくは――――『僕』に1人の人間として生きろと思っているかだ。
前者の場合は、どうしようもないが。後者の場合は、数年したら声が掛かってくるだろう。
その為に、『僕』にシロの振りをして生きてくことが無いように、全部を話すように言っているんだ。
「なに考えてんだアイツは………いや『僕』が言ってもブーメランでしかないけど……」
同一の存在であるとはいえ、シロと『僕』は既に別の人格を持ってしまっているほど、別の存在になりつつある。それぐらい、向こうも分かっていたのだろう。
だからこそ、シロがいずれこの身体に戻ってくる、ってことが分かったら『僕』がそれまでの間、ずっとシロの振りをすると察したのだろう。
だからこそ、シロとしてではなく『僕』として生きろと。その為に、両親に説明を任せたのだ。
あぁ、流石は同一存在だ……こうすれば『僕』の性格だと断れないと分かっているんだ。多分シロは、戻ってきたら両親に謝るだろうが、その後にポケモン世界の方に行ってしまうつもりなんだろう……。
なんでそうなると思うのか?
それは簡単だ。
シロは、ラティアスたちの「おや」になっちゃったからだ。
両親と―――「おや」と別れたくない。なんて思いは、それこそシロが一番よく知っているだろう。
だからたとえ、ラティアスたちが消滅せずに済むようになったところで、放っておけるような性格ではない。『僕』だったら、そう考える。
「まったく……どんだけ頭お花畑なんだよ……」
自分も大事だけど、周りも大事……困っている人が居たら、損得とか関係なく助けようと手を伸ばす。そんなシロの性格は、どうやっても変えられそうにない。
いや、もしかしたら……ポケモン世界に行くことが出来るような人は、そういう性格じゃないと無理なのかもしれない。
ポケモン世界は、部分的に見れば暗いところもあるが、全体的には優しい世界だ。
ポケモンと可愛い言い方をしているが、本質的に彼らはモンスター……すなわちバケモノだ。そんな彼らと共存することが、果たしてこの世界の人間にどれだけ許容できるだろうか?
ポケモンの力は、この世界の人間には強すぎる。悪意が無くても、人が死ぬ可能性がある。そんなポケモンたちを心から愛し、仲良くなろうできる人間だけが、きっとあの夢と冒険の世界に行っても良い資格なのではないだろうか?
「なんて、考え過ぎかな……」
これから説明しないといけないことを考えて、現実逃避のように思考が脱線してしまっている。
シロから説明するように頼まれはしたけど、果たして話したところで、信じてくれるだろうか? だいたい『僕』はシロではなく、シロから生まれた別人格だと分かったとしても、それに納得してくれるだろうか?
そんな不安な気持ちのまま、しばらくベッドで寝そべっていると、不意にドアを開く音か聞こえてきて、そちらに目を向ける。
「「〇〇ッ!」」
あぁ……その名前で呼ばれるのは、きっと久しぶりなのだろう。もっとも『僕』には初めて呼ばれたようにしか感じないが……。
「
まぁ……引き受けた以上は、ちゃんと伝えておくよ……。
いつか戻ってきたら、こっぴどく
◆
ポケットモンスター
縮めて、ポケモン
この星の不思議な不思議な生き物たち
その数は、100、200、300――いや、それ以上かもしれない……
そんな世界の少女――ハロンタウンのユウリ
あまたのポケモンをゲットし、最強のチャンピオンであったダンデに勝利した若きチャンピオン
伝説の災厄――ブラックナイトを打ち倒した新しいガラルの英雄
そんな少女が今―――ダイマックスしたテッカグヤに踏み潰されていた。
「せんぱぁああああああいッ!?」
シロの悲鳴じみた叫びがダイマックス巣穴の中で響き渡る。
そう、ここはダイマックスアドベンチャーの最奥にある巣の1つ――テッカグヤの巣穴の中だ。
テッカグヤは通常サイズでさえ高さが9.2メートル、重さに至っては999.9キログラムという超ヘビー級のポケモンである。
そんなポケモンが更にダイマックスした状態の重さなど、人間に耐えられる筈がない。その踏み潰した足をどかせば、きっとそこにはかつて少女だった赤いナニカの後が広がっていることだろう。
「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬッ!」
もっとも、それは普通の人間に限った話ではあるが――
「負けるな隊長ーッ!」
「ユウリ頑張れーッ!」
必死に ベビーボンバー で押し潰されそうなのを耐えているユウリに 応援 する声が響き渡る。
彼らはシロとユウリと一緒にダイマックスアドベンチャーに挑むために一緒に入った ピオニー と、その娘の シャクヤ である。
「いや助けましょうよッ!?」
そんな風に叫ぶも、2人は「?」と首を傾げるだけでユウリを応援し続けるだけだった。
「大……丈夫……『おうえん』のおかげで、物理に強くなってるから……」
「そんなこと言ってる場合じゃないですよねッ!?」
マックスレイドバトルの最中に、手持ちのポケモンが「ひんし」になったトレーナーが「おうえん」することによって様々な効果を引き起こすことはシロも知っているが、トレーナーであるユウリが攻撃されている最中でも「おうえん」するだけなのは、どう考えてもおかしい。
なんでこんなところだけゲームに無駄に忠実なのだ、とシロは頭を抱えた。
「というか、なんでポケモンより前に出たんですかッ!?」
「だっ……て……この子が倒れたら、失敗……」
そんな言葉が聞こえてくる。
実は現在、ユウリ以外のメンバーはレンタルしたポケモンが「ひんし」にされてしまっており、あと1体が倒されてしまうと挑戦が失敗になってしまう状況なのだ。
それでユウリは、最後の1体が倒されそうになって、ポケモンがバトルしている前線に飛び出したのである。
「失敗していいですからッ!? 自分の命を大事にしてくださいッ!」
あまりの予想外――というか非常識な行動に、シロは再び声を上げる。
シロがこんなに必死になっているのは、少し前にあった『なぞのばしょ』での出来事以来だろう。
あの時は大変だった……。
具体的に言うと、シロがアルセウスに交渉して、クロの帰還と、シロの帰還と迎えに協力してもらう代わりに、シロもアルセウスがこれからする後始末に協力することを約束したからだ。
アルセウスが居るのにシロが協力する必要があるか? と思うかもしれないが、むしろ協力してくれないとアルセウスが困る。
シロは存在するだけで『災厄』に分類されてしまうようなエネルギーを秘めた生きる爆弾だ。シロがポケモンの世界に留まるためには、その肉体をどうにかしないといけない。
エネルギーの総量自体はアルセウスと同等なので、シロが抵抗すると抑え込むことが出来ずに暴発する恐れがあるのだ。なのでシロに協力してもらわないと、世界が崩壊するどころか、最悪の場合は本体のアルセウスですら滅びかねない超特級の危険物なのである。
なのでシロの方から協力を申し出てくれたのは、アルセウスとしては好都合だった。
そしてアルセウスが行う後始末―――統合した世界の正常化にシロは協力した。
まずシロの中に居る『俺』と『私』の魂の情報から、統合される前の並行世界の構造を逆算し、消滅してしまった人やポケモン、そしてアルセウスが戦闘で殺したポケモンを復活させ、こちらの世界でまだ野生のままで残っている『準伝説』『伝説』『幻』を帰還。
さらに、混ざり合ってしまった『俺』と『私』から、その世界の主人公たちを再構成し、選ばれなかった方の主人公は、別の形で新たな人間として生まれ直されるという神に等しき所業をやってのけた。いや、アルセウスは神様だから出来て当然だが……。
そして、残ったシロの肉体とラティアスたちは、通常のポケモンと人間の範疇にまで出力を落とし、不完全だった肉体を健康体に作り替えて、こうしてアルセウスは全並行世界統合の後始末を終えたわけである。
え? アルセウスしか働いてなくて、シロが協力しているように見えない?
いや、それで正解なのである。保有するエネルギー量が多くても、その力を今まで使ってきたのは『俺』『私』『僕』の人格の方であり、シロはやり方なんて分からない。下手に手伝うぐらいなら、アルセウスが肉体や魂から情報を抽出する時、そして再構成する時に暴れないでもらうだけで充分である。味方とは、有能な怠け者より、無能な働き者の方が迷惑なのだ。
では何が大変だったのか? 何がシロを必死にさせていたのか?
それはシロが元の世界への一時帰還したとき、メチャクチャ両親に怒られたことである。ついでにクロにも怒られていた。
シロが元の世界に帰還したのは、クロを帰還させてから約2年後の時間軸だ。クロは約束通り、ポケモン世界での出来事を全部両親に伝えていた。当然最初は信じてもらえなかったが、いろいろあって最終的には信じて貰えたのでシロとの再会はスムーズに済んだ、いい両親である。
ちなみに「どうやったらこんな荒唐無稽の話を信じてもらえるんだ?」と思うようなことを信じさせることが出来た「いろいろ」については―――長くなるうえに脱線するので省略させてもらう。
そして再会した時、正直お互い感情がゴチャゴチャな状態で、奇跡的な再会とはとても思えないほどカオスなことになっていた。まぁ、半分以上がシロの自業自得であるが……。
そして最終的には、シロは両親に別れを告げ、クロのことをお願いしてポケモン世界に戻ってきたのである。もう2度とシロに会うことは出来ないが、シロの両親はソレを理解した上でシロが戻るのを許し、見送ったのだ。なんだこの聖人たち……。
そして、肉体も健康になり、ラティアスたちと一緒にガラルにやってきたのである。
そしてユウリにガラルを案内されながら、バトルフロンティアの新しいブレーンとなったレッドに挑戦する為に日々ポケモンバトルの研磨をしているのだった。
ちなみにレッドも向こうで修行しており、成長速度がレッドの方が上なのでどんどん実力差は開いていっているのだが、知らぬが仏である。
「あっ、じばく しそう――」
「へ?」
何気なく言われたユウリの言葉に、そんな声が漏れる。
そして次の瞬間――本来テッカグヤがレベルアップで覚える筈のない「じばく」により、シロたちはダイマックス巣穴から爆風で吹き飛ばされてしまった。
もっとも命に別状はない。
巣穴の入り口に戻されたシロと シャクヤは倒れているが傷一つ無く、ピオニーも気を失っているだけ。ゼロ距離でテッカグヤの「じばく」を受けたユウリもところどころ服が焦げているだけだった。
これだけの事があっても死ぬ危険が無いことを考えると、本当に死ぬ可能性のあったあのバトルフロンティアが如何に魔境であったかが、よく分かる。
それでもいつか絶対にリベンジすると決意しているシロは、立派な
それだけ夢中になれる最高の施設、それこそがバトルフロンティアなんだろう。
なんて、そうは思わないかい? この世界が好きなダレカさん?
あぁ、自己紹介が遅れたね。
私たちはプレイヤーだよ。こうして、君に話しかけるのは初めてかな?
というか、ちゃんと私たちの言葉は届いてる?
ゲームを始める時に、博士が君に話しかける要領で、こっちから話しかけているんだけど……なんかシステムが違うみたいで、そっちの言葉が届かないんだよねぇ。
まぁ、とりあえず届いていると仮定して話を続けるね?
そして、単刀直入に言おうか。
君も、私たちと同じプレイヤーになって、この世界で遊ばないかい?
私たちは、ポケモン世界が大好きなんだ。喜劇も、悲劇も、苦しむ姿も、逆境に立ち向かう姿も、皆みんな大好きなんだ。愛していると言ってもいい。
だから、いろいろやって遊んでいるんだよ?
いろんなポケモン世界を見たいから、君たちが考えた「if」の世界を創って遊んでみたんだ。
とっても楽しかったよ。私たちが考えもしなかった世界がいっぱいできたッ!
だからさ、君に声を掛けたんだ。私たちは、君と一緒に遊びたい。ポケモン世界は、1人で遊ぶより、みんなで遊ぶ方が楽しいからね。
もちろん強制はしないよ。楽しみ方はそれぞれだし、見ているのが好きかもしれないしね。
でも、もし興味があるなら。
君の主人公を決めて、ポケモンも育成して、一緒に楽しもうじゃないかッ!
プレイヤーの1人として、いつか君たちが来るのを待っているよ?
それじゃあ、まったね~♪
という訳で『バトルフロンティアが廃人の施設とか言った奴出てこい』は完結です。
ここまで読んでくれた皆様、本当にありがとうございました。
いや、我ながら設定が分かりにく過ぎる……。
それというのも今回の作品、実はテーマというかある疑問から生まれたお話でして……。
その疑問が「現実世界からポケモン世界に行ったときに、遊んでいたゲームのポケモンが手持ちに居るにはどんな理屈があれば可能か?」というものです。
ゲームでゲットして育てたポケモンが手持ちに居る。
夢のある展開ですが、現地ではなく、ゲームで捕まえたポケモンでなくてはいけない理由に、納得のいく理屈を考えてみたんです。
そう考えたら「なんで主人公はポケモン世界に来たの?」「そもそもゲームでの主人公ってどういう存在?」「プレイヤーはどういう立ち位置にいるの?」
とか色々考えているうちに、できたのがこの作品です。
これからシロは、本当の意味でポケモン世界の人間として生きていくことになります。
あの後、アクア団とマグマ団を通して接触したダイゴと色々問答があったり、アルセウス関係でシロナが訪ねて来るなどありますが、そこまで行くとタイトルであるバトルフロンティアが関係なくなるので、作品としてはここで終了です。
最終的にシロは、レッドに勝てたのか? そこはご想像にお任せします。
だいたい想像通りだとは思いますが……。
それでは最後にもう一度、最後まで読んでいただき本当にありがとうございました。