デビルサマナー葛葉ライドウ 対 天穂のサクナヒメ   作:カール・ロビンソン

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第参章『ヒノエ島の日々』・下

 実る程首を垂れる稲穂かな。時はまさに秋。揺れる稲穂の海を翡翠の鎌でかき分けて、地面に横たえし穂を稲架掛けいたしますれば、これにて今日の仕事は一件落着。暮れていく陽に染まりし、ひとすぢの風を連れ来る秋茜の姿を見ますれば、愛を語るハイネの心が伝わってまいりまする。

 

「ふぃ~。終わった終わった。さてさて、今年の仕事ももう終わりじゃな…」

 

 西の山に沈みゆく陽を眺めたるサクナヒメ。今年もまた万作であった、と一安心。今年もまた我が子に等しき天穂の根付きの強さを実感したのでありました。

 やがては、白米となり俵に納められて都に運ばれる天穂よ。その美味さに都の人は有頂天。感謝感激雨あられ。都の道を行けば、感謝の言葉を伝える子があればサクナヒメの心も躍るというものです。これぞ我らが誉れ!!

 

「おう、ライドウよ。そっちはもう終わったかの?」

 

 夕日を背に歩み来るライドウに、竹の水筒を投げて寄越しサクナヒメは笑顔を向ける。その笑顔が途中で、微かに凍り付き、ふと頬を赤く染めたのはライドウが水筒に口をつけた時。今日まで恋うる殿方を得ることのなかったおひいさまにとって、間接接吻は恥じらうことにございます。さりとて、そこは負けん気強いサクナヒメ。何とか表情に出さぬように努めます。

 

「いいえ。まだ半分と言ったところです」

 

「だらしないのぅ。このままでは日が暮れてしまうではないか」

 

「申し訳ございませぬ」

 

「まあよい。どれ、わしが指導してやろうぞ」

 

「はっ! ありがたき幸せにございます」

 

「がっはっはっは! 其方に頼られるのはまっこと良い気分じゃな!」

 

 ライドウを従えて、サクナヒメはいざ麓の田へと向かう。愛しき者に頼られるのは、さても嬉しきこと。背や腰の痛みも忘れたおひいさま。縁側に座るタマ爺は、隣に座るゴウトと共に、その後姿を見送るのでした。

 

「おひいさまはライドウ殿にすっかり夢中でございますな、ゴウト殿」

 

『それは何よりですな、タマ殿』

 

 夕日の向こうに消えていく二人の姿を見送って、タマ爺とゴウトはしみじみとそう申します。サクナヒメの弾けんばかり笑顔の眩しさよ。まるで、稲穂を照らす陽の光のようではないか。

 我が姫のあのような屈託のない笑顔を、タマ爺は今の今まで見たことがございませぬ。そう。地の底での決戦の後、御両親の霊と邂逅したおひいさまの、哀しき本音を聞くまで気づかなかった笑顔の陰。それがライドウを前にして笑う時には感じられぬのです。

 

「ゴウト殿。御身とライドウ殿には感謝しておりまするぞ。おひいさまのあのような笑顔は初めてでございます」

 

『それは我らも同じこと。…ライドウがあのように笑い、多弁に振る舞う様を吾輩は見たことがありませぬからな』

 

 そう言うて、ゴウトは静かに目を閉じる。出会ったことから今に至るまでのライドウの姿を思い出し。

 親元から離されし第14代目ライドウ。人里離れた修練の社にて、日々繰り返されるは死すれすれの修行の日々。その結果、ライドウは戦士として悪魔召喚士として類まれなる実力を身に着けました。しかし、それは人の感性を犠牲にして。多感な青年でありながら、ライドウは滅多に口も利かぬ、表情さえ変えぬ男子に育ったのでした。それは、人として見れば幸せでありましょうか? このヒノエの安らかなる日々こそが、ライドウにとっての幸せではあるまいか。そう思うのでございます。

 

「…おひいさまとライドウ殿は似ていなさる。それ故に、お互い惹かれ合い無防備になっておるのかもしれませぬな」

 

『そうですな…』

 

 タマ爺の言葉に、ゴウトも頷いて同意します。動たる驕慢の仮面を被りし、サクナヒメ。静かなる諦観の仮面を被りしライドウ。二人の姿はよく似ている。そう思うのでございます。 

 

 嗚呼、稲穂が乾き、脱穀を終えればいよいよ決戦の時。二人はヤマトとヤナトの地を汚す悪漢共と、死力を尽くして戦わねばならぬ運命にあります。

 だからこそ今は、二人の間に水が要らぬようにしたい。二人の後見人は親心からそう思うのでございます。今こそが若き英雄と女神の輝ける青春の時にありますれば。

 

 ふと、畑の中に何かを見出したるタマ爺。近づいてそれを拾うと、ふと笑うのでありました。

 

「やれやれ…おひいさまがこれを落として気づかぬとは、余程安心しておるのでございますな」

 

『ほう。なんですかな、それは?』

 

「種籾でございますよ」

 

 小さな錦の巾着袋に入っておりまするは、一握の種籾。サクナヒメは毎年収穫の際には、これに一握りの種籾を取っておくのでございます。母なる大地が育てた米が、我が守りにならんと祈願をこめたれば。

 

「そうじゃな。今年はライドウ殿にも持っていて貰いまするか」

 

『ですな。ライドウも励みになることでしょう』

 

 タマ爺とゴウトは互いに顔を見合わせ言うのであります。前途多難な若者の幸せを二人の後見たる老臣は、冀わずにはおられぬのですから。

 やがて、ゆいが夕餉の支度が出来たことを伝えに来ます。後は、ライドウのメインディッシュを待つのみぞ。既に夜の精霊が闇の帳を空に降ろす頃。タマ爺とゴウトは互いの主を出迎えに行くのでございました。

 

 さて、安らかなる日々は終わりを告げ。戦いの予感が迫ってくるので参ります。果たして、我らが英雄ライドウと女神サクナヒメは、見事事件の裏に潜む悪を白昼に晒し出し、討ち果たして見せるのか。それは次回『第肆章:解放されし厄災』で語ることと相成ります。

 

 それでは、皆様のご期待を希いながら、一度幕引きとさせていただきます。ご清聴ありがとうございました!!

 

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