デビルサマナー葛葉ライドウ 対 天穂のサクナヒメ   作:カール・ロビンソン

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第肆章『解放されし厄災』
第肆章『解放されし厄災』・上


 草木も眠る丑三つ時。夕餉を食したライドウとサクナヒメは、夜陰に紛れて出発いたしました。行き先は、都の船が付く波止場にございます。

 以前、餓鬼共に異界に誘われたのもそこであった、とサクナヒメは言います。そこであれば、都でトウコツが捕らわれた影響も受けぬだろう。そう考えたライドウとココロワヒメは米を運ぶ振りをして、待ち伏せをするという策を考えられたのです。

 なお、周りにはライドウの持つ退魔の水が振り撒かれています。これで、餓鬼共はライドウ達の気配には気づかぬのでございます。

 

 荷車に乗せられ都に納入するふりで輸送される米は、ココロワヒメの絡繰りに運搬を任せている。ライドウとサクナヒメはそれを物陰から監視しつつ、餓鬼が米を強奪した際には、それを密かに追いかけ、敵の親玉の下へ案内させるのだ。まさに、唐土の諸葛孔明もかくやの作戦ではないか!

 

「…しかし、現れぬのぅ。こんな単純な策で大丈夫なのかのう?」

 

「単純であればこそ、当方に特にリスクがありません。初手としてはうってつけにございます」

 

 膝の上に座るサクナヒメに、それをマントで包むライドウが言います。作戦とは複雑であればいいというものではござらぬ。リスクがなければこそ、いくらでも別の策に打って出ることができるのです。いやはや、シンプルイズベストとはよく言ったものでございます。

 

 不意に、ライドウの肩に乗るゴウトの髭が揺らめきます。ライドウとサクナヒメの背筋にも何やら寒気に似た感覚が走るのでございます。

 

『来たな、ライドウ』

 

「ああ」

 

「ふん。えらく、あっさりひっかかったものじゃな」

 

「策とはそう言うものでございます、おひいさま」

 

 ライドウの膝から降りて、鎌と鍬を構えるサクナヒメ。腰かけた岩から立ち上がるライドウ。ゴウトとタマ爺も主に従うべく、身構えまする。

 不意に周囲を覆う異界の雰囲気。周囲の色が変わっていきます。敢えて異界に対応できぬようにした絡繰り人形はまるで糸が切れたかのように動きを止めます。

 そして、どこからともなく現れた餓鬼の群れ。十数匹のそやつらは、荷車に積まれた米を見て小馬鹿にするように笑いこけます。そして、遠慮なく数体で一つの米俵を担ぎ、運び去るのです。

 

「むぅ…しかし、あのような者にわしの米が攫われるのを見守るのは業腹じゃのう…」

 

「御辛抱なさいませ、おひいさま」

 

 苛立つサクナヒメをタマ爺が諫めます。サクナヒメとしては、丹精込めて育てた米が奪われるのを見守るのは歯がゆい気分にございましょう。しかし、これも悪を滅ぼさんがための苦肉の策にございます。

 

「取り戻せばいいだけです、姫」

 

「…そうじゃの。では、後を追うぞライドウ」

 

「はっ!」

 

 荷車の米を全て奪った餓鬼共をライドウとサクナヒメはつけていきます。餓鬼共の足は遅く、足音を殺しながらでも難なく追いつくことができます。

 そして、岩陰まで追いついた時、奴らが空間に開いた穴に飛び込むのが確認できました。それは恐らく、奴らの拠点に続く門。奴らが飛び込み、門が閉じられかけたところを目掛けて、ライドウとサクナヒメも殺到し、そこに無事潜入するのでありました。

 

 餓鬼共の背後に立つライドウとサクナヒメ。だが、奴らに気づいた様子はござらぬ。退魔の水は弱き悪魔の認識を完全に断ってしまうのです。

 降り立った場所は、御柱都に似た寝殿造りの建物の中。しかし、そこはどこか禍々しく、しかもしばらく使われていないような埃っぽさがございました。サクナヒメは直感しました。ここはかつて鬼の頭領となった石丸が立てこもっていた屋敷である、と。新たにやってきた邪神共はそこを拠点にしていたのでございます。

 

 更につけていくと、餓鬼どもはさる一室で足を止めます。そこにあるものを見て、ライドウとサクナヒメは目を見開きます。

 部屋の真ん中に空いた大穴。それは奈落の落とし穴のように禍々しい邪気に満ちたものにございます。

 そこに駆け寄った餓鬼どもは遠慮なく、そこに米俵を投げ込むのでございます。

 

「なっ!!」

 

 サクナヒメの顔色がさっと変わります。自分が慈しんで育てた米を食らうのでさえなく、まるでゴミのように奈落の穴に捨てるような行為。その悲しい光景に衝撃を受けたのでございます。

 

『あの穴…邪気の根源に繋がっているようだぞ』

 

「ああ。だが、あれは…」

 

 冷静に状況を分析するゴウトとライドウ。あの穴は恐らく、このヒノエ島が集めた邪気の核に繋がっている。そう直感した。そして、肌にびりびりと感じるこの感覚。それは餓鬼道のそれに近いもの、と感じられた。圧倒的! 圧倒的な飢餓感!! それが穴の奥を満たしておるのです!!!

 

「ぬぅぅ…」

 

 次々に投げ入れられていく米俵。サクナヒメは奥歯を噛みます。我が子同然に育てた米を冒涜する餓鬼共の行為に憤懣やるせぬ御様子。しかし、これも策のためと涙を呑んで我慢なされておるのです。

 

 しかし、これ以上我が姫を悲しませる用はなし。ライドウは懐から短銃を抜き、最後の米俵を担ぐ餓鬼共目掛けて三連射! 弾丸が邪悪なる鬼を討ち貫きたれば、気分はブギウギ!!

 

 これにはさすがに危機を感じたる餓鬼共。米俵を取り落とし、逃げにかかります。しかし、それを見逃すサクナヒメではござらぬ。

 

「もらった!」

 

 俊足の鎌の一閃できゃつらの首を刈り取るサクナヒメ。その速さ、弾より速し! 浮足立つ邪鬼共を撫で斬りにし、忽ち平らげるのでした。

 開いていた穴は既に閉じてございます。敵には既に侵入は察知された模様。しかし、それはもう覚悟の上。親玉が逃げぬうちに始末をつける。ライドウとサクナヒメは通路の奥へと駆けて行きます。

 

 しかし、それは問屋が卸さぬ。目の前かららんらんと輝く赤い目が多数。サクナヒメが油玉に火を灯し、先を照らせば、そこには兎や豚が人のように歩く異形が映し出されます。それはこの島に住まう鬼の姿。しかし、雰囲気が尋常ではござらぬ。目が赤く輝き、禍々しい赤黒い吐息のようなものを吐き出しております。これは一体どうしたことか。

 

「こやつら、いつもと違うぞ!?」

 

「…そのようです。しかし、敵ならば討ち果たすのみ」

 

 驚くサクナヒメに、応えるライドウ。一目散に向かってくる鬼どもを排除せねば、敵の親玉を追うことはできぬ。だが、この数を短時間で蹴散らすには二人だけでは少々骨が折れる。ライドウは懐から二本の管を抜き、直ちに悪魔を召喚します。

 

「ふん。取るに足らぬ相手に我を呼んだものだな、サマナーよ」

 

 頭上に冠を頂き、肩に七支刀を担ぎし荒神。大和最強の建速須佐之男命、只今見参! 無数の鬼を向こうに回して不遜な笑みを浮かべる姿は闘志に満ち満ちておりまする。

 

「義父上、久し振りの実戦なれば油断なされぬよう」

 

 そう涼やかに諫めるは、両耳の横で髪を結わい、環頭太刀を携えし美形の男神。国津神の主神、大国主命にございます。その表情は氷のようにきりりと鋭利。しかし、多数の敵を向こうに回しても不敵に笑う余裕さえあります。

 

「父上…? それに其方は…」

 

 現れたる男神二人を見て、サクナヒメは呟きます。もちろん、彼らは我が父タケリビではなく、もう片方は見たこともありませぬ。しかし、どこかで会ったかのような、そんな感じがするのでございます。

 

「ほう…これは吾が妻に似た麗しき姫宮…」

 

「確かに、娘に似ておるな。しかし、色目を使うなよ、婿殿」

 

「吾輩そこまで命知らずではござりませぬ」

 

 大和の神々もサクナヒメには既視感を覚えておる様子。しかし、今はそれを語る時ではございませぬ。目の前の悪の軍勢を討ち果たし、厄災の根源を断たねばならぬのです。

 

「さて、行きましょう。サマナーは姫宮を守りなさい。これしきの輩、吾輩と義父上が蹴散らして見せましょうぞ」

 

「うむ。遅れるなよ、婿殿」

 

 言葉を交わし、敵に躍り込む雄々しき二神。それぞれが大和最強の神なれば、有象無象の鬼共など敵にして敵にあらず。まるで無人の野を行くかの如き獅子奮迅の暴れ振り。玉砕! 粉砕!! 大喝采!!! よはや、我らが前に敵なし!!!

 

 神々が開いた道をライドウとサクナヒメが駆け抜けます。さあ、いよいよと悪の首魁との決戦の時! 油断するなよ、我らが英雄と姫宮よ!!

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