デビルサマナー葛葉ライドウ 対 天穂のサクナヒメ 作:カール・ロビンソン
迫りくる凶鬼どもをば蹴散らして、進めや進め! 不退転の心意気こそが血路を開くのだ!!
荒神の一振りが鬼共を木の葉の如くに吹き飛ばせば、そこに切り込む国津神の主。舅と婿、二柱の神に隙はなし。
やがて辿り着きたるは最深部。禍々しき饕餮文の描かれたる門を前に、ライドウは今一度後ろを振り返る。後方からは追いすがる無数の鬼共。門を開けて突入すれど、先にいるであろう親玉との乱戦は必至。
「さて、ここは任せて先に進みなさいサマナー」
「ふむ。婿殿、後は任せたぞ」
「…御冗談を、義父上。吾輩だけでこの数の相手はいささか無理があります」
「軟弱なことだ」
言葉を交わして、再び鬼共と向かい合う神々。相分かったと頷きあって、ライドウとサクナヒメは門をくぐるのでした。
先に進めば、待っていたのは大広間。その広さは大層なもので、東宝ダンスホールもかくや、というものでございます。
その中央には強大なる陰陽印。そして、その中央に坐するのは巨大なる牛面の神。六本の腕には剣、盾、戟、斧を持ち、四本の足は赤兎馬の如くなり。彼の者の名は蚩尤。その昔、大陸で偉大なる黄帝と覇権を争った魔王でありまする。
「ほう。ここまで来る武勇の者がこの国にもおったとはな」
立ち上がり、ライドウとサクナヒメを睥睨する蚩尤。その体躯は20尺にも及ぶ巨体。子供と大人以上の差がございます。
『蚩尤か…油断ならぬ相手だぞ、ライドウ』
ゴウトの言葉に、ライドウは静かに頷くのみ。蚩尤は魔王の中でも上位に位置する悪魔。ライドウにとってもかなり手強い相手であれば、背筋に冷たい汗が流れるのを感じるのです。
「…其方、何ゆえに米を盗んでおったのか」
しかし、怖気を知らぬサクナヒメ。前に進み出て蚩尤に問いただします。先の戦では、更に巨大なオオミズチと刃を合わせたれば、如何なるものも畏れるに足らぬ。
「ほう。我を畏れぬか…小柄なれど、勇敢な姫よ」
蚩尤はサクナヒメを見下ろし、ある種の敬意を込めて言うのであります。一つには冥土の土産というところでありましょうか。
「知れたこと。厄災を集め、我が糧とし、再び黄帝と一戦交えんとするのみよ」
『厄災だと?』
「然り。この世にも、また別の世にも人は飢餓の怨に満ちておる。その怨を集め、五穀の長たる米を捧げ、育てておったのよ」
ゴウトの言葉に応えた蚩尤の言葉に、ライドウは苦い顔を浮かべる。大和の地では、凶作と成金の買い占めによる飢餓の怨が、ヤナトの地では戦乱による飢餓の怨が満ちている。人の生み出した怨を集め、魔王は天に戦を仕掛けんと欲していたのでございます。一連の事件は、飢饉という天災に加え、戦争や買い占めといった人災が生み出した、と言ってもいいものなのです。
「さて、怨念は存分に集まったが、天に反旗を翻すにはまだ物足りぬ。邪魔はさせぬぞ」
「其方の事情など知らぬ。我が天穂を狙うた罪、贖って貰うぞ!」
武器を構える古の魔王に、鍬を突き付けてサクナヒメは宣言します。ライドウもまた赤口葛葉を抜き放ちて構えるのです。さあ、いよいよ決戦の時。負けるな、ライドウ、サクナヒメ!!
先手を打ったのはサクナヒメ。目にも止まらぬ早業で、振るわれる鎌は一直線に蚩尤の首筋を狙うのであります。これぞ、武技飛燕也!!
きぃん! 甲高い音が、響きます。蚩尤めの盾がサクナヒメの鎌を弾いたのでございます。そのまま、盾を突き出して殴りつける蚩尤。サクナヒメはひとたまりもなく、弾き飛ばされるのです。
「ぐっ! こやつ…あの図体の癖に何という速さじゃ…」
まるで猫のように空中で一回転。地面に降り立つサクナヒメは、打たれた頬を親指で一撫でして呻きます。大男、総身に知恵が回りかねと言いますが、魔王蚩尤はそのような凡夫ではないのです。
「姫、ここは連携で!」
「うむ!」
互いに単身では勝てぬ相手。されど、力を合わせれば討てぬ敵などいない。お互いを信じあい、いざ再度攻勢に出るライドウとサクナヒメ。
まずはライドウが銃で三連射。当たらずとも牽制になればいい。案の定蚩尤は盾で弾丸を防いだのです。すかさず、地を駆けるサクナヒメ。再び目にも止まらぬ速度で、今度は敵の足を狙うのです。
しかし、一度仕掛けた技は蚩尤には通じませぬ。大きく跳躍して刃を避け、頭上から斧を振り下ろそうとします。だが、それこそサクナヒメの思う壺。姫の突撃は軌道を変え、まるで鯉が滝を上るかの如くに上昇し、蚩尤に迫りまるのです。盾で防ごうにも、ライドウは再び三連射。蚩尤の盾を抑え込みにかかります。
蚩尤の首に迫るサクナヒメの鎌。後一寸で届く。刹那、閃く銀光。カキィン! なんと、姫宮の刃は寸でのところで魔王の刃に弾かれるのでございました。
しかし、その程度ではサクナヒメは諦めぬ。今度は鍬を手に取って、大上段の一撃を見舞うのです。しかし、疾風迅雷の一撃さえ凌ぐ蚩尤。大振りの一撃では仕留められませぬ。案の定、斧を持つ腕に止められてしまうのです。
その隙を衝いて、ライドウが大きく飛び上がり赤口葛葉の横一文字斬り。魔王を背後から斬りかかります。しかし、敵もさるもの。長い戟を持つ手が致命の一撃を防いだのです。そして、自由になった盾の一撃がライドウを襲う。刀を盾にする暇もなく、盾はライドウの身体を吹き飛ばし、壁に叩きつけるのでありました。
「ライドウ!」
痛恨の一撃を受けたライドウに、サクナヒメが悲鳴のような声で呼びかけます。しかし、サクナヒメもまた危うし。蚩尤が空の手でサクナヒメの身体を掴み、地面に投げ飛ばして叩きつけたのでございます。これには受け身をとることもできず、哀れサクナヒメは地に倒れ伏すのです。
そして、無防備な姫の頭上から迫る蚩尤の剣、戟、斧! まさに絶体絶命の危機!! 姫宮、万事休す!!
何とか顔を上げるサクナヒメ。しかし、その眼前には迫りくる蚩尤の刃。もはやそれを止める手もなし!!
ザシュッ!! 鈍い音共に、血飛沫が宙を舞ったのでございました!!
「…ふん。何とか間に合ったようだな」
サクナヒメの前に鎮座する巨大な影。振り上げられた刃。そう、こつ然と現れたる日出国の荒神が、日没国の魔王の腕を撥ねたのでございます!!
苦悶の表情で立ち上がるライドウ。しかし、呻きの一つも漏らさずに紡がれた祝詞は、後方より荒神を召し寄せたのでございます。後方の戦線を支えるのは、今や大国主のみ。無数の鬼共を相手に、長くは持ちこたえられませぬ。ライドウは一か八かの賭けに出たのでございます。
「さて、娘に似た姫よ。まだやれるか?」
「ちち…うえ…」
サクナヒメを一瞥して言う須佐之男命。その眼差しに、サクナヒメは父であるタケリビの面影を見出したのです。例え、世が違えども父の如き神の前なれば、倒れたままでおるわけにはいかぬ。渾身の力を込めて、サクナヒメは立ち上がるのです。
「はい! サクナはまだ、戦えます!!」
「その意気やよし」
サクナヒメの言葉を聞き、須佐之男命は前に進み出ます。その表情は髪に覆われて見えずとも、笑っておることが分かります。
「さて、唐土の神よ。尋常に勝負願おうか」
「望むところよ。小さき国の荒神よ」
対峙する荒神と魔王。その威容はまさに龍虎の睨み合い。嵐のごとき闘気のぶつかり合いの中で、先に進み出たのは須佐之男命。七支刀を大きく振るい、剛腕の一撃を叩き込むのです。
それを盾で凌ぐ蚩尤。だが、その巨木をも倒す一撃は、魔王の巨体さえも揺すり、体勢を崩させるのです。しかし、それでも放たれた剣の突きの一閃。それを紙一重で交わす須佐之男命。彼の神同士の戦は互角の様相でありました。
しかし、互角であれば、その一方に別の力が加われば均衡が破れることは必定。
「もらった!!」
狙いを済ませた飛燕の一閃。今度こそ、蚩尤の足を捉えたり。サクナヒメの神速の一撃の前に、足を斬られた蚩尤は堪らず転倒するのであります。
「ふっとべぇ!!」
そこに鍬の横薙ぎの一撃。サクナヒメ渾身の一撃は、蚩尤の巨体を水平に吹き飛ばします。そして、その先にいた者、それこそ我らが英雄ライドウよ。
赤口葛葉、一刀両断!! 放たれた大上段の剣閃は、蚩尤の無防備な背中を捉えてこれを斬る。それは見事、魔王の命運を断ち切ったのでございます。
「ぐううう…! 見事、也…」
地に倒れ伏した魔王の姿が塵へと変わっていき、やがて、頭部を残して砂の楼閣のように消え去っていきます。嗚呼、見事! 見事也葛葉ライドウにサクナヒメ。悪の枢軸は滅び、かくて事件は見事解決! 二人はそう思っておりました。しかし、事態は急転直下。いよいよ真なる悪が、二人の前に姿を現すのでございます!!