デビルサマナー葛葉ライドウ 対 天穂のサクナヒメ   作:カール・ロビンソン

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第肆章『解放されし厄災』・下

 さて、戦いは終わり見事我らがライドウとサクナヒメの勝利。後に残るのは、地面に描かれたる陰陽印。そして、転がる蚩尤の頭部のみにございます。

 そして、薄っすらとなっていく陰陽印が、やがて消えてなくなります。蚩尤が倒れたことで、奴めがこの地にかけていた術が解かれたのでしょう。

 

 その途端、サクナヒメとライドウの耳に聞こえる地鳴りの音。それは瞬く間に大きくなり、やがて部屋全体を揺らす大地震に発展したのでした。

 刹那、先ほどまであった陰陽印の場所に大穴が開き、巨大なエネルギーの奔流があふれ出します。それはマグネタイトと同質、いやもっと禍々しい似て非なるものでございました。

 一体全体これは何事か。ライドウとサクナヒメは揺れに足を取られぬよう、地に伏して様子を伺います。須佐之男命が剣を構えますが、流石に瀑布の如きエネルギーの流れを断つことは難しい模様です。

 

 やがて、揺れが収まり、吐き出されたエネルギーは宙を舞い、まるで人形のように形を変えていきます。何と不気味なるその姿。そして、その巨大さは先の蚩尤さえも凌ぎます。それはまさに亡霊と呼ぶにふさわしい、怨念が形を持ったものでした。

 

 すぐさま須佐之男命が七支刀を振り下ろします。しかし、それはただ影を切ったかのようでした。いえ、手応えはあったのです。だが、亡霊のエネルギーがあまりにも大きすぎる。海の水に拳を叩きつけたかのような感触であったのです。

 

「みたされぬぅ…みたされぬぅ…みたされぬぅ………」

 

 何と奇妙で吐き気を催す光景か!! まるで影絵のような亡霊の表面に、次々と人の口が浮かび上がってきたのです。その数、10、20、30、いえとても数え切れるものではありません。そのそれぞれが、食物を求めるかのように、よだれを垂らしながら、黄ばみ、欠けたる歯を蠢かせるのです。

 

「みたされぬううううぅぅぅぅううううーーーーー!!!!!!」

 

 地獄の底から聞こえてくるような暗き咆哮と共に、無数の口がライドウとサクナヒメに襲い掛かります。この姿勢では、巨大な口の塊をよけることは不可能。それぞれに武器を盾にせんと構えます。

 

 ところが、亡霊は二人の身体に食いつくことなく、すり抜ける様にして言ったのです。

 

 すると、俄にライドウが地面に突っ伏します。サクナヒメも同様、身を起こすことさえできず、鎌を握っていることさえ不可能な程の怠さが身体を覆いつくします。

 続いて襲ってくる、圧倒的な飢餓感と渇水感。喉が焼けるようにひりつき、腹が自らを焼こうとする痛みが走ります。ライドウが歯を食いしばり、立ち上がろとしても芋虫のように這うのでやっとという有様。気を抜けば、意識がなくなり、そのまま餓死してしまう。そんな考えが頭に過るのです。

 サクナヒメもまた声さえも出せぬ様子。息をするのも苦しい有様。何とか手足を動かそうとするも、ただ無益にもがくだけにございます。

 気が付けば、須佐之男命の姿が消えています。ライドウのマグネタイトが枯渇したことで、現世に姿を保てなくなったのであります。外の大国主命も同様でありましょう。

 

『こやつ…ヒダル神か…』

 

 ライドウ達と同じく地に倒れ伏したゴウトが思念をライドウに伝えます。ライドウは頷くことさえもできず、心の中で同意するのみでした。

 ヒダル神。それは大和の伝承に伝わる亡霊で、山道を歩いている人などに激しい空腹感や疲労感を覚えさせるのです。酷い時にはその場から動けなくなり、そのまま死んでしまうとも言われている凶悪な存在であります。なんと、蚩尤の貯めた怨念は、自ら意思を持ち、ヒダル神となって降臨したのです。

 

「ぬぬ…! これはどうしたものか…!?」

 

 一方でタマ爺は焦燥に満ちた表情ではあるものの、動くことに支障はなさそうであります。剣の精霊であるタマ爺は食事を必要といたしませぬ。故に飢えや渇きとは縁がないのです。

 これはまさに九死に一生を得たり。ライドウは渾身の力で腕を動かし、ペンを取り出します。そして、かすれる声で弱々しく言うのです。

 

「タマ殿…御手を…我が…手元に…」

 

「おお、こうかな?」

 

 ライドウの手元に肉球の付いた手を寄せるタマ爺。ライドウは震える手で辛うじて、そこに米と書きます。そして、それに口を寄せ舌で舐めたのでした。

 するとどうであろう。ライドウの飢えと渇きが僅かばかりいえ、手足を縛る怠さが僅かに解放されます。そして、よろめきながらも赤口葛葉を杖にして立ち上がるのです。

 

『…タマ殿…それを…姫と…吾輩…にも…』

 

「分かり申した!」

 

 ゴウトの言葉を聞き、タマ爺はまずサクナヒメの口元に手を近づけます。一も二もなくそれを舐めるサクナヒメ。すると、微かに身体は活力を取り戻し、何とか立ち上がれるほどにはなりました。

 そして、最後にゴウトに手を舐めさせたタマ爺は、背後に異様な気配を感じます。そう、門の外で食い止められていた鬼共が押し寄せて参ったのです。

 

 闇の中に無数の赤い目が爛々と輝き、吐き出されたる赤黒い気炎が、その悍ましい姿を浮かび上がらせます。奴らは既に異常をきたして居る模様。まるで、癒えることのない飢餓に突き動かされているかのようです。

 

「くっ…! こやつら…」

 

 サクナヒメが苦悶の表情で迫りくる鬼共を見据えます。しかし、何ともおいたわしや。その御姿は立っているのがやっとという有様。もう鎌を振るう力さえ、手足には残っておりませぬ。

 我らがライドウも同様でございます。マグネタイトも尽きたれば、悪魔を呼ぶことも叶いませぬ。嗚呼、五体満足であれば何事もなく蹴散らしてしまえる程度の鬼。しかし、今のライドウ達にはどうすることもできない、途方もない敵のように見えるのです。

 もはやこれまで。姫を守るために玉砕か。満身の力を込めて、ライドウは愛刀を青眼に構えるのです。しかし、それは哀しいほどの虚勢。まるで生まれたばかりの小鹿のような弱々しい有様では、幾多の鬼の暴力には抗えませぬ。

 いよいよ豚のような鬼がライドウに迫り、手にした棍棒をライドウに振り下ろそうとするのです。嗚呼、英雄ライドウももはやこれまでか!?

 

 刹那、弾ける紫電の球体! それは計り知れぬエネルギーをまき散らし、豚鬼共を吹き飛ばしたのです。これは秘術メギドの輝き。さりとて、一体誰が放ったのか!?

 

「久し振りだな、ライドウよ。なにやら、苦戦しておる様じゃが」

 

 聞き覚えのあるその声にライドウ、そしてサクナヒメが振り返る。

 すると、そこに立っていたのは、羊に似た身体、人に似た顔、山羊に似た角を持つ小柄な獣であった。

 

「な、なんじゃ? この妙な愛嬌さえある動物は」

 

「…この姿なるを侮ってくれるな。これでも四凶の一角と称される身…」

 

 サクナヒメの言葉に、獣はやや不興気に応える。彼の者は邪神トウテツ。先の事件でライドウと共に戦い、事件解決の鍵となる働きに寄与してくれた存在である。

 

『そうか。トウテツは蚩尤の頭、と言われていたな…』

 

 ゴウトが振り返ると確かに蚩尤の頭がない。そう。蚩尤の頭部がトウテツに変じたのである。

 

「彼の魔王と我とは別の神格になる。かつての仲間の義理として助太刀させてもらうぞ」

 

 そして、トウテツはかつてライドウと共に戦った時のことを忘れてはおらなんだ! これぞ僥倖!! ライドウが武勇を示し、働き続けた恩恵が今返ってきたのでございます。持つべきものはやはり仲間にございますなぁ!!

 

「さて、我は食らうことには遠慮はできぬぞ?」

 

 トウテツは鬼共に相対して、宣言する。そして、その口を大きく開いたのでございます。すると、忽ち竜巻のように空気がトウテツの口に吸い込まれていくのです。それに巻き込まれるようにして、吸い込まれていく鬼共。自身と変わらぬ大きさの兎鬼も、数倍の大きさの豚鬼も、轟轟と鳴る風音と共にどんどん吸い込まれていきます。これぞ、全てを食らう者トウテツの力。魔さえも裸足で逃げていく恐ろしさよ。

 

 瞬く間に、鬼共全てを平らげたトウテツ。すると、前足で何やら地面に印を描きます。すると、現れたるは眩く光る扉でございました。

 

「ここから現世に帰れるであろう」

 

「…感謝する」

 

「礼には及ばん。全ての世の人のため、今一度力を尽くせよ、ライドウ」

 

 礼を言うライドウに、トウテツは温かな口調で激励します。ううむ、このトウテツ。歴代葛葉ゲイリンの影響を受けたのか。とても邪神と思えぬ器量にございます。いやはや、偉大なるかな葛葉四天王家よ!

 しかし、その一柱のライドウは無念の敗退。いつの間にやら消え去った、大いなるヒダル神に手も足も出ず。這う這うの体で逃げることとなりました。

 しかし、ここから始まる敵の逆襲! その猛攻にライドウは徐々に追い詰められていくのであります! さて、どうなるどうする葛葉ライドウにサクナヒメ!! 事態は、まさに急転直下!! 果たして、ライドウとサクナヒメは生き延びることができるのか!? それは次回第伍章『残されたる希望』で語ることと相成ります。

 

 それでは、皆様のご期待を希いながら、一度幕引きとさせていただきます。ご清聴ありがとうございました!!

 

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