デビルサマナー葛葉ライドウ 対 天穂のサクナヒメ   作:カール・ロビンソン

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第壱章『サクナヒメ邂逅』・中

 百聞は一見に如かず。捜査の基本は足である。

 ライドウは探偵の鉄則に従い、事件現場である成金の豪邸にやって来ました。

 鳴海の曰く、彼の御仁は倉を二つ持っており、先日はその一つが丸々やられたとのこと。すなわち、下手人がもう片方の倉を狙っても何の不思議もない。

 

 あくまで探偵社としては関わらない。鳴海はそう念押しをして、ライドウに住所を教えてくれたのでした。断った依頼には立ち入らない。探偵としては当然のことでございます。

 さりながら、ライドウを社会見学の名目で送り出した鳴海。彼は信じているのです。ライドウの直感を。故に、名目を与えライドウを行かせたのです。いやはや、鳴海と言う男。なかなか粋な気概の男ではありませんか。

 

 とはいえ、依頼を受けておらぬライドウは塀の中には入ることはできませぬ。警備は厳重で、猫の子一匹見逃すまい、と厳つい男衆が見張っておるのです。

 しかし、それは無意味。侵入者に対してもライドウに対しても。

 

『いるな、ライドウ』

 

「ああ」

 

 倉のすぐ側の道路。ゴウトとライドウが感じるのは異界の雰囲気。そう、まさに倉の周りに異界が存在することに気が付いたのです。

 異界とは帝都の裏側。魔の者が住まう世界。闇に潜む悪魔は異界を通じて現世に影響を与えるのだ。

 

 幸いにも、異界の入り口ともいえる揺らぎは、すぐ側にある。ライドウは首を傾げる。誘われているのか、ただ知性がないのか。だが、そこに解決への道がありながら行かぬということはない。罠であれば、それを真っ向から叩き潰す。それこそが、快男児こと第14代目葛葉ライドウの生き様よ!

 

 揺らぎに飛び込み、異界に辿り着くライドウ。空はセピアに染まり、家や壁は影を落としたかのよう。周囲に人の気配はなし。それこそが異界。本来人の立ち寄らぬ悪魔の領域である。

 

 

 だが、それは偏に潜入の好機。ライドウは腰の刀-赤口葛葉を壁に立てかけ、鞘に付いた紐の緒を握る。そして、鍔を足場にひらりと宙に舞い、見事塀の上に登る。後は刀を引き戻せば潜入完了。まさに、マシラの如き早業よ。

 

 塀から降り立ったライドウは無人の蔵の前に立つ。だが、しかし倉の扉は閉ざされたまま。吊るされた大仰な錠を開ける鍵はなし。

 だが、そこでライドウは赤口葛葉を一閃。研ぎ澄まされた刃の美しい、その切っ先は忽ち錠を切り落とし、道を切り開いたのです。

 鍵を開け、渾身の力で重々しい扉を開けるライドウ。薄暗い倉の中がセピアの空のもとに晒される。

 倉の中には、ライドウの方に虚ろな視線を向ける4つの影。人の子供程の体躯に、貧弱な胸と腕と足。にもかかわらずポッコリと膨らんだ腹という、人に得も言われぬ不快感を与えるその者は餓鬼。六道の内、餓鬼界の亡者であり、低級な悪魔である。

 

 奴らが担いでいるのは米の俵。既に倉の中身はそれだけになっておりました。他の者がどうなったか、それを聞けども餓鬼に答えられるはずもなし。

 

「…メシ、クッタ…カ?」

 

 餓鬼共はただ虚ろな目を向け、ライドウにそう尋ねるのでした。ライドウは何も答えず、鯉口を切る。討伐すべき悪魔に問答は無用。ただ、正義の刃で裁きを下すべし。

 

 刹那、2体の餓鬼共がライドウに躍りかかります。その俊敏な動きは、その貧相な体躯に見合わぬもの。どのような容貌でも悪魔は悪魔。油断ならぬ存在なのです。

 しかし、ライドウもまた電光石火。赤口葛葉の刃の舞うこと飛燕の如し。胴薙ぎの一閃からの大上段からの一刀を組み合わせれば、見事な十文字斬り。真四つに裂かれた餓鬼の身体は、まるで日に照らされた影の如く消え去るのでした。

 そこに襲い掛かる餓鬼の鉤爪の一撃。悍ましく伸びた爪の一撃は、ライドウの腹を裂き、その肉と臓腑の中の僅かな食物を奪わんとするものであった。

 だが、ライドウは身を翻して紙一重でかわし、返す刀の逆袈裟で、見事餓鬼を両断するのでした。

 

 後ろに控える餓鬼共が後ずさる。愚かな悪鬼にもライドウが逆立ちしても敵わぬ存在である、と理解できたのだ。恥も外聞もなく、浅ましく背を向け逃げの一手にかかる。

 そこに鳴り響く、銃声。静寂を切り裂く轟音と共に放たれた弾丸は餓鬼を撃ち倒したのだ。

 ライドウの手にあるのは、愛用の単銃コルト・ライトニング。早打ちの三連射で気分はブギウギ!!

 

 逃げていく最後の一体をライドウは追う。敢えて逃がすことで、敵の本拠に案内させる。悪魔狩人の常套手段だ。

 逃げる餓鬼が飛び込んだ先。それは空間に開いた穴。先ほどの揺らぎに似た、だが明らかに雰囲気の違うそれにライドウとゴウトは戸惑う。霧に満ちた先の風景は、異界とも違う面妖な場所のようであった。

 

『ライドウよ、どうする?』

 

「知れたこと」

 

 ゴウトの問いにライドウは短く応え、迷うことなく穴に身を投じる。その先に事件解決の鍵があるのなら、ライドウが惑うことなどない。不退転。ただ、前進制圧あるのみ。それでこそ葛葉ライドウよ!

 

 穴を潜りぬけた先。そこは大きな橋の上であった。ライドウは周囲を見渡す。欄干の先、橋の下はまるで雲海のような霧に覆われ、何も見通せぬ。そして、周囲を包む朧気な雰囲気。ここは世と世の狭間。そう直感した。

 

 見れば、前方の霧の中に餓鬼が逃げていく。ライドウはすぐにそれを追う。事件解決の糸口を逃がしてなるものか、と。だが…

 

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

 まるで大気を破裂させんばかりの絶叫と共に、餓鬼がふっ飛ばされ、欄干の外に放り出される。まるで馬車にでもはねられたかのように。

 入れ替わりに前方からやってくるのは、餓鬼と変わらぬ背丈の、だがそれは可憐な姿の少女であった。

 見事な鴉の濡れ羽色の髪を蝶の羽のように結い上げ、顔立ちは最上の雛人形のよう。まるで巫女のような白と赤を基調とした煌びやかな衣と、金色の冠。それはまさに高貴な姫宮と形容するに相応しい姿であった。

 

「怖い怖い怖い怖い!! 家に帰るーーーーーー!!!」

 

 そんな姫は恥も外聞もなく、泣き叫びながら春の猪も顔負けの勢いで走りくる。さしものライドウもこれには吃驚仰天。唖然とするゴウトと共にただ、成り行きを見守るしかなかった。

 そんな中、異郷の姫はライドウを見つけて足を止める。そう思った次の瞬間、疾風の如くライドウの後ろに回り込みその尻を押す。

 

「そなた、侍であろう!? 助けよ! 褒美は後で取らす!!」

 

 グイグイと押しながら早口でまくし立てる姫宮。一体全体どうしたことか。事情の分からぬライドウはただ戸惑うばかり。

 

『ふむ。この神気。どうも上位の天津神のようだな』

 

 ゴウトが姫宮を見て言う。確かにこの身の感じる神気は、大和を天上から見守る天津の神の雰囲気。だが、何故それがここにいるのか。ライドウには分からぬ。

 

『!? ライドウ、新手だ!!』

 

 分かるのは、迫る邪気。そして、この姫宮がそれに脅かされているということだけであります。

 

 霧の中から現れたるは、両手の指に余る数の邪鬼。

 二本の触角のような突起。いびつな形の暗褐色の人型。だが、その身体の大半は鋭い牙を備えた大顎。奇妙に揺れながら歩くその姿はまさに、暴食の化身。天竺の悪鬼、ヴェータラであった。

 

『ヴェータラ…厄介な悪魔だな…』

 

 ゴウトの声にも微かな焦燥が混じる。ヴェータラは餓鬼の中でも高位の存在。先の者とは比較にならぬ力を持つ悪鬼であった。それがこの数。いかに快男児であろうと多勢に無勢。絶体絶命、万事休す。

 だが、ライドウは後には退かぬ。ましてや犬のように見苦しく、尻尾を巻いて逃げるようなことはありえぬのだ。

 我が背には怯える幼き姫宮の姿。その脅威を除かずして、何が男かライドウか。少女の涙に理由は要らぬ。莞爾と笑って、ただ死地に赴くのみ。

 

 自らの恐れを断つように、ライドウは赤口葛葉を一振りし、征く。目の前に迫る邪悪に負けじと。嗚呼、負けるな快男児葛葉ライドウ! 天地よ、神々よ! 照覧あれ!! 雄々しき、我らが英雄の戦いを!!!

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