デビルサマナー葛葉ライドウ 対 天穂のサクナヒメ 作:カール・ロビンソン
第陸章『乾坤一擲の秘策』・上
シャッシャッシャッ!!! 小気味の良いリズムの音が洞穴の中に響きます。ここはいつもはサクナヒメが修練に使っておられた所。現在は、ココロワヒメが工房として使っておるのでございます。
霊木を小刀で削り、一本の棒をプロペラに仕上げていきます。霊木は固く、並の刀では歯が立ちませぬが、赤口葛葉に付属しておるこの小柄であれば、十分削っていけるというものです。
そんな作業をもう五刻は続けておりますライドウとココロワヒメ。互いに黙々と作業を続けておりますが、特に集中力が切れたりはしておりません。ココロワヒメはもとより、ライドウもまたこうした作業は嫌いではありませぬ。ただ、金槌を扱うのは少々心もとないライドウ。小刀や鉋等の刃物の扱いは十八番でございますが、どうも金槌というものはいけません。よく自身の手を叩いて、痛い目に遭うのでございます。
「疲れてはいませんか、ライドウ様?」
「ご心配なく、ココロワ様」
静かに笑ってライドウを気遣うココロワヒメに、ライドウも微笑んで答えます。清楚でどこか儚げなココロワヒメは大層可憐であり、同じく可憐なサクナヒメとはかなり印象の異なる美少女でございます。例え作業が立て込んでも、その静かな笑顔を見れば疲れも吹き飛ぶというものでございます。
「ライドウ様は手先が器用で、それに大力でもあります。ずっと助手を務めて欲しいぐらいです」
作業の手を止めず、ココロワヒメは上機嫌な様子で言います。ココロワヒメも手先はライドウ以上に器用であるものの、華奢である故に力仕事は得意ではありませぬ。故に、力仕事を任せられる助手は欠かせませぬが、毎度毎度忙しいサクナヒメに頼るわけにもいきませぬ。
故に、ライドウがいることはとても頼りになるのです。しかも、彼は頭脳明晰。阿吽の呼吸で仕事が進んで行きます。これにはココロワヒメもにっこりでございます。
「しかし…こんな絡繰まで作られるとは…脱帽しました」
洞穴の中に安置されている木のフレームを見て、ライドウは感嘆いたしました。それは最初期の飛行機であるライトフライヤー号と自転車が融合したような外見でした。
何でも、自転車は離陸までの間滑走するためのものであるらしく、プロペラを回す動力は絡繰兵の動力源を用いるのだそうです。加えてライドウの仲間が神風を呼んでそれに乗れば、十分火山まで飛んでいけるのだそうにございます。
「試運転もなしのぶっつけ本番ですが、頑張ってくださいまし」
「はっ!」
ココロワヒメの言葉に、ライドウは力強く頷きます。飛行機をテストもなしで飛ばすというのは、大変な危険行為。普段のココロワヒメならそのような危険なことは致さぬでしょう。しかし、今は乾坤一擲の手段に頼らざるを得ない時にございます。
「それにしても、ライドウ様はサクナさんといる時ほど、喋りませんね?」
「…申し訳ございませぬ」
「謝ることではございません。ライドウ様の事はゴウトさんから聞き及んでおりますので」
詫びるライドウに、微笑んで言うココロワヒメ。幼い頃から人里離れた社で修行に明け暮れていたライドウの事が口下手であることは、ココロワヒメも理解しております。
「私も昔からお喋りするのは苦手でしたから。…でも、サクナさんとならよく話せたのです」
ココロワヒメは遠い目で語ります。その目はきっとサクナヒメと過ごした都の日々を思い出しておるのでございましょう。
思えば、サクナヒメはそこまで良い友人ではなかったのかもしれません。彼女の驕慢な態度に苛立ちを覚えたり、その血筋で易々とお役目を頂戴できるところに、嫉妬の念を抱いたこともしばしばでございました。
しかし、何故か彼女と話すことは、苦に感じぬのでございます。それはサクナヒメが秘めている、まっこと不思議な魅力のせいでございました。そんな彼女に惹かれ、その堂々たる自信に憧れを抱いて今日に至るのでございます。
ライドウもまたそんな彼女に惹かれ、心を開いておるのでございましょう。自分とライドウはそういう点で似ている。そう思うのでございます。
「思えば、殿方とお喋りするのは初めてであるのに…ふふ、あまり緊張しませんね」
「某は少々…ココロワ様程の可憐な女性は初めてでございます故」
「ふふ。ライドウ様にそう言っていただけると、お世辞でも嬉しいですわね」
そうして、言葉を交わしながら作業を進めていくライドウとココロワヒメ。最初はややぎごちなかったライドウも、次第に口が軽くなっていくのであります。互いにその昔のサクナヒメの事や過去の事件について語り、会話に花を咲かせていくのでございました。
心が解れ、共に作業を進めていく内に、ライドウは次第に自らの中に沸き上がる力に気づくのです。そう。これがココロワヒメが与えてくださる神気でございます。
水杯を交わして、縁を起こしたライドウとココロワヒメ。その絆が深まれば深まる程、流れ込む力は大きくなるのです。言葉を交わし、肩を並べて物を作る。いやはや、これぞ一石二鳥。ココロワヒメの深慮遠謀が光るのでございます。
「明日はいよいよ決戦。ここは私達が守ります故、ライドウ様とサクナさんは、後顧の憂いなく疫神と戦ってくださいませ」
「はっ! …しかし、ココロワ様は戦えるのでございますか?」
ココロワヒメの言葉を聞いた、ライドウは気遣わしげに言う。ココロワヒメは聡明ではございますが、どう考えても戦に向いておらぬように思うのです。更に、神としての力もライドウに与えて、鬼の大群相手にいかに戦うのか。それが心配なのです。
「ご心配なく。このココロワ、荒事は苦手なれど、ヤナトの神の一柱。鬼相手にそうそう遅れは取りませんわ」
しかし、ココロワヒメは余裕の笑顔。おお、なんと心強い。力はか弱いけれど、神気はなけれども、ヤナト随一の知恵がございます。心配ご無用、というところでございます。
「さあ、もう少しです。最後まで仕上げてしまいましょう」
「はっ!」
そう言葉を交わし、ココロワヒメとライドウは作業を進める手を早めるのでした。
全ては明日の勝利のため。安らかなる日々を取り戻すためでございます。
外では田右衛門が石をかき集め、ゆいが振りずんばいを作っております。そして、サクナヒメとアシグモは、氷の壁を壊そうとする鬼共を少しでも足止めせんと、壁の外で鬼共を蹴散らしておるのです。皆が勝利のために一丸となって努力しておるのでございます。
嗚呼、ご覧くだされ。神と人が手を取り合い、一つの目的に進んで行く姿を。これぞ、ワンフォーオール、オールフォーワンの精神が形になった姿なのでございましょう。嗚呼、負けるなライドウよ! 勝てよ、サクナヒメよ! 決戦の時は、迫っておるのでございました。