デビルサマナー葛葉ライドウ 対 天穂のサクナヒメ 作:カール・ロビンソン
「「「「「ごちそうさまでした」」」」」
我が家の前。握り飯にしたちらし寿司を腹に納め、皆で両手を合わせ唱和する。それぞれ任妙なる面構え。今日は決戦の時と、皆心に期しておるのです。泣いても笑っても今日がこの事件、最後の日なのでございます。
家の前には完成した飛行機。これが今日、ライドウとサクナヒメの翼となる。果たして飛ぶのか? いいや、必ず飛ぶ。我が友ココロワヒメが作ったものを、サクナヒメが疑うことはないのだ。
そして、サクナヒメはいつもの朱色の狩衣に、タマ爺の本体ともいえる鍬と鎌。ライドウもまた赤口葛葉を引っ提げて、準備は万端。腰につるした巾着袋には、ゆいの作った焼き飯が入っております。神の力の宿る天穂の焼き飯なれば、必ずやヒダル神の力から守ってくれることでしょう。
「では、サクナさん。お気をつけて」
「うむ。留守は任せたぞ、ココロワ」
「はい、お任せください。…ライドウ様、私の分までサクナさんをお願いします」
「はっ! 必ずや二人で帰ってまいります」
戦に赴くサクナヒメとライドウに、言葉をかけるココロワヒメ。それはまさに、出征を見送る妻の如し。必ずここへ帰ってくる、と笑顔で答え、二人は飛行機に乗り込みます。
ライドウが自転車部に跨り、サクナヒメが荷台部に乗り込みます。さあ、発進の準備やよし!
「神様ぁ、こい」
離陸の直前、そう言って、ゆいが渡したのは小さな竹の包み。これは一体何ものぞ。
「うむ。すまぬな、ゆい」
それを懐に納めたサクナヒメは何も語ることはない。きっと何かの秘策であるのだろう。ライドウは敢えて問うようなことはせぬ。二人の間には、言葉など必要ではない絆があるのだから。
「田右衛門、いざという時は…」
「はっ、サクナ様。…もちろん、準備はできております」
サクナヒメは田右衛門に、最後の最後の策を確認する。それは、万一支えきれぬ場合、岩場に隠された入江から逃げる、というものであった。以前、ココロワヒメの船と衝突し、破損した船は既に修理済み。都からの援軍も迫る中、海に出て合流すれば皆の命は助かるのです。
「では、おひいさま」
「うむ。行くぞ、ライドウ!」
「はっ!」
タマ爺の言葉に頷いたサクナヒメが、ライドウに号令を下す。すると、ライドウは懐に手を入れ、管を抜く。我が身、ココロワヒメの神気に満ちたれば、何の不安もなし。祝詞を紡ぎ、いざ悪魔召喚だ!
「さて、行こうかサマナーよ」
マグネタイトの螺旋の中から現れたるは、翼を持つ蒼き肌の修験者。英雄源義経の師匠と言われる大天狗、僧正ヶ谷の鬼一法眼こと鞍馬天狗でありまする。
手にしたるほら貝を吹き鳴らせば、あら不思議。見る見るうちに、つむじ風が舞い、峠を覆いつくすのでございます。
さあ、今だライドウよ! 風に乗り、大空に舞い上がるときぞ!!
留め具を外し、満身の力で自転車をこぐライドウ。坂を駆け下り、助走をつけ一気に崖から飛ぶ! プロペラが回転し、風を掴めば、ふわりと浮き上がるその身体。
おお、飛んだ、飛んだぞ! 鳥のように、二人は大空に舞い上がったのでございます! その背を押すように、風が吹き足れば、飛行機はハヤブサの様に空を裂き、悪神の潜む決戦の地に向かっていくのでございます。嗚呼、翼よ、あれが敵の根城の火だ!!
それを見送る、ココロワヒメと田右衛門、そしてゆいの姿。別れのための仕草などは要らぬ。口ずさむは、我らがヤナトの田植え唄。それは、まるであの日のように。サクナヒメがオオミズチめを鎮めるべく、雄々しく発った日のように。
嗚呼、やがて紺碧の空の中に、飛行機は消えていくのであります。それを見届けたココロワヒメは、すぐに峠の入り口に歩き始めるのです。
峠を守る氷の壁。それは既に最後の一枚。これが破られれば、峠は陥落。我が家と我が田は再び、鬼共の手で滅びるであろう。
そうはさせぬ。ココロワヒメは背につるしておった長銃を手に取り、戦に赴くのです。かつて、きんたと共に作ったこの銃は、大和の地でさえ見たこともないものでございます。武ではなく、英知を用いて鬼を撃つ。これこそが、ココロワヒメの戦う術でございます。
「さあ、行きましょう田右衛門さん」
「はっ!」
迷うことなく戦いに赴くココロワヒメに、振りずんばいと刀を手に持つ田右衛門が続きます。既に、絡繰り兵とアシグモ、それに河童達は防衛を始めておるのです。すぐに加勢に向かわねばなりますまい。
「ゆいさんは船の所で。いつでも出せる様にお願いします」
「分かったじゃ。気ぃつけて」
ゆいに退路を任せ、いざ行かん、我が家を守る戦いに! 何としても、守ってみせるぞ、我らの家を。全ては我が友、サクナヒメのために。これぞ、ヤナトの女神の心意気!!
さあ、いよいよ物語はクライマックス!! 我が家を守らんと戦うココロワヒメ! 疫神、そして悪神オオミズチの待ち受ける深淵へと向かうサクナヒメとライドウ! 嗚呼、いよいよ決戦の火蓋は切って落とされた!! 果たして、ココロワヒメは我が家を見事鬼の軍勢から守り受けるのか!? 果たして、ライドウとサクナヒメは見事、悪しき神々を叩き潰し、事件に終止符を打てるのか!? それは次回第漆章『深淵の最終決戦』で語ることと相成ります。
それでは、皆様のご期待を希いながら、一度幕引きとさせていただきます。ご清聴ありがとうございました!!