デビルサマナー葛葉ライドウ 対 天穂のサクナヒメ 作:カール・ロビンソン
第漆章『深淵の最終決戦』・上
嗚呼、何と悍ましい光景よ。押し寄せる鬼共はまさに師団単位を超える程。それぞれが目を血走らせ、生ある者を食らおうと峠に押し寄せておるのです。きゃつらの狙うは、まさにサクナヒメの豊穣の力。田を破壊し、その力を奪うことを目的としておるのです。
対するは、アシグモと3体の絡繰り兵。それぞれが武器を振り回し、鬼を寄せ付けまい、としておるのです。
アシグモは長柄の鎌を携えて、果敢に鬼に斬りかかるのです。狙いすました横薙ぎの一閃は、見事豚鬼めの喉笛を掻き切ります。しかし、派手に血を吹き出せど、鬼の動きは止まりませぬ。異様! あまりにも異様!! 疫神の与えた飢餓は、生物としての限界さえも超えて、肉体を突き動かしておるのか!? このような相手では、いかに勇敢なまつろわぬ民の戦士と言えど、手に負えませぬ。
そこに殺到したる三発の弾丸。けたたましい音と共に空を裂きたるそれは、見事豚鬼の頭部を打ち砕くのでございます。
あれは何だ!? アシグモは思わず後方を振り返るのでございます。
氷の城塞の上には、黒光りする長銃を構える令嬢、ココロワヒメの御姿がございました。肩に銃床を押し付けるようにし、銃の上に取り付けられた単眼鏡を覗き、狙いをつけるその様の、何と華麗で勇敢なことよ!!
一息吸って、狙いを定めて引き金を引く。再び放たれる轟音と三発の7.62mmの弾丸は、またも見事に鬼の頭を撃ち抜いたのです。
続けて、遠方に降り注ぐ拳大の石礫。田右衛門と河童達が、振りずんばいで石を投げつけておるのでございます。見れば、豚鬼の額を割り、兎鬼に至っては腹を破られて倒れる始末。
これはさても心強い援護攻撃。アシグモも大きく勇気づけられ、再び鬼共に切り込むのでございます。
しかし、そこに現れたる骸骨の群れ。その姿にアシグモは驚きを隠せませぬ。それは、死して黄泉神となった同族の者ではないか! もはや、骸骨の身となっても戦い続けるそれは、怨念に囚われアシグモに牙を剥くのでございます。
鋭い鎌の斬撃を身を翻して避け、鎌で弾き、大きく跳躍して避けるアシグモ。だが、放たれた短刀がアシグモの肩を貫くのです。ええい、やめよ我が同胞よ! 怨念に取り込まれるとは何事か!! だが、アシグモの心の叫びも空しく、これを好機と、黄泉神共はアシグモに一斉に襲い掛かるのです。
これはならじ、とココロワヒメ。袖から取り出したりますは、金属の筒。それを力強く投げつけるのでございます。
「アシグモさん、下がって!!」
ココロワヒメの言葉に応じて、アシグモは後方に大きく飛びずさります。入れ替わるように殺到する金属の筒。刹那、それは大爆発し、釘や破片を飛び散らせるのです。周囲の鬼共や黄泉神共は堪らず吹き飛ばされ、打ち砕かれるのでございます。
すかさず、城壁から飛び降りるココロワヒメ。安全装置をフルオートに切り替えたれば、引き金を絞り銃弾をまき散らしながら、敵陣に突撃するのであります。
30発の銃弾の嵐に晒され、倒れていく鬼共。しかし、それを踏みつける様にして現れたる黄泉神。奴らはにっくき都の神の一柱。ココロワヒメに狙いを定め、一斉に襲い掛かるのです。
ココロワヒメは弾の切れた長銃の弾倉を外して、大きく上空に投げ捨てます。すかさず抜き出したる2丁の短銃。それを両手に構え、さらに前進。そこに殺到したる黄泉神の飛翔からの一斉攻撃を、こちらも飛翔して交わしつつ、両手の銃から弾丸の雨を降り注がせるのです。忽ち、数体が頭を打ち砕かれ、地に崩れ落ちます。
残る二体の内の一つが、着地したココロワヒメの首元目掛けて鎌を横薙ぎの一閃。ココロワヒメ、それを身を屈めてかわしたれば、すぐ様にその懐に駆け寄ります。そして、その顎に右の銃口を突き付けて引き金を絞る。たぁん! という甲高い音共に黄泉神は頭蓋を砕かれ地に還るのです。
更に、腕を交差させ、左の銃口から一撃。弾丸は見事、鎌を振りかぶるもう一体の黄泉神の頭を砕くのでした。
すぐさま、袖に短銃を戻すココロワヒメ。手にしたるは、長銃の弾倉。そして、天から降って来たる長銃を受け取りつつ、弾倉を装填。そして、フルオートの掃射を鬼共に見舞うのです。
おお、なんという美技! なんという早業! 銃弾と硝煙に舞う姫の姿は、見るものを実に魅了するものでございますなぁ!!
「一度退きましょう、アシグモさん」
「…ああ。援護感謝する」
「こちらこそ。今まで持ちこたえてくれたこと、御礼申し上げます」
言葉を交わし、後方に退くココロワヒメとアシグモ。そこに降り注ぐ田右衛門と河童達、それに絡繰兵達の援護射撃。それらが鬼共の動きを止めたれば、二人は難なく城塞の上に避難するのであります。
「…武神でもないのに、それだけの戦闘力。都の神とは末恐ろしいな」
「サクナさんの背中を守るためであれば、これぐらい当然にございます」
アシグモの肩に包帯を巻きながら、ココロワヒメは仰います。そう。全ては我が友サクナヒメの背中を守るため。共に並び立つ存在として、力を身につけねばならぬ。ココロワヒメはそのために、きんたと共に銃を作り、訓練を重ねて今に至るのです。嗚呼、これぞまさに熱き友情のなせる業。刎頚之友とはかくありたいものでございます。
「しかし、依然数が多すぎる。…このままではじり貧だぞ」
アシグモは忌々し気にそう言って、鎌を手にしつつ立ち上がる。城壁から見下ろせば、十重二十重に峠を取り囲む鬼と黄泉神の群れ。一瞬押し戻せども、敵はまだまだ圧倒的。このままでは、いずれ無勢のこちらが力尽きる。
「…大丈夫です。私の計算では、後5刻もすれば都の援軍が到達します」
ココロワヒメはそう涼やかに答えるのでございます。おお、なんという計算高さ。ココロワヒメはそれらを全て見切って、戦場を構築したのでございます。なんという深慮遠謀。これぞ、ヤナトが誇る智の神ココロワヒメの頭脳よ!!
しかし、そんなココロワヒメの策を打ち砕く知らせが入るのでございます。袖の中で震える伝話なる絡繰。そこから聞こえる声を聞いて、ココロワヒメは表情を曇らせるのです。
「どうした?」
「…船が鬼共の襲撃を受け、苦戦しているとのことです」
アシグモの言葉に、苦虫を噛み潰したような顔で応じるココロワヒメ。なんと、ヒノエに向かってくる都の船団は、雀鬼等の鬼共に襲われて苦戦を強いられているとのこと。既に負傷者も多く、当分ヒノエ島にはたどり着けぬ、とのことでございます。
嗚呼、なんということか!! ココロワヒメとて、ヒノエ島に向かう船が鬼に襲われることは承知の上。しかし、ココロワヒメは都でも選りすぐりの武神を援軍に送られたし、とカムヒツキ様に要請していたのでございます。都の武神達が寄り集まれば、少々の鬼の襲撃などものともせぬ、と思うておったのでございます。
それがこの始末。カムヒツキ様が敵の戦力を下算したか、または平和になれた都の武神達の腕がなまったか。いずれにせよ、これは計算外。
ココロワヒメは焦る心を落ち着かせつつ、銃を手に迫る鬼共に射撃を加えます。そして、頭脳を巡らせ、逆転の一手を模索するのであります。しかし、元より薄氷を踏む戦い。挽回の策を考えることは非常に困難。
絡繰人形の放つ弾丸もほぼ尽きて、田右衛門と河童の疲労の色も濃い。そして、アシグモは負傷し、ココロワヒメの弾丸も、あの山の様な鬼共を平らげるには到底足らぬ。
嗚呼、どうするどうなるココロワヒメ! このままでは、我が友、サクナヒメの家と田を守ることはかなわぬ。そして、今サクナヒメの力が奪われれば、悪神との決戦は敗北必至! なんとか、なんとか策を編み出さねば!!
刹那、雷雲が天を埋め尽くし、周囲は暗闇に包まれます。そして、一筋の稲光が峠の手前に落ちるのでありました。
ぞくりっ!! ココロワヒメの背筋に冷たいものが走ります。姫は気づいたのです。何やら恐ろしいことが起ころうとしていることに。
気が付けば、城壁の前に立つ者がおります。それは、ライドウと同じほどの年頃に見える人の子の少年。上半身は裸で、その肌には黒と輝く筋が刻まれております。
それを見たココロワヒメは言葉を失います。嗚呼、あれは人ではない。人の形をした修羅。戦いを望みとして生きる者。そう直感したのでございます。
だが、鬼共は畏れ知らず。愚かにも人修羅目掛けて殺到するのでございます。
人修羅は獰猛に笑うと、手に光の剣を形成。それを横薙ぎに払えば、数百、数千の鬼共がまるで木の葉のように蹴散らされるのです。圧倒的な剣閃に消し飛ばされる鬼共と黄泉神共。魔界の王さえ下した究極の悪魔、人修羅の前に敵なし。
ふと、人修羅は振り返り、城壁の上のココロワヒメを見上げます。途端に身を震わせるココロワヒメ。修羅は戦いを生き甲斐にする者。鬼共よりは余程手強いココロワヒメを戦いの相手に選んでも、何の不思議もないのです。そして、ココロワヒメに彼の人修羅と戦う術などなし。万事休すか! ココロワヒメは息を呑んで、人修羅を見つめ返すのみです。
しかし、人修羅はココロワヒメをしばらく見つめた後、再び鬼の方を向くのです。そして、天に片手を掲げます。そこに一筋の雷が落ちるのです。
雷を受けても、人修羅には傷一つなし。その雷を纏いながら、その手を鬼共に向けたれば、青白い電撃が迸り鬼共を打ちのめすのでございます。これぞ、必殺パワー! ショックウェーブ!!
ココロワヒメはホッと一息。彼はどうやら敵ではありません。彼が振り向きざまに見せた微笑み。それは、明らかな人の心の宿るもの。そう。彼は完全な悪魔ではないのでございます。
心強い味方を得たココロワヒメは、勇気を取り戻して再び鬼共に立ち向かうのでございます。アシグモや田右衛門達もまた、今一度奮起するのでございます。
嗚呼、ライドウよ。異郷の友が貴様の家を守らんと、助太刀に参ったぞ。心置きなく戦うが良い。かつて、ライドウと共に戦った悪魔を身に宿したる少年は、獰猛ながら楽し気なる笑みを浮かべ、鬼を蹴散らし続けるのでございました。