デビルサマナー葛葉ライドウ 対 天穂のサクナヒメ   作:カール・ロビンソン

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第弐章『御柱都の怪事件』・下

 頂の世の空にも星は輝く。普段はただ姿を隠しているだけにございました。

 

 見事、妖獣から都を守ったライドウとサクナヒメ。カムヒツキ様は両名の功を称え、盛大な宴を催されました。

 かくて、宴は実に華やか。振る舞われる酒や馳走、奏でられる天上の音楽、そして、煌びやかな衣で舞う天女の素晴らしきことこの上なし。

 宴の主役たるライドウの元には数多くの女神達が押し寄せる。天上でさえ稀なる美男子、そして如何なる魔をも退ける豪の者。例え神であれど、心を奪われぬものがおろうか。カムヒツキ様さえもが、是非我が小姓にと誘いをかける始末でございます。

 

 しかし、このライドウ。実は宴の席は苦手。口下手で人に酔いやすく、酒が呑めぬ故。

 そこで動きたるは、サクナヒメ。群がる女神達を追い払い、カムヒツキ様をもあしらい、ライドウを脱出させたのでありました。

 

 そして来たるは、神殿の屋根の上。お転婆サクナヒメの秘密の場所にございます。ここから見上げる星空は、格別。サクナヒメの言葉の正しさを、ライドウは仄かな光を楽しみながら噛みしめるのでございます。

 

「全く、皆しつこかったわい。浮かれておらぬのは、ココロワだけではないか」

 

 文句をこぼしながら現れたるは、当のサクナヒメ。その手には二つの瓢と椀。無造作に見えてもその歩みは足軽やかで、まるで、足音を持たぬ猫のようでありました。

 

「姫、申し訳ございませぬ」

 

「よいよい。苦手なことに無理に付き合う必要はない」

 

 宴の席を中座したことを詫びるライドウに、軽く手を振り制するサクナヒメ。誰にでも苦手なことはある。無理強いをするものではない。サクナヒメはそのように心がけておられるのでした。

 

「まあ、後は爺とゴウトが適当に何とかするじゃろう」

 

 二人の宴の席には、今はタマ爺とゴウトが座っておる。後は、適当に神をあしらいながら過ごさせればよかろう、と思うたのだ。席を空けているわけではないので、カムヒツキ様の面子もまあ潰れはせぬであろう。

 

「どれ。其方は酒は呑めぬそうじゃが、これならよかろう?」

 

 ライドウの隣に座り、サクナヒメは瓢の酒を椀に注ぎ、ライドウに手渡す。ほんのり湯気が立ち上るそれは、酒は酒でも甘酒であった。

 

「はっ、いただきます」

 

 ライドウは椀を受け取り、一口。そして、その目を見開いた。美味い。澄み切った甘さはしつこさがなく、舌の上で雪のようにほろりとなる。そして、鼻から抜ける芳醇たる米の香りよ。今まで飲んだそれとは、次元の違う、まさに神酒であった。

 

「これは美味い!」

 

「そうじゃろうそうじゃろう。何せ、わしの作った天穂から拵えた甘酒じゃからな」

 

 ライドウの歓声に、まるで我が子を褒められた母のように相好を崩すサクナヒメ。自らも椀に吟醸を注ぎ、味わう。二人はそうして暫くの間、ただ黙って椀の酒を傾けたのだ。

 

「…それにしても、事件がまだ終わらぬとはな」

 

 椀の酒を飲み干したサクナヒメ。星を見上げつつ、椀に再び酒を注ぎながら一人ごちるのでした。

 そう。事件はまだ終わっておりませぬ。カムヒツキ様への報告を終えた後、ライドウは主たる姫宮にそう告げたのでした。

 トウコツは強力な悪魔であれど、次元をまたいで働けるほどの者ではない。それに米ばかりを奪う理由もない。あやつめは恐らく、従犯か便乗犯。真の悪はまだ姿さえ表してはおらぬのです。

 

「申し訳ございませぬ、姫。まだしばらく、厄介になります」

 

「よいよい。わしとて、天穂を狙う輩を捨て置けぬからな。それに…」

 

 恐縮するライドウを制するサクナヒメ。そして、にっこり笑顔でライドウを見て続ける。その可憐さたるや、満天の星々も恥じらうほどであった。

 

「わしももっと其方と居りたいと思っておったところじゃ。遠慮することはないぞ?」

 

「…ありがとうございます」

 

 姫の御言葉に、ライドウの頬もまた緩む。ライドウもまた、豪放で可憐なこの姫と、しばらくは共にありたいと思っておったところでございました。

 

「ところでライドウよ。わしはもっと其方の事を知りたい。其方が今までどんな冒険をしてきたのか。それを聞かせてくれぬか?」

 

「…つまらぬ話でございます」

 

 姫の言葉にライドウは自嘲的に笑い、甘酒を一口。

 このライドウは実に口下手。物語を面白おかしく語る才には恵まれませぬ。どんな英雄にも弱点はあるというところにございます。

 また事件の内容も笑って聞けるようなものは少なく、大概は凄惨なものであります。姫の心中を害しては。それを恐れたライドウは、おいそれをは語らぬのでございます。

 

「大丈夫じゃ、ライドウ」

 

 そう言うサクナヒメ。その言葉と御顔に滲み出る雰囲気にライドウは心を奪われます。そう。それは姫が母より受け継ぎし、与える慈母の心にございます。

 

「其方の歩みがどのようなものであれ、わしは知りたい。どんなことでも、楽しく聞けようぞ」

 

 それは全てを受け入れる地母神の声。ライドウの心が揺らぐ。英雄ライドウとて、未だ若き青年であれば、自らのことを理解されたい。功を誇りたい。そんな気持ちがあるのは当然のことでございます。

 

「ほれ、はようせぬか。わしは気が長い方ではないのじゃぞ?」

 

 悪戯っぽくそう言うサクナヒメ。刹那、まるで猫のようにライドウの膝に座るのでありました。見上げる御顔は穢れを知らぬ乙女そのもの。童女の純心と慈母の愛。それらを併せ持つ、姫の不思議な魅力の前に、ライドウもついに陥落するのでありました。

 

「…では、別の異界である悪魔を身に宿す少年を調査した時の話などを」

 

「おお! 早速面白そうな話ではないか。はよう聞かせておくれ!」

 

 事件のあらましを訥々と語るライドウ。目を輝かせて堪能するサクナヒメ。

 満天の星の下、夜語りは続きます。傾ける酒の味は、また格別なものでありました。

 

 翌日の朝、ライドウとサクナヒメは船の上。目指すは姫宮の新たなる故郷ヒノエ島。そこで如何なる日々が待ち受けているのか。それは次回『第参章:ヒノエ島の日々』で語ることと相成ります。

 

 それでは、皆様のご期待を希いながら、一度幕引きとさせていただきます。ご清聴ありがとうございました!!

 

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