エノテラと団長がいちゃいちゃしたりする話です。
※キャラ崩壊、解釈違いなどを含んでいる可能性がありますので閲覧の際はご了承ください

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好感度MAXどころじゃないエノテラと団長

季節は冬。各地で雪がちらつき始め、寒さも本格化してきた今日この頃、花騎士たちを率いる団長は書類仕事に追われていた。

 

「えーっとこっちが害虫討伐の完了報告で、こっちが支援の申請。ベルガモットバレーの方で出た害虫被害の報告に、町の防衛力強化のための設備の資料…………うん、めんどくさいな」

 

「ジー…………」

 

「とりあえず急ぎやらなきゃいけないところから片付けるとして、それが済んだらうちの団に関係ありそうなところから終わらせるか。まずはこの活発化してる害虫に関しての資料を見てから……」

 

「ジー…………」

 

「あ、そっかこっちも目を通しとかないといけないな。となると少しまとめる必要があるから先にまとめて、返答だけ先にやっちゃうか。支援の申請は……後で暇そうにしてる子に声をかけるとして、他のところと連携のために連絡取っとかないとな。あんまギスギスしないように性格も考えないと」

 

「ジー…………」

 

「冬だから動きにくくなるだろうし、その辺も含めて警備強化も必要だよなぁ。適当に募集かけてやる気のある子にやってもらえばいいか。あと今からクリスマスパーティの企画も練っとかないと後々大変になるから、そこを誰か得意そうな子に……」

 

「団長」

 

「なんだ?」

 

ソファに体重を預けながら団長にジト目を向けていた花騎士が口を開いた。団長はそれに反応するも視線は資料から動いていない。

 

「エノテラは団長のことを見つめています。早急にリアクションか的確な突っ込みをください」

 

「ちょっとだけ待っててくれよ、今忙しいからな。後で構ってやるから」

 

「嫌です。エノテラは待てません。今すぐ団長に飛びついて全力でスキンシップを取りたい衝動を抑えるのでやっとです」

 

「よーしじゃあもう少し抑えててくれ。流石にこの量は少しずつ終わらせないとお前と冬が越せなくなる」

 

「やっぱり我慢できないので飛びついてもいいですか?」

 

「そうやってちゃんと聞いてくれてるうちはまだ大丈夫だ。我慢してくれ。できれば限界を超えて我慢してくれ」

 

「団長、我慢自体はできそうですがその後の反動が凄いことになりそうです。エノテラは自分でも何をしてしまうかわかりません」

 

「マジかよ」

 

「マジです。エノテラは大マジです。なので一刻も早い対応を要求します」

 

リリィウッド出身の花騎士、エノテラ。幼い頃傭兵団に拾われ、そこから個性豊かな面々の多い傭兵団で育てられるという少し特殊な過去を持つ。

初めは『騎士団にいたことが経歴になるから』という理由でこの騎士団にやってきたようだったが、団長といろんな意味で仲良くなった結果、今ではこうして執務室に籠るようになっている。

 

「ちなみに聞くけど対応しなかったらどうなる?」

 

「この間傭兵団の人に送ってもらったとある薬を希釈せずに直接団長の口の中に突っ込みます。それから団長を…………」

 

「よーしわかった書類仕事なんて終わりだ。エノテラ、何する?」

 

「理解のある団長は好きです。エノテラの好感度は上がりまくりです。またまた上限突破です」

 

「もう80回ぐらい突破してないか上限」

 

そんなやり取りも実は日常茶飯事。知らないものからすれば引くようなやり取りかもしれないが、この騎士団に所属している者なら眉一つ動かさないで聞き流すだろう。エノテラは現在副団長で毎日こんな調子だが、それももう随分経っているため皆慣れている。

元々この騎士団の副団長は実力のある者が適当な間隔で交代してやっていたのだが、エノテラは団長との親睦を深めた後自分を副団長にしてくれと猛アピール。特に反対するものもいなかった上、エノテラの実力もかなりのものなので適任という事で今ではこうしてエノテラ固定となっている。

 

「で、どうするんだエノテラ? こうやって抱き着かれるのは別に悪い気はしないけど、これだけでいいのか?」

 

「ちょっとまって欲しいです。エノテラは今団長分を補給しています。団長の匂いをスンスンするので忙しいのです」

 

「お、おう、そうか」

 

エノテラに捕まえられ、がっしりとホールドされる団長。エノテラは見かけに反し力が強いのでこうなってしまうと抵抗はできない。

 

「スンスン……スンスン……とても落ち着きます。不足していた団長分が補給されていきます」

 

「それはよかった」

 

「しかし最近団長分の補給をしても足りないと感じることが多くなってきました。なのでエノテラはめいいっぱい団長にくっつきます。エノテラが満足するまで団長には大人しくしていてもらいます」

 

「これで足りないの?!」

 

「はい。前はこれで十分すぎるぐらいでしたが、最近はどんどん不足するようになってきています」

 

「依存症の典型的な初期症状じゃねぇか。え、何? 俺って麻薬的な存在なの? そんな危ないやつなの?」

 

「少なくともエノテラにとってはそうであると言わざるを得ません。現にこうして団長から離れられなくなってしまっています。これはもう団長と結婚するしかないと思います」

 

「話がぶっ飛びすぎてるからよくわからんかったが、もしかして今俺告白された?」

 

「団長は鈍いですね。その鈍感さにエノテラはムカムカします」

 

「いや、そんなこと言われてもなぁ…………あまりにも唐突だったし」

 

ちなみにこの間エノテラは喋ってはいるが微動だにしていない。ひたすら団長にくっついたままである。

と、そこに。

 

「入るわよ団長さん。あら、お邪魔だったかしら?」

 

「いいやまだ大丈夫だよ。久しぶりだなヒガンバナ」

 

「あ、お久しぶりです」

 

扉を開けて執務室に入ってきたのはヒガンバナだった。彼女はこの騎士団ではかなりの古株で、団長との付き合いも長い。団内の実力者の中でもその力は指折りで、エノテラが副団長になるまでは最も副団長経験の豊富な花騎士だった。

最近では主に魔力に関する指導を見習いの花騎士に行ったり、強力な害虫の討伐に貢献したりと、騎士団を支えてくれる頼もしい存在でもある。ここ最近は各地の調査に出ていたので、長らく不在だった。

 

「いや~お疲れ様。大変だっただろ?」

 

「なんてことないわよ。めんどうな害虫に会うこともなかったし、旅行みたいなものだったわ」

 

「流石だな。まあしばらくはゆっくり休んでくれ。後何かご褒美考えなきゃな」

 

「調査ついでにあちこちでのんびりしてきたし気にしないでいいわよ。気を使うことないわ。それに見た感じ団長さんには書類仕事も待ってるでしょ?」

 

「でもなぁ…………」

 

いくら本人が必要ないと口にしていても、流石に何もしてあげないのは良くない。

何かいい案は無いかと考えていると、エノテラが口を開いた。

 

「ではお二人で美味しいものでも食べてきたらどうでしょう」

 

「二人で?」

 

「はい。エノテラはお二人が食事に行ってる間に面倒な書類仕事をやってしまいますので」

 

「エノテラからそんなこと言ってくるなんて珍しいな。どうした? 今日なんか変なものでも食べたのか?」

 

「むっ、そんなことを言われるのは心外です。エノテラは真面目な時は真面目です」

 

エノテラはそう言うと団長から離れ、机の上の資料に目をやった。何枚か手に取って資料の内容を確認すると、団長たちの方に向き直る。

 

「これぐらいなら何とかなりそうです。団長分を補給したので、今のエノテラなら普段やらないような書類仕事でも余裕でこなせる気がします」

 

「気がするだけなのか」

 

「それにさっきエノテラの我がままで止めてしまいましたし、エノテラも団長と一緒に冬を越せなくなるのは嫌なので」

 

「そうか? そういうことなら行ってくるけど」

 

確認するようにヒガンバナの方へ視線を送る。するとヒガンバナは微笑みながら頷いた。

 

「そこまでしてくれるのに断るのは失礼ね。お言葉に甘えさせてもらうわ、ありがとうエノテラちゃん」

 

「いえいえ。エノテラもいろいろとお世話になっていますし。このぐらいは副団長として当然です」

 

ヒガンバナがいることで真面目モードになっているのか、いたって普通にそう返すエノテラ。先程とは大違いだ。

 

「まさかエノテラの口からそんなセリフを聞くことになるとはな…………」

 

二人には聞こえないよう、小さい声でそうつぶやいた団長だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい景色ねぇ」

 

「そうだなぁ」

 

ロータスレイクの隠れた名店。ヒガンバナと団長の二人はそこで静かに料理を楽しんでいた。

一見さんお断りの珍しい店で、場所も一部の者しか知らない。しかも基本的に予約制でかなり待つことになる。団長は以前別騎士団の知り合いに紹介してもらったことと、害虫被害で物流が止まっていた時に食材調達を手伝ったことがあり特別待遇をしてもらっている。

今は景色の綺麗な特別個室で二人きり。絶妙な光量の照明と、落ち着いた曲がつくる雰囲気が絶妙に料理を引き立てる。

 

「断らなくてよかったわ~。団長さんとこうやって一緒に食事してるだけなのに、こんなに落ち着くのね」

 

「そいつはどうも。俺もヒガンバナと話してると気が楽でいいよ」

 

「あら、それはいつも忙しいってこと? それともエノテラちゃんといると大変ってこと?」

 

「おいおい邪推しないでくれよ。別にエノテラといると大変とか、そういうことじゃないよ。あいつと話してるときだって同じさ。変に考えないでしゃべれるからな」

 

「本当に仲いいわよねぇ。あの子が来たばっかりの頃なんて大変だったのに」

 

「まあバックレるって公言してたしな。実際に結構サボってたし。いろいろと手を焼かされたよ」

 

「ふふっ、そうだったわねぇ。それでよく私に泣きついて来てたわね」

 

思い出話に花が咲く二人。ほんの数年前の話なのだが、妙に懐かしく感じるのは時間のせいだろうか。

 

「今じゃ団長さんもすっかりベテランだものねぇ~。前に見習いの子たちに講演してたの覗いたけど、かっこよかったわよ」

 

「う゛っ、見てたのかよあれ……。いろいろと失敗したから恥ずかしいな」

 

「そう? そんなこと無かったように思えたけど、結構細かいところ気にするタイプよね団長さんって」

 

「そういうところを見つけられなくなったら終わりだと思ってるからな。成長できなくなる」

 

「相変わらず謙虚ねぇ。だからこそ今の団長さんがあるんでしょうけど、あんまり根を詰めすぎるのは良くないわよ? つらいときは遠慮せずに言っていいんだから」

 

「ああ、頼りにしてるよ。今回もありがとうな。ほんとはもう二人ぐらい同行させたかったんだけど、ちょうど適任の子がいなくてな」

 

「私はむしろ一人の方が気楽でいいわよ。団長さんもわかるでしょう?」

 

「まあそれはそうなんだろうけど……何かあったらってことを考えるとさ」

 

「あら、あたしの実力じゃ心配ってこと? 失礼しちゃうわ」

 

「そうじゃなくてさ、なんていうかこう…………その、上手く言えないんだけどやっぱり不安になるんだよ」

 

「団長さん……?」

 

神妙な表情で視線を落とす団長。その胸の内には様々な思いが渦巻いているのだろう。

 

「ヒガンバナの実力を疑ってるとかじゃないんだ。もちろんヒガンバナはめちゃくちゃ強いと思ってるし俺も一番信頼してるぐらいだけど、それでも……それでも絶対に大丈夫だとは言い切れないだろ? もし万が一にでもヒガンバナに何かあったら俺は…………」

 

花騎士も無敵ではない。どんなに強くとも、どんなに力があろうとも確実という保証はない。害虫のことにしてもそれ以外のことにしても、一人では何かあった時の対応にも限界があるだろう。

 

「俺なんかがヒガンバナを助けるなんておこがましいかもしれないけど、出来る限りのことはしたいんだ。だから…………」

 

「もうっ、団長さんったら」

 

唐突にヒガンバナが箸で天ぷらを掴み、団長の口の中へと押し込んだ。

 

「むぐっ?!」

 

「せっかく食事してるんだからそんな暗い話なんかしないで。そうやって心配してくれるのは凄く嬉しいけど、その話はまた今度。今は料理を楽しんで」

 

「んっ……むぐっ……むふぁっふぁほ」

 

「なんて?」

 

「んむっ…………わかったよ。また今度な」

 

「はいよろしい。じゃあそろそろお酒も飲みましょうか。団長さんも大丈夫よね?」

 

「ん? お酒? ああ、大丈夫だよ」

 

食事がひと段落し、食後のお楽しみを始める二人。ただの騎士団長と花騎士という関係を越えた関係の二人は、そのまま夜遅くまで酒を飲み交わしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たぁ~いま~」

 

ろれつの回っていない小さな声がした。団長が食事を終え、執務室へと戻ってきたのだ。

もうかなり遅い時間なのだが、それを迎えたのはエノテラだった。

 

「おかえりなさい団長。今日は随分と呑まれましたね。そんなになった団長を見るのは久しぶりです」

 

「いやぁ~れもここまでのむつもりはなぁったんよ~。でもヒガンバナがのんれんのにれらけのむのやめるのもさぁ~」

 

「はいはいわかってますよ。二人で言った時点でこうなるとは思ってましたので、エノテラもわかってます」

 

するとエノテラはベロベロに酔った団長をひょいと持ち上げた。そしてそのまま軽々と団長を運ぶ。どうやら行き先は団長の自室のようだ。

 

「すまん……」

 

「いいんです。エノテラはむしろ嬉しいです。団長がエノテラのことを信用して自室ではなくわざわざ執務室の方に戻ってきてくれたのはわかります。エノテラの心はポカポカです」

 

「はずい……」

 

「なにをいまさら。もう団長とエノテラの仲ではないですか」

 

執務室から一番近い部屋が団長の自室となっている。もはや力が入らないのかぐったりとしている団長をエノテラは難なく運びきると、ベッドへと座らせた。

 

「はい団長、お水です。あと一緒に呑みすぎた時のお薬も飲んじゃってください。ついでにアルコールの匂いをなんとかしてくれるタブレットのやつもありますので、余裕があったら噛み砕いてください。噛むと匂いが広がるやつです」

 

「ありがと……んっ……んっ……」

 

団長はゆっくりと時間をかけて水と薬を飲んだ。もう少し身体を落ち着かせたいのか、まだ横にはならない。

アルコールには利尿作用があるため、飲みすぎると脱水症状に陥ってしまうこともある。ワインなどお酒が好きなエノテラはその辺りも良く知っているので、準備は充実している。

 

「あ、そうです団長。その服のままじゃよくないです。寝るなら着替えましょう」

 

「いや……でも……」

 

「外出用の良い服じゃないですかそれ。寝心地悪いですよ。それに服にしわが付いてしまいます。エノテラも手伝いますので着替えましょう」

 

そう言うとエノテラは半ば強引に団長の服に手をかけた。団長も少しだけ抵抗はしたものの、実際のところ着替えたほうがいいのは事実なので、大人しくエノテラに身体を預ける。

 

「そうです、はい、そのまま…………脱げましたね。次は下です」

 

「いや、下は……」

 

「いいから大人しく脱いでください」

 

「うっ…………」

 

「はい、すぐ脱げますね」

 

「あっ」

 

まさにあっという間に下も脱がされ、下着一枚だけになる団長。

しかしここ最近ぐいぐい攻めてきているエノテラが下着まで脱がさないのは少し意外だった。いつもの流れならこのまま夜伽へと突入してもおかしくはないのだが、どうやら今のエノテラにはそのつもりはないようだ。

しばらくして少しだけ酔いが醒めた団長はエノテラに尋ねた。

 

「珍しいな。お前が俺に何もしてこないなんて」

 

「今はそういう気分じゃありませんから。ずっと書類仕事をしていたので、エノテラはまだ真面目モードなのです」

 

「そっか、結構やってくれたみたいだな。ありがとう」

 

「いえいえ。それに団長はかなり酔っていますし、疲れていると思います。そんな団長に無理はさせられません。酔っている時は血液循環や心臓の動きも何が起こるかわからないので、エノテラは我慢します」

 

「結構いろいろ考えてくれてるんだな。嬉しいよ」

 

「その変わり明日団長が起きた時にまとめて欲求を解消したいと思いますので、そのつもりでお願いします」

 

「それは嬉しくないよ…………」

 

「団長がどうしてもというならエノテラは今からでも大丈夫ですが、どうしますか? 団長はエノテラとイチャイチャちゅっちゅしたいですか?」

 

「あれお前ちょっと真面目モード解けてきてない?」

 

「いえ、そんなことはありません。でも団長にそういうことを言われてしまうと本当に真面目モードが解けてしまいそうです。ムラムラしてきます」

 

「あーうん。お願いだから真面目モードのままでいてくれ? 俺もそういうことはしたくないわけじゃないけど、流石に今の状態だと危ないからさ。エノテラの言う通り何が起こるかわからないし」

 

「わかりました。ではエノテラが団長のお布団になります。一緒に寝ましょう」

 

「とんでもなく魅力的な提案だけど頼むから襲わないでくれよ? なんだったら起きてからいくらでも付き合うから寝こみはマジで襲うなよ?」

 

そんなやり取りをしたのち、団長は寝間着に着替えて就寝。宣言通りエノテラが添い寝する形で団長にピッタリくっつく。

 

「やっぱり団長の匂いは落ち着きます。これならエノテラも快眠間違いなしです」

 

「俺もすげぇ落ち着くよ。一緒に快眠できそうだな」

 

同じ布団で同じタイミングで寝ると同じ夢を見る、なんて話があったかもしれない。もしそうなったら、今日見るのはかなり破廉恥な夢になるだろう。

 

「それじゃあお休み、エノテラ」

 

「お休みなさい、団長」

 

そうして二人は眠りについた。酔ってた団長はもちろんのこと、エノテラもすぐに意識が落ち、何事もないまま朝までぐっすりだった。

 

ちなみにエノテラが朝起きてからひと悶着あったが、まあいつものことだ。

 

 

 

 

その数日後。

本当にエノテラが書類仕事をほとんど終わらせてくれたので、仕事はかなり楽になった。

エノテラも真面目になることもあるんだなと感心したり、それでもやっぱりエノテラはエノテラなんだなと思い直したりと、普段通りの日常が続く。

まあ補足するならば真面目モードの反動か暴走具合がいつもより酷かったりしているのだが、それも許容範囲内だ。

 

「団長、エノテラは紅茶を入れてみました。ぜひ飲んでみてください」

 

「お? 珍しいな、ありがとう」

 

渡されたカップを受け取り、口へと運ぶ。

正直お茶の味などあまり気にしないし、違いに敏感というわけでもないのだが、エノテラが淹れてくれた紅茶は不思議な味がした気がした。

しかしそれにしてもエノテラが紅茶を淹れるなんて珍しい。

 

「どういう風の吹き回しだ?」

 

「特に深い意味はありません。ただ、エノテラも団長のためにさらにレベルアップしたいと思いました。向上心です」

 

「レベルアップ?」

 

「団長ともっと良い関係になれるよう、エノテラはヒガンバナさんに相談したのです。そうしたら身の回りの細かなお世話を提案されたので、それを実行しているのです」

 

「あーなるほど、そういうことか」

 

わざわざレベルアップを目指さなくとも既にかなり親密だとは思うのだが、それでもまだ納得していないのだろうか。

もしかしたらヒガンバナに対抗意識を燃やしたり、なんてこともあるのかもしれない。エノテラ自身もヒガンバナには世話になっているし、仲もよいが負けたくない、みたいな。

なんにせよ、好意的な動機であれば悪い気はしない。

が、そこで団長はあることに気付いた。否、気付いてしまったと言うべきか。

 

「ところでエノテラ」

 

「はい、何でしょうか団長」

 

「この紅茶淹れてくれたのは間違いなくお前だよな?」

 

「はい、そうですが。何か?」

 

「いや、何か? じゃなくてよ。なんか盛っただろこれ」

 

その問いに対して、エノテラはしばらくの沈黙。目を泳がせ始める。

どう考えても気のせいなんかではない。なんだか妙に心拍数が上がっているし、無意識のうちにだんだん息も荒くなっている。そして何よりも異常なのが、逆らい難いある衝動に駆られているという事だ。具体的に言うならば、今現在目の前にいるエノテラに自分の欲をぶつけてしまいたいというもの。

別に行為自体は否定しないし、エノテラから求められることも悪い気はしない。こちらから誘うこともあるし、エノテラの誘いも基本は断らない。問題なのはここ最近のエノテラが暴走しがちな節があるという事で、団内秩序のためにもそれは咎めなければならないのだ。団長が一人の花騎士に固執し崩壊してしまう騎士団も多く、そうならないためにも節度を持ってエノテラとは接さなければならない。

 

「なあ、どうなんだエノテラ?」

 

「ヒュ~~~、ヒュ~~~、エノテラには何のことだかわかりません」

 

「やりやがったなお前!!!」

 

どうやら図星だったようだ。しらじらしい口笛の吹き真似をする姿も可愛いのだが、素直に喜べる状況ではない。

 

「マジかよ……珍しく紅茶なんか淹れるから何かと思ったらそういうことかよ…………」

 

「エノテラの作戦通りです。いつもお茶なんか淹れないエノテラが団長のためにお茶を淹れてあげたら、団長は優しいので絶対に飲んでくれると思いました」

 

「人の優しさを利用するなよ…………」

 

頭を抱えて壁によりかかる。割ともう詰んでいるのではないだろうか。

 

「エノテラはニコニコです。滅多に動かないエノテラの表情筋も今回ばかりは大喜びで笑顔になろうと動いてくれています」

 

「うわぁほんとだ…………めっちゃ笑顔じゃん…………お前がそんな笑顔なの久しぶりに見た気がするわ」

 

「団長も一緒にニコニコしましょう。エノテラと団長、二人分のニコニコで合わせてシコシコです。下の方の団長もシコシコさせてあげましょう」

 

「いや唐突に下ネタをぶち込んでくるなぁおい」

 

よほど嬉しいのか、普段ならまず言わないような事をいうエノテラ。以前飲み比べで無理やり酔わせたときのテンションもややおかしかったのだが、それに近い状態ではなかろうか。

普段だったら面白がる余裕があるが、今は状況が状況だ。そう言った言葉は非常によろしくない。

主に下半身に対してよろしくない。

 

「あーもうやべぇ。マジでこれやべぇやつだ。なんか頭ぼーっとしてきたし心臓もやばいじゃん。なんだこれやばすぎるだろ、何盛ったんだお前」

 

「前に話していた傭兵団の方にもらったお薬です。安心してください、流石に薄めてあるのでそこまで酷いことにはならないと思います。多分…………」

 

「本来何倍に薄めて使うのか言ってみ?」

 

「コップ一杯分に一滴で充分な効果らしいですから……何倍でしょうか」

 

「じゃあもうその基準でいいや。お前はあの紅茶に何滴入れたの?」

 

「いえ、心配だったので念を入れて普通のお水の代わりにお薬の原液を沸騰させてお茶の葉を蒸らしました。お茶の葉で薄まってるので比率はどれぐらいかわかりませんが、多めだとは思います」

 

「あああああああああああああああああああああああああああ???!!?!?!?」

 

発狂。そして絶叫。

 

「お前マジで何考えてんだよマジで!!!」

 

「エノテラですか? エノテラはずっと団長のことを考えています。朝昼晩、食事の時もお風呂の時も寝る時も。夢の中でも団長のことを考えています」

 

「そういうことじゃねえ!!! なんでちゃんと分量守って希釈しないんだよ!!! どう考えてもやばいだろうが!!!」

 

「効果は強いほうがいいと思いまして。団長を完全にエノテラのものにしてしまうつもりでしたので思い切りました」

 

「思い切りすぎなんだよ!!! 薄まってねぇから! 全く薄まってねぇから! 原液にちょっと茶葉で風味がついたぐらいだから! 俺ほとんど原液飲まされたのと一緒だから!!!」

 

「…………?」

 

「あーもう駄目だこいつ!」

 

そんな『団長は何を言っているんでしょう?』みたいな表情をされてしまってはどうしようもない。反省とか以前にエノテラにはとんでもないことをしたという自覚が存在していないのだ。

 

「あ……やばい…………薬の原液を飲んだっていう自覚をした瞬間に全身がおかしくなってきた…………」

 

「大丈夫ですか団長? 無理せずエノテラに全部ぶつけてください。エノテラは団長になら何をされても大丈夫なので、遠慮せずにドカンと欲望を解放しちゃってください」

 

「あー……薬のせいかな。こんなひどいことされてるのにエノテラが魅力的に見えてくる…………」

 

「ひどいことと言われるのは心外ですが、薬の効果が順調に出ているのはとても良いことです。エノテラはさらにニコニコです」

 

意識がはっきりしない。次第に視界がブレてくる。理性が少しずつ溶けていくのを感じる。まだ辛うじて何とかなっているが、これがもう少し進んでしまったなら俺は欲望に塗りつぶされて完全に染まってしまうだろう。

何とかしなければ。このまま欲望のタガが外れてしまう前に何かしらの手を打たなくてはいけない。そう思って必死に思考を巡らせる。

が、既に遅かったようだった。

 

「あ、あれ? なんだ? なんだこれ?」

 

身体中から力が抜けていく。少しずつ全身に力が入らなくなり、やがて床に崩れ落ちてしまう。

 

「ま、まさか…………」

 

「はい。抵抗されるのも手間だと思ったので、えっと、きんしかんざい? というものも入れてみました。薬の用途を聞かれたので団長に使いたいと答えたら『じゃあこれも一緒に使うといいよ』といってもらいました」

 

「なんでもありか傭兵団! まあ確かに聞いた感じかなり自由なところだったんだろうけども! こんなもん使ったやりとりが横行してんのか!」

 

「相手が思い通りにならないのなら無理矢理やってしまえばいいじゃない、とエノテラは教わりました」

 

「絶対やべぇ奴じゃん! そいつ絶対やべぇ奴じゃん! 前科ありそうだもん!」

 

「とても優しい方で、エノテラにいろいろなことを教えてくれました。そのおかげでエノテラは今団長を我が物にすることができています」

 

「ちっくしょおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

叫んでもどうしようもなかった。そこまで効果の強いものではないようだが、もう自分の力で動けそうにはない。口は動かせるのでいくらでも喋ることはできるが、胸の筋肉が上手く動いていないのか声量は小さい。

 

「それでは団長。エノテラの部屋に行きましょう。もう準備は整っていますので」

 

「ちょ、おまっ、待てってエノテラ! 俺がいなかったら騎士団の任務とかが…………」

 

「心配しなくても大丈夫ですよ団長。エノテラは既に他の騎士団やこの騎士団の強い方に協力してもらっているので、一か月ぐらいは団長がいなくても問題ないようにいろいろと調整してあります。なので、心置きなく二人だけの世界を楽しみましょう」

 

「なん……だと……」

 

「エノテラが書類仕事を引き受けたことがありましたよね? あの時のこの騎士団の詳細な状況や予定を確認したので、どうせならばということで思い切ってやってみました」

 

「あ…………あの時……嘘だろ…………?」

 

ヒガンバナとの食事。その際珍しく書類仕事をやっておくと提案したエノテラ。全ての行動に裏があったのだとようやく理解する。

 

「もちろんお二人に楽しんでもらいたいという気持ちがあったのですが、タイミングがよかったので。前々から計画していたのを実行に移させてもらいました」

 

「くそっ! それじゃあどっちにしても断れないやつじゃねぇか!」

 

「ふっふっふっ、その通りです。団長はエノテラの手のひらの上で踊らされていたのです」

 

一本取られたと言えるだろう。というか一本どころか生気とか精力とか根こそぎ全部取られかねない状態だ。

しかしどう抵抗しようとも、身体に力が入らない状態。そもそも力ではエノテラに勝てないので、どっちにしろ抵抗は無意味だ。

加えて懸念事項である騎士団の指揮や運営に関しても心配がないというのなら、実は精神的にも断る理由はあまりない。

 

(あれ? これもしかして普通に抵抗しなくて良いのでは?)

 

と思いふとエノテラの顔に眼をやるが、その直後ギョッとする。

エノテラの眼は完全に正気ではなかった。

 

「ふふふ……団長……ふふふ……」

 

「エノテラ……? あれ? どうしたのお前?」

 

「ふふふ……団長、先に謝っておきます。今のエノテラは制御が効かないので、自分でも何をするかわからないのです。だからちょっとやりすぎてしまうかもしれませんが、許してください」

 

「あ……え……ちょっと……エノテラ? 嘘だろ? 冗談だよな?」

 

「ああ……怯えている団長も可愛いですね。団長がここまで怯えているのはとてもレアです。写真をとって額に入れて飾っておきたいぐらいです。でも今はそれどころではないので、それはまた今度です」

 

「待って……待ってくれ……頼む……」

 

「今度は本当に逃げられませんよ……団長」

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

完全に捕獲され、抱きしめられるようにして抱えられて、団長はエノテラの部屋へと姿を消した。

しばらくの間エノテラの部屋からは矯正と絶叫、そして謎の音が絶えなかったという。

 

「団長さんも大変ね……」

 

何事かと問われた時、事情を知るヒガンバナは苦笑しながらそう漏らしたらしい。

 

 

 

 

 

 

その後、エノテラに徹底的に仕込まれてしまったものの団長は生還した。

具体的には全身を性感帯にされ触れられるだけで達するようになり、前も後ろも開発され受けも可能になり、パブロフの犬よろしくエノテラの声に過剰反応するようになり、全体的にエノテラ好みの、従順な身体になった。

 

「まあそれでも間違いなく幸せだよ俺は。全く後悔がないって言うと嘘になるけど」

 

エノテラとの関係を聞かれた際にはそう言っていた。

ただエノテラの所属していた傭兵団へいろいろと思うところがあったのか、一喝しに行ったようだ。

 

 

「エノテラは幸せです。とても幸せです。団長のおかげで毎日がポカポカです」

 

 

めちゃくちゃな部分もあるが、それでもそう言って笑うエノテラを見ると、団長もつられて笑ってしまうのだった。

 


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