レッドだけど、シロガネ山に引きこもります   作:円字L 美異津

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第1話

シロガネ山の山頂はひらひらと儚げに粉雪が舞っていた。辺りは一面純白に輝き、まるでこの世ならざる場所であるかのようだ。

 

俺は帽子を目深にかぶって、降りかかる雪に目を細める。うん、やっぱりここはいいな。一人になれるし、落ち着ける。平和だ。

 

くしゅん。

 

突如吹き抜けた突風の冷気に、思わずくしゃみが出た。

 

いやまあ、こんな寒いところに居ても俺にとって得なんてないわけだが。ただ地上は暖かさの代わりに悪魔みたいなやばい奴らが大勢うごめいていて、俺を追いかけまわしてくるからな。奴らから身を隠すには最適だ。ここならだれとも出会う心配はない、

 

山の上から眼下の景色を眺める。下にはセキエイコウゲン。東にはカントー、西にはジョウト。自然豊かな土地が、広々とどこまでも続いている。絶景だ。どこもかしこも、歩き回った。

 

いまとなっては黒歴史だ。幼いころ、冒険に出たばかりの、何にも考えてなかった馬鹿な自分をぶん殴りたい。

 

まだ物心ついたばかりのとき、テレビでよくポケモントレーナー特集とかがやっていて、それに興味を持ったのが始まりだった。寝袋担いで野宿して、ポケモンたちと力を合わせてどこまでも旅していくあれ。まあ子供らしい一時の憧れというやつだ。近所に住んでたオーキド博士にお願いして、旅に出る許可もらって、ポケモン選んで出発した。幼馴染のグリーンと一緒に。

最初のころは、何の問題もなかった。いろんな場所を自分の足で旅し、草むらでポケモンを捕まえて、ついでに通りがかりのジムに寄り道してジムリーダーも撃破して。

 

旅自体は順調そのもの。博士に頼まれたポケモン図鑑も、かなり埋められていた。違和感があるとすれば、日に日にたまっていくバッジケースの中身と、手ごたえのないトレーナーたち。通りがかりのトレーナーと戦ってもめちゃくちゃ弱かったのは覚えている。エリートトレーナーとか、ベテラントレーナーなんて肩書の人間とのバトルも、割と余裕で勝てていた。ジムリーダーとのバトルだって、苦戦したことなどなかった。その時の俺は、まだのんきに考えていた。エリートトレーナーなんて肩書だけで実は強くないんだろう、とか、ジムリーダーは挑戦者のために手加減してくれてるんだろう、というふうに。だって幼馴染のグリーンだってほかのトレーナーをぶちのめしていたし、同じペースでジムを突破してたからな。だが、あとから分かったが、世間から見れば俺とグリーンの二人が異常だったらしい。後悔している。なんで俺はあのグリーンを基準にものを考えていたんだろう。あいつ小さいころから超がつくほどのバトル厨だったじゃん。あの時の俺の馬鹿野郎。自分たちがおかしいということをもっと前に理解できたなら、こんなことにはならなかったのに。

 

気が付いたら、チャンピオン倒して殿堂入りしてた。何言ってるかわからない?いや、俺も自分で何が起きてるのかわからない。

 

幼馴染のグリーンがポケモンリーグに挑戦するっていうから、おれもまあせっかくバッジ8個集めたからちょっと挑戦してみようかな、なんて軽い気持ちでエントリーした。記念受験みたいなものだ。当然勝ち進むなんて思っていなかった。全国から最強のトレーナーたちが集まると聞いていたし、今までとはレベルの違う戦いが繰り広げられるのだと思っていたからな。だが、俺の予想に反して予選はあっさりと勝ち抜け、四天王は意外なほど手早く倒せてしまい、どんどん先へ進んでいった。そして。

 

「お前に負けたのは悔しいぜ。だけどな、正直納得もしてる。負けるならお前にだろうってな。ハッ、まったく、変なこと言っちまった。まあとにかく、これからはお前がチャンピオンなんだ。せいぜいすぐに負けて引きずりおろされないようにするんだな!」

 

最終決戦でグリーンを倒し、勝利を果たした。いやいやいやいやいやいや、おかしくない?なんでお前こんなにあっさり負けてんだよ。いや、わりとぎりぎりの戦いだったけどさ。それにしてもお前チャンピオンが長年の夢だったんだろ?あきらめるの早すぎだろおまえ。さわやかな笑顔を浮かべるんじゃない。

 

いつのまにか集まってきていた四天王たちとオーキド博士は感極まったように拍手していた。

 

「おめでとうレッド!素晴らしいバトルと、そして友情を見せてもらった!ポケモンとポケモン、トレーナーとトレーナーの熱いぶつかり合い。どちらも申し分ない実力だった。だが、レッド!君が勝った。これからは、君がポケモンリーグチャンピオンだ!」

 

ワタルがそう宣言するとまたワッと歓声が上がる。俺は内心で泣きたくなった。小さいころからの夢がかなったな!みたいな目で見てくんなよオーキド博士。絶対こいつら勘違いしてる。俺はグリーンみたいに子供のころからチャンピオンになりたかったわけじゃない。本気で努力して、苦労したグリーンとは違い、俺はなあなあでここまで来てしまった。なぜかいつもバトルに勝てて、いいポケモンもゲットできて。不思議なほど順調に旅が進んだ。こんな俺より、本気で努力したグリーンのほうがふさわしい。

 

…いや、ぶっちゃけそれも本心ではない。本当に包み隠さずに言うなら。

 

まだ就職なんてしたくない。

 

これにつきる。ポケモンリーグチャンピオンなんて肩書、すごいみたいに見えるけど、結局ただのサラリーマンと大差ないから。書類雑務はもちろん、取材やファンサービス、イベント出演に挑戦者との対戦。ぶっちゃけ超多忙だ。俺はどれだけ給料がよかろうと、そんな仕事はしたくない。というか、俺当時まだ12歳だぞ??年端もいかないガキにそんな重要ポスト任せんなや。

 

そもそも俺が旅を始めたきっかけだって、トレーナーへの憧れもあるが、それ以上に学校行かなくていいし実家離れて仕送り貰って好き勝手できるって理由が大半だ。断じてつらい職場に就職したくて旅してたわけじゃない。むしろ楽がしたさに旅をしていたんだ。

 

だから俺は言ってやった。

 

「俺はチャンピオンを辞退します。」

 

きっぱりと、そう口に出した。俺の言葉を聞いたとき、周囲が騒然としたのを今でも覚えている。ワタルはずっと、どういうつもりだ!?って問い詰めてきてた。後から駆けつけてきたジムリーダーたちは口々に、辞退するなんて言うもんじゃない、と説得していた。グリーンなんか、お前…みたいな意味ありげな目で見つめてきた。さらにはマスコミまで乗り込んできてどんちゃん騒ぎ。地獄絵図というほかない。

 

だから、俺は逃げ出した。リザードンを繰り出し、そらをとぶでセキエイコウゲンを飛び出して。無責任?知らん、子供に重要業務わんさか押し付けようとしてくるほうが悪い。奴らの不意を突いて一瞬のうちに逃げてやった。その時の全員の、驚愕に歪んだ顔を今でも覚えている。そこからが逃亡劇の始まりだった。次の日俺の泊まったホテルの前には大勢のマスコミや野次馬が張り込んでいた。10や20じゃない、カントーとジョウト全域から集合しているんじゃないかってくらいの数だ。慌てて窓からリザードンで逃亡して別の土地に降り立った。

 

が、すぐにまたマスコミと野次馬に囲まれる。また逃げ出す。今度はさびれた旅館に身を隠した。しかしどこから情報を得たのかすぐに突き止めて突撃してくる。また逃げ出す。ジョウト地方に飛んで、人気のない街に逃げ込む。

 

ばれて一瞬で野次馬に囲まれた。新聞には『ポケモンリーグを制覇したトレーナーレッド、チャンピオンを辞退!』と俺の顔写真付きで一面に見出しが躍っている。ふざけんな。プライバシーもくそもない。それから一か月以上リザードンに乗っていろんな街を飛び回ったが、たいてい一瞬でばれて逃げ出すことになった。もって二日。時間が経てば、騒動が収まって俺のこともみんな忘れるだろう、と思っていたが、いつまでたっても騒ぎが収まる気配はない。なにせ世界中のだれもが憧れるポケモンリーグチャンピオンの逃亡だ。そう簡単に鎮火しない。

 

人目を気にして正体がばれないように暮らすというのがこれほどストレスがたまるとは思わなかった。芸能人の方々は毎日このストレスと戦いながら生きているのか。正直、発狂寸前だった。

 

そんな生活の中で、俺はようやく気付いた。そうだ、あいつらが追ってこれない場所に逃げればいいじゃん、と。

 

俺はサバイバル道具を一式用意して、重装備でオツキミ山に入っていった。そんなレベルの低いダンジョンでいいのか?いや案外レベルは低くない。もちろん通り抜けるだけなら道も整備されているし、初心者トレーナーでもなんとかなる程度の難易度だろう。だが一度奥へ進めばその限りではない。最深部にはそこそこ強力な岩ポケモンや地面ポケモンが潜んでいる。

 

俺はオツキミ山の頂上付近で何日も過ごした。俺にとって、そこでの生活はここ最近のストレスを忘れさせてくれる、落ち着いたものだった。ひんやりとしていて気持ちいいし、たまにピッピたちの踊りもみられる。そしてなにより誰とも出会うことがない。本当に、ポケモンリーグを制覇してからの生活と比べると、天国のようなひと時だった。まあ唯一欠点があるとすれば出現するポケモンが厄介で、朝も夜も襲い掛かってくることだが、そんなことはまあ、些細な問題だ。俺は洞窟に住み着いたポケモンたちより、マスコミや野次馬どもの昼夜を問わない突撃のほうがよほどうざかった。落ち着いた日常が戻ってきた。そんな気がした。なのにある日。突然その生活に水を差す奴が表れた。

 

「レッド、こんな場所にいないで帰ろ。」

 

フーディンを伴って現れたのはジムリーダーのナツメだった。理由は明白、俺を連れ戻しに来たのだ。もちろん俺は言葉で説得しようと試みた。だが。

 

「...あなたがその気なら、力ずくでも連れて帰る。」

 

などと言い出し攻撃を仕掛けてきた。いやおかしくね?俺は慌ててピカチュウを繰り出した。しばらく戦闘を続けてから、隙を見て逃げ出した。

 

 

なぜいきなりナツメが俺を連れ戻しに来たのかはわからなかった。ジムリーダーたちが俺を追っている?わけがわからない。とりあえず今度はふたご島に隠れることにした。そこにはすでにでっかい水色の鳥ポケモンが住んでいたがそんなことは関係ない。私事で悪いが一緒に住まわせてもらうことにして、そこに住処を構えた。ふたご島も、オツキミ山と同様過ごしやすい場所だった。まあ、鳥ポケモンが四六時中バトルを仕掛けてくるのが玉に瑕だが、それに目をつぶればいい場所だ。ゲットしないのかって?馬鹿野郎俺はこのひと月で自由のない生活がいかに地獄かを身に染みて知ったんだぞ。そんな思いをポケモンに負わせたくはない。そんなわけで、俺とその鳥ポケモンとの共同生活は続いた。だがこれも一週間かそこらで邪魔するものが現れた。

 

「レッドあんたいい加減にしなさい。今日は意地でも、あんたを連れ帰るんだから。」

 

ハナダジムのカスミだ。よくわからないが、なんかめちゃくちゃ怒っている。仕方ないからぼこぼこにして逃げようと思ったら、今まで俺のことを襲ってばかりいた鳥ポケモンがなんとカスミに立ちはだかった。おおナイス。俺は隙を見て逃げ出した。

 

 

次にハナダの洞窟に身を隠した。そこは真っ暗なうえに出現するポケモンの強さも尋常じゃなく、並のトレーナーなら入り口から十歩と進むことができずに追い返される。正直俺だってそんな場所で暮らしたくなんかなかったさ。だがあの時の俺は度重なる逃亡生活で頭がどうかしていた。

 

その奥では、とてつもなく強いポケモンに出会った。俺が今まで出会ったポケモンの中で、文句なく一番の強さだったと思う。俺の手持ちポケモンも、ほとんどがそいつの前に倒れた。しかし最後は、そいつを倒し、地に沈めることができた。その結果、仲良くなった。なんとそいつは人間の言葉が完璧に理解できるうえに、テレパシーで会話することもできたのだ。だが、俺がこの場所に滞在したいと告げると、そいつは「人間の来る場所じゃない」と言って、それを許さなかった。なにやら訳ありそうな態度だったので、俺も大人になって、その場はしつこく頼まなかった。結果出ていくことになった。ここなら誰も追ってはこれないし、居心地がいいと思ったのに。

 

 

こんな具合に、俺は様々な場所に身を隠して生活した。しかしどうしても、一週間もしないうちに住めなくなってしまう。居場所がばれてジムリーダーに襲われてしまったり、そうでなくても何らかの問題が発生して出ていかざるを得なくなる。カントーだけじゃなくジョウトのこおりの抜け道や、うずまき島なんかにも隠れてはみた。だが、結局どこも四、五日が限度。不幸の星のもとに生まれているとしか思えない。そもそも、どれだけ険しい場所に隠れても、マスコミや野次馬どもはともかく、ジムリーダーや四天王たちからは逃れられない。これならおとなしくチャンピオンになったほうがまだマシだったんじゃないかと思えてくるぐらいだ。

 

だが、俺はあきらめなかった。シロガネ山。それはこの地方で最も危険、難関とされている山岳地帯だ。出現するポケモンの強さはもちろんのこと、その地形も断崖絶壁でトレーナーを危険にさらす。また常に降り続いているあられがポケモンたちの体力を削り、自然が全力で牙を剥き登山者に襲い掛かる。バッジを16個持っていないとそもそも入山許可が下りないほど危険な場所だ。だが、俺にとってはシロガネ山はこれ以上ないほど安心の住まいになる要素が満載だった。だって、誰も頂上にたどり着いたことはない、とかいう話なのだ。つまり俺が頂上に居れば、とりあえず誰にも会うことはないし、プライバシーを侵害される心配もない。覚悟は決まった。平穏な生活を取り戻すため、危険を冒してでもシロガネ山を登るのだ。

 

シロガネ山にも、変な鳥ポケモンが住んでいた。体中が燃えたような趣味の悪い見た目の奴だ。きっとふたご島で会ったやつの親戚か何かだろう。そいつは俺を見るなり襲い掛かってきた。かなり凶暴な性格らしい。とりあえずピカチュウの電気で弱点をがちがちに突いて戦った。所詮野生ポケモンなんて、相性が悪くても交代できないからな。これがトレーナーの強さだ、趣味の悪い鳥よ。そいつともかなり長い間戦っていたと思う。一度倒しても懲りずに何度も挑んでくる。シロガネ山は一日二日で登れる山じゃないので、登山にはとにかく邪魔な存在だった。格の違いを分からせてやるために、何度もぼこぼこに叩きのめした。ようやくおとなしくなったのは、戦い始めて一週間がたったとき。お前のことを認めてやる、みたいな態度で頷かれた。なんか負け続けてたくせに上から目線っぽいのは気に食わないが、まあ、登山の邪魔をしないならいいか。俺は気を取り直しまた山頂を目指して歩き出した。それからさらに数日して、俺はふらふらになりながら、頂上にたどり着いた。

 

 

そして現在に至る。

 

シロガネ山の山頂。雪の降り積もる凍てついた大地に、俺は一人立っていた。初めてこの山に登ってから、もう何年経ったかわからない。時の経過を忘れるほど、この土地に居ついてしまった。

 

シロガネ山山頂に住むようになってから、もうジムリーダーたちに出会うこともなくなった。毎日まるで仙人のように、山頂から下の世界を見下ろす。最初のころは昼夜を問わず襲い掛かってきた野生ポケモンたちも、いつからか俺を襲うことはなくなって、食料を持ってきてくれるようになった。あの炎の鳥ポケモンも、今では割と言うことを聞いてくれる。

 

きっと俺はここで、ポケモンに囲まれて、人間に忘れ去られて死ぬのだ。そして数十年後にミイラ死体として発見されるに違いない。別に、まったく辛いとは思わない。元々一人が好きだからな。自然に囲まれて生活するのも居心地がいい。飯はタダで家賃もない。そう、ここは考えれば考えるほどなかなかいい物件なのだ。そもそも下山できないわけじゃないからな。こっそり降りて娯楽品とか買ったりたまに別の地方にバカンスに行ってるし。さすがに数年も経つともうジムリーダーも野次馬も追ってこなくなった。そういう意味では、もうそろそろ地上の生活に戻ってもいいかもな、というようなことも考える。けど結局、なんというかこの場所の居心地がよくて、いる必要があまりないのに離れたくないんだよな。未だに山頂までたどり着くトレーナーもいないし。

 

崖の下に視線を向ける。おーおーやってるやってる。麓のほうでトレーナーが野生ポケモンと戦っているのが微かに見える。相手のポケモンは、ニューラか。普通に考えれば大したポケモンじゃないが、シロガネ山のニューラを侮るなかれ。つめとぎやこうそくいどうでガンガン積んでくるのはもちろんのこと、れいとうパンチ、きりさく、シャドークローなど接触技は多彩だ。バッジをいくつ持っていようが、普通にパーティ半壊させられかねないポケモンだ。あ、トレーナー負けた。なんか叫びながら逃げてったぞ。

 

趣味が悪いのは自覚してるが、俺はこうして上から人がやられて逃げていくのを見下ろすのが割と好きだ。というか、山の上だとさすがにやることがなさ過ぎて、必然的にそういうことしかしなくなるんだよな。さすがに、楽しみがこういうことだけだとまずいよな。今度地上に降りたときにゲームでも買って戻るか。なんて、のんきなことを考えていると。

 

「あの。」

「!?」

 

突然、背後から声がした。少女の声だった。慌てて振り返ると、そこには白い帽子をかぶった少女が立っていた。

 

「すみません、レッドさん、ですよね。」

「…。」

 

動揺して言葉が出なかった。俺がここに住み着いてから今までシロガネ山の山頂にたどり着いたトレーナーはいなかったからだ。いや、その前に数年人と話していな過ぎて、どうやって話したらいいか忘れていた。俺は今、目の前の可愛らしい少女にきょどっている内心を悟られないようにするだけで精いっぱいだった。

 

「私、コトネって言います。ワタルさんにあなたのことを聞いて、ここまで来ました。」

 

その一言で、俺はすべてを察した。彼女はワタルが雇った凄腕のトレーナーなのだ。そして俺を連れ戻すため、わざわざシロガネ山まで彼女を派遣したのだ。数年間追いかけてこなかったからもうとっくにあきらめたと思っていたのに、今になって連れ戻そうとしてくるなんて。

 

俺は、ベルトに取り付けてあったボールを外し、取り出して構えた。とりあえずこいつをぼこぼこにして、逃げる。この居心地のいい住処を失うのはつらいが、しかし背に腹は代えられない。今はそんなことを言っている余裕はないのだ。

 

「…わかりました、確かに、言葉はいらないですよね。バトル、しましょう。」

 

よくわからないことを言いながら、向こうもボールを構えた。そして、久しぶりの、トレーナーとのバトルが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コトネside

レッドという名前を初めて聞いたのは、私がジョウトリーグを制覇して、ポケモンリーグのチャンピオンになったときのことだ。

 

「おめでとう、コトネ。君は晴れてポケモンリーグチャンピオンだ。」

「…ありがとうございます。嬉しいです。」

 

素直に笑って称賛の言葉をかけてくれるワタルさんに、私はそう言った。でも、言葉とは裏腹に、虚しさばかりが溢れてきた。ああ、私、ポケモンリーグのチャンピオンに勝ったんだ。この地方で一番強い人に勝ったんだ。こんなにあっさりと。

 

「俺も、久しぶりに興奮した。数年来、チャンピオンへの挑戦権を得るトレーナーすら少なかったからね。君ほどのトレーナーにチャンピオンの座を譲り渡せると思うと、こちらも安心できる。」

「そうですか。」

 

ワタルさんの表情は満足げだった。私は、これから言わなければならないことを考えると、少し憂鬱だった。

 

「ああ。それじゃあ、これからリーグを制覇した君と君のポケモンの情報を記録するために、殿堂入りの間に行こう。チャンピオンに勝利したトレーナーは全員行う、大切な儀式だ。それが終わったらリーグチャンピオン交代の手続きを行うことになる。さあこっちだ、ついてきてくれ。」

 

そう言って、ワタルさんは歩き出そうとする。だが私は、それを制止した。

 

「待ってください。」

「…どうしたんだ?」

 

私は、一度言葉を区切ってから、

 

「私、ポケモンリーグチャンピオン、辞退しようと思うんです。」

 

そう言った。それは、ポケモンリーグに挑戦する前から、決めていたことだった。

私は幼いころから、ポケモンバトルが好きだった。でも、なぜか誰にも負けたことがなかった。幼いころはそれが自慢になったけど、旅に出て、ジムリーダーや実力があると言われているトレーナーたちを難なく倒していくと、その自慢は不快感に変わった。どうして私を満足させてくれないのか。私を満足させてくれる対戦相手はいないのか。

 

それで、相手を探し続けて、ここまで来た。もしポケモンリーグでさえ満足する相手にならないなら。

 

チャンピオンなんて肩書、意味がない。

 

私はそう考えるに至っていた。幼いころは無邪気にチャンピオンの夢を追いかけていたのに、今こうしてチャンピオンを辞退しようとしている自分に嫌気がさす。

 

ワタルさんには、きっととても反対されるだろう。そう覚悟して言った。けれど。

 

「…そうか。」

 

ワタルさんは意外にも納得したようにうなずいた。

 

「そうか、って。あの、それは辞退を認めていただける、ということですか?」

 

あまりにも拍子抜けだったので、私はそう聞き返してしまった。

 

「ああ。」

 

ワタルさんは難しそうな顔で頷く。

 

「そんなに簡単にいいんですか?ポケモンリーグを制覇した人はチャンピオンになる決まりですよね。私自身、正直、めちゃくちゃなことを言ってる自覚はあるんですが。」

 

私は自分が異常なのは自覚しているつもりだけど、常識まで失ったつもりはないので、そう聞いた。チャンピオンを倒したのにチャンピオンにならない。それはリーグの運営を揺るがす事態ではないのだろうか。様々な地方に点在するポケモンリーグ、そのチャンピオンは名目上、その地方で最強のトレーナーということになっている。リーグを制覇したのにチャンピオンにならないなんて、その名目を破壊するようなものじゃないのだろうか。

 

「数年前までは確かに、辞退なんて認められてはいなかった。でも、ルールが変わったんだよ。あるトレーナーの影響でね。」

「あるトレーナー、ですか?」

 

疑問を向けたが、ワタルさんは押し黙った。私はなぜか妙に気になって、次に続く言葉をじっと待った。ワタルさんはそれを察したのか、少し考えるような仕草をした後、頷いた。

 

「とりあえず、辞退するにしても殿堂入りの記録はしなければならない。ついてきてくれ。」

 

私は少し戸惑ったが、ワタルさんの態度が有無を言わせないものだったので、従うことにした。ワタルさんの後ろに付き従って長い廊下をしばらく歩くと、奥にひときわ大きい扉が見えてくる。

 

「ここが、殿堂入りの間だ。チャンピオンに勝ったトレーナーは、ここでその栄光を記録し、永遠にリーグの歴史に名が刻まれる。さあ、君も入るといい。」

 

そう言われて私は、その大きな扉の奥へ入った。殿堂入りの間は、豪華絢爛な装飾に赤いカーペットの敷いてある、目がちかちかするような場所だった。奥にはデータを記録するための機械が置いてあって、静かにリーグ制覇者を待っている。私はその機械の前まで進んだ。機械の周りには、歴代の殿堂入りしたトレーナーたちの写真が飾られていた。中には白黒の写真も混ざっていて、ポケモンリーグの歴史を感じさせた。

 

「さっき言った『あるトレーナー』というのは、彼のことだよ。」

 

そう言ってワタルさんは一枚の写真を指差す。そこには、数ある写真の中でひときわ幼い少年が映っていた。

 

「…君は今何歳だったかな。」

「14歳です。」

「彼はレッドと言ってね。当時12歳だったよ。ものすごい才能で、あっという間に四天王を打ち破り、俺のもとにたどり着いた。そして俺を苦も無く倒した後、言ったんだ。ポケモンリーグチャンピオンを辞退します、ってね。」

「…それは。」

 

少し驚いた。私以外にチャンピオンを辞退した人がいたなんて。しかも私よりも2つも年下の。想像してみる。写真に写っているこの幼さの残る男の子が、私と同じように、ポケモンリーグに失望していく様を。少なくとも写真の中の彼は、リーグを制覇したというのに全くうれしそうじゃない。なんというか、少しだけ親近感がわいた。

 

「正直、あまりにも同じものだから笑ってしまったよ。特に俺に勝ったときの、拍子抜けしたような感じなんかそっくりだった。」

「いえ、あの。すみません。」

「いいんだ、君が謝ることじゃない。君たちの高い壁であれなかった俺たち大人がふがいないんだよ。」

 

そう言ってワタルさんは笑った。誤魔化していたつもりだったけど、どうやらばれていたらしい。

 

「その人はどうしてチャンピオンを辞退したんですか?」

 

私は気になって、そんな質問をしてみた。

 

「どうしてだと思う?レッドと同じようにチャンピオンを辞退しようと考えた君なら、彼の気持ちがわかるんじゃないか?」

 

試すように、ワタルさんはそう聞いてきた。

 

「会ったこともない人のことはわからないですけど、たぶん、失望したから、じゃないですか?少なくとも私はそうです。もっとチャンピオンになるのに苦労していたら、辞退なんてしなかったと思います。」

 

私は今考えていたことをそのまま口にする。もう私の考えを見破られているワタルさんに取り繕っても仕方がないと思って、素直に答えた。

 

「なるほどな。ちなみに、君自身はこれから先どうするか決まっているのか?」

「まだはっきりとは決まっていないですけど、とりあえず実家に帰ってしばらくは何もしないつもりです。少なくとも、もう、バトルはしないと思います。」

「そうか、君はそう考えるのか。失望、喪失感、虚無感。君からは、そんな感情を感じ取れるよ。でも、だとすると君とレッドは、俺の思うほど似ていないのかもしれないな。」

「…どういうことですか?」

 

私は、きっと同じような選択をしたその人なら、私と同じ気持ちだったに違いない、と思っていた。いや、私よりも年下でリーグを制覇したのだから、この気持ちはさらに強かったとすら思える。でも、ワタルさんは笑って首を横に振る。

 

「レッドは確かに強かった。でも、だからといってその強さに満足はしなかったんだ。たとえ、チャンピオンになってもね。報告を聞いた時は驚いたものだったよ。チャンピオンを辞退した後何をしているかと思ったら、まさかうずまき島やふたご島に籠って、何週間も野生ポケモンと戦い続けているなんて。」

「それ、正気ですか?」

「さあ、正気でやってできることには思えないな。」

「…チャンピオンになったのなら、その先なんてないのに。もう自分より強い相手なんていないのに。意味なんてないのに。なんでそんな無謀なことを。」

 

私は、理解不能なワタルさんの話に、少し混乱した。

 

「まあ、確かに彼のあれは行き過ぎていた。だが、意味がないとは思わない。」

 

ワタルさんはそう言った。でも、なぜそんな風に言い切れるのかわからない。

 

「君に負けた俺に、偉そうにものを教える権利はない。だから俺の言葉はポケモントレーナーとしてじゃなく、人生の先輩からのアドバイスだと思って聞いてくれ。君は、世界の広さを知るべきだ。世界はジョウト地方だけじゃない。様々な地方に様々なトレーナーがいるし、ポケモンがいる。俺より強いリーグチャンピオンだっている。ジョウトだけを知って、失望するのは、まだ早いんじゃないか。」

 

「…私もほかの地方を旅するということについては考えました。でも、もうこれ以上失望したくないんです。また別の地方でチャンピオンに挑戦して、あっさり倒してしまったら、本当にバトルが嫌いになる気がします。」

「怖いか?失望するのが。」

「はい。私は、そのレッドという人のようにはなれません。」

 

レッドという人が別の地方のトレーナーに期待して、そんな無謀な戦いを続けていたというのは、私には理解できない。だって、カントーと別の地方で、いったいどれだけの差があるというのか。チャンピオンですら倒せてしまうというのに。期待しても辛くなるだけだ。

 

「いや、そうは思わない。レッドだって、きっと何度も失望し続けた。うわさでは様々な地方を旅していたということだけど、負けたという話は聞かない。だが、それでも彼はバトルをやめなかった。今も、自分を超えるトレーナーを探し続けている。」

「今も、ですか?」

 

私は驚いて、そう問い返す。

 

「ああ。どうしてそうまでバトルにこだわるのかはわからない。でも、俺は報われてほしいと思っているよ。君にも、彼にもね。」

 

そう語るワタルさんの目は、どこか寂しそうだった。

 

「俺はねコトネ、きっとレッドは報われると信じているんだ。だってそうだろう、君は今日、これほど圧倒的な力を見せつけて俺に勝利して見せた。当時のレッドと同じように。これから、さらに才能の誕生は加速するだろう。君たちのような次世代のトレーナーが成長し、俺を超え、先に進む。そして進化した才能が、レッドを倒す。俺がまだチャンピオンを続けているのは、そんな光景が見たいからなんだ。」

 

ワタルさんはそう言って笑った。

 

バトルはもうしないと決意していたはずなのに、私は、その話を聞いて、そのレッドと言う人と戦いたいと思っている自分に気付いた。

同じ孤独、同じ失望を感じていたはずの相手。誰かに期待するのが怖くて仕方ないはずなのに、それでも自分を倒せるトレーナーをいまだに探しているという。その人を倒してあげたいと思った。こんな感情を抱くのはなぜなんだろう。まだ会ったこともない人のはずなのに。

 

「…ワタルさん、その話を聞いて少し考えたんですけど。私、バトルをやめるって話、やっぱりそれ保留にします。」

 

気が付くと、そんな言葉を口走っていた。ワタルさんは私の言葉を聞いて、少し驚いたような表情をした後、頷いた。

 

「…保留か。なるほど、面白い選択だ。」

「面白くはないと思いますけど。なんかその話を聞いて、レッドさんと戦ってみたくなりました。バトルをやめるかは、戦って、その後決めることにします。」

 

我ながら優柔不断な選択だ。

 

「いいね、君にも新たな目標ができた、というわけか。」

「正直まだ不安はあります。レッドさんが、本当にワタルさんの言うような人かわからないですし。でも、まあ、あと一度くらいは、期待してもいいかな、と。」

「ああ、今はそれでいい。それに、彼はきっと、君の期待を裏切らない。」

 

ワタルさんが強くうなずくので、私の期待は否が応でも強くなる。それはあまりいいことじゃないのだけど。

 

「それで、レッドさんはどこにいるんですか?」

「彼は今、シロガネ山の山頂にいると聞いている。」

「シロガネ山…。それって、この地方で一番過酷だって言われてる高山ですよね。しかも山頂って、本当にそこにいるんですか?」

「ああ、確かな筋からの情報だ。コトネ、君はこれからまず、カントーのジムバッジを8つ集める必要がある。シロガネ山はカントーのジムを制覇したトレーナーでなければ入山を許可されない。」

 

なんだか面倒な話になってきた。ただ一人のトレーナーと戦うだけのつもりだったのに、新しい地方のジムをすべて回らなきゃならないなんて。でもまあ、それほど時間はかからないか。今の私は、チャンピオンより強いわけだし。

 

「そうなんですか。わかりました。じゃあサクッと集めて、シロガネ山に登ることにします。」

「はは、簡単に言うね。君には期待している。どうか、レッドを倒してやってくれ。」

「…はい。まあ、全力を尽くします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ワタルside

 

コトネが帰った後、一人部屋に留まっていた俺の携帯に、プルルル、とポケギアの着信があった。表示されている名前は、グリーン。レッドの幼馴染で、ポケモンリーグチャンピオンになったこともある、現トキワジムのジムリーダーだ。それにしても、妙なタイミングだと思った。俺とグリーンは別に普段から通話をするような仲じゃない。コトネと、レッドの話をしたすぐあとでの電話。怪しむなと言うほうが無理だろう。俺は憂鬱な思いを振り切って、応答ボタンを押した。

 

『おい、聞いたぜワタル。あんた、チャンピオンを辞退した奴に、レッドの話をしたんだって?』

 

開口一番、グリーンはそんなことを言ってきた。

 

「いきなりなんだ。誰から聞いた。」

『別に誰でもいいだろ。それよりワタル、どういうつもりだ?新しいリーグ制覇者が子供だからって、レッドと重ねでもしたのか?あいつと並び立てる奴なんていねえっていうのによ。』

 

グリーンの決めつけるような物言いに、少し苛立ちを覚える。彼はコトネとは会ったこともないはずだ。彼女の新時代の才能を俺は信じている。レッドに並び立つか、なんてことはわからないが、少なくともグリーンに一笑に付されるような実力ではない。グリーン。彼は才能はあるが、人を食った態度がある。これでも昔よりはだいぶましにはなったが、それでも尊大さは消えていない。

 

「コトネにはその可能性がある。それに、レッドには、いい加減早く帰ってきてもらいたいんだ。」

 

俺の言葉を聞くと、グリーンがあきれたように笑うのが電話口から聞こえた。

 

『まだ言ってんのかよ。あいつが飛び出してった時、マスコミ利用して無理やり連れ戻そうとしやがって。放っといてやればよかったんだ。レッドはチャンピオンに収まるような器じゃない。』

 

グリーンの言葉に俺は黙らざるを得なかった。それは自分のかつての過ちだからだ。だがいつまでもそのことを引きずってはいられない。

 

「…スポンサーや上層部を止められなかったのは俺の責任だ。だが、あの時の失敗はもう繰り返さない。レッドには正面から、納得して帰ってきてもらう。それが、彼にとっても最もいい選択だ。」

 

レッドがチャンピオンを辞退してリーグを飛び出したとき、上層部は大慌てだった。子供がリーグチャンピオンに挑戦するということは事前に報道され、注目されていたのだ。だから俺に勝ったレッドが消えれば世間から大バッシングを受けるのは目に見えていた。彼らは、必ず連れ戻さなければ、ポケモンリーグの信用が失われかねないと考えた。そして、危機感を抱いた結果、上層部がとった策は、マスコミをさらにあおって世間の注目を集め、彼らを利用して捜索の手を全国まで広げる、というものだった。それは日を追うごとに過激になった。子供に制覇されたカントーのリーグは弱い、なんてレッテルが貼られつつあるのを何とかしたかったのだろう。スポンサーとの契約にも影響が出る。レッドがチャンピオンとなり、公式戦で力を見せつければ、その批判は収まると、奴らは考えていたのだ。カントーだけではなく、ジョウト全域、さらにそのほかの地方の一部にも捜索を拡大させた。だがレッドを連れ戻せはしなかった。そして、そんなやり方での捜索は、レッドをどんどん世間から遠ざけることにもなった。

 

『くだらないやり方だ。マスコミをあおって、捜査網を敷かせる。それがだめとなりゃあ今度はジムリーダーだ。俺はなワタル、あんたのことも許したわけじゃないんだぜ。』

「確かに、ジムリーダーたちに彼を連れ戻すように命じたのは俺だ。だが、あのときはレッドが世間から敵視されていた。これ以上世間が騒げば、レッドは本当に人と関わることに見切りをつけてしまう。それだけは、避けたかったんだ。」

 

『…ま、俺だってたまには顔くらいだせとは思うけどな。カスミやナツメは気の毒だし。だが、それでレッドが戻ってくるとは思えねえよ。』

「あのときは俺のやり方が間違っていた。無理やり連れ戻すような真似はもうしない。今度は、彼をバトルで満足させて連れ戻す。それは彼にとっても本望だろう。」

 

『その役目を、14の子供に任せようっていうのか?務まるとは思えないな。』

「彼女の才能は、レッドや君とは質が違うが、それでも、十分に通用すると思っているよ。それに、歳で言うなら君たちのほうが二つ若かった。」

『俺らと一緒にするなよ。』

 

グリーンは不愉快そうに言う。

 

「それに、まずそこまで言うなら君がレッドを連れ戻せばいいんじゃないのか。本来それは幼馴染である君の役目のはずだ。君以上に強いトレーナーも、今のリーグ関係者にはいないわけだしな。」

 

意趣返しのつもりでそう言ってみる。するとグリーンは面倒くさそうにため息をついた。

 

『やめてくれ、俺とレッドの戦いはもうとっくに決着がついてんだ。今更俺にできることなんてねえよ。』

「なら口出しするな。コトネはきっとやり遂げる。グリーン、君も彼女に会ってみればわかる。」

『チッ、そうかよ。…まあ、レッドのことを話しちまったっていうなら、もう俺は口出ししねえ。だけどな、』

 

グリーンはそこで少し沈黙した後、また口を開く。

 

『レッドのことをなめすぎてると、そいつが潰れるぜ?』

 

ツーツー、と通話が切れたことを伝える機械音が響いた。グリーンはそれだけ言って一方的に切ってしまったらしい。潰れる、か。その言葉は俺を不安にさせて余りあった。コトネという次世代の才能を、レッドが壊してしまう可能性。いや、彼はそんなことをするような人間じゃない。きっと大丈夫。なんて、根拠のない話だ。

 

俺はレッドがリーグを制覇したあの日を最後に、彼には会っていない。だから今のレッドがどうなっているのかは、俺にはわからないのだ。リーグを制覇した当時より、きっと強くなっているはずだ。自身の強さを持て余して、狂気に至っているかもしれない。そんなことは、だれにもわからない。俺は無責任だと自覚しながらも、ただただ、コトネの無事を祈ることしかできなかった。


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