目の前に聳える、高い高い壁。
あの日の出来事を、俺は鮮明に覚えている。
高校生になって、初となる全国大会。
白鳥沢学園に入学した俺にとって、全国という言葉にあまり特別な感情を抱くことはなかった。
中学生の時も、強豪校であった母校の名を背負って全国に出たこともあった。
その言葉は高校生になっても変わらない。
強いものが勝ち残り全国にいく。
ただそれだけだ。
だが、あの時に。
あの瞬間に。
俺は全国という言葉の〝高さ〟を思い知らされることになった。
全国高等学校総合体育大会バレーボール競技大会。
夏の全国と呼ばれる大会の一回戦目。
俺は一年生ながらスターティングメンバーとして抜擢され、ウイングスパイカーとしてコートに立った。
あぁ、いつもと変わらない。
高い天井とオレンジコート。
試合独特のキレのある空気感と緊張感。
体はつつがなく、硬さや緊張もない。
間違いなくベストコンディション。
試合は1セット目中盤。
白鳥沢学園の優勢。
相手のコート内で高くあがったトス。
前衛にいた選手は、トスがスパイカーの手に収まるタイミングを見計らって飛んだ。
シューズがコートを力強く蹴る音。
撃ち抜かれる破裂するのような音。
矢継ぎ早に響く音が、鮮明に記憶に残る。
緩やかな回転がかかったトスから一変し、強力な回転と打撃で打ち出されたボールは、捉えていた選手のブロックを吹き飛ばし、打球の勢いが死なないまま飛んできた。
まさに一瞬だった。
ブロックされ、相手コートに叩き落とされる確信があったボールが、瞬間移動をしたかのように目の前に現れたのだ。
咄嗟にアンダーで受けようとしたが、打球の力は計り知れず、ボールは手に弾かれ、はるか自分の後ろへと飛んでいく。
そのボールは確かにブロックをした選手の手に当たってから飛んできてはずなのに、まるで目の前で打ち出されたかのような威力があった。
ビリビリと腕が震える。
骨に衝撃がずっしりと伝わったような錯覚さえあった。
ハッと目を向ける。
そこにはスパイクを決めて着地した相手選手がいた。
その目を見て久しく忘れていた気持ちを思い出す。
目が語るのだ。
そのスパイクがどれほどの研鑽と技と力で作り上げられているのかを。
ブロックの手を物ともせず、捉えられない絶対的な力。
その時からだろうか。
今まで満遍なく力をつけてきた技術の中で、スパイクにこだわるようになっていったのは。
試合は結局、2セット先取の勝利で終わった。あの瞬間に飛んできたスパイクは、もう打ち出されることはなかった。
彼は飛ぶことすらできなかった。
弱小チームだと誰もが思うだろう。
だが試合が終わった時、あのスパイクを相手にしなくていいと俺は心の中で安堵した。
安堵した自分に驚いてしまった。
怪童と呼ばれ、全国最大エースと呼ばれる今、その安堵と驚愕は記憶に残っている。
試合後の握手の感触も。
そして、相手の底知れない眼光も全て。
それから全国。
戦いの舞台に立つたびにこびりつく記憶との決着を付けるべく俺は待ち続けた。
俺と同じ歳で、俺をはるかに凌駕するスパイクを放った選手を。
しかし最後の大会でも、彼は姿を見せることはなかった。
聞いた話では、あの試合を最後に学校側の都合でバレー部は廃部になったと聞く。
心のどこかで信じていたのかも知れない。
あれほどの力を持つ者だからこそ、どこかでバレーを続けているのかも知れないと。
故にあいまみえる事を夢見ている。
磨き上げたこのスパイクで今度は俺が奴を撃ち抜く。捉えきれない絶対的な〝力〟で、必ず勝つ。
俺はここまできたぞ。
お前は今、どこで何をしている。
大阪府代表、敷島工業高等学校。
———難波 陣(なんば じん)。
ハイキュー‼︎
大阪 夏の陣