俺こと仙石 晴海が、あいつと出会ったのは、小学3年の頃やった。
「よろしくお願いします」
ふてこい顔してチームメイトに挨拶してきた難波 陣の顔を俺は今でもよく覚えとる。
小学生のバレーチームにたった一人で入会しにきたときは「なんやろ、変な奴」ってガキながら思ってたわ。
難波 陣。
アイツの親は、地元じゃ有名なバトミントンのプロプレイヤーでな。
バトミントン押し付けられるのが嫌すぎて、代わりにバレーを選んだんやと。
笑えるくらいしょうもない理由やったわ
けど、その笑える理由がアイツにはドンピシャりとハマった。
1年後には頭角を表し始めて、小高学年で身長は175。子供ん頃から嫌々やらされてたバトミントンで付いていた筋肉が役に立ったって言う訳や。
「仙石!!」
「お前いつも無茶言うなやクソがぁっ!!」
俺はアイツに振り回されて、気がつけば中学でも同じバレーチームに所属。地区では負けなしと言われて、いっときは雑誌の取材まで来たくらいやった。
「なぁ、ハル!俺は敷島工業に行く!!公立で全国レベルなのはあそこしかないで!!」
「うっさいなぁ、それ言うの何度目やねん…。聞きすぎて耳にタコさんウィンナーできるわ」
「なんやとぉ!?」
貧乏やった俺のことを思ったのか、バトミントンのスポーツ推薦蹴った腹いせに学費を自分でなんとかしろと言われたからか…それもも、アイツの口車に乗せられてなのか。
あれよあれよと言う間に俺らは敷島工業高等学校に進学。
すぐに全国レベルと名高いバレー部に入部した。
けど、待ってたのは想像以上にエグい現実やったわ。
「廃部…?どういうことですか!?」
「言った通りだ、難波。この学校はお前らの年で廃校になり、他の工業高校と合併するんや。つまり、所属している高校がなくなるって訳やな」
「そんな…納得できません!!合併後もバレー部として…」
「合併後は、工業と一般学科共同の学園になる予定や。そこにバレー部は存在せえへん。悪いな、この少子化の波には…部活なんて価値はないのかもしれんな…」
その言葉に陣は何も言えないまま、ただそこで歯を食いしばっていた。
俺らの夢見た春高バレーも、試合も、高校バレーという生活の全てがたった一年足らずで綺麗に消えると言う死刑判決を受けた気分やった。
実力府内トップクラスと言われる敷島工業のレギュラー。
一言で言えば特徴が無いのが特徴ですっていうメンバーやった。
三年間の練習と研鑽で積み上げられた安定感ってのはあったけど、これと言った特徴も、突拍子もない攻撃力も、鉄壁のような防御力もない。平均値が高いチームなだけ。
監督は、二年や三年をやけに気に入ってて、輪に溶け込みやすい手頃なやつをレギュラー入れて試合に出るクセがあった。
一年で、俺や陣が練習でいくらレシーブや、サーブや、誰にも止められへんスパイク決めても、レギュラーになれ、なんて言われた事なかった。
そして迎えた夏の高校バレー予選大会。
順当に勝ち進めた試合。
数年ぶりの全国大会を決めたチームを見てても、腹立つ以外何もあらへんかった。
粗末なレシーブで輪を乱す三年のリベロのプライドの無さにヘドが出るくらいやったわ。
けど、劇的な瞬間はあった。
全国大会一回戦。
宮城の強豪、白鳥沢高校。
試合は一気に持ってかれた。ただ単に平均値が高いチームなんて、圧倒的な個々の攻撃力で成り立つ白鳥沢の足元にも及ばんかった。
けど、あの日。
ピンチサーバーで陣は、初めて全国のコートに立った。
たった1ゲームのサーブ。
たった一打のチャンス。
やけど、アイツは強かった。
サーブで崩し、相手から上がったチャンスボール。三年のセッターがあげる、ヘボくて高いトスに陣は完璧に合わせた。
そして撃ち抜いたんや。
強豪校の高いブロックを。
誰もが痺れたはずや。
少なくとも、俺らの同期とベンチにいる2年は。せやけど…監督は、陣を入れへんかった。
まぁ、情にほだされたんや。
三年の最後の全国。
思い出を残させるために、下手くそなスパイカーも、クソみたいなリベロも、セッターも。
三年が出されへんかったら可哀想やからって。
学校が合併するからって。
少子化やからって。
そんな大人のどーでもええくだらん理由で、俺らの夏の大会と、公式の高校バレーの日々は敗北で終わった。
「ハル。俺、バレーボールやめへん」
三年の引退式の後、難波と一緒に退部届を出した帰り道で、俺の後ろを歩いていたらアイツはそう言った。
「…なに言ってんねん。敷工から、バレー部無くなるんやで。あったとしても、一年が入ってこん部に未来なんてあるかいな」
新しい血が入らん部に未来なんてない。三年が抜けて、二年と一年で戦えるとしても学校としても廃校が決まってるのだから試合できたとしても、近隣学校の付き合い練習試合しか組んでもらえへん。
そんなお遊びみたいな部に居ても何も面白ないから二人揃ってやめたと言うのに。
「陣。先生も言ってたやろ?お前はタッパもある。バネも、脚力もや。俺はボール拾うことしか能がない。けど、お前ならバレーじゃなくても他の競技で…」
「俺は!!」
後ろにいた陣が大股で歩いてきて、空を見ながら呟いてた俺の首根っこを掴み上げた。振り返って初めてわかった。
陣は泣いてたんや。
悲しいからと違う。
悔し涙やとすぐに分かった。
「俺は、高校生活の三年間を、お前と一緒にバレーへ捧げる覚悟でここに来たんや!!ここでバレーできへんからって辞めてもうたら、もう何もできへん!!バトミントンも野球もテニスも!!」
妥協して始めたもんなんかに情熱なんて注げるか!!アイツはそう言った。アイツが求めてるものは、もうこの学校にはかけらも残ってへん。
そんなこと、俺が一番分かってる…っ!!
「高校卒業してから、あの頃は楽しかったななんて語らうくらいの楽しさなんていらん!!思い出なんかクソ喰らえや!!俺はバレーがしたい!!バレーに捧げるって決めて高校生になったんや!!だから俺はバレー辞めん!!わかったか!!わかったんやったら二度とそんなアホみたいな事を抜かすなアホ!!」
お前と一緒に〝強いバレー〟をしたいから選んだ道や。簡単に諦めれるわけがないやろ。俺も同じや、陣。
『仙石は打つの下手なんやから玉拾い頑張りやぁ』
レシーブしか取り柄がないと内気だった俺。その壁を叩き壊して手を引いてくれたのは間違いなく陣やった。
『俺のスパイクを完全に捉え切れるお前をスーパーレシーバーと言わずに何で呼べばいいんや?』
辛い、苦しい練習の中でそう言ってくれた陣が居てくれたからこそ、俺はアイツと共に高校バレーに捧げようと決めて高校に入った。
高校が廃校になる?
バレー部なんて必要ないから切り捨てる?
少子化?合併?
それがどうした。
その程度のことがどうしたというんや…!
「離せや」
俺の一声で、陣は掴み上げていた俺の襟を離した。
「知ってるしな。お前のそゆとこ」
そうするとも、何となくは予感はしとった。だからこそ、俺も一緒に歩んだるわ。高校バレー男子が高校バレーを捨てた道の行先をな。
「しゃあなしで、付き合ったるわ。俺の高校3年。お前の好きなように付き合わせぇや」
その日から、俺と陣の、たった二人のバレーボールが始まった。