烏野高校バレー部。
二年目の夏休み。
「迷った…」
「あぁ、迷ったな…」
日向と影山は見知らぬ地で迷子となっていた。
とりあえず行き先が分からないので降りた駅。宮城の街並みとは全く違う都会の街並みに圧倒されながら、日向は屋根を支える柱に取り付けられた駅名を見つめた。
「芦…はらばし?」
「読めないからって飛ばすなボケェ!!」
芦原橋(あしはらばし)と読めなかった日向に後ろで苛立ちげに見ていた影山が吠えた。なんと二人がいるのは大阪府の市内、環状線内の駅だった。
「だってしょうがないじゃんかよ!読めないものは!!じゃあ影山くんは読めるんですかー!?」
「あぁ!?ざけんなよ!俺は一人で東京の環状線に乗ったんだからな!!」
「へぇー!じゃあシティーボーイな影山くんなら谷地さんたちがいる梅田までいけるんですねぇー!?へぇー!そうなんですねぇー!?」
「あぁ!?行けるに決まってんだろ!!あれだったら走っていくに決まってんだろ!?」
なんなら改札出て走るか!?とまで発展した言い合いに、芦原橋で降りた地元民が珍しげに目線をやる。ただ、ああいう風に喧嘩している二人組はよくいることなので同様はない。
睨み合う二人ではあったが、同時になった腹の虫の音によって険悪だった空気が一気に萎えた。
「…やめようぜ、影山。無駄にエネルギー消耗するし」
「そういや、新幹線降りてから何も食ってねぇーからな」
仙台から特急で東京。
そして新幹線で新大阪。
新幹線で長距離移動ということにテンションが有頂天となった二人。
綺麗で大きな新大阪駅、そしてどこまでも続くような地下道。意味不明なテンションが赴くままに飛び乗った電車。気がつけば日向たちは一緒に来ていた谷地や月島、山口と離れ離れになっていたのだった。
二人が飛び乗った電車は、目的地方向の逆側の環状線であった。過ぎても過ぎても谷地や先輩たちに教えてもらった目的地に辿り着かないので、ビビった日向に釣られて影山も途中の駅で降りてしまったのだった。
「腹減った…ここどこだろ…」
「知るか」
途方に暮れる二人。
そんな日向たちに向かって歩み寄ってくる人影があった。
「しょぼくれてるなぁ、元気印のちんちくりん」
「なんだとぉ!?おっ…?」
身長のことを言われてムキになりながら振り向いた先。そこには日向も影山も見知った人物があの日と変わらない親しみやすい笑みを浮かべて立っていた。
「よっ、久しぶりやな。日向」
「な、難波さん!?」
偶然、その駅から電車に乗ろうとした難波 陣。日向たちとの再会は実に一年ぶりであった。
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「んはははは!!お前それ反対側に飛び乗っとるやんけ!!」
「笑わないでくださいよー」
途方に暮れていた経緯を聞いた難波が大笑いすると、日向は少し恥ずかしそうにそうぼやく。陣も知り合いとの用事が終わり、最寄り駅が芦原橋だったのがまさに奇跡であった。
「んで、待ち合わせ場所はどこなんや?」
「えっと、梅田駅です!」
「梅田駅…やと…」
影山の答えに、思わず神妙な顔つきとなった。首を傾げる日向たちに、陣は大阪府民でも恐る梅田の恐ろしさを語る。
「梅田駅はその昔、迷宮と呼ばれていたダンジョンなんや…」
JR大阪駅の入り組んだ構造、阪急百貨店やヨドバシカメラ梅田店など、地上の不便さも去ることながら、問題は地下道である。
「地下の入り組んだ通路に入ればもうどこが現在地なのか把握できへん。おまけに目標やったセーブポイントは区画整理で撤去されてる上に、気がついたら新しい地下道も開拓されているというまるで生きた迷宮なんや…」
え?こんな道あったっけ?と思うような道に入ったら最後。西を目指していたのに東に行っていたり、梅田駅を目指していたら北梅田に着いていたり、逆の道を戻ったら北浜に着いていたり…。
梅田の地下街は本当に複雑に入り組んでいる。さっき通ったような道がずっと続いていて、土地勘がない人間が単独で入ろうものなら間違いなく数時間は彷徨うことになるだろう。
分からなかったら近くの人に聞くのが一番早い攻略法。ただし、聞いた人間が土地勘がない人間だった場合はさらに迷う可能性あり。
話を聞いた日向と影山が真っ青が顔をして「都会怖え…地下街怖え…」とぶつぶつと呟いていた。
「まぁ、最近はかなり開拓されたし、魔王城に掛かる橋もできたから、大概なことがない限り迷いはせんから安心し!」
ちなみに魔王城に掛かる橋とはJR大阪駅からヨドバシカメラに新設された橋だったりする。駅を出て目の前に大きな店舗があるのにその行き方がとても複雑だったりしたので府民の一部からそう呼ばれているのだ。
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「いやぁー、これは全くもって本当に清々しいほどの間抜けさだねぇ」
拝啓、大阪に行くと言う機会を恵んでくれた皆様。
まさか難波さんと合流しているとは思ってなかった谷地仁花です。
そして隣で逸れて行方不明になっていた日向たちをディスっている月島くんはとてもいい笑顔をしています。
「新大阪から意気揚々と都会に出てきたのはいいけど、どっちに向かうかも分からずに電車に飛び乗った挙句、何駅も駅を彷徨うとは大変な思いをしたんだねぇ」
「一体全体何駅分往復したのかな〜?」と煽り口調で言う月島くんの言葉に耐えきれなくなった日向が飛びかかろうとするのを、後ろにいた難波さんがすかさず止めてくれました。
「月島このやろぉぉおお!!」
「日向落ち着け!!」
「影山君も!ステイ!ステイ!?」
青筋を浮かべて詰め寄ろうとしている影山くんは山口くんが止めてくれていました。ようやく合流できたと言うのに相変わらず…と言った感じです。
「なんや、ハルも居たんか?」
「谷地さんからメールがきてな」
難波さんが日向たちと居るとは思ってなかったのですが、こっちはこっちで仙石さんが駆けつけてくれていました。行方がわからない日向たち。パニックになった私はダメ元で一年前に教えてもらったメールアドレスに連絡をしたのですが…。
『日向が!日向が大阪の迷宮に…!』
「居るとこも梅田って言うし、ただ事やないと思って飛んできたんや」
「割と洒落になってないあたり笑えん話やな…」
青い顔をして駆けつけてくれた仙石さんには足を向けて寝ることはできなさそうです。本当に申し訳ないです。
「日向たちは何で大阪に?」
「バレー!」
難波さんと仙石さんの問いかけに、日向と影山くんが切って返すような返事をした。二人が「あー」と言って大きなビルに備え付けられている看板を見上げる。そこには大々的に宣伝されたバレーボールの試合広告が載っていました。
「おー、そっか。今大阪でプロリーグやってるんか」
全国の企業チームが一同に会するプロリーグ。今年の試合場所が大阪だったのです。私たちが宮城から大阪へとやってきたのは、この試合を見るために。
「大会も落ち着きましたし、二年の思い出作りに行ってこいって先輩から」
シルバーウィーク前の部活動のこと。
『このありがたい田中先輩と、ありがたい西谷先輩から後輩たちにチケットのプレゼントだぜ!!』
『お前らは補習で行けないだけだろ』
ビシッとポーズを取って言う田中先輩と西谷先輩の後ろで、縁下先輩が呆れたようにそう言っていた光景を思い出します。きっと今頃、田中先輩たちは血涙を流しながら補習を受けてるんだろうな…。
ちなみにチケットは組織委員会を務めている知り合いから武田先生経由で譲ってもらいました。
「プロリーグ…!どんな選手がいるんだろうな!強いんだろうな!みんなすげぇーんだろうな!」
最初は先輩たちに申し訳ないと思っていた日向も、今じゃプロリーグの選手たちや試合を見ることで頭がいっぱいの様子だった。私自身も、プロバレーの試合を見るのは初めてで、内心かなりわくわくしていたりする。
「ほんま、清々しいまでにバレー馬鹿やなぁ」
仙石さんの言葉に、月島くんと山口くんがウンウンと頷いている。
「よっしゃ、プロリーグのチケットは明日みたいやし、今晩の飯は俺らが奢ったろう!」
「まじすか!?」
「仙台で助けてもらった礼もあるしな」
大阪の人間は!!尽くしてもらった礼は忘れず!!
「 「借りはきっちり返すんや!!」 」
ババーン、とキメ顔でいう二人に日向と影山くんがおおーと声を上げた。なんだかノリが田中先輩や西谷先輩たちと通ずるものがあるような…ないような…。
「いや大袈裟すぎでしょ」
「あははは」
呆れる月島くんをよそに、難波さんたちはとりあえず着いておいでと道案内をしてくれました。
「おすすめの店に連れてってたるから、腹すかしてついてこーい!」
「おぉー!!」
大阪大阪食い倒れー!!たこ焼き!串カツ!お好み焼きぃー!!フッフッー!!
すっかり二人のテンションについていく日向は相変わらずコミュ力お化けだし、影山くんもどこかテンションが上がってるのかソワソワしている様子だった。
「元気いっぱいだねぇ、最後まで迷子だったのにさ」
「その割にツッキーも心配してたよね?」
「山口、うるさい」
「ごめん、ツッキー」
拝啓、先輩方。
紆余曲折ありましたが、私たちは無事に大阪観光とバレー観戦ができそうです。
はしゃぐ日向たちの後について行きながら、まだ私はこれから起こる波乱に気付いていませんでした。