ハイキュー‼︎浪速 夏の陣   作:紅乃 晴@小説アカ

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第5話 とある高校最強セッターとの因縁

 

 

 

アイツと出会ったんは、中学一年の頃やったわ。

 

 

「西陵?知らんなぁ」

 

 

中学の一年生大会。

 

サムの伝えてきた中学は、大阪の西陵中学バレーチームだとか。

 

なんでも上手いウイングスパイカーがいるんやってさ、とチームメイトも噂をしてたんやけど、俺からしたら聞いたこともない無名。

 

いくら優秀なスパイカーがいても、そのスパイカーにドンピシャなトスを上げれるセッターがいるか?少なくとも、そんな名の知れたセッターはおれへん。

 

ま、どーでもええわ。

 

俺のセットアップとそれを打てるスパイカーがおればなんとでもなるわ。

 

俺のセットアップで撃たれへんスパイカーは、ただのボンクラやからな。

 

 

「ほな、練習再開しよか」

 

 

一年生大会は三年や二年のレギュラー関係ない。一年生だけで出れる唯一の公式試合や。聞いたこともない一回戦の相手に躓くなんて勿体なさすぎるやろ。

 

油断はせえへん。ベストなセットアップで叩き潰して、俺らは二回戦に行く。

 

 

 

その時は俺も、サムも、チームの誰も。

 

そんな無名のチームなんて眼中になかったわ。

 

 

 

▼

 

 

 

「噂で、大阪の陣って結構有名らしいけど、案外、お利口さんなスパイク打つんやね」

 

 

大会当日。

 

試合前の最終調整の最中に、ネット越しに俺は相手のスパイカーに思わずそう言ってしもうた。

 

特にパッとしないセッターに上げられたトスを打つ姿を見て、最初に思ったのがそんな感想やった。

 

大会の会場でも噂になっていたスパイカーがどんなもんかと思って見とったけど、なんかセッターと同じでパッとせえへんというのが第一印象やった。

 

 

「ほー、京都の一押しセッター怖っ。近寄らんとこ」

 

 

隣にいるリベロのやつが、俺の言葉にそう反応するけど相手は特に反応示さんかった。なんや、割と煽ったけどあんま効果ないんか。おもんな。

 

サムに呼ばれて俺も挨拶のためにネットから離れた。

 

 

「……ハル」

 

 

俺は背中を向けてたから気づかんかった。

 

サムが青ざめた顔で相手コートを見ていたことを。

 

 

「よろしくどーぞ」

 

 

そのビリビリと伝わるプレッシャーを、俺はすぐに味わうことなった。パッとせえへんっていう印象は一瞬で吹き飛ぶ。

 

 

(ここはサイドに振ってブロックをすり抜け…)

 

 

いつもと変わらないセットアップ。ボールまでの距離は1個半。理想的なAパス目掛けてトンと地面から離れる。公式試合の効果もあってか、手に触れるボールの感触はいつもよりも研ぎ澄まされてる実感があった。

 

 

(いい感じのラインや)

 

 

放ったボールはイメージ通りや軌跡を描いてネットに向かってスパイク姿勢になってるスパイカーの手へと吸い込まれる。

 

そのスパイカーの打つ先は切り開いたノーブロックのコート…のはずだった。

 

ボールが触れる寸前。切り開いたと思ったはずのネット際に、その男はブロックの手を振り上げて飛んでた。

 

 

(なんや…その反応は)

 

 

点をもぎ取れるはずのセットアップは、ブロックに阻まれて仕切り直される。ワンタッチで威力が殺されたんや。跳ね上がったボールを相手セッターが再び上げて、こちらに帰ってくる。

 

大したことない。スパイカーはあいつやなかった。振られた一打をレシーブで捕まえてもう一度セットアップを采配する。

 

 

(ちぃ…またっ)

 

 

ブロッカーを振り切ったと思ったセットアップは、再び組み上げられたブロックに阻まれた。たった一枚のブロックやと言うのに、信じられへんくらいのプレッシャーを放っとる。

 

振り切ろうとしても、引き離そうとしても、アイツは折れん。

 

 

 

その時から難波 陣という男は、異質なスパイカーやった。

 

 

 

 

けど、その本質はただ単にスパイクが上手い奴じゃない。

 

堅実なリードブロック。そして、強靭なバネが生む対空時間。その最中に僅かなアイコンタクトでスパイカーの狙いと、さらに行けば俺のセットアップの狙いすら読み解く頭の回転の速さ。

 

 

「この…っ!」

 

「チィ…っ!!」

 

 

直感…というより、突き詰めたリード(見抜き)と、空中戦で相手が裏を掻こうとすれば即座にゲス(推測)に切り替える思い切りの良さ。

 

あの時では最高の出来やと確信してたセットアップがプチプチと、ことごとく潰されてゆく。

 

そして、何本目かのセットアップの時。

 

ワンタッチで威力を殺していた一打が完全に捉えられた。渾身のセットアップにドシャッとを食らったとき。

 

 

「宮兄弟って結構聞く名前やけど、なんていうか…あれやな」

 

 

ネット越しにアイツは俺を見ながら小さな声で言った。

 

 

お利口さんってやつやな、と。

 

 

散々煽り倒した相手にそう言われるとは、微塵も思ってへんかった。

 

スパイカーが上手くなったと感じるセットアップをするセッターっていう呼び声。それが遠かっていくような気がした。

 

 

「へっへ、セットアップへし折った上に、サーブでもバキバキに心折るって容赦ないなぁ、陣」

 

「ハル、俺を悪者みたいに言うな。あと、下手くそなのが悪い」

 

 

結果は惨敗。1セットも奪うこともできずに俺らの一年生公式試合は幕を下ろした。

 

ああそうや。

 

あの頃はまだ俺は〝下手くそ〟やった。死ぬほど腹立つし、目を逸らせられへんくらい現実やった。

 

 

極め付けは、難波 陣の〝サーブ〟。

 

 

ジャンプサーブや、フローターなんていう常識にとらわれない独特なフォームと打ち方。そして威力。

 

気に入らんけど、何度か真似ようとはした。

 

けどやり始めてすぐに無理やと気づいた。

 

あの打ち方、そもそもの〝バレー〟としての土台が違う。アイツの家、親がバトミントンのプロ選手やと後から聞いた。

 

おそらく、あの打ち方をほんまに小さい頃からずぅーっと刷り込まれていたんやろうな。やから、あれがアイツにとって〝一番威力が乗る打ち方〟なんやろうな。

 

理屈や理論も吹き飛ばすほどの。

 

 

 

 

 

腹立つ。

 

ムカつく。

 

何もかもが屈辱で、何もかもが気に入らん。

 

目つきも、サーブの時の流れも、俺のセットアップを見切ってるあの顔も。

 

何もかもが癪に触る。

 

 

 

だから、俺はリベンジを誓った。

 

高校に上がる前にさらに研ぎ澄ますと。

 

サーブも、セットアップも、その全てを研ぎ澄ます。

 

二度と、「お利口さん」なんて言われへんほどに。

 

そして、俺が味わった屈辱を必ず全国の舞台で何十倍返しにしてやろう、と。

 

 

 

けど陣が通うとった高校は、一年から全国に名を出すことは無かった。聞いた話では学校自体が廃校になったとか。

 

北さんが、社会人チームで陣を見かけたとか言って頼み込んでアイツとバレーをやる時間は作ったけど、なんか違った。

 

単なる練習。

 

2対2に、試合のような熱さを感じることは無かった。

 

それ以来、俺はアイツには会ってへん。

 

 

 

 

 

次に会う時があるとしたら。

 

 

 

 

それは俺がアイツを完膚なきまでにボコボコにする試合の時だけや。

 

 

 

 

 

 

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