「八重樫雫よ。よろしくね。」
「・・・・・・・・中村恵理です、よろしくお願いします!」
「ふふっ、恵理ったら、ガッチガチじゃない。」
「し、仕方ないでしょ!こういうの初めてなんだから!」
「あらあら・・・・・・・・さて、今回は私たちのお話のようね。」
「あのにっくきごm・・・・・・いえ、檜山君を置き去りにした後のお話ですね。」
「じゃあ、さっそく行ってみましょうか、では・・・・・・・・」
「「「さてさてどうなる幕間の話!」」」
「お、お楽しみに!」
「楽しむものなのかしら・・・・・・・・」
幕間の小話。勇者side ”真由美が落ちた日” ”本当の恵理”
ハイリヒ王国の一角にある演習場には一人、自身の獲物をがむしゃらに振っているものがいた。雫である。他の生徒も訓練に明け暮れているが彼女もまた訓練をしていた。
こうなったのには理由がある。それは実戦初日で3名もの犠牲者を出したことが原因である。勇者一行の中で一番治癒に適性があった”治癒師”の天職を持つ白崎香織、魔弾の射手という前代未聞の天職を持ち
錬成士という天職を持ちながら戦闘能力がずば抜けて高い獅童真由美、そして、無能とさげすまれても諦めることなく、実戦で多大な功績を挙げた南雲ハジメ、勇者一行の戦力の最高峰の二人と勇敢なる少年を
仲間の手によって失った勇者一行は、そのことを忘れるように訓練へと明け暮れた。担任である愛子はその知らせを聞いて心神喪失状態になっている。そして真由美と親しい関係にあった恵理も、今は体調を崩している。
深雪は、まだあきらめていないようだ。まぁ、確率はとても低いが。しかし、その中でも、希望を捨てずひたむきに努力していたのが、真由美と香織の親友である雫だった。彼女の手には一本の日本刀が握られていた。
この日本刀は真由美が置き土産としてあらかじめ作っていたものだった。真由美は、いつ死ぬか分からないこの戦いで、せめて親友にはしっかりとしたもので戦ってほしいと、自身の武器を作る途中で作っていたのだ。
刀身には不純物がほとんど入っていない鉄と、刃先にはアザンチウムを薄く伸ばしたもの、そしてナノマテリア鉱石を混合したものが使われている。
早々折れることはない。しかも柄の部分には、雫の使う技に風の刃で追加攻撃を行えるように魔法カートリッジが内蔵されていた。
雫がこれを王都お抱えの錬成士たちに見せたところ、その場で気絶するほど興奮したという出来事があった。しかしそんな中彼女の振るう剣はどこか、鈍かった。彼女は剣をふるうたびに、嘔吐している。
「ハァ・・・・・・・・ハァ・・・・・・・・これじゃ、駄目なのよ・・・・・・・・これじゃ、駄目なのにっ!」
彼女はあまり集中できていなかった。彼女を蝕んでいるもの、それは自己嫌悪だった。最愛の親友二人を守ることができなかった。誰からも頼りにされず、無能とさげすまれたハジメは動けたのに、自身は足がすくんで動こうとすらしなかった。
その事実が彼女を追いこんでいた。ついにその剣先が確実に鈍る。無理を重ねたせいで手に力が入らない状態で振っていた剣は、その手を離れ、勢いがついた状態で飛んでいき、彼女の左腕を浅く、傷つけた。
その音を聞きつけてなのか、勇者専属のメイドとしてそばにいるメイドの一人が中に入ってきた。
「雫様っ!?だれか、早く治癒師を呼んできて!雫様がっ!?」
「・・・・・・・・いいんです、気にしないでください。」
「ですがそのけがでは「いいから黙って!」・・・・・・・・はい。」
「・・・・・・・・ごめんなさい。私、頭に血が上っていました。少し、頭を冷やしてきます。」
雫はその場を去った。彼女の左手からは未だに血の雫が零れ落ちていた。
「どうしてよ・・・・・・・・どうしてなのよ!なんで・・・・・・・・こうなったの?」
雫は今、三人の墓標として作られた石の十字架の前へ来ている。これはハイリヒ王国の近くにある草原の小高い丘の上に建てられている。
雫はその前で、泣き崩れていた。
「どうして・・・・・・・・真由美は死ななきゃいけなかったの?どうして・・・・・・・・香織まで死んでしまったの?・・・・・・・・何で私は、助けに行けなかったのよぉ!」
雫は自分の心の中にたまっていたものを吐き出した。そして何度も、自分の拳を地面にたたきつけた。血がにじむ程に。
それからどのくらいの時が過ぎていたのだろう?あたりはすっかり暗くなっていた。
「そう言えば・・・・・・・・私、今日は何も食べてないなぁ。でも不思議ね、まったくおなかが減らないの。・・・・・・・・おかしくなっちゃった、私の体。」
雫は墓標に背を向けて、体育座りをしていた。そんな彼女の目は、虚ろだった。そんなとき、足音が聞こえた。雫がそっちの方を向くと、そこにいたのは、深雪と恵理だった。
手には花束が握られている。
「あら?雫。こんなところにいたのね。みんな心配していたわよ?」
「・・・・・・・・深雪、それに恵理まで。」
「大丈夫?雫ちゃん。随分と顔色が優れないけど・・・・・・・・」
「・・・・・・・・それは多分、これのせいよ。」
雫は左腕の、先ほどの傷を見せた。血は止まっているが、とても見ていられないような傷だった。
「あら大変。待っててね、今治療するから。」
深雪は懐からアーティファクトを取り出した。しかしそれはアイシングブルームではなかった。アイシングブルームとは似て非なるスマホに似たアーティファクトだ。
深雪はスマホで言う画面を操作し始めた。画面には1から9までのテンキーと、左右をそれぞれ示しているテンキーが表示されていた。深雪はそれの1と書かれたテンキーをおす。
すると見る見るうちに雫の傷が治っていく。
「深雪、それは?」
「これ?・・・・・・・・姉さんからの置き土産。名前はクイーンズブルームって言って。ほとんどの魔法を行使できるわ。」
「なるほどね・・・・・・・・それは便利だわ。」
「それにしても雫。こんなところで何をやっていたの?」
「・・・・・・・・何をしていたんでしょうね?私自身自分が今何をやっているのか分からないのよ。」
雫は静かに天を仰ぐ。その顔はどこかやつれていた。
「姉さんたちは絶対に生きてる。姉さんがそう簡単に死ぬはずないし、友人を見捨てるはずないもの。」
「・・・・・・・・そうだね。真由美はそんな人だった。だって、見ず知らずで別なクラスだった私ともそう言う風に接してくれたもん。」
「・・・・・・・・そうね。信じましょう、あの子たちを。」
雫たちは宿舎のような場所へ戻った。
そこから雫たちは訓練に明け暮れた。深雪はクイーンズブルームを使いこなすために。雫は自身の刀、真月(雫命名)を使いこなすために。
恵理は、呪術による、怨霊を操り使役する魔法に早く慣れ実戦で使えるようにするために。なお恵理にも真由美特製のアーティファクトが譲渡されている。
名前はG・コントロールトランスミッター、略してGコン(決して某なんちゃらXのあれではない)である。これは、恵理の怨霊を操る能力の底上げと体にかかる負担の軽減
そして、怨霊の見た目をちょっとデフォルメして使用者に見せるという機能がついている。しかしその機能はいい意味で裏切られることになる。
ここはハイリヒ王国から少し離れた草原。雫、深雪、恵理の三人はここで訓練をしていた。実戦形式のである。
ふと深雪が、恵理に尋ねる。
「そう言えば恵理。前から聞きたかったのだけど。」
「うん?何かな?」
「あなた、高校生になる前ってそんな性格してなかったでしょ。どうして性格とか喋り方を変えたの?」
「・・・・・・・・あっ、それ聞く?」
突然恵理の喋り方が変わる。それはまるで元に戻したような清々しさがあった。
「いやね、光輝君いるじゃん。あの子の周りにいる人たちって、すごく当たりが強いって言うか、変にマウントを取ってくる連中ばっかりだったの。それでごたごたに巻き込まれたくなかったからわざとこうした。」
「なるほどね。でも、ここにきてまで無理にそのキャラを演じることはないんじゃない?」
「そうだね・・・・・・・・うん、やめるよ、このキャラは。」
「えっと・・・・・・・・恵理、さん?」
「うん?なんだい雫さん。」
「その性格というかなんというか、それが素のあなたなの?」
「そうだよ、僕の本当のキャラってこうなんだ。」
「どうしてそこまで自分の素を隠し通せるの?どこかでぼろを出すと思うんだけど・・・・・・・・」
「そうだねー・・・・・・・・僕は”嘘”をつくのが得意だからね。騙し騙されの世界に生きていると自然とこうなるんだよ。」
「恵理はね、幼い時から両親に虐待を受けていてね。そんな時に、姉さんが自分のコネを使って色々したのよ。」
「真由美って・・・・・・・・本当に何者なの?」
「南雲君のお父さんの話によると、彼女は元々糸井川重工っていう会社の研究者をしている両親と一緒に暮らしてたんだって。
それで、小5にしてAIを作ってしまうというその腕と頭脳を買われて、いろいろなコネを持ってるらしい。でしょ?深雪。」
「え、えぇ。そうなのよ。」
「へぇ。すごい人だったのね、真由美って。」
「だから真由美は絶対に生きてるはずだよ。あんなにひどい環境にいた僕を、簡単に助けるんだから。今もどこかで何かを作ってるんじゃない?」
「そうね。だからこそ私は、姉さんを探しに行きたい。だから今は、力を付けないと。」
深雪たちはまた訓練に明け暮れるのだった。
j今回は短いですがここまでです。というか、これはあくまでも今後の展開につなげるための文字通りの小話なので、あまり長くは書きません。という訳で恵理の本当の性格が知れた回でしたね。ですがこれで原作のように敵対するということが無くなりました。
というかこのままだと真由美の仲間入りをするまであります。というかそれしかないです。っと、ここまで読んでくださりありがとうございました。次回からはまた本編に戻ります。それではさよーならー