錬成士と魔弾の射手で世界最強(更新停止中)   作:狩村 花蓮

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「よう、ハジメだ。元気にしてるか?」
「こんにちは皆さん。白崎香織です。」
「今回は亜人族の里での話だな。」
「そうだね。でも、なんだか歓迎されてるようには見えなかったなぁ。」
「どうせ今回も面倒ごとだ。じゃあいつものいくぞ。」
「「さてさてどうなる第十五話!」」


第十五話 亜人の里 フェアベルゲン

 

「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

目の前にいた亜人はその手に持った槍を真由美たちに向けてくる。それはそうだろう、同じ亜人族が忌み嫌うべき人間族と一緒に居るのだから。

 

その亜人はその目を細めた。それを見たカムが前に出る。

 

「あ、あの私達は……」

 

その額からは滝のように汗が流れている。カムはとても焦っているのか、必死に言い訳を絞り出そうとする。しかし、目の前の亜人には聞く耳などなかった。

 

むしろカムを見て、警戒を強めた。

 

「白い髪の兎人族…だと? ……貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員かッ!?」

 

一発の銃声が鳴り響いた。ハジメの銃である。その視線の先では先ほどの亜人が額を抑えてうずくまっていた。

 

「うるせぇよ。相手の言い分聞かねぇでなんで一方的に殺そうとしてきたんだ?お前ら。ふざけてんのか?」

 

その声で、集まってきたほかの亜人族も動きを止め、立ちすくんでしまう。それを見て真由美は口を開く。

 

「私たちは敵ではありません。あなた達と敵対する気もありません。ですからどうか、矛を収めていただけませんか?」

「人間の言うことが信用できるか!また攫うんだろう?我々亜人を!あの時の兵士のように!」

 

しかし真由美の説得空しく亜人族の人々は再び槍を向ける。ハジメと香織は、すでに銃を構え臨戦態勢を整えている。

 

(どうすればいいの?私たちに交戦の意思はない。でも相手は戦おうとしている。もし誰かがやりを突き刺そうと動けば確実に蹂躙が始まる。それじゃあカムさん達を安全に送り届けられない!どうすればいいの?

考える、考えるのよ私。どうすればこの絶望的な状況をひっくり返せるかを!)

 

真由美はひたすらに最悪の事態を避けることを考えていた。その時ふと、大迷宮のことを思い出した。それはライセンから出発する前にオスカーから話された内容だった。

 

「ライセン大迷宮とハルツィナ樹海?」

「そうだ。この近くには二つの解放者たちの住処がある。しかし樹海の方は亜人族の助けがないといけないから、先にライセンを攻略することをお勧めするよ。」

 

(確かオスカーさん、ここにも迷宮があるって言ってたっけ?これならっ!)

 

真由美は声を張り上げる。

 

「私たちはこの樹海にあるという迷宮に用があります!解放者たちの残したものです!そこに案内していただければあなた達に手を上げることはしません!」

「信じられるか!嘘をついて、そこまで我らが欲しいか!」

「ちがっ、そう言う訳ではっ」

「言い訳無用!ここでその命散らせ!皆の者、かかれぇ!」

 

それでもなお、亜人族の戦士たちは聞く耳を持たなかった。リーダー格だと思われる亜人が襲い掛かるように指示を出す。

 

真由美は防げなかった。これかは始まるであろう虐殺を。真由美は仕方なくヘルグザッパーⅡを取り出す。

 

真由美が亜人との戦闘を開始するべく構えを取った時、驚くべきことが起こった。

 

「何事かね?」

 

その声はその柔らかさとは裏腹にとてもよく響いた。亜人たちが動きを止める。そして一斉に声のした方へと向く。真由美たちがその目線の先を見ると

 

霧の奥から、数人の新たな亜人達が現れた。彼等の中央にいる初老の男が特に目を引く。流れる美しい金髪に深い知性を備える碧眼、その身は細く、吹けば飛んで行きそうな軽さを感じさせる。

 

威厳に満ちた容貌は、幾分シワが刻まれているものの、逆にそれがアクセントとなって美しさを引き上げていた。何より特徴的なのが、その尖った長耳だ。彼は、”森人族”いわゆるエルフなのだろう。

 

「長老様!?なぜここまで来られたのですか!」

 

どうやらそのエルフはフェアベルゲンの長老なのだろう。そこにいた亜人たちは全員、そのエルフの男性に頭を下げている。

 

「報告を聞いて少し気になったのでな。してそなた、解放者という言葉、どこで耳にしたのだ?」

「本人からです。オルクス大迷宮の創設者、解放者の一人、オスカー・オルクスその人です。」

「ほう、しかしその者は当の昔に息絶えているが?」

「私には死者蘇生に近い能力があります。強大すぎる力がゆえにそこまで乱発できるものではないですが・・・・・・・・」

「・・・・・・・・どうやら嘘はついていないようじゃな。おぬしたち、ついてくるがいい。我らの里まで案内しよう。ハウリア族の者たちもだ。一緒に来るがいい。」

 

その言葉で周囲の亜人たちはいっせいに目を見張った。

 

「しかし長老様!ハウリアはまだしも、この者どもは人間です!我らが同胞をさらったあのにっくき兵士と同じ種族の者どもです!それなのに我らの神聖なる領地へと入れるなどっ!」

「その者たちは嘘をついておらん。これでもわしは長老なのだ、人を見る目はあると自負している。それに、そこのお嬢さんが我々を本気で捕らえる気があるなら、私たちはとっくに捕らえられてるわ。」

 

なんとも食えない爺さんだ。最初に真由美を見たときにはすでに、真由美の実力を見抜いていたのだ。真由美たちは長老と呼ばれた老人の後をついて行った。

 

 

「さぁついたぞ。ここが我らの聖地、フェアベルゲンだ」

「うわぁ・・・・・・・・きれい。」

「幻想的ってのはこういうのを言うんだろうな。これはいいものを見た。」

「うん。こういうところって憧れてたんだー。素敵。」

 

長老と呼ばれた男について行った真由美たちが見たのは、木々の中に様々な住居が点在するとても幻想的な雰囲気な場所だった。

 

そこには森人族以外にも様々な亜人が仲良く過ごしていた。確かに王国よりは小さいが、活気の良さで言えば断然こっちが上だろう。

 

世間話をする人や、仲良くはしゃぐ子供たちなど、まるで昔の日本を彷彿とさせるような生活感であった。そんな中、真由美たちの近くで

 

遊んでいた子供たちが、真由美の方に近づいてきた。

 

「おねーさんたちだぁれ?」

「うーん・・・・・ここに遊びに来た人だよ。ここはいいところだからね。来るのが楽しみだったんだ。」

「そうなんだぁ!おねーさんたち、たのしんでいってね!」

「うん、ありがとうね。君たちも気を付けて遊ぶんだよ?」

「うん!じゃーねー!」

「またねー。」

 

男の子が声をかけて来た。真由美はそれに手慣れたような感じで相槌をうっていた。

 

「真由美、お前こういうの慣れてるのか?」

「うん。昔はよく小さい子供たちと遊んでたからね。もっとも、ハジメはお義父さんのお手伝いで全然来てくれなかったけどね。」

「そんなことも、あったっけな・・・・・・・・」

「覚えてないの!?・・・・・・・・ハジメ、さすがにそれはひどいよ。」

 

真由美がハジメにジト目を向ける。ハジメは目をそらしている。そんな光景を香織たちは苦笑いをしながら見ていた。

 

そんなこんなでしばらく歩いていると、ひときは大きな建物が見えて来た。どうやらここが目的地のようだ。中に入ると椅子が並んでおり

 

その長老と呼ばれた男はその中でもひときは豪華な椅子に座った。

 

「さて、諸君。まずは迷宮の攻略の証を見せてはくれまいか?」

「それは構いませんが、どういうのを見せればよいのでしょう?」

「我らも伝承づてでしか知らないが・・・・・・・・証と呼ばれる丸いものを持ってはいないか?」

「・・・・・・・・あっ、もしかしてあれかな?」

 

 

真由美はポケットの中から丸い指輪のようなものを取り出した。その指輪はオスカーの隠れ家から出るときに持っていけと言われてオスカーからもらったものだ。

 

真由美はそれを長老に手渡した。

 

「・・・・・・・・確かに、伝承通りの物のようだな。そなたらはオスカーの隠れ家にたどり着いたようじゃ。ようこそフェアベルゲンへ、わしはここで長老の座を預かっているアルフレリック・ハイピスト。

申し訳ないがその迷宮は今はいけんのでな。しばらくここで休んでいくといい。」

「その申し出はありがたいのですが、私たちは本来、迷宮に行く予定ではなかったのです。」

「ふむ、ではどうしてここまで来たのかな?」

「ハウリア族に頼まれたからだよ。あんたたちに見捨てられたからさまよってたら、魔物と帝国兵に襲われてハウリア族はほぼ壊滅状態だったらしい。」

「そこにたまたま我々が通りかかり、助けることになったのです。」

「ふむ、そういうことだったのか。我らの同族”だったもの”を助けてくれたのには感謝する。」

「だったもの、とは?」

「意味も何もそのままの意味よ。彼らはこの里の禁忌を犯した、そしてこの里で禁忌を犯した者は一族ごと処刑されるという決まりでな。逃げた時点で我らはハウリア族を見捨てていたのだよ。」

「・・・・・・・・私にはあなた達の里の掟にどうこう言えないというのは重々承知しています。しかしそれを承知であえて言わせていただきます。アルフレリックさん、あなた達のそれは同族殺し、程度で言えばあなた達が

忌み嫌う帝国兵と同じです。」

「人間風情が何を言う!貴様たちに言われる筋合いはないわ!」

「ジン・・・・・・・・」

 

熊人族の男が話に割って入ってきた。その男、ジンと呼ばれたその男はは真由美たちの方をにらむとアルフレリックの方へと向き直り、口を開く。

 

「アルフレリック……貴様、どういうつもりだ。なぜ人間を招き入れた? こいつら兎人族もだ。忌み子にこの地を踏ませるなど……返答によっては、長老会議にて貴様に処分を下すことになるぞ」

 

必死に激情を抑えているのだろう。拳を握りわなわなと震えている。やはり、亜人族にとって人間族は不倶戴天の敵なのだ。しかも、忌み子と彼女を匿った罪があるハウリア族まで招き入れた。熊の男、ジンだけでなく

 

その後ろをついてきた、他の亜人達もアルフレリックを睨んでいる。しかし当のアルフレリックはどこ吹く風という様子だった。

 

「なに、口伝に従ったまでだ。お前達も各種族の長老の座にあるのだ。事情は理解できるはずだが?」

「何が口伝だ! そんなもの眉唾物ではないか! フェアベルゲン建国以来一度も実行されたことなどないではないか!」

「だから、今回が最初になるのだろう。それだけのことだ。お前達も長老なら口伝には従え。それが掟だ。我ら長老の座にあるものが掟を軽視してどうする」

「なら、こんな人間族の小僧どもが資格者だとでも言うのか! 敵対してはならない強者だと!」

「そうだ」

 

あくまで淡々と返すアルフレリック。熊の亜人は信じられないという表情でアルフレリックを、そして真由美たちを再び睨む。

 

フェアベルゲンには、種族的に能力の高い幾つかの各種族を代表する者が長老となり、長老会議という合議制の集会で国の方針などを決めるらしい。裁判的な判断も長老衆が行う。今、この場に集まっている亜人達が、どうやら当代の長老達らしい。だが、口伝に対する認識には差があるようだ。

 

アルフレリックは、口伝を含む掟を重要視するタイプのようだが、他の長老達は少し違うのだろう。アルフレリックは森人族であり、亜人族の中でも特に長命種だ。

 

二百年くらいが平均寿命だったとハジメは記憶している。だとすると、眼前の長老達とアルフレリックでは年齢が大分異なり、その分、価値観にも差があるのかもしれない。ちなみに、亜人族の平均寿命は百年くらいだ。

 

そんなわけで、アルフレリック以外の長老衆は、この場に人間族や罪人がいることに我慢ならないようだ。

 

「……ならば、今、この場で試してやろう!」

 

いきり立った熊の亜人が突如、真由美に向かって突進した。あまりに突然のことで周囲は反応できていない。アルフレリックも、まさかいきなり襲いかかるとは思っていなかったのか、驚愕に目を見開いている。

 

そして、一瞬で間合いを詰め、身長二メートル半はある脂肪と筋肉の塊の様な男の豪腕が、華奢な体つきの真由美に向かって振り下ろされた。

 

亜人の中でも、熊人族は特に耐久力と腕力に優れた種族だ。その豪腕は、一撃で野太い樹をへし折る程で、種族代表ともなれば他と一線を画す破壊力を持っている。

 

シア達ハウリア族と傍らの香織、ハジメ、ユエ以外の亜人達は、皆一様に、肉塊となった真由美を幻視した。

 

しかし、次の瞬間には、有り得ない光景に凍りついた。

 

ズドンッ!

 

衝撃音と共に振り下ろされた拳は、あっさりと真由美が掲げたて平手に止められていた。

 

「なにっ!?貴様、どうして私の拳を、っ!」

「今はお話し中です。少し黙って頂けませんか?」

「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

真由美はその拳を握り、どんどん力を強めていく。骨からはなってはいけない類の音が鳴り始め、ジンは悲鳴を上げた。その異様な光景を見ていたほかの亜人族は驚きを隠せずにいた。中には手で顔を抑えていたものもいた。

 

「そこまでだ!」

 

アルフレリックはそう声を張りあげ、その喧騒を止める。ジンも観念したのか、その拳に力を入れるのをやめた。

 

「私たちはハウリア族が守れればそれでいいのです。ですからフェアベルゲンをどうこうというのは正直考えていません。ですからあなた達がハウリア族に手を出さないというのなら我々も何もしません。」

「・・・・・・・・しかし、掟だとハウリア族は処刑せねばならん。」

「アルフレリックさん・・・・・・・・」

 

真由美は目を細める。その顔は「まだいうか!」という感じの顔だった。しかしアルフレリックさんは止まらなかった。その腰にかかっていた短剣を引き抜き、およそその年齢に見合わないスピードでその剣を付きの要領で

 

カムの方へ突き出す。突き刺さった音が聞こえ、真由美は顔を青ざめさせた。ここにはカムのほかにシアもいるのに目の前で親殺しをされてシアが耐えられるはずがないと思っていたからである。しかしその予想とは裏腹に

 

カムの苦しむ声もシアの悲鳴も聞こえなかった。真由美が後ろを向くとアルフレリックの短剣はカムの牛尾で、従者が運んできた肉に刺さっていた。しかしその音は何かを刺し殺すのには十分な音を出した。

 

「今ここでハウリア族族長カムは死んだ。ここにいた長老たちが証人じゃ。死んだ人間は処刑できん、他のハウリア族に関してはフェアベルゲンに滞在することは許さん。即刻出て行ってもらう。そして今後一切の里内への

介入、及び援助を行わないことを覚えておけ。以上だ。」

「・・・・・・・・本当に、食えない人だ。」

「ふふふ。これでもここの長老は長くやっていてな。いろいろと経験があるのじゃよ。・・・・・・・・ここからしばらくはなれたところに魔物の少ない場所がある。そこに住処を作るといい。」

「それはこっちで何とかしましょう。お世話になりました、アルフレリックさん。お互いに無益な争いをせずに交渉ができたこと、光栄に存じます。」

 

真由美は他のみんなを連れてフェアベルゲンを出るのだった。

 

 

 




ここまで読んでいただきありがとうございました。次回はハウリア族を鍛え始める回ですね。ただ、原作の方とちょっとというか、だいぶ変わるかもしれないのでよろしくお願いします。ではまた次回お会いしましょう!

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