「---ん。」
声が聞こえる
「--さん!」
また声だ。誰が呼んでるんだろ?
「姉さん!」
「はっ!?」
深雪の声で覚醒した真由美の目の前にあったのはいつもの教室ではなくいかにも高級そうな石材で出来た大きな広間だった。
まず目に飛び込んできたのは巨大な壁画だった。縦横十メートルはありそうなその壁画には、後光を背負い長い金髪を靡かせうっすらと微笑む中性的な顔立ちの人物が描かれていた。
背景には草原や湖、山々が描かれ、それらを包み込むかのように、その人物は両手を広げている。美しい壁画だ。素晴らしい壁画だ。だがしかし、ハジメはなぜか薄ら寒さを感じて無意識に目を逸らした。
ここは美しい光沢を放つ滑らかな白い石造りの建築物のようで、これまた美しい彫刻が彫られた巨大な柱に支えられ、天井はドーム状になっている。大聖堂という言葉が自然と湧き上がるような荘厳な雰囲気の広間である。
「どこよここ・・・・・・・・」
真由美が戸惑っていると一人の男が入ってきた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。
私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
そう言って、イシュタルと名乗った老人は、これまた壁画の絵にかいてあったあの女性の顔のような寒気を催すような微笑を見せた。
その後、真由美達は場所を移り、十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。
この部屋も例に漏れず煌びやかな作りだ。素人目にも調度品や飾られた絵、壁紙が職人芸の粋を集めたものなのだろうとわかる。
おそらく、晩餐会などをする場所なのではないだろうか。上座に近い方に畑山愛子先生と光輝達四人組が座り、後はその取り巻き順に適当に座っている。ハジメは最後方だ。
ここに案内されるまで、誰も大して騒がなかったのは未だ現実に認識が追いついていないからだろう。イシュタルが事情を説明すると告げたことや、カリスマレベルMAXの光輝が落ち着かせたことも理由だろうが。
教師より教師らしく生徒達を纏めていると愛子先生が涙目だった。
全員が着席すると、絶妙なタイミングでカートを押しながらメイドさん達が入ってきた。そう、生メイドである! 地球産の某聖地にいるようなエセメイドや外国にいるデップリしたおばさんメイドではない。正真正銘、男子の夢を具現化したような美女・美少女メイドである!
こんな状況でも思春期男子の飽くなき探究心と欲望は健在でクラス男子の大半がメイドさん達を凝視している。もっとも、それを見た女子達の視線は、氷河期もかくやという冷たさを宿していたのだが……
「それでは、皆様が置かれている状況とこの世界についてお話しますぞ。」
イシュタルが口を開く。そして真由美たちをもってしてもうんざりするような長話をされた。それを要約するとこんな感じだ
まず、この世界はトータスと呼ばれている。そして、トータスには大きく分けて三つの種族がある。人間族、魔人族、亜人族である。
人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きているらしい。
この内、人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。
魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗していたそうだ。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。
それが、魔人族による魔物の使役だ。
魔物とは、通常の野生動物が魔力を取り入れ変質した異形のことだ、と言われている。この世界の人々も正確な魔物の生体は分かっていないらしい。それぞれ強力な種族固有の魔法が使えるらしく強力で凶悪な害獣とのことだ。
今まで本能のままに活動する彼等を使役できる者はほとんど居なかった。使役できても、せいぜい一、二匹程度だという。その常識が覆されたのである。
これの意味するところは、人間族側の〝数〟というアドバンテージが崩れたということ。つまり、人間族は滅びの危機を迎えているのだ。
「そんな勝手なこと、許されるとでも思ってるんですか⁉それって要するにこの子たちに戦争しろ、ひいては人殺しをしろと言ってるんですよ⁉そんなこと、私が許容できるとでもお思いですか!」
そう言ったのは愛子だった。それを聞いて生徒たちは唖然とする。それはそうだ。だってやったこともないのに人殺しをしろというんだから。それに対してイシュタルは予想外の反応を示した。
「そんなの当り前でしょう。我々はそのためにお呼びしたのですからな。」
「ふざけないでください!この子たちはまだ子供で、人の命なんて奪ったことのない一般人ですよ!」
「それでも神があなた達をお呼びした。それは曲げられない事実なのですぞ。どうか受け入れてください。それにあなた達には、我々を救済するべくして与えられた力があるのです。
それを使わないとはどういう了見でしょうかな?」
イシュタルの放った言葉に愛子は今度こそ激高した。生徒はそんな愛子の姿を見て少し怖がっていた。当然だ。あまり怒ったことのない恩師が怒っているのだから。それをイシュタルは飄々と受け流す。これ以上の問答をしてもらちが明かない状態だった。
その時、光輝が口を開く。
「俺は・・・・・・・戦いたいと思う。苦しんでいる人を見捨てることなんてできない。だからみんな、やろう!この世界を救うんだ!」
「ちょっと光輝君⁉何を言って・・・・・・・・」
その言葉を愛子が言おうとした瞬間、生徒たちは例外を数人のぞいて全員腕を高らかに上げて「おぉ!」と叫んだのだった。こうして真由美たちはそのくそったれた戦争に加担していくのだった。
その後、いろいろと説明された真由美たちは各々の部屋を案内され、真由美と深雪は現在部屋にいる。同じ部屋だったのだ。
「ねぇ姉さん、私たちってどうなってしまうのでしょう?」
「さぁね。でも一つ分かったことがあるわ。」
「それって?」
「みんなは分からないかもしれないけど、私たちはその神とやらに駒にされたのよ。」
「姉さん。どうしてそんなことがわかるの?」
「深雪、落ち着いて聞いてね。私ね、1度愛玩奴隷にされかけたことがあったの。」
「えぇ!?」
深雪は驚く。とんでもないカミングアウトだったからだ。
「驚くのも無理ないわね。だってそのすぐ後にお義父さんが助けてくれたから。でも私はその時の男どもの、あの目を見て確信したわ。こいつら私を駒としか見てないってね。」
「そう、だったんですね・・・・・・・・」
「ちょうどその時だったかしらね。私が格闘術を始めたのも。」
真由美は懐かしむように顔を見上げる。
「そしてさっき、イシュタルさんいたじゃない?あれはうまく隠してるけど駒としか見ていなかったあいつらと同じ目よ。」
それを聞いて深雪は唖然としていた。
「まぁこんなこと気にしてもしょうがないけどね。とにかく寝ましょ。お休み、深雪。」
「はい。お休みなさい、姉さん。」
2人は床につくのだった。
次のお話で真由美の能力がわかります。あと、本編ではカットしましたが、真由美たちはすでに地球に変える方法が今のところないということを知っています。
檜山はこのまま死んだほうがいい?それとも魔人族の一味になって襲い掛かってくる展開がいい?(奈落編終了まで)
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このまま死すべし慈悲はない
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復活させるよ?イイネ?