声劇台本仕様にしてあります。
素直になれない二人の物語。甘酸っぱく出来たかな?
声劇台本仕様にしてあります。
とある田舎町の、少し古びた家の前で、1人の少年が自転車に寄りかかりながら立っていた。時刻は午前5時30分。まだ人気のない路地で、先程から少年はソワソワとした様子で家の玄関を見ては周囲を見渡す事を繰り返している。
と、その家の玄関ドア越しに、いかにも元気そうな少女の声が響いた。
しぃちゃん「……うん、大丈夫!ちやんと確認したよ?
おばあちゃん、お世話になりました。ごめんね?私がワガママ言ったから…
うん、長い休みになったら帰って来る!
あ、ここでいいよ!脚痛いんだから…うん、またね。本当にありがとう…」
ガチャ、キィ……バタン
玄関ドアが開き、中から少年と歳の近い頃合の少女が出て来た。振り返って満面の笑みと共に手を振り、中に居るであろう家族に別れを告げると、ドアをしっかりと閉じて正面に向き直る。そこで初めて自転車に寄りかかりながらこちらを見ている少年に気付いた。かなり驚いた表情で少年に声を掛ける。
しぃちゃん「……え?きぃくん?」
きぃくん「よ!おはよ〜しぃちゃん」
しぃちゃん「何してんの?こんな朝早くに…」
きぃくん「ん?この前駅まで歩かなきゃっつってたろ?今から映像部のロケハンしに、駅前の公園まで行くんだよ。ついでに乗っけてやろうかって心優し〜い俺の」
しぃちゃん「うわぁありがとう!荷物おっき過ぎてちょっと後悔してたんだよね〜」
少年の言葉を遮るように、少女が軽い足取りで自転車と少年に近付き、ちゃっかりと自転車後部の荷台に座る。
慌てて自転車を抑えながら少年はサドルにまたがり、後ろに座る少女を軽く確認するように振り返った。
きぃくん「え…現金なヤツ…。しっかり捕まってろよ?行くぞ!」
キッ
キィ……キィ……キィ……
相当年季の入っているであろう錆び付いた自転車の車輪が、鈍く悲鳴を上げながらもゆっくりと回り出した。
スピードの乗り出した自転車の悲鳴に負けない声で、少女は少年に訊ねる。
しぃちゃん「覚えててくれたんだね。私が今日、向こうに行くって」
きぃくん「あぁ、覚えてた」
しぃちゃん「ロケハンって、何?」
きぃくん「は?お前映像部だろ?一応だけど」
しぃちゃん「すみませんね!呼ばれた時だけ映像部で!演技するの、面白かったんだけどなぁ〜」
きぃくん「……ロケハンってのは、実際に映像撮る前の、ん〜……下見?って事。実際にカメラ構えて撮ってみたりするから、人居ない方がいいの。だから早朝に行ったりする」
しぃちゃん「そっか。きぃくん撮影担当だもんね!こんな朝早くからやってたんだ。凄いね!」
きぃくん「いや、別に……」
キィ……キィ……キィ……
ふと、気まずい沈黙が降りる。車輪の上げる悲鳴だけが、夜明け前の静かな町に響く。その静けさの中に、少女の戸惑ったような言葉が響く。
しぃちゃん「……ねぇ、なんか、機嫌悪い?」
きぃくん「いや?別に?なんで?」
しぃちゃん「ん?ん〜……別に……?」
キィ……キィ……キィ……
しぃちゃん「静かだね……」
きぃくん「そうだな……」
きぃくん(……世界中に、二人だけみたいだな……)
しぃちゃん「ん?なんか言った?」
きぃくん「お前の荷物重いなって」
しぃちゃん「…荷物、って言ってくれる辺り、きぃくん優しいよね」
キィ……キィ……キィ……
とある道の角を曲がった途端、少年があからさまに顔をしかめた。ため息混じりに前方を見上げる。
きぃくん「あ、あ〜そっか〜」
しぃちゃん「何?どうかした?」
きぃくん「いや、こっから登り坂だった〜」
しぃちゃん「あ、そっか。私降りようか?」
きぃくん「え〜いいよ。行ける行ける」
しぃちゃん「えぇ?ちょっと、きぃくん!?」
きぃくん「行っくぞぉおおお!しっかり捕まっとけぇええ!」
気合いの入った声とともに少年がペダルの上に立ち上がり、力を込めてペダルを踏み込む。
キキィッ……キィ……キィ…………ギィ…………ギィ…………
錆び付いた自転車の車輪が、限界を訴える様に大きく悲鳴を上げるも、少し早まったはずのリズムは、段々と遅くなっていく。
きぃくん「うっ……うぉおお……ふんっ……」
しぃちゃん「きぃくん、もうちょっと!あと少し!頑張って!」
きぃくん「おら……ふんっ……おりゃああ!」
最後の一漕ぎを特に気合いを入れて坂を登り切ると、流石に疲れたのか、少年が地面に足を着いて自転車を止めた。
しぃちゃん「凄おい!きぃくん!登りきっちゃったよ!偉い偉いっ」
きぃくん「頭撫でんなっ!くすぐってぇ!」
しぃちゃん「あっ、きぃくん、前見て!前!すっごく綺麗な朝焼けになってる!」
きぃくん「ん?あ、あぁ…そうだな。夜明けだ…」
目の前には、確かに少女の言う美しい朝焼けの風景。そして、その風景の左側は、目的地の駅と、自分たちの横を通って後ろへと続く、長い線路が占めている。
しぃちゃん「きれーだねー!うふふっ」
きぃくん「そう…だな…」
きぃくん(駅…着いちゃったな…)
しぃちゃん「えーっと……お金、貰ったやつ……」
無人の駅の構内で、少女が大きなカバンの中を探る。やがて手にしたのは、少女の物にしては少々落ち着きすぎた大きな財布。その中から必要な金額を確かめて取り出す。
きぃくん「うわっ、そんなに券売機にお札入れてるやつ、初めて見た…」
しぃちゃん「だって見てよ!一番端っこに行き先書いてあるもん!ここから一番遠いとこまで行くんだよ?」
きぃくん「あー、やっぱそんだけ遠いんだな」
しぃちゃん「そうだね。すんごい都会なんだって。こことは大違い」
きぃくん「そっか…」
しぃちゃん「じゃ、送ってくれてありがとう!用事あるんでしょ?じぁあね!」
きぃくん「待てよ」
しぃちゃん「え?」
きぃくん「…どうせなら最後まで見送ってやる」
しぃちゃん「えっ…うん、ありがとう…
でも入場券買わないと、ホーム入れないし…」
きぃくん「入場券なんて安いじゃん!いいよ行くよ」
券売機の前に立つ少女を横に押しやり、少年はポケットから小銭入れを取り出すと、飲み物の自販機に入れる程度の小銭を入れ、先程少女が押したボタンとは反対側にある小さなボタンを押した。
出て来た小さな紙片を、特に深く考えもせずに小銭入れに入れる。
しぃちゃん「…きぃくん、お財布の中にしまわなくっても、入場券はすぐ使うんだよ…?」
少女の言葉を聞いて、少年の顔が赤く染まった。荒々しく小銭入れのチャックを開き、入れたばかりの入場券を握って改札へ踏み出していく。
しぃちゃん「あっ、もぉ〜本当に無駄に大きいな〜このカバン」
田舎の小さな駅には自動改札など無く、ホームと待合の間が妙に狭くなっている。駅員の居る時間であれば横の狭いスペースに駅員が立って切符を回収するのだが、今は「切符入れ」と書かれた小さな箱が置いてある。
きぃくん「何やってんだよ。改札にカバン引っ掛けるとか、ここに来てドジっ子発動かぁ?」
しぃちゃん「もぉ〜冗談言ってないでそっちから外してよぉ!」
きぃくん「はいはい。…ほらよっ」
しぃちゃん「あ…ありがと…」
ホームに入ると、やはり人影はなく、2人で隅のベンチに腰掛ける。
しぃちゃん「ねぇ」
きぃくん「なに」
しぃちゃん「やっぱり、今日のきぃくん機嫌悪い?なんか怒ってる?」
きぃくん「さぁ?さっきの坂道がキツかったけどなぁ?」
しぃちゃん「…なんでさっきから目を合わせないの?」
きぃくん「……」
しぃちゃん「……」
きぃくん「……なぁ、しぃちゃん」
しぃちゃん「何?」
きぃくん「長い休みにはこっち来るんだよな?」
しぃちゃん「え?!やだ、おばあちゃんと話してたの聞いてたの?!」
きぃくん「お前がバカでかい声で喋ってたから聞こえたんだよ」
しぃちゃん「バカって言ったなぁああ?!」
きぃくん「……帰って来いよ。また遊ぼうぜ」
しぃちゃん「え?…う、うん…」
しぃちゃん「あ、電車来た」
アナウンス「電車が参ります。危ないですから、白線の内側までお下がりください……」
キキーーー!
プシューッ
機械音声が流れて数秒後には騒々しく始発電車がやって来た。電車の中には乗客の姿がチラホラと確認できた。
目の前で電車のドアが開き、少女はやや固い表情で電車内へ乗り込む。ドアの外側で視線を下げたまま動かない少年に振り返り、向き合う。
しぃちゃん「……じゃ、行ってくる。」
きぃくん「おう、またな」
しぃちゃん「…ねぇ、きぃくん」
きぃくん「…なに」
しぃちゃん「約束だよ?必ず、また会おうね」
きぃくん「…………」
しぃちゃん「……ひっく」
きぃくん「え?」
アナウンス「ドアが閉まります。ご注意下さい」
プシューッ
機械音声の無機質な声が流れる一瞬前に聞こえた小さな嗚咽に、少年は顔を跳ね上げた。扉が遮る直前に見えた少女の苦しげな表情に愕然とするも、扉の向こう側に居る少女は既にうつむき、再び表情を確認する事は出来なかった。
ゆっくりと、電車の車輪が回りだし、少年と少女の間を引き離すように速度を上げていく。
……ガッタン……ガッタン……ガタン…ゴトン…
きぃくん「待て!」
咄嗟に少年は追いかけようとするも、身を翻すと駅の外に停めてある自分の自転車に駆け寄る。
ダダダダッ
ガチャンッ
キッキィッキィッキィッ
錆び付いた車輪
悲鳴を上げ
精一杯電車と並ぶけれど
ゆっくり離されていく
きぃくん「待てよ!っおらぁあああっ」
きぃくん「しぃちゃんっ!クッソ…」
きぃくん「ぜぇっ…くっ…
約束だよ!必ず、いつかまた会おう!!っはぁ……」
きぃくん「はぁ……はぁ……またなぁあああああああ!!」
きぃくん「……はぁっ……はぁ……
はぁ〜、行っちゃったか……」
精一杯叫んだ自分の想いは、彼女に届いただろうか
きぃくん(帰ろ……カメラ忘れて来たし……)
キィ……キィ……キィ……
疲れ切った顔の少年を乗せ、悲鳴を上げ続ける古びた自転車が、商店街の中へ進んでいく。
きぃくん(あ、パン屋開いてる……結構商店街賑わってんな……)
きぃくん(なんか……世界中に、一人だけみたいだなぁ……)
きぃくん(また、会おう、か……)
原曲 BUMP OF CHICKEN 車輪の唄
作詞作曲 藤原基央
編作 シリウス