筆を走らせ三千里─物書き妖怪放浪旅   作:わはかす茶

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過剰な悪戯には過剰な暴力を

結局霖之助さん達と話込みすぎてしまったらしく、香林堂を後にしたときには既に空からは日が落ち始めていた。

 

旧友との話はやはり尽きないものだ。そればかりか何を話そうか考えているうちに、あっという間に時間が過ぎる。

 

 

妖怪である私達には一瞬の暇潰しでしかなくとも、人間にとってはこの一分一秒、限りある命を燃やし輝きを放っているのだ。私たちが話を終えるまでのこの間に、一体いくつの命が生まれ、尽きていくのだろうか。

 

 

「さて、と。」

 

 

トントン、と靴で軽く地面を蹴って息をつき、再び魔法の森へと歩を進めていく。

 

 

 

 

──魔法の森は幻想郷の中でもまるで別世界と言わんばかりに、鬱蒼と生い茂る木々によって太陽の光が殆ど入ってこない地帯である。

 

 

 

人里近郊ではまず見られない植物や菌類を目にできるというのもあるが、何よりの特徴は常に空気中に妖気が溢れ出しているということ。一般の人間が無策で迷い混もうものなら、癪気に当てられ気が狂ってしまうのだろう。

 

 

いくら崇高な詩人であっても、人間である以上この森を散策する事は敵わない。そんな危険でありながらも妖しい気配に魅せられる場所であった。

 

 

 

風の音もないこの場所も、物思いに耽るにはもってこいだというのに。

 

 

 

チャッ!!

 

 

「ッ!」

 

 

僅かにだが、遠くで金属が擦れる音が聞こえた。誰かが軽く打ち鳴らすような音に肌がワサっと逆立つ。考え事をして静かにしてなかったら聞こえてなかった程小さな音だ。接近に気づけたのは牽制の意味で大きい。

 

 

「……。」

 

 

だが暫く周囲を見渡しても音の主は一向に近づくことはなく、寧ろ離れたのか聞こえなくなった。私の反応からして諦めたともとれるが、魔法使いが住まう異様な森だ。危険な妖怪がわんさかいるだろうし警戒は緩めてはいけないか。

 

 

「……。」

 

 

不気味なほど静かだ。嵐の前の静けさというやつだろうか。今思えば不自然なまでの静寂に一人ぽつんと取り残されたような、そんな寂しさが全身を覆っていた。

 

 

 

 

嫌な予感がする。念のために予防線を張っておいた方がいいか。私は下を向き、まるで蜘蛛の糸のように地面に影を巡らせる。先程、博麗の巫女とのやり取りでやっていた下準備と至って同じものだが。

 

 

 

 

 

 

──刹那、丁度気を取り直して前を向き直った私の顔を一本のナイフが音もなく掠めていった。標的を外したナイフは地面に突き立ったが、ぶつかり合うことで本来鳴るはずであろう音が鳴らなかったのだ。

 

 

 

……おかしい。絶対に何か裏がある。周囲を見渡すも件の犯人は見つかる筈はなく、試しに手を軽く叩いて確かめて見ても、やはり音は鳴らなかった。私としてはナイフが飛んできたことよりも、こっちの方が理解不能で怖いんだが。

 

 

 

 

 

……追撃が来ない辺り、一発限りの通り魔なのか、それとも単に遊ばれてるか。ナイフ一本で妖怪に喧嘩売るような輩は早々居やしないと考えるならば必然的に後者になるのだが、遊ばれてると思うと少しだけ腹が立つ。

 

 

大人の対応としてボロが出るまで遊びに付き合うのが吉か、それとも癇癪を起こした子供みたくスペルカードと弾幕をぶん回して仕留めるか。正直どちらが良いのだろうか。

 

 

と、考え事をしていた私に目掛けて二本目のナイフが真っ直ぐに飛んでくる。すんでのところで身体を地面に溶かし、なんとか回避できた。

 

 

 

 

けれど見間違いじゃなかったら……突然ナイフが空気中から現れて飛んできたように見えた。恐らくは姿を消せる妖怪の類いがおちょくっているのだろう。

 

 

姿も音もなくナイフをブンブン投げられる妖怪なんてこの上なく珍しい。是非一度お目にかかって私の一節に取り入れたいくらいだ。

 

 

 

────

 

 

 

相変わらずナイフがヒュンヒュンと風を切って飛んでくる。いつの間にか、私に対して容赦なく四方八方ところ構わず襲ってくるのだから、目で追うのも骨が折れる。しかも暫く相手していて分かったのは、多分一匹じゃないということ。

 

 

透明な妖怪が複数で寄って集って襲いかかってきているのだ。ああもうめんどくさいことこの上ない。

 

 

 

仕方ない、ここは保険を使っとくか。

 

 

 

(かかと)で地面を軽く蹴り、後ろへと影を走らせる。暫く延びた辺りでやがて桜の木の枝のように多岐に渡って広がったそれこそ、私の能力の本領である。

 

 

(すう……)

 

 

 

軽く深呼吸して、体勢を整える。見えない相手を前にして大人げないのもわかっているけれど、開幕早々にナイフを投げ続けられるこちらの身にもなってもらいたい。ここまでコケにされて黙っていられる程私だって温和じゃない。

 

 

 

 

「いい加減にしろよゴラァ!!!!」

 

 

久し振りにこんな大声出した、と言えるくらいにはかなりの声量だった。この口の悪さは普段はあまり出さなくなったけれど、昔はよくいろんな妖怪に突っ掛かってたものだ。

 

 

「──っ!?」

 

 

突如何もないところから、亜麻色の髪を持つ少女が驚いた顔をして姿を現した。恐らくは先程まで透明だったのだろう。私の声に驚いて能力を解除してしまったと思えばしっくりくる。

 

 

「う……ヤバ……!」

 

 

少女が持っていたナイフを落とす。地面に刺さると同時にドスっという鈍い音がしたため、無音で飛んでくるナイフの謎が解決した。間違いない、こいつも襲ってきた犯人の一人に他ならない。

 

 

上に反り返った三日月のような透き通った羽を持ち、一般的な妖怪にしては変わった服装かつ幼い顔立ちの少女。

 

 

 

……妖精か。

 

 

「ちょっとルナ!なに勝手に解除してるのよ!」

 

「サニー!あんたまで解除しちゃ不味いでしょ!」

 

 

ルナ、という最初に姿を現した妖精に釣られ、残り二匹の妖精も姿を現した。一人はサニーと呼ばれた橙色の髪を持つ少女で、もう一人は本名不詳の茶髪のこれまた妖精。スカート部分が青色なことが特徴で、赤のサニー、黄色のルナ、青の少女の三人組ということで間違い無さそうだ。

 

 

 

「とりあえず名乗るわよ!私は″輝ける日の光″、サニーミルク!」

 

「″静かなる月の光″、ルナチャイルド。」

 

「″降り注ぐ星の光″、スターサファイア!」

 

 

 

待って待って、なんか始まった。聞いてもないのに自己紹介が始まったんですけどどうすればいいんですか教えてください何方様。普通この状況で自己紹介とか始めます?え、なに私がおかしいだけ?

 

 

「私達、光の三妖精!!!」

 

 

ああ、ご丁寧にどうもどうも、けれど今ね。私そんな気分じゃないの。

 

 

 

 

「あ″?」

 

 

私はありったけの感情を込めてそう返した。三人ともやり過ぎたとばかりに顔を青ざめている。

 

妖精の恐怖心とかあまり良いご飯にならないけど、どうせ残機無制限だから、いいよね。ちょっと今無性にぶん殴って黙らせたいくらいなんだよ、いいよね。私被害者だもの。

 

 

 

 

「に、逃げるわよ二人とも!」

 

 

「クソくたばれや妖精共おおおおっ!!」

 

 

そそくさ逃げる三人を追いかけ、結果的に一人ずつ頭をかち割る勢いで思い切りぶん殴ってやった。ナイフに比べたら優しいもんよ。寧ろありったけの力を込めて一発だけだから。キャー私めっさやさしー。

 

 

 

因みに妖精は限界を超えると一回休みという特殊な状態になるため、実質不死なのである。脆いように見えて実は頑丈なのが妖精なのだ。

バトルシーンは一話に完結させた方が宜しいですか?それとも会話シーン終了後、戦闘描写を省略して次話に投稿し、見たい人だけ見るかたちにした方が宜しいですか?

  • 一話にまとめて書く
  • 今の形態(分離)でいい。
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