筆を走らせ三千里─物書き妖怪放浪旅   作:わはかす茶

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黒葉のスペルカード

───それからの記憶はなかった。目を開けたと同時に全身に鋭い痛みが走る。どうやら既に満身創痍といった感じか……

 

 

 

 

 

 

 

……ああ、負けたのか私は。

 

 

「目が覚めたみたいね、黒葉。」

 

「ああ、えっと、おはようございます。」

 

 

 

視界の端でアリスさんが看病してくれていた。どうやらあの後、完膚なきまで叩きのめされた私を運んでくれたらしく、加えて軽い手当てまでしてくれたようだった。

 

 

「理性的だと思ってたけど、貴女も大概ね。流石にやり過ぎよ。」

 

 

アリスさんは苦笑いを浮かべながら少し焦げ付いた衣服に手を掛けていた。どうやら少しばかりスペルカードによって被弾したらしく、所々にその跡のようなものが残っている。

 

 

「……やり過ぎました。ごめんなさい。」

 

「いいのよ、別に大したことじゃないし。」

 

 

気にするな、とばかりに微笑み椅子から立ち上がるアリスさん。無傷というわけでもないのによく人の事を、それも私のような底辺妖怪を気遣えるな。

 

 

 

「それよりも、貴女の能力に興味があるの。単純に面白いだけじゃない、掘れば掘るだけ出てきそうな可能性にね。」

 

「……私が被写体か。」

 

 

 

魔法使いを知りに来たつもりが、魔法使いに知られる羽目になるなんて。まさしくミイラ取りがなんとやら、というヤツか。文屋のカラスが取材されているのを想像すればなんとなく分かりやすい。

 

 

 

 

「ご迷惑をお掛けしたので、まあ、答えられる限りなら。」

 

 

 

 

 

 

──暫くアリスさんからの質問攻めに遭う。

 

 

 

 

 

[少女聴取中……]

 

 

 

 

「成る程ね。影を自在に操る能力で、まるで自分の指のように操っていると。」

 

 

「ええ、まあ。自分では【影で陰を描く程度の能力】と言ってますけど。」

 

 

「貴女も結構器用なんじゃない。例え貴女と同じ能力を持っていたとしても、あんなことできる気がしないわ。」

 

 

「……お褒めに預かり恐縮です。」

 

 

「そんな畏まらなくても……」

 

 

アリスさんは「もっと楽にしろ」と言うが、実際のところ私は畏まりすぎているのだろうか?

 

私自身人慣れはしていないし、魔理沙みたいな気を使わなくていい相手と違って少々堅くなっているとは感じるが。

 

 

「で、貴女の能力は影で字や絵を描いて、それを実体化させるというものね。あの振り子ギロチンもその能力をふんだんに使ったスペルカードと。」

 

 

「まさしく。概ね想像の通りの能力です。」

 

 

アリスさんはあの短い時間の戦闘で私の能力を分析し、スペルカードについての考察までしていた。かなりのキレ者だなこの人。

 

 

「で……肝心のアレなんだけど」

 

「アレですか。」

 

 

彼女の言いたいことは大体わかる。大人しくスペルカードの一つ、【虚像夢幻の海坊主】を手にとって見せた。

 

 

数あるスペルカードの中でも一際異色であり、使った後は大抵意識を失うデメリット付きのデススペルだ。

 

それ故どんな仕組みでこれが動いているのか、発動中に何が起こっているのかは正直なところ解っていない。確実に危険であることはわかっているが、私の感情が揺さぶられるとついつい使ってしまう悪い癖がある。

 

 

「耐久スペル、ラストスペルってやつね。前肢の生えた巨大なおたまじゃくしが突然現れた感じよ。ほんとびっくりしたんだから。」

 

 

アリスさんが率直な感想と共に状況を教えてくれたが、表情は苦くげんなりとしているようにも見えた。相当止めるのに苦労したのだろう。

 

 

「止めて貰って、すみません。ほんとによかった……

 

「……。」

 

 

とにもかくにも、アリスさんに酷い怪我を負わせることもなく済んだようで、ほっと胸を撫で下ろした。

 

 

「もし良ければ、貴女の他のスペルカードを見せてもらえるかしら?それとの違いが見たいのよ。」

 

「ええ、それなりに数はありますけど。」

 

 

 

私はアリスさんに言われるがまま、幾つかのスペルカードを見せた。

使い慣れた″影符″【黒鉄球の刑】と

″閉符″【鎖国のアビス】。

そして″空亡″【黎明は訪れず】をそれぞれ見せる。

 

 

「……私との勝負ではどれも使わなかったみたいだけど?」

 

 

「ああ、折角なので違うのを使ってみようかと思ってたもので。」

 

 

「一体幾つスペルカードを持ってるのよ貴女は……」

 

 

「幾つだと思います?」

 

 

スペルカードを見ながらやれやれと頭を抱えて唸るアリスさんは、私の問いには答えてくれなかった。

 

 

 

 

 

静寂が続く────

 

 

 

 

「……単純に″陰符″の力が強すぎて消耗が激しいのね。″影符″は文字通り周囲の影だけを使ったスペルカード。

そこから“閉符″、“陰符“と格が上がるにつれて貴女自身の能力と元々持っている妖力を消費してるみたい。“閉符“の方は応用が利かない分強力、というのはそれが関係してるようね。」

 

 

「流石、よく分析してらっしゃる。」

 

 

 

アリスさんは今まであやふやになっていた部分をはっきりとさせてくれた。というよりある程度自分でも解っていたところは多いが、人に指摘された際の説得力は自己完結するより遥かに高い。

 

 

 

「“影符“のスペルカードなら多分無限に作れると思うけど、試しに一緒に作ってみる?」

 

「それだと、どれがどれだかわからなくなりそうですね……」

 

 

アリスさんの提案は残念ながら断らせてもらった。当の本人が「そりゃそうよね」と納得している辺り完全に茶化してるだけだったが。

 

 

 

「でも、本当にそれが出来ちゃうくらい……貴女の能力はとんでもないわ。」

 

「そりゃどうも。でもそれじゃあ使い手が弱いってことになりませんか?」

 

「まあ生かすも殺すも貴女の器量次第ではあるわね。少なからず殺してはないと見た感じ思うけれど。」

 

 

 

少なからず殺してはない、か。自分の能力と改めて向き直ってみると、まだまだ活かせる部分はありそうだな。

 

 

「……ごめん黒葉、少し煩くなるわ。」

 

「えっ……ああ?」

 

 

アリスさんは玄関の扉を開き、二体の人形を入り口に配置した。人一人乗せられるくらい大きなクッションを二匹がかりで持ち上げて、何かに備えているようだ。

 

 

何をしているのだろうと気になっていると、キュイインと何かが高速で飛来する音が徐々に近づいてくるのを感知した。

 

 

 

 

 

ボフッ!!

 

 

 

 

 

柔らかい音がした方を見て、私は驚愕した。人形が構えたクッションに飛んで来たのはあの白黒魔法使い、魔理沙だったのだから。

 




評価10頂きましたありがとうございますぅ!!

バトルシーンは一話に完結させた方が宜しいですか?それとも会話シーン終了後、戦闘描写を省略して次話に投稿し、見たい人だけ見るかたちにした方が宜しいですか?

  • 一話にまとめて書く
  • 今の形態(分離)でいい。
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