筆を走らせ三千里─物書き妖怪放浪旅 作:わはかす茶
私はしがない物書き妖怪である。
───私はしがない物書きである。
手に持つ筆を走らせ、ただ一心に紙に文字を綴る。その間に余計な事は一切考えず、感情のままにあるがままを書き連ねる。
...いつからそうしてたかは分からないが、多分思い返せない程昔からそうしていたのだろう。今ではそれが当たり前のように、一本の筆が文字通り身体の一部となって、足や手と同じかそれ以上に紙や地面を駆け回っている。
特別楽しいという訳ではない。かといって私が物書きとして誰かに常に求められているなどと思い上がってもいない。
...いや、それでも誰かに求められているから私というものが存在できているのかもしれない。少しくすぐったくはあるが、そこは素直に認めてもいいのかもしれない。
早い話が、私は[妖怪]である。このように少女の器を持っていながら、似たような形をした人間に嫌われ恐れられているのだ。彼らに似せて作ったものが嫌われるとは、なんとも皮肉で滑稽な話よ。
昔からこの地、幻想郷ではその妖怪の天下が続いており、力を持った妖怪達がこぞって人間を喰らい恐れられることでその力や存在を維持し続けている。
私とて、かつては人間を直接喰らって力を蓄えたりしていたものだが、ある日を境に変化した幻想郷のルール上それも中々上手く出来なくなってしまったのだ。
そのせいか否か元からあって無かったような妖怪の威厳や実力などとうに抜け落ち、今では地に落ちた物書きとして宛もなく放浪をし続けている。思い返せば返す程、溜め息が漏れるものだ。
───隣でふよふよと漂っている黒い球体が、私から飛び出たものじゃないかと思えるくらいには。
「...妖怪か。夜だというのに目立っていては、逃げられてしまうよ。」
「なんだ、気付いていたの。」
意図的に作られたであろう闇の中から、突如金髪の幼女が飛び出してきた。そよ風にひらひらとたなびく赤いリボンを付け、幼さを感じさせる丸いながらも赤い瞳。その異様な姿は妖怪と踏んで間違いない。それがなんなのかという事までは私にはわからないが…。
「その闇で視界が鮮明とあれば、いささか便利なものだろうに。」
「ああこれ、周り見えないの。」
「見えてないんだ…。」
まだ妖怪として幼いのだろう、と彼女の能力に触れては見たが...多分改善はしないだろうな。周りが見えないでいったいどうやって人を喰らえようものか。
端から見ても彼女が異様であることは容易に理解が及ぶ。古参の妖怪と考えるには少々抜けている部分が多いように見える。
「ところで貴女、目の前がとって食べれる人類?」
「答えはノー、私は妖怪だ。人間に見えたのなら悪いが、残念な事に可食ではないのだよ。」
目の前の少女が私を食べてもいいかと聞いてきた。一応これでも妖怪ではあると同時に、私に可食部は全くもって存在しない。妖怪の共食いは禁止されてはいないが、その肉は基本的に不味い。
それを知らない彼女に対しての知識、という点であれば私であっても多少は貢献できるかもしれないが。
...にしても、いきなりぶっこんできたな。どうせ聞くより先に手や牙を向くものだと思っていたから正直驚いた。長らく他の人妖と接点を持たずにいたものだから、少々価値観というものがズレてきてしまっているかもしれない。今の妖怪は食べる前に食事宣言というものをするのか。なるほど、早急に記さなくては。
それを気付かせてくれたこのお嬢さんには感謝しなければ。
「そっかー、妖怪なら仕方ないわねー。」
食べられないとわかった途端少女の興味は私から逸れ、きょろきょろと周囲を見回して獲物を探しているようだった。どうやら妖怪の肉が不味いという認識は彼女にもあるらしい。
「ねーお姉さん、名前は?私はルーミア。」
「黒葉だ。
「ん、じゃあよろしく黒葉。」
「うん、こちらこそ宜しくルーミア。」
この妖怪、名前をルーミアというらしい。恐らく先程の闇を生業とした妖怪なのだろうが、それにしては色々抜けているように感じる。
「「……。」」
そして何より、会話の間が持たない。向こうが完全に私から興味を失っているということはわかっている。それに……あれ、なんで間を持たせようとしているのだろうか。
ルーミアは私から興味を失った。私も特に彼女と話すことはない。ともあれば無理に引き留めるのもやぶさかというものだろう。
「ところで黒葉は、なんの妖怪?」
突然ルーミアが振り向いてそう聞いてきた。百八十度脈絡をずらして話しかけてくるのもどうかと思うが、聞かれた事に答えないのも失礼に値する。それに彼女も何の″妖怪″となんか″用かい″を掛けるような洒落を言っているわけではないのだから。
「一言で済ますなら、″物書き妖怪″。この筆で沢山書いて、書いて、書き続ける。」
「随分堅い頭をしてるのね。考えただけでげんなりしちゃう。」
手に持つ筆をくるくると回して言っては見たものの、ルーミアはがっくりと肩を落として言葉通りげんなりとしていた。見るからに本能のままに暮らしている妖怪には、きっと物書きとして暮らすことの良さというものが分からないのだろう。
「ねえ黒葉、なんか私の事貶してない?」
「ああいや、ルーミアには物書きの良さがわからないんだろうなって。」
「…………。」
おっと、どうやら勘というものが鋭い類いの妖怪だったらしい。能力がアレだしそりゃそうか、視界が見えないハンデを背負っている分、今日まで生き延びてこられてるだけ勘と何か別のものが優れているという考えに至るのは自然だ。
だが私は至らなかった。少々ルーミアの事を見くびっていたかもしれない。
「そうじゃなくて、黒葉は何の力があるのって聞いたのだけど。」
「と、いうと?」
「私は見ての通り宵闇の妖怪。周りからは人喰い妖怪とも言われているけど、人を食べる事は黒葉が字を書くのと同じことだと思うの。それを踏まえたうえでもう一度聞くけれど、貴女は一体何の妖怪なの?」
「ああ、なるほどね。」
ルーミアはどうやら私が人間を食べないものだと思っているのか、字を書くだけの妖怪と勘違いされているようだ。
私だって人間は食べる。人並み……妖怪並み?にはね。
だけど彼女が訝しげにしていた理由がようやく理解できた。何をして生きてるかではなく、何の力があるのかということか。
「簡単に言うとするならば、″影絵の妖怪″かな。ああ、いや、そう怒らないで。えっと、単純にそこらに浮かぶ影を操って、形にする。あれ風に言うなれば、【影で陰を描く程度の能力】ってやつさ。」
「へえ、なんか……私と似てるのね。」
ぶすっと頬を膨らませるルーミアだが、聞き返してこないあたりどうやら納得のいく説明が出来たようで内心安堵している。
そして彼女の言い方からして、恐らく闇を操るか飲み込む程度の能力を持っている。私の能力と似ていると言っていた為、ルーミアの本質的な力はこっちの方だ。
影と闇は似て非なるものであるし、そもそもお互いの性質上共存は不可能だ。簡単に言えば私がルーミアに飲み込まれて為す術もなく殺される。その相性は最悪といえよう。
「そうかもね。」
「なにその取って付けたような言葉。」
とは言え一応同じような物ではあるし、私は適当に相槌を返してやり過ごすことにした。案の定再び疑いの目を掛けられる羽目にはなったけれど、戦いとなれば彼女に分がある。疑いで済めば楽な方だ。
「……ところでルーミア、人里はどっちだったか教えて貰えないか?」
「んー?あっち。」
とにかく話を逸らして退散しなければ。ルーミアに人里の方向を聞いたところ、ピッと今いる反対方向に指を指した。
「ありがとうルーミア、そろそろ夜が明けるから私は行くよ。」
「...わかった。それじゃあまた。」
私はルーミアに別れを告げ、彼女の指さした方へと歩き出した。長らく帰ってなかった人里がどう変わっているのか、久しぶりに確かめてみるのも良いだろう。
バトルシーンは一話に完結させた方が宜しいですか?それとも会話シーン終了後、戦闘描写を省略して次話に投稿し、見たい人だけ見るかたちにした方が宜しいですか?
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一話にまとめて書く
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今の形態(分離)でいい。