筆を走らせ三千里─物書き妖怪放浪旅   作:わはかす茶

21 / 37
【もうひとつの能力】

─いつの間にか現れていた咲夜さんに連れられて、館の広間まで案内された。勿論私が通ってきた場所ではない。かなり広々としており、戦いの場としては十分だ。

 

 

「……では、存分に戦ってください妹様。」

 

「うん、頑張るよ咲夜!」

 

 

咲夜さんからの激励を受けたフランが彼女に満面の笑顔を見せた。

 

 

 

「あの、私は……」

 

「精一杯妹様を楽しませてあげなさい。途中で逃げようものなら許さないから。」

 

「アッ…ハイ……」

 

 

フランの時と比べて、明らかに冷めていやがった。彼女的には私のことなどどうでもいいらしい。そりゃそうだ。パチュリーさんとの会話を終えた私など、客人ではなく侵入者、兼フランの遊び相手(なお命の保証はない)でしかない。

 

 

……彼女の相手など、いくら金を詰まれてもする気にはなれんな。

 

 

 

「始めようよ黒葉!早く早く!」

 

 

宙に浮いた状態で、私を急かすフラン。どうやらフランは待つのが苦手なようだ。彼女の気を損ねれば咲夜さんにも怒られるし、早いところ持ち場につこう。

 

 

「はーぁ、“影符“.【黒鉄球の刑】。」

 

 

私は重苦しい息を吐きながら武器である鎖付き鉄球を構え、二人に準備万端であることを伝える。

 

 

 

「わー!すごい、大きい武器ね!」

 

 

「それでは……ごゆっくり。」

 

 

フランのテンションが上がっている最中、咲夜さんがそう一言告げると、フッと霧のように姿を消した。戦う直前の相手を前に言う言葉としては不適切なことこの上ないが、それにツッコミを入れられる余裕はなさそうだ。

 

 

 

「いくよっ!!“禁忌“【レーヴァテイン】!!」

 

 

 

フランのスペルカード宣言と同時に、先端がハートの形をした武器が燃え上がる。彼女はそれを意図も容易く持ち上げ、私に向かって走ってきたのだ。

 

 

 

ガギィン!!

 

 

黒い鉄球と炎を纏った剣が激しくぶつかり、周囲に金属音が響き渡る。

 

 

「アハハハハ!もっともっと!」

 

 

「かっ────たいな!!」

 

 

フランが繰り出す炎を纏った斬撃を鉄球で弾き、それを手元に手繰り寄せて次の攻撃に備える。私は彼女の攻撃を防ぐので精一杯だ。反撃しようものなら間合いを詰められ直撃、重傷は免れない。

 

 

 

でも。

 

 

 

「────発射!!」

 

 

だからといって仕掛けなければ勝てないのも事実。鉄球に付いた棘を弾幕代わりに飛ばし、牽制だけでもしてみせる。彼女の馬鹿力の斬撃に晒され続けるのも勘弁だ。

 

 

 

ドンッ!!

 

 

「遅い!!」

 

 

彼女が被弾を嫌って私から距離を取ったところを狙い、鉄球本体をぶつけてみるも回避される。対応できない程ではないが、フランの動きは俊敏だ。魔理沙のスピードには劣るかもしれないけど、それでも速い。

 

それに加えて....

 

 

 

バゴオオオン!!

 

 

 

 

「────ッ!!!」

 

……この破壊力だもんなぁ。彼女が攻撃を外す度に館の床や壁にヒビか入り、柱は粉々に粉砕されていく。そんな破壊神ともとれる存在に気に入られるとは、私もつくづく悪運が強いようだ。

 

 

 

「それで当てる気かしら!?遅すぎる!!」

「仕方ないでしょ、機動力には自信ないんだから!」

 

 

そもそも私の能力自体が彼女や魔理沙のようなスピード特化との相性が最悪なのだから。

 

影を巡らせることから始まり、そこから対象を具現化させるための執筆を経て能力が成立するのだ。仕込みを打つ前に攻められれば成す術もない。

 

 

「……ッ!執筆する隙がない!」

「ほらほらほら!おいかけっこしましょうよ!」

 

 

それでも影を巡らせるだけなら移動しながらでどうにかなる。問題は執筆する時間を与えられないことのほうにある。

 

 

「このっ……離れろ!!」

「アハハハハハハ!!いい表情ね黒葉!貴女もそんな顔するなんて!いいわね、最高!」 

 

 

フランが不気味な笑みを浮かべたままぴったり着いてくる。人の恐怖に歪む顔を見て最高だなんてまったく、いい趣味してやがる。

 

 

 

「おらあっ!!!」

「無駄よ!!」

 

 

 

ガァン!!

 

 

再び鉄球と剣がぶつかり合い、激しい金属の音が館中に響き渡った。

私が手元に鉄球を引き寄せて体勢を整える間にも、フランは容赦なく近づいては手に持つ剣を力任せに振るってくる。

 

 

 

「……ッ!!」

 

 

 

……言うまでもなく至近距離の撃ち合いは向こうに分がある。基本スペック.即ち地力の面で覆しようのない差があるようのは認めざるを得ない。

 

 

 

「書かせはしないわ!!」

 

 

どうにかして距離をとりたいが、フランは相変わらずぴったりと張り付くように立ち回っている。発言から確実に私の能力の短所を理解し、しっかりと自分のペースに持ち込んでいる。

 

 

 

 

 

 

「妖術.渦蟲(かちゅう)!!」

 

 

比較的発生の早い妖術で牽制して、なんとかペースをこちらに寄せたいところだ。私の左手にもつ筆を振り、インクを弾く。

 

その墨は空中で膨らみ、羽虫の群れのように蠢く渦となってフランの身体を包み込もうと迫る。

 

 

 

「……そのインクも影なのね。私の能力で捉えきれない。」

「……ん?」

 

 

フランが驚いたような表情をして、空中をふよふよと漂う。

 

 

「さっきの子達もそうだった。確かに形はあるのに不定形で、“目“がなかったの。」

「……目?」

 

私はフランの言うことがいまいちよくわからなかった。きっと彼女の能力がどうこうと言う話だろうが、私は瞬きしなから首をかしげることしかできないでいた。

 

 

──刹那、フランドールが勢いよく剣を振るい、渦を斬り裂いたのだ。

 

 

 

 

 

「そう。とっても不思議……でも、だからこそ楽しいの!さっきの子達はレーヴァテインで消えちゃったけど、貴女は壊れないでね!」

 

 

フランは嬉々とレーヴァテインを空へ掲げ、可愛らしくも不気味な笑顔を私へ向けた。きっと『無然妖怪影絵巻』が破られたのは、光を放つあの剣で無力化されたからだろう───ということはすぐに理解できた。

 

 

もとよりちょっとした明かりに影響される能力だ。あんな眩い光に晒されたら呆気なく形を崩されるだろう。

 

 

「……妖怪をお人形なんて言うんじゃありません。」

「じゃあ黒葉、私と遊んで!!」

 

 

 

完璧に顔と名前を覚えられ、こんな悪魔的な少女に目をつけられた。

 

 

「そんなデタラメな能力、きゅっとしてドカーンしてあげる!“禁忌“.【フォーオブアカインド】」

 

 

フランのスペルカード詠唱と同時に、彼女の分身が三体現れた。その造形は細部に渡り完全にフランドール本人である。彼女達はさも当然に空を飛び、当たり前と言わんばかりに決して薄くない弾幕をそれぞれが展開していく。

 

 

 

 

「出鱈目はどっちだこの悪魔ぁ!!」

 

 

彼女のスペックをそのままコピーした分身が襲いかかってくる光景。これを悪夢と言わずなんと形容しようものか。

私も分身は扱えれども、ここまで高い練度で繰り出すことは出来ない。ましてやそれを一つのスペルカードに落とし込む……なんて発想はなかった。

 

今や空中をふわふわと漂っている彼女たち。どれが本物か見分けがつかない。

 

 

「アハハ、面白い!」

「ほらほら、逃げないとあたっちゃうよ!」

「すごいすごい!」

「つまらない!反撃してきてよ!」

 

 

 

「「「「アハハハハハ!!」」」」

 

 

 

分身を含めたフランドール四姉妹が狂喜の笑みを浮かべ笑い声を上げる。人格に多少の差異はあれど、声質から何までフランそのものだ。

私の最高練度の分身、将夜叉でもあそこまでそっくりには似せられない。

 

 

「無茶苦茶だ……。」

 

 

そんな彼女たちの弾幕を必死に避けながら、私は悪態をついていた。ほんの一瞬気を抜くだけで弾幕に蜂の巣にされる、瞬きひとつで致命傷になりかねない。

 

 

一体ずつと馬鹿正直に戦う意味は正直、ない。なら全員纏めてぶっ飛ばすだけだ。

 

 

私は手に持っていた鎖付き鉄球を天高く放り投げ、スペルカード宣言をする。

 

 

 

 

「“空亡“.【黎明は訪れず】。」

 

 

 

空中を舞った鉄球が脈打ちながら肥大化し、大量の棘が雨となって地面に打ち出す。広範囲を蹴散らすスペルカードの為これまで使うことはあまりなかったが、作っておいてよかったと思う。こうなることを予見していた訳ではない、決して。

 

 

 

「アハハハハ!凄い、凄い凄い凄い!!」

 

 

被弾したフランの分身は残像のように消えるが、当の本人は空中を自由に飛んで弾幕を回避する。魔理沙といいフランといい、やっぱり速い奴は苦手だ。

 

 

「あの時の隕石を思い出すわ……それっ!」

 

 

 

バゴォォォォン!!!

 

 

フランが手を握る動作をしたと同時に、黒鉄球によって模した太陽が粉々に砕け散る。一瞬目を疑ったが、彼女の振る舞いからしてやはり【破壊】する関係の能力なのだろう。

 

 

一定距離の物体を破壊するのか、私のスペルカードを掻き消したあたり現象まで無効化するのかまではわからないけれど、なんにせよ手厳しい相手だ。

 

 

……ひとつわかった事といえば、多分能力では勝てない。【影で陰を描く】程度の能力は散々彼女にあしらわれ、更に対処法まで編み出されている。

現に私は今一つ攻め込めず、寧ろフランのスペルカードを被弾覚悟で避けるので精一杯だ。勝てる筈がない。

 

 

 

「あーあ、力使ったせいでなんだかお腹空いちゃった。ねえ黒葉、貴女の血を分けてくれない?」

「……嫌だよっ!!」

 

 

フランに血をせがまれたので拒否する。そういえば彼女は吸血鬼だったな。吸血鬼……吸血……血を吸う……

 

 

 

 

 

 

 

あ。

 

 

「いいもんね!貴女を押し倒して食べてやるわ!」

 

「させ……ない!!妖術.【渦蟲】!!」

 

 

フランがまっすぐ私目掛けて突っ込んでくる。私は牽制の為、再び蟲の渦を彼女に向けて発射した。

 

 

 

ザンッ!!

 

 

「それはもう見切ってるわよ!!!」

 

「っ……!!!」

 

 

いつの間にか手に握っていたらしいレーヴァテインで渦を切り裂き、私の身体にタックルしたフラン。彼女は私に覆い被さると、首筋に歯を立て力の限り噛みついた。

 

 

 

「うっ……ぐ!!」

「……やっぱ妖怪の血ね。美味しくないわ。しかもなんか変な味するし。」

 

 

フランは私の血の味に不満なようで、表情もあまり良くはない。

 

 

 

「う……ッッッッッッッッッッッッ!!!!」

 

 

だがその表情は更に崩れることになる。フランが突如両目から黒い涙を流し、口や瞳、鼻からまるで滝のように勢いよく黒い液体が吹き出したのだ。

 

 

「……【濃度を自在に変化させる程度の能力】。こういう性分なものでね、吸血鬼には効くでしょう。」

 

 

 

 

【濃度を自在に変化させる程度の能力】。

 

 

私の【影で陰を描く程度の能力】を紐解けばわかる能力だが、そもそも字や絵をかくインクの濃さは必ずしも一定という訳ではない。擦りきれるような薄いものから、ベッタリとした濃いものまで。

私は【陰を描く】過程で自在にそのインクの濃度まで操る事が出来るのだ。

 

吸血鬼であるフランが私の血(筆のインク)を吸ったのを見計らい、彼女の体内における私の血の濃度を濃くしただけのこと。

 

 

結果、彼女の身体が私の血を異物扱いして吐き出したということである。




【濃度を自在に変化させる程度の能力】
黒葉の本筋の能力を補佐するおまけのような能力で、鉛筆や飲み物を想像するとイメージしやすい。まさしくそれらの濃さを自在に変え、濃くしたり薄くしたりすることができる。

黒葉のメインはあくまで【影で陰を描く程度の能力】だが、フランのような吸血鬼や妖怪喰らいにはこちらの方がメインウェポンになることも。

バトルシーンは一話に完結させた方が宜しいですか?それとも会話シーン終了後、戦闘描写を省略して次話に投稿し、見たい人だけ見るかたちにした方が宜しいですか?

  • 一話にまとめて書く
  • 今の形態(分離)でいい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。