筆を走らせ三千里─物書き妖怪放浪旅 作:わはかす茶
妖怪過剰防衛
ドスッッッ!!
「イッ……たあああっ!」
ドスッという強打する音と、全身を襲った衝撃に目を覚ますことになった。木の上で仮眠を取っていたが、そこから私は落下してしまったらしい。
真横から地面に叩きつけられ、脇腹と腰を強く打ち付けたせいで立ち上がるのも一苦労だ。骨折はしてないし、なんならピンピンしている。一応妖怪だからね。このくらいで死ぬほどヤワではないさ。
「……(泣)」
でも痛いものは痛い。ちょっと寝るだけだからとわざわざ木に登ったのが間違いだったか、引き摺るようにして歩く私の姿は自分で見ても滑稽だ。
弱みを晒している場合じゃないのに、まったく痛くて敵わない。こんな姿が妖怪に見つかりでもしたら一体どうしろというのか、早く身を隠さなければ。
「あ、あのぉ……」
「!!!!」
咄嗟に声を掛けられ、背筋がピンと張った。まさかこんなところで、しかも夜更けに声を掛けられるだなんて思わなかった。
「痛っ……!!」
激痛に悶える中、私は目を開け声の主を睨んだ。深い青色に肩につかない程度の長さの髪の少女。だが彼女の特筆すべき点は、耳が魚のヒレのように……というか魚のヒレそのものになっていることと、彼女の下半身は湖の水に浸かっていることだった。
彼女は不安げな表情で私の様子を眺めている。
「だ、大丈夫、ですか?」
「平気……平気だからどっかいっtたぁ!!」
あまりの痛みに前のめりに倒れる。どうやら右足も痛めてしまったらしく、上手く動かせない。
「動かさないで!止まっててください!」
「大丈夫だってば……離して!!」
必死に立とうとしたところを名も知らぬ少女に押さえ込まれ、力の入らない私は易々と捕まってしまった。
彼女の下半身は青い鱗のようなものがびっしりと張り付いた不思議な服……光沢がついたそれはもはや魚でしかなかった。
ここは霧の湖の水辺。弱った
こ……殺される!!
「っ……離せえええっ!!!!」
「ひっ!!?」
ただでさえ前のめりになっていた私の身体は、少女が手を離したことで支えを失い、勢いよく着水することとなった。
頭が重く、なにも考えられない。私という一つの存在がゆっくりと、だが確実に沈み行く事実だけが目まぐるしく回っている。不思議と苦しくはなく、むしろ水に身体が同化している気さえ湧いてくる。
私は流れに身を任せ、目を閉じた。
──「なにやってるんですか!!まったく危ないことして!抵抗しないでって言ってるのが聞こえなかったんですか!?」
……そして現在、私は人魚に説教されている。てっきり喰われてるもんだとばかり思っていて、なぜ怒られているのかわからない。
「ま、まあ無事で良かったですけど!霧の湖で死者なんて出されたらたまったものじゃないですよ!まったく!」
この少女は何を怒っているのだろう。まあ話を聞かず溺れかけたことを怒ってるのだろうが。目の前で溺れた獲物を前にしてそれを助けるという神経の方が私にはわからないんだけど。
「にしても、殺意が凄すぎて……怖かったです。一体どれだけのモノを抱えてきたんですか?」
「……。」
彼女から繰り出されるマシンガントークを前に、私は返答できずにいた。
「聞かれたことにはちゃんと答えてくださいよ……。私は怖い妖怪さんじゃありませんから……ね?」
「……。」
無理がある。その魚みたいな身体の特徴は疑う余地もなく妖怪のそれである。上半身はエラのような耳を除けば人間なのだが、下半身は服じゃない。魚だ。
「人間の女の子とどう接すればいいかなんて……わからないよぉ……」
「私は妖怪だけど。」
「はひっ!妖怪!?」
案の定、というべきか。彼女もまた私を人間と勘違いしていた。どういうわけか人間に間違われることが多いな、まったく。
「……妖怪だとしても、です。溺死しようだなんて何を考えてるんですか。」
「ちょっと怪我してたから、弱味を晒したくなかっただけ。わざわざ助けてもらってあれだけど反応によっては……殺るよ。」
『ゲシシシッ!!』
私は筆と妖怪本を手に取り、少女を睨み付ける。正直今やりあえるほどの体力は残ってないけれど、精一杯抵抗しなければ。あんな人畜無害な顔をした彼女だって妖怪だ、内側に何を秘めているかわかったものではない。
「私は手当てしたいだけです!物騒なこと言い出さないでください!!」
「……手当てまでして、一体なんの得が?」
私は少女の言動を訝しんだ。目の前で死体を見たくないというのはまだわかる。けれど私が湖以外で死ねばいいのだから、助けた後は知らん顔でいたって咎めはしないだろうに。
なぜ労力を割いて手当てまでしようとするのだろうか。
「損得じゃないんです。ボロボロの貴女を放っておきたくないだけです!」
「動けるからいい。触らないで。」
少女の手を振りほどき、ゆっくりと立ち上がる。そのまま踵を返そうとして、また痛みで声が漏れる。
再び脚を動かそうとしたところを、後ろから少女に掴まれた。
「……なに?」
「なに、じゃありません。手当てを受けてください。」
グググ、脚を掴む力がどんどん強くなっている。しかも強く打ち付けた右足で、力を入れられる度に激痛を訴える。
「痛いっ!痛い痛い痛いっ!!やめ……っっ!!」
彼女の力に根負けし、私はその場に倒れた。ゆっくりとだが確実に彼女の元に引き寄せられているのがわかる。
「やめろって言ってるのが……聞こえない?頭潰さないとわからないかな。」
ズンッ!
私は両手に鎖つき鉄球を持ち、少女の顔前へ振り下ろした。彼女の顔が青ざめるのも構わず睨み付ける。
「な……なんで……」
「私を離さないのが悪い。手当てと称して信用させる手だったんでしょ?」
「ち、ちがっ」
少女の弁明を聞くことなく、鉄球をブンブンと振り回す。妖怪同士で無益な争いをするのもどうかと思うが、手を出したのは向こうだ。
「わかさぎぃー!大丈夫かー!?」
「なっ、なにしてる!」
こちらに近づく二つの声が響く。どうやら鉄球を振り下ろした音で別の妖怪がきてしまったようだ。
まったくめんどくさいことこの上ない。
バトルシーンは一話に完結させた方が宜しいですか?それとも会話シーン終了後、戦闘描写を省略して次話に投稿し、見たい人だけ見るかたちにした方が宜しいですか?
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一話にまとめて書く
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今の形態(分離)でいい。