筆を走らせ三千里─物書き妖怪放浪旅   作:わはかす茶

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不老不死って羨ましい

「あたい……さいきょー……zzzz」

 

「グー……グゥゥ……」

 

 

結局、暫くすると影狼とチルノは眠ってしまっていた。あれだけ酒だ酒だ言っていた奴が真っ先につぶれて寝るなんてな。無理やり誘われたこっちの身にもなれっていうもんだ。

 

 

「……妖怪に騙られた人間だと思ってたけど、まさか妖怪だなんてねぇ。」

 

 

突如現れた彼女は博麗の巫女やチルノのように頭に大きなリボンを付けた、紅白二色で彩られた人形のような少女だ。その表情含め、外見に生気が一切感じられない。

かくいう私も白黒二色、それも白、灰、黒と最早石灰のようなものだが。

 

 

 

「それ、聞き飽きた。ほんと妖怪にはつくづく人間扱いされてさ。困ったものだよ。」

 

 

またまた勘違いをされ、自分でもわかるくらいバツが悪そうな声色を出した。これでも私は百年以上生きるれっきとした妖怪だ。人間と間違えようがない筈だし、間違われたくもない。

 

 

「はは、それは申し訳ない。まずは自己紹介といこうか。私は藤原妹紅(ふじわらのもこう)。普段は竹林で迷子になった人を助けている。」

 

「どうも、私は夜爛黒葉。宛もなくさまようしがない放浪妖怪。以上。」

 

「以上って……」

 

 

妹紅といったか、私は彼女が苦手だ。見てくれは普通の人間のようだが、どうも妙な違和感がする。こんな夜中に妖怪のはこびる地をほっつき歩ける度胸……それも命知らずや馬鹿とは違う何かを感じ取れるのだ。

 

 

妖怪を見た人間が抱く、幾つかの感情はある程度パターン化されている。

 

 

一つは恐れおののき、逃げるか腰を抜かす。大半の人間は妖怪の存在を認識すると不安がる。一妖怪の実力を知らずとも妖怪がいるという事実や噂だけで拒絶反応を見せるのだ。人間を襲う妖怪に恐れを抱くのは至極真っ当な判断であると思うし、最早それは一種の本能のようなものなのだ。

 

二つ目は自己顕示欲、復讐心から来る攻撃的な姿勢。ここ数十年にかけて妖怪からの脅威から守られている人間の中には妖怪の恐怖を忘れ、逆に力を持って妖怪を成敗しようとするものがいる。

 

 

その理由の多くが腕っぷしの強さのアピールなのであるが。

 

 

三つ目は気絶。一つ目の反応が行きすぎたあまり意識を失うモノだ。これはもう言うまでもないだろう。

 

 

そんな人間が見せるであろう反応のどれにも彼女は当てはまらなかった。それだけで異質な存在と決めつけるのも野暮かもしれないが、私は自分の勘が合っていると思っている。

 

 

 

「妖怪慣れしてるね。人間の癖に。」

 

「何千年と数えきれない程見てきたし、今更驚くことじゃない。それに今や妖怪と仲良くしてる人間がいるくらいだからね。」

 

 

確かに妖怪の実力を大きく上回る人間がいる現在ならそうであってもおかしくないか。それにしても何千年と……

 

 

 

 

 

……ん?

 

 

「え、人間ですよね?」

 

「人間さ。不老不死だけど。」

 

 

ああ、この人もやっぱり普通じゃなかった。なんだよ不老不死って。妖怪は確かに長命だし、中には老いのない奴だっている。でも結局、人間と同じように死ぬときは死ぬのだ。

 

 

生きとし生けるものたちが避けられない″死″を否定する存在がまさかいるだなんて、目の前でカミングアウトされてもにわかに信じがたいものではある……が

 

 

 

やはりそれは事実なのだろう。初対面ではあるが、彼女が嘘をついているようにも見えない。

 

 

「……疑ってるね。本当か一度試してみる?」

 

「いや、大丈夫。普通の人間が不老不死なんて言ってメリットはないだろうし、信じるよ。」

 

 

訝しんだのを察せられたか、彼女は首を傾けそう聞いてきたので断っておいた。私としてはどっちでもよかったけれど、まあ反射的に断ってしまっただけだ。

 

 

不老不死……か。

 

 

信じるといった手前アレな気はしたが、やはり頭の中で整理がつかない。能力的な部分、というより彼女の素性や来歴がどんなものなのかが気になって仕方がない。

 

 

不老不死。それは文字通り老いることも死ぬこともないということ。そんなものがこの幻想郷に存在していいものか。死の恐怖を感じない人間を前に妖怪の存在理念そのものが霧散してしまいかねない。

私はまだどうにでもなるが、執筆仲間の妖怪にとっては天敵のような存在か。

 

 

「ずっと読んで貰える相手がいる、と喜べばいいかな。私はこれでも作家でね、好き勝手に妖魔本を書いている。」

 

だが妖怪が存続する根底には、誰かに認知され、覚え続けてもらうというものがある。だから私にとっては本を読んでくれる相手というのはとても貴重な存在なのだ。

 

あの貸本屋の小娘が何時本を読み飽きるかわからない現状、私の存在理念に不老不死はうってつけだ。

 

 

「……生憎と、私はあまり本は読まないのよね。多分知り合いなら読んでくれると思うけど。」

 

「へえ、勿体ない。」

 

『カシャシャッ』

 

 

 

だが私の期待とは裏腹に、どうやら彼女は読書を好かないようだ。これには私だけでなく、一緒に行動している妖怪本のこの子も不満を露にしていた。

 

 

「そもそも私は本……というものが好きじゃない。一筆者の断片的な想像や物語に過ぎない物だし、それも大抵は歪められているから。」

 

「えー、私なら不老不死に頼ってでもこの世の本を全て読み尽くしたいですけどね。基本は執筆主体ですけど、読むのも好きですから。」

 

 

彼女の意見はあまりよくわからなかった。これが永遠を生きる者の考えってやつか。寧ろ断片的な思考から筆者が何を思っているのか、どんなことを伝えたいのかを紐解くのが個人的に楽しいとすら思っている。

 

 

 

だから、彼女の言い分はよくわからない。まるで昔のことから今までのことを全部知っていて、全てお見通しだから読まなくてもいいとすら聞こえてくる。

 

 

……私は彼女を見て、ちょっとだけ羨ましくなったと同時に腹が立った。

 

 

「それで、黒葉だっけ?あまりゆっくりしている暇はないんじゃないの?」

 

「え……?」

 

 

妹紅がそう言って指さした方には、真っ黒な羽毛に覆われた一匹の烏が居た。その脚は分厚い竹で巻かれた何かを掴んでいる。

 

 

三馬鹿烏(さんばかがらす)……」

 

 

ソイツは見間違うはずもなく、私の知る妖怪烏だった。馬鹿烏はその場に巻物を置いて何処かへ飛んでいく。

 

地面に落ちた巻物を見ると、その表面には『拝啓、夕暮れ殿』とあった。

 

 

夕暮れ、とは私のペンネームのようなモノであると同時に執筆仲間とのコミュニケーション時にのみ使っている。差出人の名はないが、わざわざ執筆に適さない分厚い竹を用いているだけあってすぐわかる。

 

 

 

私は巻物を広げ、手紙に目を通した。

 

 

 

 

『三日後、妖怪の山で待つ。必ず来い。さもなくば沈める。』

 

 

 

と、物騒な内容が淡々と書かれていた。差出人の素性をわかっているだけあって、背筋が凍りつく。こいつはきっと文字通り、私を沈めてくるだろう。約束を反吐には出来ないなと私は大きく溜め息をつくのだった。




不老不死は正直、個人的には望んでないです。
次回オリキャラが出ます。

バトルシーンは一話に完結させた方が宜しいですか?それとも会話シーン終了後、戦闘描写を省略して次話に投稿し、見たい人だけ見るかたちにした方が宜しいですか?

  • 一話にまとめて書く
  • 今の形態(分離)でいい。
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