筆を走らせ三千里─物書き妖怪放浪旅   作:わはかす茶

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人に間違われるのは難儀である。

人里へ向かう獣道。不安定でゴツゴツとした舗装されていない地面であるが、それで筆が止まる程私の物書きとしての暮らしは浅ましくはない。

 

闇を操る人喰い妖怪、ルーミアと別れてからずっと、変わらず筆が紙の上を走り続けている。あの出会いは、長年人妖と関わりを絶っていた私にとっては価値観を大きく変えるきっかけとなった。

 

 

 

公に人を喰らう事を禁じられた現代の妖怪が、幻想郷で今なお生き永らえている根底はなんなのか。妖怪の脅威から守られた人里がどうなっているのか。こうやって思い浮かべるだけでも、次から次へと議題が飛び出してやまないのだ。

 

加えて、宛もなく感情のままに書き連ねていた今までより、足が軽くなったように感じる。

明確に私の意思で歩くというのは、ここまで感覚が違うものなのか。

 

 

 

充実した気持ちが器から溢れそうになる。早く着かないものかともどかしくなる。

 

 

 

 

(……っ!!)

 

 

考えが逸れてしまったと、再び物書きに思い返そうとした刹那。何かが猛スピードで目前を通りすぎたのか、ヒュンと突風が吹いた。風に煽られて体勢が僅かに崩れる。

 

 

旋風(つむじかぜ)……ではないな。何かがすぐ目の前を通ったのは明らかだ。まだ夜明け前で、一般的な妖怪が活発化する時間。素振りからして恐らく鎌鼬あたりの下級妖怪であろうか?

 

 

 

「ちっ……煽るだけ煽って。」

 

 

痛くはないが、顔に傷をつけるのは喧嘩を売っているのと同義。鎌を振るいやすい相手だと思われたのは私が少しばかり至らなかったのかもしれないが、不意討ち御免とばかりに前を通られれば、温厚な私だって怒る。

 

 

妖怪同士の競り合いなど、この上なく無益なモノなのだと分かっていながら。

 

 

 

「だあっ……痛い!!」

 

 

 

私は思わず声を荒げてしまった。一辺倒の下級妖怪の煽動にまんまと掛かってしまったのだ。我ながらなんと浅はかなものよ。

 

オマケに相手は鎌鼬。痛みを伴わず人に傷をつける事ができる妖怪に「痛い」と反射的に返してしまったなんて、笑い者も良いところじゃないか。

 

 

 

 

ジュッ

 

 

 

 

物思いに馳せてたというのに興が削がれた。軽く捻ってやらねば収まりがつかない。手に持つ筆を影へと溶かし、すぐさま一枚の紙切れへと姿を変える。

 

 

私は鎌鼬の飛んで行った方角を見据え、小さくも大きな怨嗟を込めた声でスペルカードを宣言する。

 

 

 

 

「...″影符″、『黒鉄球の刑』。」

 

 

その瞬間.足元の影が立体的に浮かび上がり、キリキリと金属がぶつかり合う音を鳴らし始める。次第に形を整えた陰は鎖つきの鉄球へと変貌し、標的目掛けて放物線を描くように飛んでいく。

 

 

そして、鉄球に付いていた全ての棘が分離する。標的を捉えて串刺しにするかのごとく、更に距離を伸ばして飛んで行った。

 

 

 

──────

 

 

「不意討ちは勘弁だぜ……あーびっくりした。」

 

 

鉄球の飛んで行った方へと足を進めると、何故か箒に跨がった金髪の少女が木の幹に手をついた状態で浮いているのが見えた。

彼女の真下に棘の形をした弾幕が刺さっている辺り、先程の突風の原因が彼女にあることは容易に理解できる。

 

見た感じ、特殊な服装に身を包んだだけの人間だが。彼女が猛スピードで私の目の前を通り過ぎていったとはにわかに信じがたいものだが、それを真っ向から否定できないというのもまた幻想郷というものだ。

 

 

 

なんせ妖怪が怖れてやまない巫女という人間がこの世界にはいるのだから。

 

 

 

「...おい、人の事を襲っておいて謝罪のひとつも無しか?」

 

「人を襲うのが妖怪...というのは一先ず置いておいて、こちらも正当防衛のつもりだが。」

 

 

 

黒と白の二色であしらわれた不思議な格好の少女がさっと着地すると、こちらを睨み付けてそう言ってきた。どうやら彼女の中で私など眼中にないと言わんばかりに難癖をつけてくる。彼女の物言いからして多分眼中に無かったんだろう。

 

 

「そもそも、お前がぼーっと突っ立ってるのが悪いんだ。百歩譲って私の行動に非があったとしても、弾幕まで張って怒ることはないだろ。」

 

 

少女は相変わらずつっけんどんな態度のまま、箒を持ってずかずかと距離を詰めてくる。妖怪相手に物怖じしないとは、肝の据わったお嬢さんだ。ルーミアと比べれば高い身長も私と比べては低く、何処にそんな胆力を身に付けているのかと感慨深くなる。

 

 

「まあ、それは申し訳なかった。何せ下級妖怪に煽られた気がしたもので。」

 

「...やっぱりお前も妖怪なのか。」

 

 

とりあえず少女に謝りはしたが、先程のルーミア然り、なにかと人間と間違われることが多い気がする。

まったく、難儀なものだ。

 

 

「...しかし、この私を下級妖怪と間違うなんてとんだ無礼な妖怪だな。」

 

「まず空を飛ぶ人間がおかしいことはお気付きで?」

 

「いんや?強けりゃ人間だって飛ぶだろ。」

 

「Oh……。」

 

 

普通人間は飛べないものだと思うのだけれど、私が間違っているのだろうか?まさか自分の知らないうちに、世間はそこまで進歩してしまったとでもいうのか?

 

私の知ってる限りだと、巫女ですら飛んでいるところを見たこと無かったのだが。大抵空を見上げれば、飛んでいるのは天狗や夜雀くらいなものだった。

 

 

 

...ますます興味が出てきた。このお嬢さん曰く、人間だろうが妖怪だろうが、実力あるものは飛んでいて当たり前らしいのだ。

 

 

現に少女も飛んでいたのは事実。となれば強い。閉鎖的な振る舞いでないことから、この幻想郷における知識がありそうだ。

 

それに、彼女の服は明らかに私の持つ幻想郷のイメージから離れている。そもそも箒に乗って飛ぶという原理が私にはよくわからない。

はたまたそういう人間なのか?まてよ、そういう人間って一体どういう人間なんだ?

 

 

 

 

(うーん……)

 

 

 

「...まあバラせば解るか。その機構、余すことなく私のメモに書き加えてやる!」

 

「おっ、弾幕勝負か!受けてたつぜ!!」

 

 

 

考えても仕方ないことは考えない。幻想郷では基本、殺るか殺られるかの二択が常々だ。周囲の影を走らせ、手に筆を握り少女へ向かって駆けた──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───結論から言うと大敗だった。今世の人間というのはここまで強いのか。




戦闘描写は次回、3話目と同時に投稿します。

バトルシーンは一話に完結させた方が宜しいですか?それとも会話シーン終了後、戦闘描写を省略して次話に投稿し、見たい人だけ見るかたちにした方が宜しいですか?

  • 一話にまとめて書く
  • 今の形態(分離)でいい。
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