筆を走らせ三千里─物書き妖怪放浪旅   作:わはかす茶

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四画目
白昼と夕暮れ


それから何事も無く二日が過ぎた。今日が約束の日だ。自然豊かな妖怪の山は、大降りの雨である。影で縫い繕った傘をさし、私は坂になっている山道を登る。

 

 

「止まれ、人間風情が山に何の用だ。」

 

 

だが、その途中で何者かが立ち塞がった。ソイツは影狼と同じ獣耳を持つ白髪の少女で、手にはそれぞれ大振りの剣と盾を握っている。綺麗な顔立ちをしているがその表情は険しく、歓迎されていないことは明らかだ。

 

 

「……私の知り合いが妖怪の山に居るらしいんだけど、知らない?」

 

 

私はひょいっと竹包みの紙を放り投げ、乱暴に手渡した。獣耳の彼女はそれを片手で受け取り、数秒眺めた後首を振った。

 

 

「知らないな。この筆跡は少なくとも山に住む妖怪のものではない。(ふもと)の方まではわからないが、これ一つで山を登らせる訳にはいけない。そもそも竹の紙など古典的な物を使う妖怪は山には居ないからな。」

 

 

「……ふうん、そっか。なら麓まで引き返してみるよ。こんな雨の中わざわざお疲れ様。」

 

「強行しないだけ理解があると誉めてはおく。だが顔は覚えたぞ人間。私の気を損ねないうちに引き返すんだな。」

 

「はいはい、わかったわかった。」

 

 

面倒ごとになっても嫌なので、妖怪であることは伏せることにした。人間と偽って無事に済むなら私はプライドをへし折ってでも生きる方を選ぶ。なるべく穏便に済ませたいところだし。

 

 

私は一度たりとも彼女に振り返ることをせず、山の麓へと降りていく。山の麓は雨によって荒れており、あちこち水が溜まって小さな池のようになっていた。

 

ザー、と雨粒が地面を叩きつける音が絶え間なく響き、一寸先の雑音も響かない。影の傘で雨を凌ぎながら、ゆっくりと歩を進める。傘に隠れ視界が遮られようと私の脚は止まらない。

 

 

 

まるで、行き先を完全に理解しているかのように。いや、実際理解しているのだから不適切だな。この言い回しは。

 

 

 

「いるんでしょ……白昼。雨門小鮫(あまかどこさめ)。」

 

 

私は傘を少し上に傾けて、手紙の送り主の名を呼んだ。枯れた麦のような生気のない金色の髪を雨に濡らした小柄な少女。彼女は白一色の装束に身を包み、傘もなくその場に留まっている。

 

小鮫は翠色の瞳を妖しげに煌めかせ、私の呼び掛けに反応した。聞こえている筈ではあるが彼女はなにも言わず、近づきもしない。雨が地面を打ち付けるパラパラという音だけが寂しげに響き渡っていた。

 

 

「差出人の名は書いてない筈だけど、夕暮れ。」

 

「竹を書面にするのは白昼だけだからね。私の事を夕暮れと呼ぶ人は限られてるし、そもそも黎明は手紙なんて寄越さないで勝手に来るだろうしな。」

 

「……それもそうね。久しぶり黒葉。」

 

 

意外にも白昼、小鮫はすんなりと受け入れて挨拶を返してくれた。相変わらず笑みは浮かべず他人行儀な素行が悪目立ちする奴だな。彼女こそ執筆仲間の一人である。

私達は4人でひとつの執筆グループを組んでおり、それぞれ黎明、白昼、夕暮れ、深夜とコードネームをつけている。

 

これといって決まった名前は無いが、黎明は肆碌時厨(しろくじちゅう)執筆団体とかよんでいる。訳がわからない。ろくでなし集団とでも言いたいのだろうか。

 

 

 

「で、手紙を寄越すまでになるなんて。なにかあったの?」

 

 

気を取り直して、私は手紙の用件を単刀直入に聞くことにした。わざわざ手紙を寄越すほどの事態があった、ということに他ならない。白昼は比較冷静で、一人を好む性分だ。それ故手紙をわざわざ寄越すような奴でもないし、彼女の能力も相まって緊急性が高い可能性もある。

 

 

「……。」

 

 

だが、小鮫は口を開かない。何かあったことは明白だし、私としては要件を伝えてくれると助かるんだけど。

誰かに追われていて助けてほしいとか、雨を降らせ過ぎていつしか喧嘩を買ってしまったとか、何処かの集落を沈めてしまったとか……

 

 

 

ザーッ

 

 

 

ザーッ

 

 

 

ザーッ

 

 

……寂しかっただけ。

 

 

ザーッ

 

 

「ん?なに?」

 

「別に。」

 

 

どうやら緊急性は無さそうだ。シャイだけどはっきりと言うべきことは言う奴だからなこの子。

 

 

「それよりも、生きてたんだね。」

 

「ま、何度も死にかけたけどね。」

 

 

ひとまず無事だと分かったことを喜ぶべきか。小鮫もなにも変わらず元気にやれているようだ。同じ放浪妖怪としてやはり同業のよしみが働いてしまう。

 

 

「……あんたは好き勝手に動いて自爆してるだけでしょうが。」

 

「あはは、まあそうなんだけどさ。これでも大抵は理不尽なものだよ?見舞金でもくれればいいのに。」

 

 

私と小鮫は同じ放浪妖怪ではあるが、その本質はちょっと違う。私は宛もなくさまよい、自分の探索欲を満たすためだったり、執筆ネタを探していたりする。

 

 

対して小鮫は能力から一ヶ所に留まれない不憫な妖怪なのだ。

 

 

彼女は″雨女″。常に自分の頭上が雨雲に覆われており、絶え間なく雨が降り注いでいるのだ。それ故一ヶ所に留まろうものならその場所は大洪水を起こして消えてしまうとされる。だからこそ定期的に幻想郷中をふわふわと漂っているわけなのだが。

 

 

「黒葉が望むならそこ沈めようか?」

 

「いや、別にいい。」

 

 

彼女の沈めるという言葉は冗談でない時に出がちであり、目も本気だ。小鮫は比較的恨みを買いやすい分冷静で、メンタルは強い方だ。

 

だがその気になれば町ごと嫌な奴をまとめて葬れるような奴だ。小さな町や村、集落など様々なものを沈めてきたことを私は知っている。

 

 

それ故、冗談でもこのノリに乗ってはいけない。

 

 

 

「……そういや黎明はいないんだな。」

 

「あの子は脳味噌すっからかんだから……。」

 

 

話題転換の為に黎明を出汁に使ったが、あいつはあいつで自由すぎる気がするんだよな。肉体的には無害だし、悪い奴ではないのだが、居たら居たでちょっと面倒臭い奴でもある。




オリキャラ 
名前 雨門小鮫
性別 女
種族 妖怪

能力″通り雨を降らせる程度の能力″

黒葉の所属する執筆仲間の一人であり、コードネームは白昼。黒葉と同じく決まった棲み家を持たない彼女だが、一ヶ所に留まると雨によって災害を起こしてしまうからだという。



彼女達の所属する執筆グループは、黎明、白昼、夕暮れ、深夜とそれぞれコードネームのついた4人の妖怪で構成されている。(なお元ネタ有。)
黒葉は夕暮れと呼ばれている。

バトルシーンは一話に完結させた方が宜しいですか?それとも会話シーン終了後、戦闘描写を省略して次話に投稿し、見たい人だけ見るかたちにした方が宜しいですか?

  • 一話にまとめて書く
  • 今の形態(分離)でいい。
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