筆を走らせ三千里─物書き妖怪放浪旅 作:わはかす茶
ここで話を続けるのもなんだし、あの獣耳天狗がこちらを見ていないとも限らない。私達は一度山から離れ、雨宿りができる古ぼけた
「……そう考えると、あの子の方が心配だったわ。黒葉を見つける前に首根っこ掴んどけばよかったわ。」
「ま、首を
私がそう宥めても、小鮫から不安の表情は拭えない。彼女は人一倍心配性なところがあり、今回私に手紙を寄越したのもきっとその性格ゆえだろう。
それでも人と比べれば辛抱強いのだが、一般的な妖怪と比べるとやはり不安を抱えすぎな気はする。
「私や黒葉は妖怪として安定して生きる術があるけど、あの子は……」
と、そこまで小鮫が言ったところで私は彼女の肩に手を置いた。雨に当たり続けた彼女の肩は冷たく、一気に熱を奪われる。
人妖が持つべき温かみ、生気を全くといって良いほどに感じられなかった。妖怪というより幽霊に近い存在かもしれない、と思ってしまうほどには。
「はあ、何のために一緒に組んでると思ってるの。あの子なら大丈夫だよ。」
「……。」
私は確証もなくそう言い放ってみせたが、小鮫はまだ完全に不安を拭えていないように見える。まあこれといった根拠がないし、そもそもあの子は喧嘩の売買の達人だったりするし……
あれ、本当に大丈夫かな?結構心配になってきた。
「ごほん。で、だ。小鮫はこれからどうする?あいつを探しにいく?」
「そうしたいけど、私は長期間留まっての探索ができない。それに探し物はあんたに任せるに尽きるわ黒葉。」
ひとまず話題を逸らし、これからの事を話し合った。彼女の前でこの不安をさらけ出したくなかっただけだが。
小鮫はううんと首を横に振り、そう吐き捨てた。私としては小鮫と一緒に行動してもいいが、その間一切陽の目を拝むことはないだろう……とも思っていたところだ。
朝昼晩、春夏秋冬、所構わず雨が降る。それがどれだけ苦しいものか、想像に難くないが私に彼女の苦痛はわからない。妖怪が陽の目を拝むなんてらしくないことを言ったが、光の無いところに陰は射さない。私としては死活問題だ。
「と、なるとまた再会できるのも少し先になりそうね。」
「……ま、そうね。一応向こうの方を通るけど、あの子見つけて4人揃ってってなるとこれまた時間かかるわね。」
ひとまず結論と、これからのことを話し合う。私達が揃うのは果たして何時になるのか、その気の遠くなる話に思わず苦笑した。
「久し振りに見たわ、黒葉の笑った顔。」
「なによそんな、珍しいものじゃないでしょ。」
小鮫は私の顔を見て、そう言ってクスっと笑った。冷ややかな彼女が見せたそれは、確かな温かみを感じ取れる。
「前回会った時は笑ってなかったから……あの時はまだなりたてで困惑していたでしょう?」
「何時の話をしてるんだよ小鮫。それってまだ私が物書きする前の話じゃないか。」
小鮫達と合流する感覚は不定期だが長い。それこそ全員が揃ったことなんて1度しかないはずだ。それから各々が自由に行動し、今みたいに運良く出会えたら話をする。集団というには繋がりが薄い……ま、そんなものさ。
「ねえ君、最近の黒葉は笑えてる?」
『クシャッ!』
小鮫は一度私の方を向いて、私と目線を合わせずそう聞いた。話相手は私が手に持つ妖怪本だったようで、小鮫の視線に気づいたこの子は口を開いてそう音を出した。
「……お望みならいくらでもわらうから、恥ずかしいこと聞かないでくれ。」
私は頭を抱えて項垂れる。それを見て小鮫はまた、可愛らしく微笑んで見せた。お前こそ表情が緩んでるじゃないか。前会った時はそんなに笑ってなかった癖に。
「じゃ、今度は皆の前で笑ってね。貴女も綺麗な女の子なんだから、笑顔の方が似合うわよ。」
「……そうかい。なら黎明の奴を連れ戻さなくちゃね。」
最後にそう言い切り、私は一人山を下っていく。こんな風に話終えれば勝手に居なくなるだけだ。彼女達との関わりもそこまで深く根付いている訳じゃない。
訳じゃないけど、いないと少し不安になるから。早く無事を確かめたいという気持ちは持っていた。
────
小鮫と別れを告げ、山から少し離れた藪の中で一夜を明かした私は現在朝焼けに照らされた人里へ向かっている。
服装を黒染めの和服へと変えて擬態は十分、例えこんな朝早くから見つかっても里の人に疑念は抱かれない筈だ。
まあ里の中にもイレギュラーな連中はいるが、生憎擬態と逃げと防御面には自信があるのでね。
さて、一段落着いたところでなぜ人里へ下りたか話すこととしよう。
理由は幾つかあって、前回魔理沙と巫女に邪魔されて入り浸れなかったことから、傷心旅行も兼ねて少し見て回ろうと思ったのが一つ。
そのメインは小鈴の店にある本のレパートリーを改めて確認したいというのが一つ。
そして最後に一つ、それは探し人がいるということだ。
あの神出鬼没で傍迷惑な私の知り合いを捕まえる為の張り込みをちょっとしているだけのこと。
あの子は黎明と呼んでいるうちの執筆チームのメンバーだ。
ドッドッドッドッドッドッドッドッドッドッ
その語源、元となった部分は朝になると同時に現れるということ。
ドッドッドッドッドッドッドッドッ!!!
『朝だよおおおおおっ!朝ですよおおおおお!』
ドッドッドッドッドッドッドッドッ!!!
……そう、こんな傍迷惑な大声を上げながら猛スピードで朝を告げる白髪の髪を短く纏めた少女こそ、私の知り合いであり探し人なのである。
『朝、ですよ?』
外を出歩く私に夜明けを告げる甲高い声。それと共に現れた白髪の少女は両目をギョロギョロ回しながらこちらを見つめていた。頭に突き刺さったような赤い棘のような鶏冠を揺らめかせながら、風に流されるように浮いている。
否、れっきとした白い翼で飛んでいた。
文字通り、
あのろくろ首を彷彿とさせるその造形をひと度目にすれば、皆が口を揃えて『最悪の目覚め』だと言ってのけるだろう。か弱い女子供の中にはトラウマを持ってしまう者もいるはずだ。
「朝、だy」バキッ
だが私は正直なところ、もう見飽きている。地面から針を伸ばし、しつこく迫ってくる彼女を突き飛ばす。
「あ、れ、れぇ?……朝だよ?」
「んなこと分かってるよ。久し振りだね、
思わぬ返しにおどろおどろしい反応を見せる彼女に、私は内心ため息をつきながら彼女の、鳴子の名を呼んだ。
彼女は音坂鳴子という鶏の妖怪であり、文字通り『朝を伝える程度の能力』を持っている。基本的にそれ以上でもそれ以下でもない無害なヤツではあるのだが、人妖含め彼らの評価は最底辺に位置する。
どういうわけか首を切っても死なないどころか、さも元から取れていたか振る舞いをするのだから困惑すること請け負いだ。何処かの傘のお化けなど目も暮れず、現在の幻想郷でも人間を脅かせる数少ない妖怪である。
文字通り、朝を伝えるだけで無害な妖怪なのだから。その起こしかたが少々インパクトに富んでいるだけで、ドッキリみたいなものなんだ。うん。
「……誰?」
「……え?」
鳴子は目をギョロギョロさせてこちらを睨む。鶏の妖怪だから彼女が鳥頭で、たぶん忘れているのだろう……か。
「人間なのに、驚かない。しかも名前を知っている。なんで、なんで、なんで、なんで。」
全身を震わせ、「なんで」と繰り返し叫ぶ鳴子。こんな反応をされたのはいつぶりだっただろう。
というか、なんだか凄く嫌な予感がする。彼女と初めて出会ったとき、私達ってそういえば……
「朝、デスヨ!!」
そうだ、思い出した。この子は本当に無害ではなく、仮にも妖怪だ。そこまで苦戦はしなかったけど、ある程度の実力はあった。
そう、誰彼構わず喧嘩を吹っ掛けるくせして買われた喧嘩に突っ込み売られた喧嘩を買うヤツだったのだ、こいつは。
次回戦闘シーンになります!
バトルシーンは一話に完結させた方が宜しいですか?それとも会話シーン終了後、戦闘描写を省略して次話に投稿し、見たい人だけ見るかたちにした方が宜しいですか?
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一話にまとめて書く
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今の形態(分離)でいい。