筆を走らせ三千里─物書き妖怪放浪旅 作:わはかす茶
鳴子は小脇に自分の頭を物理的に抱えて人里を低空飛行で飛び回る。こいつは鶏の癖してちゃんと飛べるのだが、その癖走る方が得意と言い張って聞かず、毎日毎日この幻想郷の山々を駆け回っているのである。
「バッドモーニング♪見知らぬ貴方に最悪の目覚めを!!″暁符″『ヘッドモーニングスター!!』」
「″影符″『黒鉄球の刑』。」
鳴子の首から赤い管が伸び、鎖付き鉄球となった自身の頭を振り回している。モーニングスター、というのは私が持っている武器の鉄球と同じ意味合いになるんだろうが、肝心の鉄球部分が彼女の首なのだから恐ろしい。
「朝だよー!朝ですよー!太陽燦々煌めいてるよ!!」
「今日は曇りだよ、もう!!」
あと、ひとえに煩い。なにも考えてないように見えてその実なんも考えていないのが彼女なのだ。まったく、鳥の妖怪にロクなヤツはいねえ。
「よーし、″暁符″『朝焼けのスプラッター』!!」
鳴子がスペル宣言をした瞬間、首から勢いよく血が吹き出した。血はやがて私達の遥か頭上で固まると、一粒一粒が鋭い針のような雨となって降り注ぐ。
……ほんと、悪趣味なことこの上ない。さっさと地面に同化して避けたかったが、上から下に落ちてくるこういうスペルカードにも正直弱いのが難点だ。万が一突き刺されば被弾扱いだし。
「おー、避けるねぇ!!」
「……はあ、この鉄球で気付いてもらえないかなあ。」
「そんじゃ、次のスペルいっくよー!」
ああもう、鳴子は完全に私とやりあう気でいて話を聞いちゃくれない。もし仮に聞いてたとして、私のことに気づいてくれたとして、彼女が戦いをやめてくれるかと聞かれたら間違いなくノーなんだけどね。
「イエーイ!最悪の目覚めだね!」
「ホントに最悪だよ、まったく!」
更に彼女は事あるごとにこちらの神経を逆撫でにする言動を放ちまくるのだ。よくここまで無事だったと感服するし、まあ無事でいてくれて良かったとは思う。
「……鳴子、そろそろ大人しくしてくれなきゃ困るんだけど。」
「えーっ!?なんか私の知り合いみたいなこというんだね!」
彼女に大人しくするよう言うと、鳴子は不思議そうに首をかしげてそう言った。いやあの、目の前にいるのはその知り合いなんですけどね。しかも多分彼女が思い浮かべているその本人。
「でもやだ!ここまで骨のある人間も久し振りだもん!貴方には今日も1日頑張らせてあげる!」
「……頼んでないよ。」
私は小さな声でぼそっとそう呟き、鳴子を恨めしげに睨んだ。話を聞いてはくれるが、止めるとは言っていない。そんな子だからだ。結論がわかっていて言うのは憚られる。結局、本気で止めたいなら腕っぷしで黙らせるしかないのだ。
……幸い私は″彼女より強い″と自負している。なにも問題はない。
けど、これじゃちょっと動きづらいな。人里の中だけど仕方ないよね。私のせいじゃないもん。
「……これでも、気づかない?」
「おーっ!なんか姿が変わったぞ!すげー!」
残念なことに、どうやら気付いていないらしい。いやホント残念というかある意味おめでたいよ。その頭がさ。
別に、誉めてないけど。
「いい加減にしてよ鳴子。本気で鎮圧するよ。」
「ふっふー!幾つかスペルカード仕込んで来たからな黒葉!ありったけぶちこんでやるよぉ!!」
そろそろ人里の奴等が騒ぎを聞き付けてやってくるだろう。そうなれば色々めんどくさいことになるし、早めに済ませておきたいところだったのだが───
───あれこいつ、今私の事呼んだか?
「″日食″『不運針を指す
と、私が呆気に取られている隙に彼女はスペルカード宣言を済ましていた。鳴子を中心に、針のように鋭い白い羽が規則正しく並び円を作っている。
羽の一本が太陽から差し込む光のように、そして中心にいる鳴子が太陽そのもののように見えた。
「″影符″『夜の帳に影、踏切を下ろして』。」
私は内心焦りながらも、地面から出現させた黒い何本もの腕を前に出して羽を防ぐ。
……あと一歩遅れていたら被弾していたかもしれない。鳴子のヤツめ、いつの間にこんな強力なスペルカードを握ってやがったんだか。
「えー、凌がれたかー!今度は当たったと思ったのにら流石の防御力だよ黒葉!」
鳴子は笑っているような様子で驚いた声を上げる。対して驚いてないことはわかってる。多分な。
「はいはい、どうもどうも。誉めてくれるのはいいけど、わかってるなら場所変えないか?」
「やだ!めんどくさい!」
「あぁもう。」
一応場所を変えないかと提案するが断られる。鳴子はどうしても人里の人に朝を伝えたいらしい。
「ならスペルカード勝負は後で……」
「それもやだ!」
「……ああもう。」
首を浮かせながらバタバタと飛び回り、駄々をこねる鳴子。多分勝負しながら朝を伝えられたら一石二鳥とか考えてるんだろうな、鳥だけに。
「だって久しぶりの弾幕勝負だもん!しかも人里の人達を起こせて一石二鳥じゃん!場所を変えるなんてとんでもないよ!」
……ほれみろ。
「なら、さっさとお前を捩じ伏せなきゃいけないようだ。恨むなよ鳴子。″黄昏″『人妖のスケアクロウ』」
「よっしゃ私もいくよぉ!″暁闇″『奇々怪々な解体演劇!!』
私は十字架を、鳴子は両手に刃物を持ち構える。やがて十字架の周囲の影が伸び真っ黒な肉塊が姿を現わす。その瞬間、アリスさんと戦ったときのような目眩が襲いかかってきた。
「っく……!!」
それをなんとか持ち直し、立ち上がる。空を見上げると、そこには人里を丸々覆い尽くすような巨大な黒い異形がいたのだった。
「うわ、すご、なにこれ」
正直、私は驚きを隠せなかった。妖怪の山を凌駕する大きさの十字架を背負ったグスグズの肉塊が、不気味に脈動しながら人里を四つん這いで歩く。まともにぶつかれば人里の建物が壊れかねない……と思ったが、その身体は影で出来ているためかインクが漏れ出るだけであった。
『ヴオオオオオオッ!!』
『人妖のスケアクロウ』から現れたその肉塊の表情は、私にも窺えない。だが苦悶に満ちた顔をしているだろうということは想像に難くなかった。
凄く辛くて、痛そうだ。全身が焼け爛れ、空気に触れただけで鋭い痛みを訴える───そんなような姿だ。
一方で鳴子の方は、両手に持つ刃物を器用にぶん投げ、私を捉えようと連続で追撃する。羽と刃物が″演目に″沿って不規則に、だがあるルールに従って規則的に現れるのだ。
それさえ見極めれば怖いものではないが、彼女のスペルカードの中では明らかに異質な存在だった。
「……解放してあげるからね。」
「おららららららららららっ!!!」
私は目を瞑り、目の前にいるであろう鳴子へ向かって片手を伸ばす。
「ぎゃr」
そして何が起こっているかもわからぬまま、鳴子が断末魔と共に遠くへ吹き飛ばされたのを察知した。
キャラ紹介
名前 音坂 鳴子「おとさか なるこ」
種族 妖怪(妖鶏)
性別 女
能力 「朝を伝える程度の能力」
二つ名 『バッドモーニングランナー』
髪色 白
黒葉達のコミュニティの黎明担当で、鶏の妖怪。
鶏だが飛べる。
性格は野性的かつ好戦的で、喧嘩を売りもするし買いもすると傍迷惑な妖怪として嫌われている。
「朝を伝える程度の能力」にならい、毎朝幻想郷中を駆け回って皆を起こす目覚ましの役割をしているようだ。
だがその光景は地獄絵図ともとれる有り様で、赤蛮奇(ろくろ首)のように首を浮かせているのだとか。
元ネタは首なし鶏のマイク。明け方を意味する黎明に落とし込みました。そこから鶏と言えば朝を伝える鳥で、首のないデュラハーンのような彼女が朝を伝えにやってくるというインパクトある要素を詰め込んでみました。
バトルシーンは一話に完結させた方が宜しいですか?それとも会話シーン終了後、戦闘描写を省略して次話に投稿し、見たい人だけ見るかたちにした方が宜しいですか?
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一話にまとめて書く
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今の形態(分離)でいい。