筆を走らせ三千里─物書き妖怪放浪旅 作:わはかす茶
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「……とまあ、その、すまない。」
「はあ、もういいですよ。痛いのには慣れっこですから。」
あの後、私は慧音さんに連れられるがまま、とある屋敷へと案内されることになった。そこはなんでも人里の中でもとりわけ大きい名家なのだとか。
私が鳴子を止めようとしていたことを話すと、途端に顔を青ざめた彼女を見るのは何かと新鮮であったが。
当然、そんなところに底辺妖怪を喜んで招くような真似を彼女もしないだろう。そもそもここは人間が絶対的優位にある人里の中にある、ある程度の節度を持っておくのは大切かもしれない。
「鳴子、正座だよ。」
「……つらい。」
なんやかんやこいつも連れていくことになったのだが、足を痺れさせて表情が安定していないようだ。
頑張れよ鶏の妖怪。足腰が強いんだろ?
「里荒らしの妖鶏と……そちらの方は見たことありませんね。慧音さんのお連れですか?」
そう言って部屋の奥の方から姿を現したのは、花の髪飾りを着けた紫髪の少女だった。袖に花の柄がある振り袖を羽織った着物を着用する彼女は、華があるとはいえやはり普通の人間といって差し支えない。
髪型や話し方、声質を除けば小鈴とそこまで大差はないように感じるくらいだ。
「ああ。彼女は黒葉という、昔からの知り合いでな。なんでも執筆を嗜む妖怪とのことで、偶然機会があったもので連れてきた。」
「……どうも。」
慧音さんからの紹介に預かり、ぺこりと一礼だけして見せる。それを見た彼女の反応はなんとも素っ気ないものだったが、別に気にかけることもない。
「……とまあ、慧音さん。ひとまず寺子屋の新入生向けの教科書の方を渡しておきますね。」
「ああ、すまない稗田殿。」
少女と慧音さんのやり取りを端から眺めながら、地面に寝転ぼうとする鳴子を軽く叩いてやる。
「あの鶏妖怪の対策も講じた文書になるわ。まあ無害だから別に気休め程度でいいのだけれど。」
「あ″ーっ!?無害だなんて失礼な!妖怪だぞこっちはおらあっ!!」
鳴子が自分の扱いの酷さに怒りを露にし、少女を怖がらせようと頭と身体を分離させる。だが彼女は慣れっこだと言わんばかりに眉ひとつ動かさず、鳴子をじっと見つめていた。
その間、びちゃびちゃと屋敷の床を血で濡らしていたのだが。
「ふんっ!!」
ゴキッ!!!
「だあっ!!!!!」
再び慧音さんからの頭突きを受け、頭を切り離した状態で鳴子は絶叫した。身体がパタンと地面に突っ伏して、悶えている。
「……すみませんっ!」
「ああ、別に直接危害を加えられた訳じゃないから気にしてないですよ。妖怪なんて所詮そんなものでしょうし。」
一応保護者として謝ったものの。妖怪なんてとたかをくくって、少女は表情を崩さずそう言いのけた。冷静沈着で、これまで見てきた人間の中でも飛び抜けて肝が座っている。
「妖怪なんてね、皆自分の力を誇示する事を考えてるのよ。例えどんなに謙虚に取り繕っても、妖怪としてのプライドが簡単には変えられないところに深く深く根付いている。そこの鶏妖怪のように、妖怪の本性を見極めるなんて簡単なことなのよ。」
彼女は妖怪のすべてを知っていると言わんばかりにそう言いはなった。そこに一切の迷いはなく、この場で食い殺されてもいいとばかりに荘厳とした表情だ。
もしかして、力量を推し量られているのか……?本来人間が抱くであろう、妖怪に対する恐怖を全くもって感じられない。
それもただ自身の地位に甘んじて無理矢理に念を取り払っている訳でもなく、その逆。恐怖や畏怖の念を感じさせながらも、好奇心や知識欲といった″至って普通の人間らしい感情″が見えた。
それ故に彼女は険しい表情を崩さない。
「……ま、貴女は少なくとも、そこの鶏妖怪より話がわかるみたいね。慧音さんがわざわざ連れてくるだけあるようだわ。」
暫く私の様子を眺めていた彼女は、僅かに表情を綻ばせてそう言った。
「...それでは自己紹介を。私は稗田家当主にして九代目阿礼乙女、
「いえ滅相もない。こちらも屋敷を汚してしまったものですから。では自己紹介の方を……私は夜爛黒葉。存じの通り執筆を嗜む物書き妖怪だ。基本的には害の無い妖魔本を中心に″作品″を手掛けている。私としても稗田殿との会談は貴重なもの故、快く引き受けよう。」
一応妖怪としての威厳を匂わせながら、稗田阿求と挨拶を交わした。
「……一応そちらの鶏さんも、貴女の連れですよね。」
と、阿求が鳴子を指差して聞いてくる。その顔はやや怪訝そうであり、あまり鳴子の事をよく思っていないことが見てとれる。そりゃそうだ。いかにも学が無さそうな妖怪であることに加え、自分の家を汚した張本人なのだから。
当然私も逆の立場だったらぶちギレるが、彼女がそうしない理由は私の連れとして面子を立ててくれているからなのだろう。
多分ここで首を振ったら、即慧音さんに追い出されそうではある。それはそれで面白そうではあるが、今彼女とはぐれると後々面倒なことになるので、頷いておくとしよう。
「そうです、彼女は音坂鳴子。一応連れ我々執筆グループの一員でありまして……」
「おい黒葉ー、こんなやつに名乗る必要ないってばー。」
ゴンッ!!!
「あべしっ!!」
鳴子がそこまで言ったところで、軽く″熊の腕″で彼女を殴った。
「黙ってて、またとない機会なんだから。」
「えーっ、私こいつきらーい!!」
相変わらず軽口をぽんぽん言い放つ鳴子を余所に、私は顔を青ざめながら阿求とアイコンタクトを取る。彼女もそれを察してなんとか許してくれているが、鳴子の態度にはかなりうんざりしている様子だった。
バトルシーンは一話に完結させた方が宜しいですか?それとも会話シーン終了後、戦闘描写を省略して次話に投稿し、見たい人だけ見るかたちにした方が宜しいですか?
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一話にまとめて書く
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今の形態(分離)でいい。