筆を走らせ三千里─物書き妖怪放浪旅   作:わはかす茶

36 / 37
妖怪対談記録

まあ、幻想郷の記憶として名高い稗田家の当主と在ろう御方が、物珍しい妖怪を前に引きさがる訳がない。暫くの間対談が続くため、以下にその内容を記す。

 

 

 

 

 

 

 

「まず、貴女は元々なんの妖怪なのですか?」

 

「知らない。一応後天的なものだから、気づいたらこうなってたとしか言えないよ。」

 

 

実際私は自分が何の妖怪かを把握していない。そりゃあ傘のお化けだのろくろっ首だの、誰が見てもわかるような特徴を持っているなら自他共にそんな妖怪だと理解し、誇示できるだろうが、私にそれは適応されていない。

 

 

 

影の妖怪……筆の妖怪?影筆、ドッペルゲンガーとか?

 

 

と、実際こんな感じで妖怪であることは理解していながら、元々なんの妖怪だったかを知らない奴も中にはいる。そういえばルーミアとかパチュリーとか、一体なんの妖怪なのだろうか。検討もつかない。

 

 

「好きなものと、嫌いなものを教えてください。」

 

「好きなもの……まあ趣味っていうなら執筆かな。妖魔本を中心に書いたりするし、読むのも好き。嫌いなものは話がわからないやつとか……煩いやつとか……。」

 

 

 

私は質問を受けながら、鳴子を見やる。

 

 

「なにさ。」

 

 

「別に。」

 

 

実際事実なので否定はしなかったが。

 

 

「それでは次。貴女のスペルカードについて、どのような基準を設けてるか教えてください。」

 

「……スペルカード?」

 

 

人間からスペルカードの話題が飛んでくるとは思わず、聞き返す形になってしまった。

 

スペルカードの基準……基準って難しいな。手当たり次第とも言えるし、物の中には結構な時間をかけて作っているものもある。としか言えないな。

 

 

「こちらとしても、みすみす手の内を開かす気はないんだけどね。まあ″影符″.″閉符″.″陰符″.の三種類をベースに、好き勝手に作ってるだけさ。深く考えてはない。」

 

 

「そうですか。」

 

 

これが答えになってるかと言われれば怪しいが、阿求は特に聞き返しては来なかった。

 

 

「……因みに今、ざっと数えて20種類くらいあるよ。果てしない時間を食うが全部一から話してやろうか?」

 

「お願いいたします。」

 

「いや、あの、嘘だ。手の内は明かさないといってたな。ごめんなさい。」

 

 

鎌をかけて反応を楽しもうとしたが、彼女は眉ひとつ動かず即答する。胆が座りすぎてて怖い、このお嬢さん。

 

 

「黒葉……」

 

 

 

鳴子から嫌な視線を感じた。人間相手に手玉にとられている様子を察したか。勘の良い奴め、ちょっとミスっただけだってば。

 

 

「それでは、貴女を含めた執筆グループについて教えてください。」

 

「……。」

 

 

間髪入れず阿求から飛んできた質問。恐らく鳴子単体からは知り得なかったであろうコミュニティの存在について彼女も関心があるのだろう。

 

 

「鳴子から聞かなかったのか?」

 

「私がこのような妖怪を自分から招くような真似をすると思いますか?」

 

「いやまったく?私が逆の立場でも多分そんな愚行はしないよ、ははは。」

 

 

そりゃそうだ、と一人で勝手に納得する。横から″首だけ″を近づけて圧を掛けてくる鳴子を必死に無視し、正座の態勢を僅かに崩す。

 

 

「一応《無名の執筆集団》として、決まったメンバーで活動している。活動、といってもそんな大したことはしてないけどね。そこの馬鹿は文字を書けないし、メンバーの一人は能力のせいでそもそも紙を扱えない。″執筆″という行為をまともに行えるのは私と精々もう一人くらいさ。」

 

「黒葉……本人を前に流石に失礼じゃない?」

 

「事実なんだからしょうがないね。それに鳴子に文字の読みを教えたの、私だぞ。」

 

「……うぎゅう。」

 

 

首を戻し、鳴子がその場で萎縮する。

 

 

「……本当に決まったメンバーなんですよね?」

 

「ああそうだよ。」

 

 

流石にこんな答えが返ってくるとは思ってなかったようで、阿求が苦笑した。まあ端から見れば私らって異質でよくわからない妖怪の群れにしか見えないだろうけど。

 

 

でも、私は自信をもって言える。私達は4人揃ってチームなのだと。誰一人欠けても嫌だとハッキリ言える。鳴子も、小鮫も、藏衣もね。

 

 

「私が彼らの体験を、見聞きした出来事を本にしている。そうして私達は記録として生き延びる術を身に付け共生してるんだ。これ以上鳴子を含め、仲間を馬鹿にするのは止めて貰おうか。」

 

「いや、馬鹿にしてたのお前やんけ。」

 

 

 

鳴子がなんか言ってるが聞こえない。無視無視。

 

 

「馬鹿になんてしませんよ。貴女方はちゃんと妖怪として生きる術を身に付けている、それだけで十分じゃないですか。」

 

「そうしてくれるとこっちとしてもありがたいです。」

 

「おい馬鹿にしてるのは黒葉やんけ。」

 

 

阿求は納得したように頷き、私達の在り方を肯定してくれているようだった。話を理解してくれることがどれだけ楽か、暫くぶりにしみじみと感じ取れる。

 

 

「なに感傷に浸ってんだよ、聞けy」

 

「で、まだ会談の方は続けるの?」

 

 

雑音を無視しそう問いかけるが、阿求は首を振った。

 

 

「いえ、貴女方から大抵のことを聞き出せたので。これ以上私から聞くことも、話すこともありません。」

 

「そ、ならおいとまさせて貰おうかな。貴重な体験だったよ。ありがと。」

 

「まだ話は終わってなr……」

 

 

ガッと鳴子の首根っこを掴むと、慧音さんに連れられるがまま稗田邸を後にする。きっとこうやって話す機会もそう多くないだろうと感じて。

 

 

 

夜爛黒葉の二つ名はどれがいいでしょうか?

  • 処刑人の影
  • 断罪の影法師
  • 鮮明に煌めくシルエット
  • 全部つけちゃえ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。