筆を走らせ三千里─物書き妖怪放浪旅 作:わはかす茶
人里を後にした私達は、小鮫が示したルートに従って進み合流を図ろうと試みている。本来であればルートの反対を進んで落ち合うのが一番手っ取り早いのだが、わざわざ彼女の足跡を辿るように移動しているのにはちゃんとした理由がある。
「そういや″深夜″と話するのは久しぶりになるなー。最後に話したのはいつだっけー?」
鳴子が大きく伸びをしながら、昔を懐かしんでいるとおり、私達執筆グループの最後のメンバー、″深夜″の名を冠する彼女に会う為である。
だから私達がこうして彼女のもとに赴くのがいつものことである。
因みに彼女は私より強い。単純な力関係ならグループの中でも1番強いだろう。次点で白昼。小鮫だ。
まあ力関係を図にすると、黎明≦夕暮れ≦白昼≦深夜となるか。私が小鮫より弱いことに関しては違和感を持つだろうかま、そんな時間軸のように都合良くいくわけじゃない。
「でもその為には地底に降りなきゃならないんだろー?ジメジメしてて嫌いなんだよなぁー。」
鳴子が言うように、尋ね人は地底に住んでいる。私達が苦手とする場所であり、ここ数十年まともに会ってないのも事実。特に鳴子や小鮫は地底と無縁な妖怪であるともいえるだろう。
実際彼女らはほんの数回の会合で顔合わせした程度な為、忘れられていたとしても仕方ない。
「小鮫が地底に入ったら、もっとジメジメしそうだね。」
「えーっ、それは嫌だなぁ。」
雨女である彼女が地底に入ったら、雨雲がどうなるのか気になるところではある。けれどやはり長居はできないだろうな、地底の穴が水で満杯になりかねん。
「……黒葉?」
だけど、それ以上に不安な要素があるせいで私は少し地底に足を踏み入れることを躊躇している。というのも、かつて地底の妖怪達が地上の妖怪との隔たりを作ったからだ。
地上の妖怪が地底に無断で足を踏み入れる、それは地上で生きることを否定された彼らのテリトリーを荒らすのと同義である。
それに地底には妖怪の中でもトップクラスの力をもつ種族、″鬼″が多くいる。私はともかく、まともな防衛手段を持たない鳴子を連れていくには少々不安が残る。
いくら首をはねられても死なないとは言え、文字通り身体を粉砕されればそれはまた別の話。鳴子は特に一般的な妖怪の中でもそこまで強い部類ではない。
「……なあに、ちょっと心配してただけさ。」
「私が弱いからって言いたいの?」
と、私のぼやきに半笑いで返す鳴子。まあ実際弱いのだけdゲフンゲフン、一応身の程はわきまえるタイプだし連れていっても問題ないかな。実際阿求との対談でも血でベットベトにしていた以外はなんもしてなかったし。
……うーん、不安だ。
鳴子の問いには答えることなく暫く歩くと、やがて地面に大きな裂け目ができた場所へとたどり着いた。言うまでもなく意図的に作られたこの穴こそ地底への入り口であり、目的の場所である。
「さて、それじゃあ頼むよ。黎明。」
「あいさ、夕暮れ。」
私の呼び掛けに応じ、鳴子が頷き背中の翼を広げて見せる。それを見た私は何の躊躇いもなく地底の穴へダイブした。
「よーし、掴まって!」
そのまま後追いしてきた鳴子の片足を掴み、垂直に自由落下していた身体を彼女に委ねる。
この妖怪、妖鶏でありながら飛べるのだ。私も別に飛べないわけじゃないけど、鳴子自身が頼りにされるのが好きなため使ってやることにする。
「……。」
それに鳴子の浮力が強い分、自分で飛ぶより心地が良いのもある。元々飛べなかったというのも相まって……ああいや、この話はやめようか。
「重くない?」
「大丈夫~!!」
下へ下へと、ゆっくり降下してく私達の声が甲高く反響する。特に彼女の大きく高い声は今や山彦のように響き渡り、少々耳障りなものだが。
「……そろそろ大丈夫だよ。」
それから数十秒が経過し、うっすらと地面が見えてきた頃。いつの間にか私の身体を引っ付かんでいた鳴子に離すように促す。
「……」
だが鳴子はなにも言わず、ほぼ自由落下に近い速度で下降している。あれだけ小煩いこいつが無言と言うのも不気味なものだ。
「鳴子?そろそろ離して貰って……」
「……」
聞こえなかったのかと聞き返すも、彼女は一切反応を見せない。いくら私の声が小さくて陰気だからって、目の前にいて聞こえない程じゃないと思うんだが。
にしても、そろそろ離してもらわねば地面に激突しかねない。流石に死にはしないだろうが、激痛は免れないし痛いのは勘弁だ。本当に洒落になら……
ギュッ
……とここで、鳴子が私の身体を引っ付かむ力が強くなったのがわかった。
「……まさか」
バキッ!!!!
そう私が悟った時には、もう身体が地面に接する直前だった。当然それを回避できるわけもなく、私の身体は勢いよく地面に激突し、衝撃と共にバネのごとく僅かに浮き上がる。
「─────ッ!!!!」
全身に耐え難い痛みが走り、一瞬のうちに身体が悲鳴をあげる。声が出ない、指が動かない。目眩のように視界がブラックアウトする。
「ひゃははははっ!!!黒葉の恐怖に引きつる顔なんて何時ぶりかなぁ!!さっきのお返し、たんまり受け取ってくれよね!」
なるほど、鳴子の狙いはこれだった訳か。これまでも何回もいたずらはされてきたから慣れっこだけど、ここまで苦痛を味わされることになるとは、私も妖怪として鈍ったものだな。
「っ……たあ……」
流石に今回は彼女を信用し過ぎたようだ。暫くぶりの再会でまんまと妖怪に化かされた。
「……ま、いつもの事だし良いんだけどさ。やられたっきりで済ますつもりはないからね?」
ニタニタと不気味に微笑む鳴子を他所に、一人ぼやくように呟く。聞いていようがいなかろうが関係ない。妖怪同士のいたずらなんて良くあることだし、多少痛いだけでこれまでにされた仕打ちのなかでは全然優しい部類だ。
「妖術.
真っ暗な地底の底の地面に横たわり、暗闇に身体が同化する。私という妖怪の影と形も残すことなく、地底の底の闇と一体化していった。
「じゃあ地面に埋まるか呑み込まれるか、好きな方を選んでくれよ。」
「黒葉?どこ!?どこなの?」
鳴子が手探りに私の身体を捉えようとしているが、この形態は気化、液状化してる状態といって差し支えない。物理的な動作で捉えられるものではない。
真っ黒な紙に筆を立て、更に塗り潰すかのように形を作る。一見無駄だと感じるかもしれない。しかし私の動きは不可視ではあるが、確かにそれは存在するのだから。
「じゃ、一旦大人しくなってもらおうか。″影符″、【シャドウベアーホールド】。」
ガシン!ガシン!
ガシン!
スペルカード宣言と同時に、鋭い金属音を立ててそれは現れる。真っ暗闇では見えていないだろうし、鳥目なのも相まって彼女は余計に恐怖を煽られているだろう。
……だけど知らない。先に仕掛けたのは鳴子なのだから彼女が悪い。
「ぎゃああああっ!?!?」
暗闇の中、恐怖と激痛に歪んだ鳴子の甲高い悲鳴が響き渡った。
夜爛黒葉の二つ名はどれがいいでしょうか?
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処刑人の影
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断罪の影法師
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鮮明に煌めくシルエット
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全部つけちゃえ!