筆を走らせ三千里─物書き妖怪放浪旅   作:わはかす茶

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里の中の人外魔境『鈴奈庵』

一応能力で音もなく侵入は出来るが、人里でそれをやるのも何かと失礼に値する。わざとらしく暖簾を潜って目的の少女の居る店へお邪魔することにした。

 

 

 

暖簾を潜る際も無音であることは言ってはいけない。見る人は見るだろうし、世間体の話にすぎないからね。

 

 

「……お邪魔してまーす。」

 

 

一応開いているのだから入ったとて問題はあるまい。念のため一言添えて、周囲の本を眺めることにした。

 

 

...能力であらかた視察はしていたが、まさかそれ以上の妖魔本やらが互いに手を取ってひしめき合っている姿が見られるとは...。それも妖魔本だけじゃない。私の知らない世界の学に関する物が所狭しと並んでいるのだ。

 

 

 

大抵は読み物として使う無害な物であるが、一部の本からは僅かながら妖力らしき不思議なものを感じ取れる。

 

特にこれ。一般的な本に見えてページを捲ろうとすると紙の代わりに牙が出る───

 

 

 

ああこれ付喪神じゃねえかっ!!!

 

 

私は思わずそう叫んでしまった。

それも妖怪化、悪霊化した質の悪い類いで、持ち主の管理の杜撰さが顕著に現れている。本屋として生計を立てているのなら、非常に致命的と言わざるを得ない。

 

まず付喪神というのは、本来人々に大切にされていたりした物に魂が宿る程度の物でしかない。浮いたり足が生えたりはするが、人に直接牙を向けてどうこうする力はないはずだ。

 

少なくとも、″物としての役割や本質″が変わらないくらいには。だが明らか、この本は付喪神としての範疇を超えている。絶対生えてちゃいけないものがこいつには生えてしまっている。想いがどうとかそんな次元じゃない、最早変形してる。

 

きっと周囲の妖力に当てられて変化してしまったのだろう。可哀想に。

 

 

「よっと。」

 

『ギチ……』

 

 

飛び掛かってきた妖怪本を片手でキャッチし、閉じた口の隙間から私の能力である影を入れる。口の中にびっしりと墨を入れられるのはちょっと痛いかもしれないが、このまま妖怪化が続けばより長く苦しむだけだから

 

 

 

 

 

──元ある姿へお帰り、″空白の本″。

 

 

『......』

 

意外と大人しく、ページを書き換えられたことで妖怪だった本はごくごく普通の妖魔本へと姿を変えた。今回のケースでいうなら″中身が空白だった″からこそ、周囲の妖魔本の持つ妖力に当てられて妖怪化してしまった、ということだろう。

 

語弊は少なからずあれど、妖怪の封じられた本はあくまでも″本の状態″を保とうとする。なるべく自然な状態のまま、解き放たれるのを待っているのだから。

 

 

″妖怪の入った本″と″妖怪化した本″ではそもそもの意味が変わってくる。簡単に言うなればこの子は後者であっただけのこと。

 

 

 

「あっ!いらっしゃいませ!」

 

「ああ……お邪魔してます。」

 

 

トコトコと階段を下りる音が聞こえてすぐに、先程チラッと見た店主らしき女の子が姿を現した。

 

 

強い橙色、飴色の髪を鈴の付いた髪留めで纏めた、紅色と薄紅色の市松模様の着物にリボンの付いた前掛けを着用した少女。あの白黒少女より小さいなど、かなり幼げな容姿をしている。

 

 

こんな表裏のなさそうな女の子が、一体どこからこれほどの妖魔本を……。

 

 

「初めましてですよね、貸本屋【鈴奈庵】へようこそ!私はここの店主の娘の本居小鈴(もとおりこすず)です。」

 

「ああ、どうもどうもこれは御丁寧に……。」

 

 

少女、小鈴が礼儀正しく頭を下げたのに則り、私も一礼し名を名乗った。姿を隠しているとはいえ私の正体に気づかない辺り、特別妖怪の気配に敏感というわけではないな。

 

 

...というより無警戒すぎる。何を持って妖怪ですら思わず肩を震わすような得体の知れない本を集めているのだろうかこの小娘は。

 

 

「あっ……その本、確か″空白の本″ですよね?」

 

「っ!!!そ、そうみたいだね?」

 

 

小鈴が突然ぶっこんできたことで思わず声が上擦った。やばい、仕方なくとはいえ即席で本に細工したのがバレたら弁償……だよな普通。

 

 

「幾ら試しても文字が出てこなくて、何の面白味もなくて……丁度燃やすところだったんですが。」

 

「あ、えと、よければ貰っていいかな?」

 

「構いませんよ。」

 

 

せ、セーフ……。とりあえず一難は去ったようだな。この子(妖魔本)も生まれ変わってすぐ燃やされるようなことにはならず、後味の方も大丈夫そうだ。

 

 

「で、ところで……見て回ったところ、変わった本が多いね。」

 

「そうでしょうそうでしょう!!何といっても私は貸本屋の娘!特にレアな外来本集めが趣味なんです!」

 

「お……おう。」

 

 

初対面というのにグイグイくる彼女の姿勢に、妖怪でありながら思わず呆気に取られる結果となった。貸本屋であることと本集めは果たして関係があるのだろうか……?

 

 

ああいや、本に触れる機会が多い分、そういうこともあるってことかな?

 

 

「なにか気に入られた本はありませんか?小説から絵本まで、うちは大抵揃ってますよ!」

 

 

小鈴は自信満々な表情でそう自負している。鈴奈庵の本の量はそれはそれはぎっしりと詰められた程多く、ジャンルも様々であるようだ。

 

 

「...。」

 

とは言え、気になってしまうのはやはり異様な存在感を放つ妖魔本達である。同じ妖怪のよしみ、何やら通ずるものがある。

 

 

「そちらのは全て妖魔本ですね、賢者古典から大抵は無害な物なので、見て貰って大丈夫ですよ!」

 

 

この娘、何を根拠にそんな事を言えるのか……確かに大抵はやり方さえ間違わなければ開かない鍵術式のものが多いが、幾らなんでもこれらを店頭に置いて大丈夫だと言い切れるのか……。

 

 

「あっ、そうだ!今オススメの本が上にあるんだった!ちょっと待っててください黒葉さん!!」

 

「あ、ちょ……!」

 

 

止める間もなく、小鈴は上へと階段を上って行ってしまった。その間にチラッと妖魔本達を眺めていたが、特に何事もなく。暫くして小鈴が戻ってきたのだが、その本の異様な気配に少し懐かしみを感じたと同時に嫌な予感がする。

 

 

「これです...!『無然妖怪影絵巻』!!」

 

 

(私の本だ……)

 

 

そう、さっきチラッと様子を拝借させてもらったときに見た本だ。私が手を加えなければただの本なので気にはしてなかったが、まさか自分の本を誰かにお勧めされることになるなんて……。

 

 

「この本凄いですよね、隅々まで余すことなく墨で書き綴られてる正確さ、そして古来の妖怪をまるで身近に見たかのような気分になれる解説文。加えて堅い印象をぶち破るような皮肉めいた追記!」

 

(や……やめてくれ……)

 

 

まさか小鈴も目の前に作者がいるとは思うまい、客の前でありながら延々と蘊蓄を語り続ける辺り、本に対する熱意は本物だ。

 

 

どうせなら別の本の説明で知りたかった……嬉しいけども、ちょっとくすぐったいよ。

 

バトルシーンは一話に完結させた方が宜しいですか?それとも会話シーン終了後、戦闘描写を省略して次話に投稿し、見たい人だけ見るかたちにした方が宜しいですか?

  • 一話にまとめて書く
  • 今の形態(分離)でいい。
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