筆を走らせ三千里─物書き妖怪放浪旅   作:わはかす茶

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目的の場所へ

林道に従って歩くとやがて、目的の場所へと辿り着いた。瓦屋根の目立つ和風の一軒家。人里に並んだ建物とそれほど大きな差異はないが、建物の外にはまるでゴミのように散らかった珍品がごろごろと転がるように詰めて置かれている。

 

 

だがこれでもゴミ屋敷....ではないらしい。かくいう私もここの家主の性格と荒れ様は知っているし、今更なんの感情も抱きはしない。慣れって怖い。

 

 

私は『香林堂』と大きく書かれた建物の扉を軽く叩くと、返事も待たずガチャリと開いた。因みにこの建物の横にもうひとつ、一回り大きな瓦屋根の建物があるがそちらは倉庫である。

 

 

 

「入るよ、先輩……森近さん。」

 

 

先輩と呼び尊敬している店主を呼ぶ。返答はない。どうせまた新しい商品でも見つけて観察と物思いに耽っているのだろうと気にせず店の中へと入り込んでいった。

 

 

 

「ふえ……?」

「え……?」

 

 

が、そこにいたのは森近さんではなく、彼によく似た姿の少女だった。私と同じ白髪だが所々蒼のメッシュが入っている。黒、青を中心に、リボンやフリルのスカートを拵えて彩られた服装の彼女。

 

 

どう見ても女の子だが、服装といい、身なりといい、大人しげで何処か面影が残る。まさか、まさかとは思うが……

 

 

 

 

 

「先輩、女の子になりました?」

 

 

「なってないなってない。こっちだよ黒葉。」

 

 

店の奥からそうツッコミを入れて現れたのが、私の先輩であり探し人、森近霖之助である。ピョンと跳ねた癖っ毛が特徴の白髪の男性であり、主にこの香林堂の店主として、はたまた蒐集家(しゅうしゅうか)として様々なガラクタを集める物好きである。

 

 

何を持って用途のない物を集めてくるのか分からない変わり者ではあるが。

 

 

けれども私が物書きとなるうえで重要な人物だったし、方向性は違えどその知識の豊富さは大変お世話になった。

 

 

「もう数十年振りになりますか、お久し振りです先輩。」

 

「先輩というのは少しくすぐったくあるけど、久し振りだね。」

 

 

私は頭の黒頭巾を脱ぎ、霖之助さんに一礼する。彼のその見た目は数十年経った今でも全く変わっておらず、れっきとした妖怪であることを感じさせてくれる。

 

と、いうのも彼は先天的に人間と妖怪の間に生まれたハーフであり、年齢も私より遥か上を昇る。

 

 

「にしても黒葉がここを訪れるのも珍しい、また何か聞きに来たのかい?」

 

「ええ、魔法の森が何処にあるか聞きたかったもので。」

 

 

 

霖之助さんは基本一人でいることを好む上、何処からか付けられた二つ名では『動かない古道具屋』などと呼ばれてたりするが、探求心と道具集めのために危険地帯である無縁塚等に頻繁に訪れている。

 

 

その為かこの幻想郷内の知識はかなり持っており、何かと執筆のための土地巡りでアドバイスを貰っていたりする。

 

 

「魔法の森は……この店を出たすぐの森だよ?」

 

「…………。」

 

 

霖之助さんが苦笑いしながらそう教えてくれた。確か灯台下暗しって言うんだっけ、こういうの。

 

 

 

 

比較的近いところに目的地があったという喜びよりも、肩透かしを食らった気分だ。なんせここを訪れたのだって一度や二度ではないし、物書きとして香林堂の近くのここにだって入ったことはある。

 

 

私にとってはもはや庭みたいなものだ。それこそ魔女なんて見たことないし、この土地にそもそも名前が付けられていることを知らなかった。強いては霖之助先輩の土地であるかもしれないと盛大な勘違いをしていたわけで。

 

 

「魔女が住み着くようになってから年は浅い。暫くここを通らなかった黒葉が知らなかったのも無理はないよ。」

 

「うっ……」

 

 

霖之助さんの精一杯のフォローが傷に塩を塗る結果となる。ルーミアとの一件、魔理沙との出会いを通じて人妖の間で変化が起きているのは察したけれど、まさか場所にまで名前が付けられているとは。

 

 

「で、衝動に駆られがちな君のことだ。すぐに入るのかい?」

 

「いえ、寧ろすぐ近くにあると聞けて、久々に腰を休める良い機会だと思いました。なんせ、森は逃げませんからね。」

 

「そうかい、なら話題の種が逃げないことを祈ろう。」

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

う〰〰

 

 

そう、こんな感じで気軽に話そうとしても、持ち前の知識量を前に私が折れてしまうのだ。霖之助さんにきっとその気は無いのだろうが、私とて物書きの端くれ。わからないことを素直にわからないとひけらかしたくない性分である。

 

 

加えて私はまだ物事の本質を見極められない未熟者である。魔法の森に何しに行くか、それこそ魔法使いの話を聞いてくるのが私のしたかったことだろうに。その魔法使いが何時どう過ごしているか等、当然ながら私に解るわけもなく。

 

 

「なんか、近いのに遠い気分だ……」

 

「この時間だと暫く帰ってこないだろうし、時間潰しでもするかい?」

 

「うう、お言葉に甘えさせて貰います……。」

 

 

結局、長く生きた妖怪の知識量に敵う筈もなく。私はここに立ち寄ってはこうして霖之助さんに甘えさせて貰ってばかりなのだ。

 

 

「……良かったの香林?また騒がしくなるんじゃないの?」

 

 

と、先程まで黙っていた霖之助さんモドキがここで口を開いた。大人しい印象とは打って変わってかなり強気な口調で、この店に人が増えるのを好き好んでないのが伝わってくる。

 

 

 

「ああ、黒葉は比較的大人しい子だよ。それに彼女との話は中々興味深いものがあるからね。」

 

 

「ふーん、黒葉って言うのねぇ。」

 

 

 

霖之助さんはそう言ってくれたが、少女は本を両手に持って興味なさげに返した。

そんな彼女を暫く観察していたところ、彼女の背中には小さいながらも翼が付いているのが見えた。これを見つけていれば霖之助さんと間違えるなんてこともなかったのか……。

 

 

 

 

 

(少女雑談中・・・)

 

 

 

 

──久し振りの会話ということもあり、お互いにそれなりに多い土産話を花を咲かせた。交流を避けて放浪していた私と比べて、霖之助さんはよりこの幻想郷の変化を感じ取っていて、「分からないことは考えすぎない方がいい」とまたアドバイスをして貰う結果となった。

 

 

比較的感覚に振り回されるように動いていたと思うが、時に理詰めでなんでも理解してやろうという心意気が見え隠れするのだと彼は言う。その探求心の強さ故、わかる筈もない物を理解しようとして余計に疲れるのだとか。

 

 

 

思い当たる節が多すぎる。今回だって魔法使いの起源諸々知れることを片っ端から教えてもらおうと思っていた。

けれども不老不死でもない限り、魔法使いのルーツを知る人物、それも人間が数百年生きているなんて訳もなかろう。

 

 

ちょっと考えればそんなことわかる筈なのに、私は在ること無いこと聞き出さないと気が済まないところがあるらしい。

 

 

「ところで……また道具を増やしましたね?この前は倉庫で収まってたのに、遂に外まであんなに物置いて……」

 

「あれは要らなくなった処分予定のものだからね、なんなら幾つか貰っても構わないよ?」

 

「一応私がどう過ごしているか、お分かりですよね先輩?」

 

 

私がそこまで言うと、霖之助さんは「ううむ、」と唸るように言葉を止めた。先程、彼と同じ商人肌の娘にぼったくられたばかりだと言うのに、同じ手が通じるほど私だって甘くはない。

 




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  • 今の形態(分離)でいい。
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