『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!   作:IXAハーメルン

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第百三話

 涼しい。

 

 意気揚々と踏み込んだ水辺にはモンスターの影もなく、穏やかな水面にはバラのようにも見える小さな花と、私が親分ですとでも言いたげに揺れる親玉の蕾が一つ暢気に浮かんでいる。

 動くものは風に揺られる周囲の木々と木漏れ日だけ。

 そういえば水辺は常に風が吹くと聞いたことがある、きっとこの頬を撫でる風もそのおかげなのかもしれない。

 

 ともすれば絵画の一面として切り取られてもおかしくない、幻想的でのどかな風景だ。

 

「あれ絶対そうだよね」

 

 だが、私はなんとなく察していた……池のど真ん中にある私たちの身長を優に超すほどデカい花がただの風景ではなく、大方ここのボスであろうことは。

 

 だってこいつだけ一つだけ濃紺のすっごい禍々しい模様が花びらに描かれてるもん! めっちゃ怪しい! めっちゃ怪しいよアレ!

 

「『鑑定』」

 

――――――――――――――――

種族 パラ・ローゼルス

名前

 

LV 4000

HP 90321 MP 5066

物攻 26033 魔攻 36043

耐久 59087 俊敏 3021

知力 21000 運 11

――――――――――――――――

 

 見た目は巨大なバラの花、もう巨大薔薇でいいよね。

 

 レベルはEランクを軽々飛び越えDランクの中でも中堅程度、多くの探索者が命の危険からある程度稼げるE、Dランクより先に進まないことを考慮すれば、ボスとしてステータスの飛びぬけているこのモンスターを倒せるか怪しいだろう。

 崩壊寸前の炎来と比べれば当然見劣りするものの、気を抜ける相手ではない。

 

 ちらりと横へ視線を向ける。

 

 ここでは筋肉がリーダーだ。二人で一気に攻めるのか、彼一人に任せるべきなのか。

 暫し静寂の中で顎に手を当て目を固く閉じた後、彼は……その大剣をアイテムボックスへ仕舞ってしまった。

 

 

「行ってみろ」

「……あい、『ステップ』」

 

 ドンッ!

 

 爆発的な加速、限界までの肉薄。

 前へ前へと体を押し上げる馴染み切ったその動きは、のんびり揺蕩う巨大花の枕元へ驀進させていく。

 相手も何かが接近してきたのに音か、或いは振動で気付いたようでがく(・・)を震わせゆっくりと花開きだすが、ちょっとばかり気付くのが遅い。

 

 

 おはよう、そして――

 

 

「まずは一撃ッ! 『スカルクラッシュ』!」

 

 挨拶代わりの一撃を叩きこむ!

 

 そのまま花びらを叩き切れるかと思ったのだがそう上手くもいかないようで、肉厚なそれを一部千切り取った程度でカリバーの勢いは押し殺されてしまい、足場もなく宙にぶら下がる。

 我ながら中々綺麗な開幕の一発を入れられたと感じた……が、単純に威力不足であったようだ。

 その間にも花びらははらり、はらりと広がっていき、同時に激しい水音を立てて水面が遠ざかっていくのが見えた。

 

 浮かんで……!?

 何して来るか分からないし、暢気にここでぶら下がってもいられないか。

 

「よっと! 『ステップ』」

 

 ちょうどいい深紅の壁が目の前にあるので遠慮なく足を叩きつけ、カリバーを引っこ抜きつつ撤退。

 漸く地面へと降り立った私の頭上には不思議と威厳に満ち、何か物語の神殿や王城を象徴していると言われても頷いてしまう壮大な薔薇が一輪、幽雅に漂っていた。

 

 た、高い……やっちゃったなぁ。

 あんな高くに飛ぶなら飛び降りずずっと上に乗っかって殴っていれば良かった、完全に失敗じゃないか。

 

 くるり、くるりとまるで地べたを這いずる私を煽るかのように右へ左へ回転しては空を舞い、何かキラキラしたものを降らせる巨大薔薇。

 勿論降りてくる気配はない、無駄に煌びやかな見た目をしているくせに汚い作戦だ。

 私は帰って筋肉と焼肉に行くのだ。そちらがそのつもりならこちらから行くまで、幸いにして弾は近くにたくさんあるのだから。

 

 そう、この水辺に浮かぶ小さな花たちも大方お前のお仲間なんだろう。

 

 近くにあったそれをひとつ掴み上げ、びたーんと勢いよく地面に叩きつければ光へと変わっていきみゃはり花たちの色と同じ薄紅色の魔石が転がった。

 レベルは低そうだが十分だ、爆撃には使えるだろう。

 

「おらおら! 降りてこいこりゃ! 降りてこないと落とすぞ!」

 

 子気味良い音に合わせ砕けていく魔石たちは輝きを纏い、空中へと散らばって母親の下で爆発四散していく。

 一つ打てはもう一つ、無数にある花たちは兄弟が爆発する姿を目の当たりにしつつ逃げる様子もなく――もしかしたら意思がないのかもしれない、魔石はあるのに――私の手によってかき集められては叩き潰され魔石を遺して消える。

 いくら投げても魔石はそこらに浮かんでいるものだから気持ちがいい、無料でバッティングセンター気分なんてお得だ。

 

 気分は青春野球部、汗の代わりに池の水が吹き飛ぶ。

 次第に一つ一つでは物足りなくなってきたので、がさっと手に掴める分一気につかみ上げ頭上へ放り投げる。

 

「『巨大化』 ……んんんんんっ! っしょぉ!」

 

 太く長くなったカリバーによってまとめて空へかちあげられた魔石たち。

 勿論てんでズレた方向へ飛びかける魔石もあるのだが、他の爆発に巻き込まれることで連鎖的に反応していき、結局は巨大薔薇へとダメージを与えたり兄弟を爆散して新たな魔石が転がる。

 砕く快感、爆発の轟音。

 

 えへ、超気持ちいい。


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